2007年7月13日 (金)

デザイアと呼ばれた男       VOL 27

          3

                                             

 俺は國無と待ち合わせをしていたことなどすっかり忘れて、廃屋団地とはまるで反対方向にトモコと歩いていた。

トモコは仕事の都合で最近この辺りに越してきたばかりでほとんど知り合いもなく、寂しい想いをしていたという。

俺とトモコは近くのファミレスへ行こうということになり、世田谷公園の中を通り抜けて歩いていた。

緑が生い茂る静かな公園の中をあの憧れのトモコとこうして並んで歩いていることがとても信じられなかった。

そういえば、いつだったか思い出せないが最近トモコの夢を見たような気がした。

そして、このタイミングで本物のトモコとの再開である。

俺は過去の記憶と共に長い間ずっとトモコに話したかったあのことを思い出した。

これは二度とないチャンスだと思った。

今日この時を逃せば二度とチャンスは訪れないかもしれない。

俺は今日こそあの時言えなかった誤解を解こうと思った。

それは俺の過去のトラウマにケリをつけることだった。

しかし、その直後俺の頭の中で別の考えが浮かんだ。

もしもトモコがあの時のことなどまったく忘れていたらどうしよう。

考えられないことではない。

俺だってトモコに声を掛けられるまで目の前の女がトモコだとは思わなかったし、実際にトモコのことなど頭の奥底に封印していたほどだ。

何も過去の忌わしい記憶を現在に甦らせることはない。

その時、俺たちの反対側から幼稚園児ぐらいの女の子が三輪車に乗って向かってきた。

女の子はまだ三輪車に乗りなれていないらしく、ハンドル操作がおぼつかないようだった。

女の子は向かいからやってきた俺たちのことを意識し、ハンドルを切ろうとしてバランスを崩して三輪車を転倒させてしまった。

女の子は転んだショックと痛みでとたんに泣き出してしまった。

子供が苦手な俺は気まずくなり、早足でその場を立ち去りたかった。

しかし、トモコはすぐに転んで泣いている女の子に駆け寄り「大丈夫?」と声を掛け、頭を撫でながら立たせていた。

俺はそんなトモコの様子を見て愛おしくなった。

女の子はすっかり泣き止み、倒れていた三輪車を起こすとサドルにまたがり、笑顔で言った。

「お姉ちゃんありがとう。ごめんね、デート中に。彼氏が待ってるよ」

そう言い残し、女の子は三輪車に乗って俺たちの前から走り去っていった。

「最近の子はませてるね。かわいい」

トモコは俺の方を振り向いて笑顔で言った。

女の子の言葉とトモコの笑顔を見て、俺は頬を赤らめてしまった。

俺はさっきよりも少し早足でファミレスに向かって歩き出した。

 ファミレス内はさほど混んでいなかった。

ファミレスで俺とトモコは向かい合って座り、おしゃべりに華を咲かせていた。

「で、五味君は今何してるの?」

「ああ、俺はレンタルビデオ屋でバイトしてるよ。ずっとフリーターだね」

「へぇ~、そうなんだ。バイトしながら何か目指してるとか?」

「いや、そんなの何もないんだけどね……で、高宮さんは何してるの?」

「私もねバイトなんだけど、派遣の仕事でお掃除屋さんやってるんだ。一人暮らしの男の人とか、自分の部屋を片付けられない人の部屋にいって掃除や洗濯してあげる仕事なんだけどね、結構時給高いんだよ」

「へぇ~、そう……」

「そうだ!再開を祝して今から五味君の部屋掃除してあげる。もちろん無料で。五味君もこの近くに住んでるんでしょ?」

「……うん」

俺は複雑な心境だった。

何なんだこの展開は?

あのトモコが俺の部屋に来るだと?

トモコは一人暮らしの男の部屋に来るという意味を分かっているのだろうか?

トモコはただ単純に純粋な気持ちで俺の部屋を掃除しにこようとしているのか?

それとも一人の女として俺を誘っているのか?

 俺の脳裏にあの光景が再び浮かび上がってきた。

中学の屋上でオナニーをトモコに目撃されたあの日、あの日を境に俺の中で何かが変わってしまったのだ。

あの日が俺の人生の中で一つのターニングポイントとなっていた。

もし、あの時のことがなかったとしたら、俺は今とまったく違う人生を歩んでいたのかもしれない。

特に〝性〟においては明らかにあの時の出来事は俺のその後の人生に影響していたと思う。

トモコにオナニーを見られていなければ心の中に〝レイプ願望〟も生まれず、レイプでないと絶頂できない体にはならなかたかもしれない。

そうなれば俺は〝デザイア〟などにもならずにすんだかもしれないのだ。

俺はその後のトモコの話す会話に適当な相槌をうちながら過去のトラウマと格闘していた。

そうしている間にいつの間にか時間は過ぎ、外はすっかり暗くなっていて再び夜が営業を開始したのだった。

俺とトモコはファミレスを出た後、自然に俺の部屋に向かっていた。

 

 それから数分後、トモコは俺の部屋の中にいた。

俺はベッドの上にちょこんと座り、部屋の片付けをするトモコの様子を見ていた。

トモコはデニムのジーパンを穿いていたが、トモコのスラッと伸びた足にぴったりとフィットしていたパンツ姿はスカートよりもエロティックだった。

「そんなにジッと見ないでよ。恥ずかしいな」

そう言いながらもトモコは無意識のうちに男心をくすぐる術を披露していた。

「普段はね、専用のエプロンを着けて掃除するんだけど、お客さんの中には別料金を払ってマイエプロンを用意しててそれを着て掃除して欲しいって人もいるんだよ。男の人の妄想ってすごいとおもっちゃった」

「五味君はどんな姿が好みかな?」

「……」

黙っている俺を見て、トモコはニッコリと微笑み部屋の照明を落とした。

突然の闇に俺の目は付いていかず、俺の心は明らかに動揺していた。

 すると突然ベッドが軋み、トモコが俺の座っているベッドの横に座ってきたのが分かった。

トモコは俺に密着して座り、身を寄せて、体を俺に預けてきた。

トモコの肌が俺の手に触れ、俺はさらに驚愕した。

俺の隣にいるトモコは服を脱ぎ、全裸の状態になっていたのだ。

目が次第に闇に慣れてきて、トモコのシルエットがゆっくりと浮かび上がってくる。

それにつられるように俺のペニスもみるみるうちに膨らんでいった。

「……おい、何考えてるんだよ」

「シッ、いいから黙って……」

そう言うとトモコは自分の唇を俺の唇に重ね合わせ湿らせたあと、ゆっくりと口の中に舌を挿入させてきた。

トモコはそのまま自分の体重を重ね、ベッドに俺を押し倒し俺の服を淫らに剥ぎ取っていった。

俺は全裸になりトモコの肌の温もりを直に感じ、硬直したペニスに体を乗っ取られたように性の野獣へと変貌していった。

トモコと体を入れ替え、俺が上になると俺は舌でトモコの身体の掃除を始めた。

足の小指から頭の毛穴に至るまで、俺はたっぷりとトモコの身体を味わった。

 しかし、俺は挿入しようとはしなかった。

ペニスは爆発寸前にまでギンギンに高まっていたが、挿入することができなかった。

もし、ペニスを挿入すれば俺にはどんな結果が待っているかが想像できたからだ。

「ねぇ、そろそろ入れて……」

トモコの言葉が逆に俺を我に帰らせた。

俺はトモコから離れ、ベッドから起き上がった。

「どうしたの?しないの?」

「……うん、ごめん。できないんだ」

「……そう。ねぇ、五味君、もしかしたら〝性〟に対するトラウマか何かもってるんじゃない?もし、あたしでよかったら聞かせてよ」

「……」

それはまさに絶好のタイミングだった。

言うなら今しかないと思った。

しかし、俺の心の中には未だにためらいがあった。

心の奥をさらすのが怖かった。

正直に言えば恐らくトモコは引いてしまい俺に失望するだろう。

俺はトモコに嫌われることを恐れていた。

黙ったまま震えていた俺をトモコは抱き寄せた。

「いいのよ。あなたは何も心配することないわ。私は全てを受け入れる。だから安心して全てを聞かせて。あなたの本音を。過去のトラウマを。あなたを見てひと目で分かった。中学の時からあなたは何も変わっていない。これは私の勘なんだけど、五味君中学時代に私に何か言いたかったことがあったんじゃない?だけど、言えなかった。大丈夫、今なら言えるわ」

トモコの暗示に掛かったように俺は今まで誰にも話したことのなかった心のトラウマを話し始めた。

「君は憶えてないかもしれないけど、中学二年の時、屋上で俺は君にオナニーしてるところを見られたんだ。正確にはオナニーし終わったあとのなんだけど、俺はエロ本を見ながら君のことを想像してオナニーしてたんだ。当時、俺は君のことが好きだったからね。だけど、君は俺にとって手の届かない高嶺の花だった。その君にオナニーしているところを見られて俺はショックだった。それ以来、俺は女とセックスしてもイケない体になっちゃったんだ。」

俺はそこで言葉を切った。

その先の國無由自と出会って、本当の性癖である〝レイプ願望〟については話さなかった。

男のレイプに賛同する女はいない。

俺は自分にブレーキをかけた。

「……そうだったんだ」

トモコは今までよりも強く俺を抱きしめキスした。

「……話してくれてうれしい。それに中学の頃私のことを好きでいてくれたことも。大丈夫。あなたは必ずそのトラウマを乗り越えることができるわ。もう一人じゃないんだもん。今日から私も一緒だから安心して」

 俺の眼から涙が溢れていた。

俺とトモコはそれから一つのベッドで朝までずっと裸で抱き合ったまま過ごした。

 このトモコの出現によって俺の人生はまたしても何者かに捻じ曲げられるように狂いだしていくのだった。

そして、俺とマユミの関係は鬼頭、トモコ、〝もう一人のデザイア〟を巻き込み、最終章に突入しようとしていた。

                                     【続く】

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2007年7月 1日 (日)

デザイアと呼ばれた男     VOL 26

こんにちは。D・二プルです。

最近は携帯小説の投稿にはまっています。

よかったらそっちの方もチェックしてみて下さい!

第八章  現実は暗黒文学のように……

          1

 辺りは静まり返り、空気の澄んだ夜の香りが広がっていた。

俺とマユミは二人で巨漢の鬼頭を担ぎ上げ忌わしい地下室を後にした。

鬼頭は既に意識を失い、今にも死にそうな状態だった。

あの無敵を誇っていた鬼頭が今は俺の横で虫の息になっている。

鬼頭は撃ちぬかれた右肩よりも、何度も蹴られた顔の方が重傷だった。

マユミは地下室で鬼頭の応急手当をしていたが、心配そうな表情で見つめていた。

俺は救急車を呼んで病院に運ぼうと言ったが、マユミは反対した。

銃で撃たれた状態で病院へ行けば必ず病院側は警察に通報する。

俺はそれを知っていてわざと言ったが、そのことをマユミが知っていたばかりか、恨んでいた鬼頭が警察に捕まる心配をしている心境の変化に驚いた。

 鬼頭はマユミの元彼を殺害し、マユミ自身をレイプした男のはずだ。

俺は鬼頭を警察に引き渡すことでもマユミにしたことを考えればだいぶ妥協したつもりだった。

それなのにマユミは鬼頭をかばっているのだ。

マユミは救急車ではなく、タクシーを呼ぶように俺に頼んだ。

俺が携帯でタクシーを呼んでいる間もマユミは電柱にもたれかかって座らせた鬼頭に付きっ切りの状態だった。

俺はそんなマユミのことが気になってしょうがなかった。

 しばらくしてタクシーがやってきた。

鬼頭をタクシーの後部座席に乗せてマユミはその隣に座った。

俺もマユミの隣に座りたかったが、鬼頭とマユミで後部座席はいっぱいになった。

仕方なく俺は助手席に乗った。

 タクシーに乗り込むとマユミは運転手に道を指示し、自宅のマンションに向かわせた。

マユミは鬼頭を自分の部屋に連れて行くつもりなのだ。

いくら意識を失っているとはいえ、過去に自分をレイプした男を部屋に入れるとはどういう神経をしているのだろうか?

タクシーの助手席の上で俺の嫉妬心は次第に膨れ上がっていった。

 

 マユミのマンションに到着した。

タクシーの中では運転手の手前遠慮していたが、俺はマユミに問いただしたいことで頭の中がいっぱいになっていた。

玄関先に鬼頭を運び込んだ時点でそれは限界に達した。

鬼頭の靴を脱がしているマユミに俺は言い放った。

「このまま鬼頭をここに泊めるつもり?」

「うん。そうだよ」

「……鬼頭はマユミの元彼を殺した男だろ?そんな男を自分の部屋に泊めるのか?意識が無いからってちょっと安易すぎるんじゃないのか?」

「何、妬いてるの?やめてよ。みっともない」

「どういう心境の変化だよ。鬼頭のことを殺したいほど憎んでたんじゃなにのか?それなのにどうして……今じゃ警察に引き渡すのも嫌だって言うのかよ」

「そうよ。警察になんか渡さない。警察や世間のものさしで鬼頭を裁かせない。この男の罪はそんなに軽くない。あなたなら分かるでしょ」

 マユミの言葉が俺の心に浸透した。

マユミが言った言葉は鬼頭だけでなく俺にも該当するような気がした。

マユミは俺の心を全て見透かしているように言った。

「ごめんね。もし、さっきまでのあたしの態度で誤解させたなら謝るわ。でも、勘違いしないで。あたしは鬼頭に対して特別な感情は持ってない。もちろん、恨んではいるけど、すぐに殺したりはしない。死は償いにはならない。だけど、鬼頭を許す気もない。あたしにもどうしたらいいのか分からないの。自分の気持ちを整理したいの。だからお願い、少しだけ時間をちょうだい。結果的には五味くんが言うように警察に引き渡すかもしれないけど、今はまだできない。だけど、これだけは憶えておいて。私が今好きなのは五味君だけよ」

そう言って、マユミは自分の唇をそっと近づけ俺の唇を濡らした。

俺はマユミのキス一つで全てを了解した。

女のキスは時に男を落ち着かせ、納得させる効果をもたらすものだ。

 マユミの魔法に罹り鬼頭を奥の部屋に運び込んだ俺だったが、心の片隅ではシコリを残していた。

マユミの中の〝デザイア〟へ対する気持ちはまだ消えたわけではない。

俺は自分に嫉妬し、もう一人の自分に浮気するマユミの女心にわだかまりを忘れていなかった。

それはこれからマユミと付き合っていく上で必ず解決しなければならない大切な問題だった。

それには俺自身の問題も含まれていて、マユミとセックスしても満足できないことが原因で、その結果、マユミに浮気心を植えつけているような気もした。

 マユミが鬼頭を運び込んだ部屋は、俺が以前ここに来た時にいつも閉ざされていた〝開かずの扉〟の中だった。

俺もこの部屋に入るのは初めてだった。

 ここは以前マユミの父が生前書斎として使っていた部屋だった。

小さな机の前には医学関係の本が綺麗に並べられていた。

壁には白衣が掛かっていて、その下には折りたたみ式のベッドが置かれていた。

「父さんはね、あたしがいない時、ここに女を連れ込んでたの。あたしには隠してたつもりだったけど、部屋を掃除してれば女を連れ込んでいることはすぐにわかった。だから、父さんが死んでからはこの部屋はまったく使ってなかったの。あたしはこの部屋が大嫌いだから。だからこの部屋に大切な人は入れたくなかった。ここは汚らわしい場所だったから。だからここに鬼頭を泊めてこれからのことを考えてみようと思った。逆にこの部屋でなら答えがでるかもしれないと思ったの。だけど、心配しないで。もし、鬼頭が意識を取り戻して、あたしに変なことをしようとしたらすぐに殺してやるんだから」

俺はマユミの俺に対する真の気持ちが聞けたような気がした。

今言ったことがマユミの心を全てさらけ出したものではないとしても、俺はマユミの気遣いがとてもうれしかった。

「でも、殺しちゃだめだよ。こんな奴の為にマユミの手を汚す必要はないよ。殺したくなったらまず俺を呼んで。俺が代わりにこいつを殺してやるから」

俺は本気で言ったが、マユミはどういう風に俺の言葉を受け止めたかは分からなかった。

「うん。分かった。ありがとう」

俺とマユミは鬼頭を折りたたみ式のベッドに寝かせドアを閉めた。

とたんに疲れが湧き上がるように押し寄せてきた。

それはマユミも同じだった。

今日一日でいろいろなことがありすぎた。

多くの知人の死、数々の修羅場、初めての殺人……。

俺とマユミは寄り添って一つのベッドに入ったが、身体を一つにすることはなく、そのまま深い眠りについた。

今日一日で起きたことは俺の予想を遥かに超える大問題へと発展するものだった。

翌朝目が覚めた時、俺たちの周りの事態が一変していることなど、今の俺には知る由もなかった。

          2

 翌朝、俺はマユミよりも先に目を覚ました。

昨日は本当に大変な一日だった。

俺の隣でマユミはまだ寝息をたてて眠っていた。

マユミの寝顔を見て俺は少し癒されたが、マユミもまた俺の知らないところで大変な一日を過ごしていたに違いない。

俺が意識を取り戻した時、マユミは鬼頭と一緒にいた。

鬼頭と一緒にいたマユミの姿は俺が予想していたもの違っていた。

恐らく國無が仕掛けたであろうあの〝もう一人のデザイア〟がマユミを犯そうとしていた図。

本来あれは俺が予想していた鬼頭の姿だった。

その鬼頭をマユミの前でぶっ飛ばし、俺はマユミと結ばれる。

そんな安易なシナリオを心のどこかで描いていた。

もちろん、あそこに〝もう一人のデザイア〟が居て、鬼頭と敵対していたからこそ、あんな展開になっていたんだと思うが、俺が意識を取り戻した時、マユミは自分の身を盾にして重傷の鬼頭をかばっていた。

あれが単なる母性本能なのか、人間としての善意なのか、それとも女が男に注ぐ愛情の始まりなのか俺には気になってしょうがなかった。

人は危険な状態に陥ると、種族維持本能が働き、身近な異性に惹かれるという。

あの異常な状況の中で、マユミが鬼頭に好意を持ったとしてもそれはありえないことではない。

 俺は喉の渇きを覚え、ベッドから起き上がり、洗面所に向かった。

その途中で、俺は隣の部屋に寝ている鬼頭の様子を覗いてみた。

鬼頭は昨日と同じようにやっと呼吸をしている状態でベッドの上で眠っていた。

 俺はマユミが寝ていることを確かめ、そっと隣の部屋に侵入し、眠っている鬼頭のすぐ近くに立ち、鬼頭を見下ろした。

このまま鬼頭が死んだらマユミはどう思うだろうか?

少なくても俺は自分の中の悩みが一つ解決することになる。

鬼頭は生きているのが不思議なぐらいの重傷を負っていて、いつ死んでもおかしくないように思えた。

それならいっそう俺の手で殺してしまおうか?

もともと、鬼頭はマユミを苦しめていた張本人で敵のはずだし、昨夜俺は始めて人を殺した。

一人殺すも二人殺すも一緒だ。

俺は鬼頭の首にそっと手をかけた。

このまま少しだけ力を入れれば鬼頭は死ぬ。

人の命なんてはかないものだ。

鬼頭が死ねばこれまで長い間マユミを苦しめていた悪夢から開放することができるんじゃないか?

鬼頭こそがマユミにとって悪の元凶なのだ。

 鬼頭は俺に命綱を握られていることもしらず、意識を失っている。

俺は指先にそっと力を入れた。

鬼頭は何の抵抗も見せぬままされるがままになっている。

鬼頭はここで俺に殺されて死ぬのだ。

だが、その時、俺は昨日のマユミの言葉を思い出した。

 俺はギリギリの瀬戸際で思いとどまり、鬼頭の首から手を離した。

確かに俺は昨日初めてこの手で人を殺した。

しかし、昨日の殺人と今この場で鬼頭を殺すことはまったく違う意味を持つような気がした。

ここで鬼頭を殺してしまったら、俺はもう戻れなくなってしまう。

そうなればもうマユミと一緒に人生を歩めなくなる。

俺はまたしてもギリギリのところでマユミに救われた。

 俺はそっと部屋を出て洗面所に向かい、頭から水をかぶった。

俺はどうかしていた。

俺はもう一度、眠っているマユミの寝顔を見て、外へ出た。

少し、頭を冷やそう。

 外へ出るとすでに夕方になっていることに気づいた。

久しぶりに長時間眠ったおかげで頭の中はすっきりしていた。

俺は自宅に戻り、シャワーを浴び、TVを付けた。

TVのニュースでは「ワールド」で起きた殺人事件が大々的に報じられていた。

今マスコミが報じているのは昨日起こったことのほんの一部のような気がした。

そういえば俺が殺したイブやエナリの死体はどうなったのだろうか?

ニュースを一通り見ていたが、イブやエナリの死体については何も報じられなかった。

どうやらマルイケは警察に逮捕されたようだ。

世田谷公園で激突したヒデはどうなったんだろうか?

タツオとタツヒコの兄弟はあの後どうなったんだろうか?

あの辺りからの記憶がなかった。

どうやら裏であの〝偽デザイア〟が動いていたようだが、その裏には國無由自がいることは間違いないだろう。

そして、俺はTVのニュースで改めてユカの死を確認した。

ユカの子供は警察に保護され、小原は一命を取りとめ、病院に運ばれたようだった。

俺は少し落ち着いたら小原の容態を見に行こうと思っていた。

 その時、携帯に國無から電話が掛かってきた。

「凛一郎、無事だったか?マユミは助け出せたのか?」

「……ああ、何とかな。それよりおっさんに聞きたいことが山ほどあるんだ。まずあの〝偽デザイア〟のことなんだが……」

「待て、凛一郎。俺もお前に話したいことがあるが電話じゃまずい。今からアジトに来れるか?」

「ああ、分かった。じゃあ、今から行く」

携帯を切り、俺は廃屋団地へ向かった。

 廃屋団地のフェンスが見えてきた。

俺は周りを気にしながらフェンスを乗り越えようとしていると、一人の若い女が俺の方を見ていた。

歳は俺と同じぐらいだろうか?

この辺では見かけない顔だったが、とても綺麗な顔立ちをしていた。

俺は女が見ている手前、堂々とフェンスを乗り越えることができず、回り込んで別の場所から入ろうと思った。

 その時、それまでずっと俺の方を見ていた女が、俺の後を追いかけるように近づいてきた。

「あの、間違えてたらすみません。ひょっとして五味凛一郎君じゃないですか?」

「……え、あのどちら様でしょうか?」

「ん?分からない?中学の時同じクラスだった高宮。高宮智子。思い出した?」

俺はその場に呆然と立ち尽くしていた。

今、俺の目の前にいる女は、俺が過去に遠い記憶の彼方にしまいこんだ憧れのトモコだった。

なぜ、今になってトモコが俺の前に現れたのか?

 それは國無由自が作り上げた〝絶望〟という名のシナリオの最終段階の幕開けを意味していた。

                                                 【続く】

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2007年5月 9日 (水)

デザイアと呼ばれた男     VOL 25

 こんにちは。D・二プルです。

 私が目指している〝麻薬のような小説〟。まだまだそれにはほど遠いですが、確実に進化しています。

 今日も、私に感染した者がまた一人……。

          9

 鬼頭の運転する車がジョーのアジトの前で停車した。

「降りろ」

鬼頭は前を見たまま後部座席に座るマユミに命令した。

マユミは無表情のまま黙って車から降りた。

別に鬼頭に従ったわけではなかった。

ただ〝車〟という密室でできることが限られているし、自由も利かない。

何より、鬼頭と二人きりで車内にいることが、マユミには我慢できなかった。

愛する男を目の前で殺し、自分を犯したこの世でもっとも憎んでいる男。

本当は今すぐにでも殺したかった。

でも、今はまだ駄目だ。

鬼頭に真の〝絶望〟を味あわせ、助けを求めてきた鬼頭の腕を断ち切り、奈落の底へ叩き落すまでにはまだまだ程遠い。

自分一人の力ではできないかもしれないが、必ずチャンスが訪れるはずだ。

 マユミはいつの間にか〝デザイア〟に希望を賭けていた。

〝デザイア〟なら自分の心の奥にこびりついた絶望を打ち砕いてくれるような気がしていた。

現に〝デザイア〟と関わってからの鬼頭はこの数日間の間に何かが変わったような気がしていた。

ほんの少しだけではあるが人の痛みを知ったように思えた。

もし、それが本当に〝デザイア〟の影響だとしたら、例え〝デザイア〟が犯罪者だったとしてもマユミは自分の中に芽生えた恋心を絶やさずにいたいと思っていた。

 車から降りた鬼頭は黙って地下の階段を下りていった。

鬼頭は黙っていたがマユミも鬼頭の後から着いていった。

ついさっきジョーと訪れたこの地下へ続く階段を今は鬼頭と一緒に下りている。

鬼頭とジョーが繋がっていたことには驚いたが、ここを降りると何か別世界へ足を踏み入れるような感覚になった。

さっきジョーと初めて体験したSMプレー、出会ったその日に見ず知らずの男と身体を重ね合わせたこと。

それは一見凛一郎との性の不一致に悩んでいたからだとマユミ自身思っていたが、それはそんなに単純な問題ではないように思えた。

〝デザイア〟に対する一方通行の片想い、未だに忘れられないマサキへの想い、そして鬼頭への恨み。

それら全てが募って本能がマユミにあんな行動をさせたのだろう。

階段を一段一段下りながらマユミはそんな事を考えていた。

 階段を降りると鬼頭がその場に立ち尽くしていた。

ここはジョーの詩が壁一面に貼られたベッドルームがあるはずだ。

中にジョーがいるのか?

マユミは鬼頭の背後から背伸びして部屋の中を覗き込んだ。

次の瞬間、マユミは眼を見開き、全身が硬直したような感覚に囚われた。

そこには首をへし折られ死んでいる変わり果てたジョーの遺体が床の上に転がっていた。

入り口で立ち尽くしている鬼頭を押しのけマユミは部屋の中に駆け込んだ。

近くで見ると改めて実感が湧いてきた。

さっきまで一緒に身体を重ね合わせていたジョーが死んでいるのだ。

ふと壁を見上げ、マユミはさらに信じられないほどのショックを受けた。

「皆殺しにしてやるぜ!〝デザイア〟」

ジョーの血で乱雑に書かれたそのメッセージを見てマユミは自分の中にあった〝デザイア〟への恋心が一瞬で砕け散るのが分かった。

まるで違う世界の住人に恋をしていた自分に気づいたのだ。

いつの間にかマユミはそれまで憎かったはずの鬼頭の腕に自分の腕を絡ませていた。

今、この場で一人になるのがとても怖かった。

誰でもいいからそばに居て欲しかった。

人の温もりを肌で感じていたかった。

男に守って欲しいと思った。

鬼頭は黙ったままマユミの肩を抱きしめた。

マユミは鬼頭の胸の中で涙を流し、身体預けていた。

 その時、階段の上で車のブレーキ音が聞こえ、誰かが地下へ降りてくるのが分かった。

二人の間で緊張が高まった。

鬼頭はマユミを自分から放し、身構えている。

恐らく降りてくるのは〝ジョーを殺した犯人〟だろうと鬼頭もマユミも予測していた。

そしてそれは壁に書かれたメッセージにあるように〝奴〟であることは明らかだった。

階段を下りる足音は一歩一歩二人に近づいてきていた。

10

 足音が止まり、鬼頭とマユミの前にひょっこりと姿を現したのは凛一郎だった。

凛一郎の出現にマユミはあっけにとられた。

まさか、凛一郎がジョーを殺害したというのか?

もしかして浮気した腹いせだろうか?

 しかし、よく見ると凛一郎の様子はおかしかった。

凛一郎は意識を失い、床に倒れている。

とてもここまで自分の足で歩いてきたとは思えなかった。

じゃあ、誰が一体凛一郎をここまで連れてきたというのか?

 マユミがふと見上げると、鬼頭は入り口の奥の階段の奥の闇を鋭い目つきで睨みつけていた。

「出てこいよ。そこにいるんだろ」

鬼頭の一言でマユミは階段の影に人が隠れていることに気づいた。

今、階段の影に隠れている奴が凛一郎をここまで連れてきたのだろうか?

そしてそいつがジョーを殺した犯人なのだろうか?

マユミが頭の中で考えを巡らせていた時、階段の影に息を潜めていた男がついに姿を現した。

そこには黒のニット帽とサングラスに全身黒ずくめの格好をした〝もう一人のデザイア〟が立っていた。

〝もう一人のデザイア〟の出現はマユミの心を余計に混乱させた。

なぜ、〝デザイア〟は凛一郎を気絶させ、ここまで連れてきたのか?

そして、あの血文字で書かれていたように、ジョーを殺したのは〝デザイア〟なのだろうか?

まさか〝デザイア〟はここに人を集めて殺しているのではないか?

血文字で書かれた〝皆殺しにしてやるぜ〟というメッセージは果たして誰を対象にしたものなのか?

マユミは完全に〝もう一人のデザイア〟が本物の〝デザイア〟だと思い込んでいた。

 鬼頭と〝もう一人のデザイア〟は未だに睨み合ったまま動こうとしなかった。

鬼頭は〝もう一人のデザイア〟を明らかに警戒していた。

「そんなに俺が怖いのか、鬼頭?」

ボイスチェンジャードロップによって変化した声は以前マユミが聞いた声と同じだった。

「お前がジョーを殺ったのか?」

「ジョーだけじゃないぜ。お前の仲間はほとんど殺したぜ。その他の奴も再起不能にしてサツに逮捕させたぜ。お前の仲間はほとんど全滅だ。後はお前を始末するだけだな」

「おもしろい。俺はそう簡単には……」

ドン!

鬼頭が言葉を言い終わらないうちに〝もう一人のデザイア〟は隠し持っていた銃を抜き、何のためらいも無く撃ち放った。

その弾丸は鬼頭の右肩を撃ちぬいた。

利き腕を撃ちぬかれた鬼頭はすでに戦闘不能の状態におちいった。

だが、〝もう一人のデザイア〟はとどめを刺そうとしなかった。

〝もう一人のデザイア〟は銃を手に持ったまま発射せずゆっくりと鬼頭に近づいていき、鬼頭の頭を拳銃で殴りつけた。

鬼頭は頭から血を流し、膝を床につけた。

〝もう一人のデザイア〟は不適な笑みを見せ、鬼頭の顔面を蹴り上げると、まるで弄ぶように鬼頭を蹴り続けた。

「どうだ?思い知ったかこのやろう。俺はずっとお前をこうしてやりたかったんだよ」

〝もう一人のデザイア〟は出血している頭と肩を集中して攻め続けた。

「もうやめて。それ以上やったら本当に死んじゃうじゃない」

マユミは床に倒れ、すでに虫の息の鬼頭に駆け寄った。

「何で止めるんだよ。こいつは君の恋人を殺した男じゃないか。君だってこいつを殺してやりたいと思ってたんじゃないのか?俺はその為に……」

「……何であんたがそんなこと知ってるのよ?あんた一体誰なの?」

「俺は……」

その時、突然〝もう一人のデザイア〟の体からものものしいアラーム音が鳴り響いた。

〝もう一人のデザイア〟は慌てて懐から携帯を取り出した。

「……もしもし」

「何してるんだ。お前が暴走したら計画は台無しだろうが、お前の欲望が叶わなくなってもいいのか?それが嫌だったら計画通りしっかり動くんだ」

そう言って携帯は一方的に切れた。

國無の電話によって我に帰った〝もう一人のデザイア〟はスッと立ち上がり、マユミに銃を突きつけた。

「脱げ。死にたくなかったら俺の言うことを聞くんだ」

「嫌よ」

言うことを聞かないマユミの頬を〝もう一人のデザイア〟は平手打ちし、そのまま床に押し倒し馬乗りになった。

〝もう一人のデザイア〟は強引にマユミの首にキスし、キャミソールの中に手を忍ばせ、ハーフパンツのボタンを外した。

「お前は俺のものだ」

「嫌、やめて」

〝もう一人のデザイア〟は露になったマユミの胸を揉みしだきながら膨れ上がった自分のペニスを抜き、挿入しようとした。

その時、〝もう一人のデザイア〟は突如吹き飛ばされた。

マユミが身体を起こし、見上げると今まで意識を失っていた凛一郎が目を覚まし、立ち上がっていた。

「……五味君」

「五味、貴様……」

「誰だお前は?何なんなんだよその格好は?」

〝もう一人のデザイア〟はむき出しのペニスをズボンの中にしまい、俺に銃を突きつけた。

「お前は確かに眠らせたはずだ。なぜ、今起きることができるんだ?」

「……どうやらお前が俺をここに連れてきたようだな。お前もおっさんにそそのかされてそんなことやってんのか?どんな理由かは知らないがマユミに手を出すことだけは許さないぞ」

「……とんだ邪魔が入ったな。仕方ない。もう一度眠らせてやる」

〝もう一人のデザイア〟に銃を突きつけられた俺は平然と言ってのけた。

「おい、安全装置は外したのか?それじゃあ、人は撃てないぜ」

「何だと?」

〝もう一人のデザイア〟は俺の言葉に反応し、銃の安全装置を確かめた。

その一瞬の隙を突き、俺は〝もう一人のデザイア〟に突進し、頭突きを喰らわせた。

突然の頭突きによって後ろに吹き飛ばされた〝もう一人のデザイア〟はその拍子に手に持っていた銃を床に落とした。

俺はすかさずその銃を拾い上げ、〝もう一人のデザイア〟に突きつけた。

「仕方ない……」

〝もう一人のデザイア〟は慌てて階段に駆け上り逃げ去った。

俺は〝もう一人のデザイア〟を追わなかった。

それはこの男が間違いなく國無が仕組んだものだと核心していたからだった。

あの男を追ってもどうせろくな情報を引き出せないことを俺は一瞬で読み取った。

俺は銃を懐にしまい、倒れているマユミに駆け寄った。

「大丈夫?」

「……うん。それよりも何で〝デザイア〟が五味君をここまで連れてきたんだろう?」

「あいつは〝デザイア〟じゃない。偽者だよ」

「……偽者?何でそう思うの?」

「……とにかく、早くここを離れよう。ここに居たらまたどんな危険が及ぶか分からないからね」

俺はマユミの質問をはぐらかし、マユミの手を取りここを出ようとした。

するとマユミはそれを拒むように俺の手を引き離し、倒れている鬼頭に駆け寄った。

鬼頭は血だらけで床の上にゴミのように転がっている。

「この人も連れてって。このままじゃ死んじゃうよ」

「……でも、その男は……」

「いいから早く手をかして!このまま放っておけないでしょ」

 マユミの言葉に後押しされ、俺は鬼頭の肩に腕を回し、起き上がらせた。

マユミはその横で心配そうな表情をして鬼頭の背中をさすっている。

俺が意識をうしなっている間に一体何があったのか?

マユミの鬼頭に対する気持ちは明らかに変化していた。

俺は今まで敵であったはずの鬼頭に嫉妬していた。

それにあの〝偽デザイア〟。

何かがうねるように大きく変わろうとしていた。

                                                 【続く】

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2007年4月30日 (月)

デザイアと呼ばれた男  VOL 24

  こんにちは。D・二プルです。

皆さん、GWどうお過ごしですか?

「デザイアと呼ばれた男」もいよいよデンジャラスな展開へと発展してきました。

この先、どんなイカレタ結末が待っているのでしょうか?

では、続きを御覧下さい。

        

          7

 メイン画面で〝デザイア〟と獣姦兄弟との戦いを見ていた國無は思わず息を飲んだ。

またしても予想外の展開になった。

害虫を飲まされた時点で〝デザイア〟に勝ち目はないはずだった。

あの蟲に体内から侵食され、精神障害を引き起こし、発狂し自殺してもおかしくない状態だった。

それがどうだ、この結果は?

あの蟲を吐き出した直後、〝デザイア〟は意識が飛んだままの状態であの二人をぶちのめし、再起不能の状態においこんだ。

さすがの獣姦兄弟もまさか自分が男に犯されるとは夢にも思っていなかったはずだ。

それは二人の人生の中でも初めての経験だった。

 メイン画面には二人を犯し終えた凛一郎が朦朧とした状態でペニスを露出したまま呆然と立ち尽くしている。

恐らくまだ意識が完全に戻っていないんだろう。

凛一郎は無意識の状態であの兄弟に勝ったことになる。

國無はどうしても腑に落ちない点があった。

この戦いは今までの戦いとは何かが違った。

タツオとタツヒコと戦ったことで凛一郎はイブとの戦いで初めての殺人を犯した以上の〝何か〟を手に入れた。

それが果たして何だったのか?

國無は自分の膨れ上がる好奇心を押さえられなかった。

凛一郎の過去はこれまでにも散々調べてきたが、國無自身がまだ知らない情報が残されている。

この戦いでそのヒントがまさに隠されているように國無には思えた。

 以前、隣の部屋で凛一郎の潜在意識の奥を特殊な機器を使って調べて見たことを國無は思い出していた。

あの時、データには出てこなかったが凛一郎のトラウマが今の凛一郎に大きな影響を与えていることが分かった。

それが何なのか調べることでこの先の展開が大きく左右するかもしれない。

國無はサブ画面の一つに今まで録画していた〝デザイア〟と獣姦兄弟との戦いを巻き戻し、再度チェックした。

 エナリを殺害した直後、タツオ、タツヒコが現れ〝デザイア〟に襲いかかった。

前半の攻防は何の問題もない。

問題はやはりあの害虫を飲まされてからの凛一郎の変化だ。

國無は画面を早送りした。

タツオが凛一郎の口の中に害虫を放り込み、派手な合わせ技で凛一郎を地面に叩きつけた所で再生した。

害虫を飲まされた凛一郎は激しく苦しみ、痙攣を繰り返し、発狂寸前の状態で地面をのた打ち回っている。

恐らく幻覚を見ているのだろう。

國無は凛一郎がどんな幻覚を見ているのか死ぬほど気になった。

この状態の凛一郎の脳波を調べることができていればもっと詳しく知ることができたのに……國無は思わず、テーブルを拳で叩きつけた。

 画面の凛一郎はまだ痙攣しながらのた打ち回っている。

よほど苦しいのだろう。

あの状態でよく精神障害を引き起こさなかったのが不思議なぐらいだ。

國無は改めて凛一郎の精神の強さを実感した。

さすがに選びに選び抜いた主人公だ。

凛一郎は類まれない精神力の強さと限りなくデカイ欲望を抱えていた。

それはまさに稀に見る貴重な人材だった。

 画面上の凛一郎が動かなくなった。

さっきはこの時点で凛一郎は終わりだと國無は思った。

しかし、ここからが予想外の展開だった。

國無は画面に集中した。

害虫を口から吐き出した凛一郎は人が変わったような豹変振りを発揮した。

この時点であの害虫の毒に打ち勝ったことになる。

あの蟲が与える〝苦痛〟がそれまで眠っていた凛一郎の力を覚醒させたのだ。

凛一郎は意識を失ったままタツオを犯し終え、恐怖に打ちのめされたタツヒコを犯している最中だった。

その時、國無は凛一郎の口元に注目した。

タツヒコを犯しながら凛一郎は何かを口走っているようなのだ。

恐らく無意識で独り言を繰り返しているのだろう。

それはまさに凛一郎の潜在意識の奥に潜むヒントが隠されている可能性が高かった。

しかし、音声は聞き取れない。

國無は画面上の凛一郎の口元をアップで映し出した。

そして、音量をMAXにした。

それでも雑音がひどくて凛一郎の言葉は拾えなかった。

國無はアップになった凛一郎の唇の動きを読んだ。

……ト・モ・コ……

唇の動きからはそう読み取れた。

トモコ?

それは初めて聞いた國無も知らない名前だった。

トモコとは誰だ?

しかし、それが誰であろうとこの状態で凛一郎の口から出てきたということは最重要人物であることは間違いなかった。

こいつは思わぬ展開になってきた。

凛一郎のことは全て知らなければならない。

今、この場で凛一郎を見殺しにするわけにはいかなくなった。

國無は一瞬考えた。

計画変更だ。

さあ、どうしたものか?

國無は慌ててダンボールの中から一台の携帯を取り出し、電話を掛けた。

「おい、今どこにいる?……よし、仕事だ。…………そうだ、今すぐ準備しろ。とにかく今から言う場所に行って俺の言う通り動け。……ああ、そうだ。契約は忘れてないな。……よし、とにかくうまくやれよ。お前の動きはいつもチェックしているからな。失敗すればお前の欲望も適わなくなるぞ」

そう言って國無は携帯を切ると水槽の中に投げ入れて、慌てて外に飛び出した。

 中庭に出ると朦朧とした状態の凛一郎が今にも倒れそうにフラフラしながら立っていた。

國無は凛一郎を抱きかかえ、声をかける。

「凛一郎、オレだ分かるか?」

「……おっさん、マユミは……マユミはどうした?」

「マユミのことは心配するな。オレに任せておけ。それより今はお前の安全の方が先だ。さあ、来い。中に入るんだ」

國無は凛一郎を抱きかかえたまま、今までモニターで鑑賞していた隣のいつもの部屋に連れて行き、ソファーに凛一郎を寝かせた。

國無は慌てて、棚から脳波を読み込む装置を埋め込んだ枕を凛一郎の頭の下に置き、コードを伸ばし、ノートパソコンにセットした。

國無はもう一度、凛一郎の潜在意識の奥に隠された〝トモコ〟の謎を脳波から読み取ろうとしていたのだった。

凛一郎は安心したように意識を失った。

國無は凛一郎の寝顔を見ると部屋を出て外から鍵を掛け、急いで隣の部屋に移動した。

さあ、これからが忙しくなるぞ。

まずは邪魔者を消さなければならない。

それから駒の移動と新たな欲望を生み出さなければならない。

やることはてんこ盛りだった。

しかし、國無はこの予想外の大波乱を大いに楽しんでいた。

          8

 鬼頭は國無の忠告に従い、廃屋団地の裏手に来ていた。

イブの死体を見た鬼頭は精神的にかなり追い込まれていた。

〝デザイア〟はハッタリでもなく、現実にイブを殺していた。

それは〝デザイア〟が人を殺すだけの度胸と力を持っていることが証明された。

これはうかうかしてはいられない。

一般人に追い込みをかけるのとはまるでわけが違う。

9人の仲間を呼び寄せた時、鬼頭はすでに〝デザイア〟と戦争するつもりでいた。

しかし、それは初めから〝勝利〟を予想してのことで、まさかあのメンバーが〝デザイア〟に殺されるとは夢にも思っていなかった。

鬼頭の中で〝デザイア〟の存在がなんとしても今のうちに殺しておかなければならない敵となった。

しかし、頭の中で自分と〝デザイア〟の死闘を思い浮かべて見ても、最後に自分が立っている姿が想像できなかった。

これまで鬼頭は自分が負ける姿を想像したことはなかった。

イブやエナリたちと戦った時も、苦戦はしたものの決して負けるとは思わなかった。

しかし、〝デザイア〟にはそれ以上の未知なる恐怖を感じていた。

電話の男の言うことを聞き、ここまでやってきたがもうすぐ〝デザイア〟と対峙することになるだろう。

 その時、突然鳴り出した携帯の着信音に鬼頭はハッとなって携帯を取った。

「おい、お前の目の前にワンボックスカーが見えるはずだ。前の右のタイヤの下にキーが置いてある。その車でジョーの隠れ家に行くんだ。そこに奴がいる」

それだけ言うと國無は電話を切った。

 鬼頭は目の前に停まっていたワンボックスカーのタイヤの下からキーを取り、ドアを開け、車の中に乗り込んだ。

運転席に座り、車を発進させようとした鬼頭は後部座席に人の気配を感じ振り返った。

そこには寝息を立てて眠るマユミがいた。

一瞬、鬼頭はギョッとなったが、すぐに心を落ち着かせ、頭の中で思考を巡らせた。

 この電話の男が言っていた〝勝利の女神〟か?

この女は確か「ワールド」の従業員で何度か顔を合わせている。

そう言えば以前にもどこかで会ったことがあるような気もするが……今は思い出せなかった。

とにかく、今はそんなことを考えている時じゃない。

 鬼頭はキーを回し、エンジンをかけ車を走らせた。

目的地はジョーのアジトだ。

そこで待ち受けている悲劇の舞台を鬼頭は知る由もなかった。

 後部座席で眠るマユミは夢を見ていた。

真っ暗な中でマユミは得体の知れない何者かに追いかけられていた。

それが誰なのかマユミには分からなかった。

ただ恐怖だけが着いてきた。

逃げても逃げても振り払えない恐怖。

追ってくる者の足音が次第に近づいてくる。

獣のように荒い吐息が耳元にこだましている。

次の瞬間、マユミは心臓が止まりそうになった。

闇の中から触手のように伸びてきた腕がマユミの肩を掴んだ。

マユミが振り返るとそこには〝デザイア〟の姿があった。

マユミが一瞬ほっとした瞬間、〝デザイア〟がドロドロに溶け出し、白骨死体に変貌した。

 マユミは叫び声を上げ、起き上がった。

目の前には車を運転する鬼頭の姿があった。

マユミはこの状況がまるで理解できなかった。

ジョーの家でSMプレーをしていたはずが、気が付くと走っている車の中で目の前には鬼頭がいる。

まるで意味が分からなかった。

いつの間にか服も着ていた。

それは初めて見る服だった。

黒のキャミソールとデニムのハーフパンツ。

しかも、サイズはぴったり合っている。

マユミと顔を合わせた鬼頭はすぐに視線を前に戻し、無言のまま運転を続けている。

マユミは自分が鬼頭にさらわれたのかと思った。

しかし、今まで見ていた背筋が凍りつくほどの悪夢を見ていたおかげで、現実に起きているこの状況がまるで怖くなかった。

マユミは後部座席の背もたれに体を預け、ゆっくりと流れに身を任せた。

 一方、廃屋団では鬼頭と同じように謎の男からの電話によって呼び寄せられたシローとジャックが顔を見合わせ、その場に立ち尽くしていた。

シローとジャックの足元には白目を向き泡を吐いて気絶しているタツオとタツヒコ、そして、首に絞められた痕がまだはっきりと残って息絶えているエナリの姿が無残に横たわっていた。

「一体どうなってんだ?三人もいて〝デザイア〟一人にやられたのか?」

「その〝デザイア〟はどこにいったんだ?三人を殺って逃げたのか?」

「お前も電話でここに呼び出されたんだろ?あの電話を掛けてきた男が〝デザイア〟だったんじゃないか?」

「これは罠か?」

その時、二人は背後に気配を感じ振り返った。

そこにはサングラスに黒のニット帽を被り、全身黒尽くめの男が立っていた。

「お前が〝デザイア〟か?」

「……そうだ」

ジャックの問いに答えた〝もう一人のデザイア〟は、即座に懐からサイレンサー付の銃を抜き、ジャックに向けて発射した。

弾丸はジャックの心臓付近を貫通し、ジャックは音を立てて地面に倒れこんだ。

突然の出来事に事態を飲み込めないシローに向けて〝もう一人のデザイア〟は容赦なく銃を撃ち放った。

首筋を撃たれたシローは首から流れ出る自分の血を左手で押さえながら、ジャックの隣にゆっくりと崩れ落ちた。

 〝もう一人のデザイア〟はゆっくりと倒れているシローたちに近づいて行き、一人ひとりにとどめの銃弾を喰らわせた。

男はすでに死んでいるエナリの額をも撃ち抜き、不適な笑みを見せた。

まるでゲームでも楽しむように一瞬で四人の男を殺害したその男は携帯を取り出し電話を掛け始めた。

「終わったぜ。全部片付いた。あんたの言うとおり5体の死体が出たぜ」

「分かった。死体はそのままでいいからお前は残りの任務を完了しろ」

任務の報告を終えた男は茂みの中からハシゴを取り出し、踊り場にハシゴを掛け真っ暗な団地内に入って行った。

 ペンライトをかざしながら階段を上っていった男は、鍵を開け、ソファーで寝ている凛一郎の前に立ちはだかった。

「こいつが凛一郎か……」

凛一郎は自分の前に見知らぬ男がいることなどまったく気づかず眠っている。

〝もう一人のデザイア〟は凛一郎の腕にある液体の入った注射を打ち込んだ。

これは全て國無からの指示だった。

男は注射をゴミ箱に投げ捨てると凛一郎を担ぎ上げ、部屋から出て行った。

                                                  【続く】

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2007年4月18日 (水)

デザイアと呼ばれた男     VOL 23

こんにちは。D・二プルです。

ご無沙汰してます。今日は私の誕生日なので久しぶりにここにやってきました。

「デザイアと呼ばれた男」の続きをどうぞ!!!

 けたたましいサイレンが鳴り響き、5台のパトカーと少し間をおいて1台の救急車が「ワールド」の前に集結した。

パトカーの中から十数人の警察官と救急車から二人の救急隊員が騒々しく「ワールド」の階段を駆け上がって行った。

それまで静かだった周囲が急に騒がしくなり、いつのまにか野次馬の群れも集まっていた。

 俺は道を挟んだ「ワールド」の向かいの自動販売機の前で手首の拘束具を外し、優々とタバコを吹かし、そのにぎやかな夜の騒動を見物していた。

 いつもの〝デザイア〟の全身黒の衣装は天井裏を這いずり回ったせいでホコリまみれに汚れてしまったので天井裏に置いてきた。

それにあの格好で近くをうろうろしていたらたちまち鬼頭たちに見つかって囲まれてしまうだろう。

今の俺はヤンキースのキャップをななめにかぶり、ナイキの黒のTシャツにダボダボのジーパン姿で、サングラスとシルバーアクセをジャラジャラ着けたB系ファッションに身を包んでいた。

 國無が郵便受けに入れておいてくれた新アイテム〝デザイア七変化セット〟がさっそく役に立った。

これは七枚のビニール袋の中に小さくたたまれた服がそれぞれ入っていて、まったく違った服装、メガネ、帽子、カツラ、アクセサリーなどの小物からその格好に合わせた武器までコンパクトに収納されていた。

このアイテムのおかげで俺はどこにいても別人になることができた。

 俺はタバコを吹かしながら体を休めていたが、頭の中はごちゃごちゃにパニクっていた。

ユカの死、重傷を負った小原、そして、初めての殺人……今日は何て一日だ。

それに國無が言っていた、さらわれたマユミの行方が気になっていた。

俺は携帯を取り出し、國無に電話した。

しかし、電話は繋がらなかった。

恐らく、國無もこっちに移動中なのかもしれない。

とにかく今はマユミを見つけ出し、無事に助け出さなければならなかった。

俺は変装しているが、奴らの顔は写真でワレている。

一人一人見つけ出し、マユミの居所を吐かせるか。

 目の前の「ワールド」は既に警察の手によって封鎖されていた。

鬼頭たちもうかつには近づかないだろう。

それでも奴らが必死に〝デザイア〟を捜していることは間違いない。

 その時、俺は少し離れた246沿いの角に立っている一人のサラリーマン風の男に気が付いた。

サラリーマン風の男は携帯で誰かと話しをしている。

俺は國無の資料の中の写真とサラリーマン風も男を見比べてみた。

間違いない。

奴は鬼頭の仲間のエナリ カズオだ。

 エナリは電話で話しながら慌てて246沿いを走って行った。

俺は辺りを警戒しながらエナリの後をつけた。

周りに他の仲間の姿は見えない。

だが、油断はできない。

奴らは必ず近くにいるはずだ。

 エナリは携帯を耳に当てたまま早足で246沿いを直進している。

俺はエナリの20メートル後ろにぴったりと張り付き、尾行を続けた。

それにしてもエナリは誰と話しているんだろうか?

鬼頭から何か指示されているのかもしれない。

 尾行を続けているとエナリは246沿いからわき道に曲がり、世田谷公園を通り抜け、廃屋団地の方向に向かっていた。

エナリは一体どこへ行こうとしているんだ?

エナリは俺の尾行に気づかずにそのまま廃屋団地の中に入って行った。

どうなってるんだ?

俺は急いで廃屋団地の敷地内に入り、建物の角を曲がって姿を消したエナリの後を追った。

角を曲がり、俺はギョッとなった。

俺の目の前にエナリがこちらを向いて立ち止まっていたのだ。

「お前がデザイアか?モンタージュとだいぶ違うな。さっきの電話で言ってた通りだ。誰だか知らないが助かったぜ。お前の首は俺がもらった」

「……」

どういうことだ?

エナリは俺を待ち構えていた。

俺が尾行していることを知っていたというのか?

それにエナリが電話で話していたのは一体誰なんだ?

「……おい、何でここを選んだんだ?鬼頭の指示か?」

「いいや、鬼頭じゃない。誰だか知らないが匿名で俺の電話に掛かってきたんだ。〝デザイア〟の居所を知ってるってな。そいつがここに来るように言ったんだ。そいつが突然〝デザイア〟はお前の後ろにいるって言って電話を切った時はいたずらかとも思ったが信じてよかったぜ。お前、俺たち以外にも敵がいるみたいだな」

「……」

エナリはジッと突っ立ったまま俺に近づいてこなかった。

警戒しているのか、それとも何か他に狙いがあるのか?

「おい、女をどうした?」

「女?ビデオ屋で自殺した女か?あの女を犯ったのはジャックだぜ。あとシローも何かしてたな。俺は女には手を出してないぜ」

エナリが言っているのはユカの事だとすぐに分かった。

ユカはレイプされ自殺したのか。

俺は再び心の中でやるせなさが膨張を始めた。

「俺が殺ったのはロン毛の色黒の男だ。初めはあのおっさんが〝デザイア〟だと思ったんだが、とんだ見掛け倒しだったな」

何だと……エナリが言っているのはミシマさんのことか?

こいつ、ミシマさんを襲ったっていうのか?

「……おい、そのロン毛の男はどうした?」

「もちろん、殺してきたぞ。あまりにもがっかりしてな。さっきまであいつの返り血がべったり付いてたんだが、雨でだいぶ落ちたようだな。あいつの死体は当分出てこないぜ」

「……」

 辺りはとても静かだった。

近所の住民は夜はこの辺りには近づかない。

世田谷公園同様、痴漢や変質者が出没するのもこの辺りが多かったからだ。

「ワールド」の前に居た時、俺はどうやってこいつらを倒していこうか考えていた。

あの辺りは夜でも人通りが多いし、路地裏にでも連れ込むしかないと思っていた。

それに俺自身の手で警察を呼んでしまったことで、「ワールド」周辺で鬼頭たちと激突するのは得策ではなくなってしまった。

しかし、ここなら思いっきりやれる。

「そうか、これでおあいこだな。俺もさっきお前たちの仲間の一人を殺してきたばかりなんだ」

「!!!」

エナリが俺の言葉に反応した次の瞬間、俺はエナリに向かって突進していた。

俺は指全部にはめたシルバーのゴツイ指輪付きの拳を握り締め、エナリの顔面を殴りつけた。

拳はエナリの右頬に命中し、ミシリという音を立てて、エナリの歯を数本砕き散った。

口から血を流し、ふらついているエナリに俺はボディーブローを叩き込み、下がった顎に膝蹴りを喰らわせ、さらに股間を思いっきり蹴り上げた。

それでもエナリが倒れなかった事に俺は驚きを隠せなかった。

正直、俺は殺す気でエナリを攻撃した。

それでもエナリはダウンすらしなかった。

 俺はいつか國無が言っていたことを思い出した。

「人間、殺す気で他人を殴ったとしても潜在能力の70%ぐらいしか出すことができない。それは自己防衛本能が働き、自分の肉体を傷つけない為だ。相手を本気で殺したい時は格闘技をしていては駄目だ。もっと違った目線で急所を確実に攻める。本来急所とはどんな男でも鍛えようのない場所なんだ。まあ、主に体の中心だな。眉間、鼻、顎、喉、みぞおち、股間、ここを確実に攻めるのが望ましい」

俺が考え事をしていた一瞬の隙をエナリは見逃さなかった。

エナリは攻撃を受けた直後とは思えないようなスピードで一瞬で俺の背後に回りこみ、チョークスリーパーをかけ首を絞め始めた。

「……」

「いきなりいい攻撃だったぞ。さすが〝デザイア〟だ。さっきのロン毛よりもいい攻めをしてくれる。だが、これが限界か?ロン毛は俺の一回の返しで沈んじまったぞ。お前もこのまま俺に絞め殺されちまえばあいつと同じレベル……」

その瞬間、俺は俺の首を絞めているエナリの右腕の小指の骨を折った。

一瞬、エナリの腕の力が緩まった隙に俺はチョークスリーパーから脱出した。

そして、俺はエナリの左足の膝の下に強烈な前蹴りを喰らわせ、足の骨を折った。

エナリはバランスを崩し、地面に膝を着いた。

俺はエナリの背後に回り、着けていたシルバーのネックレスを吹き契り、エナリの首に巻きつけた。

エナリは悶えながら股間を大きく膨らませていたが、俺がネックレスで絞める力をさらに強めるとエナリはそのまま絶頂し、股間の周りが湿り始めた。

そして、エナリは口から泡を吹き、息絶えた。

俺は今日二人目の殺人を行った。

いくら感情的になっていても、人を殺す瞬間は手に嫌な感じが伝わってくるものだ。

イブを射殺した時はそれが銃だった為にそれほど実感はなかったが、今回はネックレスで絞め殺した時の感触がもろに腕から伝わってきた。

やはり人を殺すのは嫌なものだ。

その時、俺は背後に人の気配を感じ振り返った。

「おい、あそこに倒れてんのエナリじゃないか?」

「本当だ……ってことはあいつが〝デザイア〟か?電話で言ってた通りだっだね兄ちゃん」

そこには見るからに双子だと分かるほどそっくりの二人の男が立っていた。

こいつらも写真にあった鬼頭の仲間だ。

どうなってるんだ?

次々と集まってきやがる。

一体鬼頭の仲間に俺の居所をリークしているのは誰なんだ?

          6

 廃屋団地の一室では國無がワインを飲みながらメイン画面を見つめていた。

メイン画面には下の裏庭に佇んでいる〝デザイア〟と〝獣姦兄弟〟タツオとタツヒコが睨み合っていた。

三人の欲望が今にも激しくぶつかろうとしていた。

 國無はふとメインモニターからサブモニターに視線を逸らせた。

一つのサブモニターの中では「ワールド」周辺をうろうろしている鬼頭の姿があった。

 國無は画面を見つめたままダンボールいっぱいに詰まった携帯電話の中から一台を取り出すと電話を掛け始めた。

サブモニターに映っている鬼頭が自分の携帯を取りだし、電話に出た。

「おい、まだそんな所を捜してるのか?〝デザイア〟はもうとっくに別の場所に移動してるぜ」

「……また、お前か。一体、お前の狙いは何なんだ?まあ、いい。奴は今どこにいるんだ?」

「〝デザイア〟は今、お前の仲間を一人殺して、次の獲物を狙ってるぜ」

「……俺の仲間を殺しただと?ふざけたこと言ってるんじゃねえぞ?」

「だから、お前らはバカだっていうんだ。自分達が特別だとでも思っているのか?お前らだって一人の人間だ。そして、お前らが捜している〝デザイア〟はお前ら以上に凶悪な犯罪者なんだぜ。その証拠を見せようか?お前が今いる場所からすぐ246に出て2つ目の路地を右に曲がって、またすぐ3つ目の路地を左に曲がってみな。お前の仲間の一人が殺られてるぜ」

そう言って國無は携帯を切るとダンボールの中には戻さず、自分の手が届くテーブルの隅に置いた。

 鬼頭は謎の電話の男の言う通りに、246に出て、2つ目の路地を右の曲がり、3つ目の路地を左に曲がってみた。

すると路地の奥に転がっていたのは、すっかりと変わり果てたイブの姿だった。

イブは頭を撃ちぬかれ抜け殻のように小さくなっていた。

イブの死体を見て立ち尽くしている鬼頭の元に再び國無からの電話が入った。

「どうだ?これで分かっただろ?狙われてるのはお前たちの方なんだよ」

「……」

「何だ、黙んまりか?そんなお前に逆転のサヨナラのチャンスをやろうか?今から言う場所に行ってみな。お前を救ってくれる勝利の女神が待ってるぜ。いいか、場所は……」

「待てよ。お前の目的は一体何なんだよ。俺たちを追い詰めようとしてるんじゃないのか?なぜ、俺に味方するようなことを言う?」

「……俺の目的はそんなに単純じゃないのさ。別にお前らを潰すことが目的でもないし、俺はデザイアの味方でもないんだぜ。俺の言葉を信じないのは勝手だが、お前が〝デザイア〟に勝つにはもう手段は選んでいられないんじゃないのか?」

そう言うと國無は静かに電話を切った。

 切れた電話を耳に当てたまま、鬼頭はその場を動かなかった。

鬼頭はもう一度目の前のイブの死体に視線を合わせた。

 鬼頭は殺し合いにおいてイブに絶対の信用を持っていた。

癖あるメンバーの中でもイブは屈折した性癖を持たず、人を殺すことに対して何のためらいも持たない男だった。

そのイブが、数分前までは生きていたイブが、今は変わり果てた死体として薄暗い路地裏にゴミのように転がっている。

鬼頭は妙な胸騒ぎがした。

「ワールド」の従業員にとって今日が最悪の一日であったように、俺たちにとっても今日が最悪の一日になるような気がした。

鬼頭は謎の犯罪者〝デザイア〟に恐怖を感じていた。

もしかしたら敵は想像以上に巨大なものなのかもしれない。

鬼頭は得体の知れない〝何か〟を〝デザイア〟に感じていた。

電話の男が言うように、もうなりふりかまっていられない所までいつの間にか追い詰められているのではないか。

電話の男の言うことを信じるわけではない。

だが、勝利の女神を手にしておいても損はないはずだ。

例えそれが、疫病神だとしても、その時はその時だ。

鬼頭は決意したように國無が指定した場所に向かって歩き出した。

 サブモニターで鬼頭の様子を見ていた國無は思わずほくそ笑んだ。

言葉巧みに人を駒のように動かすのは実に快感だ。

國無はノートパソコン上の自分が書いたシナリオに眼を向けた。

いまだに誰一人として気づいていないが、全て自分の作り上げたシナリオの通りに動いている。

この物語の登場人物たちは皆、自分の欲望に忠実に動いていると思い込んでいる。

その先に待ち受けているのが〝絶望〟だということも知らずに……。

國無は金魚が泳ぐ水槽の中に鬼頭と話した携帯を投げ入れた。

水槽の中にはすでに8つの携帯が沈んでいた。

國無は再びメイン画面の〝デザイア〟に目を向けた。

廃屋団地の裏庭ではB系ファッションの〝デザイア〟が地べたで泥だらけになりながらのた打ち回りもがき苦しんでいた。

その様子をタツオとタツヒコがニタニタしながら見下ろしていた。

國無が鬼頭と電話でやり取りをしていた数分間に事態は展開していた。

睨み合う硬直状態の中、初めに動いたのはタツヒコだった。

タツヒコは〝デザイア〟に向かって直進していき大振りのパンチを繰り出した。

しかし、〝デザイア〟は難なくタツヒコのパンチをかわし、逆に強烈なボディーブローを叩き込んだ。

タツヒコは目に涙を浮かべ、口から胃液を垂らしながら地面に倒れこんだ。

しかし次の瞬間、タツヒコは倒れざまに〝デザイア〟の足首を掴んだ。

そして、息をも切らさぬ間にタツオが〝デザイア〟の後ろに回り込み、羽交い絞めにした。

そして、タツオは〝デザイア〟の口の中にあるものを放り込んだ。

二人は息をぴったりと合わせ、タツオは首を、タツヒコは足首を掴んだまま思いっきり引っ張り、〝デザイア〟を地面に叩きつけた。

その拍子に〝デザイア〟は口の中に入ったモノを飲み込んでしまった。

そして数秒後、〝デザイア〟は発狂するように苦しみ始めた。

 タツオとタツヒコが〝デザイア〟に飲ませたのはネットで密輸したある違法の害虫だった。

その蟲は古代中国で拷問に使われていたもので、その蟲に刺されると幻覚を見たり、過去のおぞましい記憶を思い出したりして、精神に害をもたらす有害指定昆虫だった。

その蟲を二人は〝デザイア〟に飲ませたのだ。

これはまだ誰にも試したことのない試みだった。

刺されただけでも恐ろしい効果が現れる害虫を体内に入れたのだ。ただで済むはずがない。

その証拠に目の前の〝デザイア〟は発狂しながら地面を這いずり回っている。

タツオは〝デザイア〟のサングラスを外し、その素顔を拝みたいと思っていた。

しかし、それでもまだタツオは〝デザイア〟を警戒していた。

この男は土壇場で何かをやらかすような胸騒ぎがタツオを動かさなかった。

 

 遠のく意識の中で、俺は夢を見ていた。

目の前には懐かしい光景が広がっていた。

そこは昔俺が通っていた中学の屋上だった。

その日はぽかぽかといい天気だった。

吹奏楽部の練習する演奏が音楽室から微かに聞こえていた。

屋上には俺以外誰の姿も無かった。

俺は誰もいない屋上の片隅でエロ本を傍らにマスをかいていた。

エロ本には人気の女優が足を大胆に広げ、陰毛をたっぷり茂らせたヴァギナを公開していた。

俺はその女優の体を見ながら大好きなクラスメート トモコを頭の中で思い描いていた。

トモコは当時俺が片想いしていた女だった。

成績優秀でスポーツ万能で、誰からも好かれ、サッカー部の部長と付き合っていた。

トモコは俺には高嶺の花で憧れの存在だった。

今の俺にできることはせいぜいトモコの妄想に明け暮れオナニーすることぐらいだった。

俺はペニスを激しくシゴキ、エロ本の上にたっぷりと真っ白な精子を放出した。

俺はペニスを出したままその場に大の字に仰向けに寝転んだ。

俺が射精後のひと時を堪能していた時、微かな物音と人の気配に俺は気づき、思わず起き上がり振り返った。

 次の瞬間、俺は凍りついた。

目の前にトモコが信じられないというような表情で立ち尽くしていたのだった。

俺が思わず立ち上がろうとした時、トモコは顔を真っ赤にして屋上から立ち去ってしまった。

一人屋上に取り残された俺は空しさと恥ずかしさに苛まれていた。

 その後、俺は何度かトモコの誤解を解こうと試みたが、勇気が出せず一度も話さないまま卒業してしまった。

トモコとはそれっきり会っていなかった。

 それは俺の心の中でトラウマとなって今まで眠っていたおぞましい記憶だった。

次の瞬間、俺は見知らぬ女を激しくレイプしていた。

俺が女をレイプしている下には数え切れないほどの女たちが裸体で寝そべっていた。

その女たちは全員俺が犯した女たちで、俺は無制限で女を犯し続けていた。

俺の体は汗や精子が混ざり合った体液でベットリとし、異臭を放っていた。

俺のペニスは擦り切れ、真っ赤に染まっていた。

それでも俺は女を犯すことを止めなかった。

いや、止めることができなかった。

一人の女が終わると、また別の女が現れ、俺は犯し続けた。

ついに俺のペニスは破裂するように粉々に砕け散ってしまった。

俺は自分の血とペニスの肉片をかぶりながら、それでも腰を動かし続けていた。

すでにそれは快楽を通り越し、苦痛へと変わっていた。

発情したウサギのオスは自分のペニスが擦り切れても交尾を続けるという話をどこかで聞いたことがある。

今の俺はまさにオスウサギ同然の鬼畜だった。

俺の脳裏に現れるのは中学二年の夏にオナニーを見られたトモコのことだった。

あの時のトラウマが今でも俺を支配していた。

俺はその忌まわしい過去を心の中に封印し、忘れようとしていた。

あれがきっかけで俺は女とまともにセックスができなくなってしまったのだ。

しかし、俺は再びその記憶を思い出し死にたくなった。

俺の未来には真っ暗な闇しかなかった。

その時、闇の中を一筋の光が照らした。

そして俺の前にマユミが現れた。

マユミは何も言わずにただ微笑んでいた。

俺がマユミに手を伸ばすと、マユミは俺の握り、やさしく微笑みかけた。

「いいの、あなたはそのままでいいのよ」

その瞬間、俺は救われたような気がした。

マユミの一言で俺は死ぬのを止めた。

そして、闇の中を照らす一筋の光に導かれるままに俺は歩み続けた。

 あんなに苦しんでいた〝デザイア〟がついに動かなくなった。

あまりの苦痛のあまり息絶えたのか?

タツオとタツヒコはゆっくりと〝デザイア〟に近づいた。

ついに〝デザイア〟を倒した。

これで仲間たちに威張り散らすことができる。

鬼頭にも一目おかれるだろう。

タツオはこの場で〝デザイア〟のサングラスを外そうと思った。

タツオがサングラスに触れようとした時、突然、〝デザイア〟が立ち上がり、瞬時に二人を殴り倒した。

〝デザイア〟は口をモゴモゴさせ、何かを吐き出した。

土の上に吐き出されたそれはタツオが飲ませたおぞましい害虫の死骸だった。

〝デザイアは〟変な呼吸を繰り返したまま倒れた二人に襲い掛かってきた。

〝デザイア〟は急所だけを狙い、確実に二人を殺そうとしていた。

その攻撃はまさに野生の獣のようで、タツオとタツヒコは二人がかりでも手も足もでなかた。

散々、二人を殴り、蹴り、暴れまわった挙句、〝デザイア〟はギンギンに膨れ上がったペニスを抜き、タツオのアヌスに突っ込み、犯し始めた。

 タツオは必死に抵抗したが、〝デザイア〟は止まらなかった。

タツヒコはその様子を見て動くことができなかった。

今まで様々な悪事を働いてきた二人だったが、男に犯されたことはなかった。

しかも目の前にいる男はまるで鬼のようで、とても人間とは思えなかった。

ついにタツオは泡を吹き、白目をむいて意識を失った。

そして、ペニスをタツオのアヌスから抜くと、まだ体液に塗れている勃起したままの生のペニスをタツヒコのアヌスにぶち込んだ。

生まれて初めてタツヒコは一人の人間に恐怖を感じた。

〝デザイア〟は激しく腰を動かし、アヌスの奥を突きまくっている。

タツヒコは犯される女の気持ちを実感した。

それは悔しさと、怒りと、切なさと、悲しさがぐちゃぐちゃに入り混じったような感覚だった。

そして、全てがどうでもよくなった。

だんだんと意識が遠くなっていく。

やがて、〝デザイア〟は絶頂し、タツヒコのアヌスの中にザーメンをぶちまけた。

その瞬間、タツヒコも口から泡を吹き意識を失った。

                                                     【続く】

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2007年2月22日 (木)

デザイアと呼ばれた男       VOL 22

 こんにちは。D・二プルです。

  【二プルおススメ映画】

   「アマデウス」

 1823年11月、凍てつくウィーンの街で1人の老人が自殺をはかった。「許してくれモーツァルト、おまえを殺したのは私だ」、老人は浮わ言を吐きながら精神病院に運ばれた。数週間後、元気になった老人は神父フォーグラー(リチャード・フランク)に、意外な告白をはじめた。--老人の名はアントニオ・サリエリ(F・マーリー・エイブラハム)。かつてはオーストリア皇帝ヨゼフ二世(ジェフリー・ジョーンズ)に仕えた作曲家だった。神が与え給うた音楽の才に深く感謝し、音楽を通じて神の下僕を任じていた彼だが、神童としてその名がヨーロッパ中に轟いていたウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(トム・ハルス)が彼の前に出現したときその運命が狂い出した。作曲の才能は比類なかったが女たらしのモーツァルトが、サリエリが思いよせるオベラ歌手カテリナ・カヴァリエリ(クリスティン・エバソール)に手を出したことから、彼の凄まじい憎悪は神に向けられたのだ。皇帝が姪の音楽教師としてモーツァルトに白羽の矢を立てようとした時、選考の権限を持っていたサリエリはこれに反対した。そんな彼の許へ、モーツァルトの新妻コンスタンツェ(エリザベス・ベリッジ)が、夫を音楽教師に推薦してもらうべく、音譜を携えて訪れた。コンスタンツェは苦しい家計を支えるために、何としても音楽教師の仕事が欲しかったのだ。フルートとハープの協奏曲、2台のピアノのための協奏曲・・・。譜面の中身は訂正・加筆の跡がない素晴らしい作品ばかりだった。再びショックに打ちのめされたサリエリは神との永遠の訣別を決意した。神はモーツァルトの方を下僕に選んだのだ。ある夜の、仮面舞踏会。ザルツブルグから訪れた父レオポルド(ロイ・ドートリス)、コンスタンツェと共に陽気にはしゃぎ回るモーツァルトが、サリエリの神経を逆撫でする。天才への嫉妬と復讐心に燃えるサリエリは、若きメイドをスパイとしてモーツァルトの家にさし向けた。そして復讐のときがやってきた。皇帝が禁じていたオペラ「フィガロの結婚」の上演をモーツァルトが計画したのだ。サリエリがスパイから得た情報を皇帝に密告したとも知らず、モーツァルトはサリエリに助けを求める。それを放っておくサリエリ。やがて父レオポルドが死んだ。失意のモーツァルトは酒と下品なパーティにのめり込んでいく。そして金のために大衆劇場での「ドン・ジョバンニ」作曲に没頭していくモーツァルトに、サリエリが追い打ちをかける。変装したサリエリがモーツァルトにレクイエムの作曲を依頼したのだ。金の力に負けて作曲を引き受けるモーツァルトだが、精神と肉体の疲労は想像以上にすさまじく、「魔笛」上演中に倒れてしまう。コンスタンツェが夫のあまりの乱行に愛想をつかし旅に出てしまったために無人になった家に、モーツァルトを運び込むサリエリ。仮装した彼は衰弱したモーツァルトにレクイエムの引き渡しを迫る。サリエリは作曲の協力を申し出て、一晩かかってレクイエムを仕上げさせるが、翌朝、サリエリが強いた過酷な労働のためか、モーツァルトは息を引きとった。モーツァルト35歳、1791年12月のことだった。すべてを告白し、いまや老いさらばえたサリエリひとりが、惨めな生を生きるのだった。

 若くして逝った天才音楽家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトと宮庭音楽家アントニオ・サリエリの対決を通してモーツァルトの謎にみちた生涯を描く。製作はソウル・ゼインツ、監督は「ラグタイム」のミロシュ・フォアマン。ピーター・シェーファーが舞台のために書いた脚本を自ら映画のために書き直した。エグゼクティヴ・プロデューサーはマイケル・ハウスマンとバーティル・オールソン、撮影はミロスラフ・オンドリチェク、音楽監督・指揮はネヴィル・マリナー、美術はカレル・サーニー、衣裳はテオドール・ピステック、編集はネーナ・デーンヴィックとマイケル・チャンドラー、プロダクションデザインはP・フフォン・ブランデンシュタイン、オペラ舞台デザインはヨゼフ・スボボダが担当。出演はF・マーリー・エイブラハム、トム・ハルスなど。日本版字幕は戸田奈津子。ドルビーステレオ、テクニカラー、パナビジョン。1984年作品。

     それでは引き続き「デザイアと呼ばれた男」をお楽しみ下さい!

          3

 俺は路上駐車してある車の物陰から奴らの動向を窺っていた。

さすがに良い動きだ。

「ワールド」の照明を落として15秒弱で全員が外に飛び出してきた。

虚勢を張り、すぐに外に出なければ全員ガスの餌食だった。

中にはマユミや小原たちがいる可能性があった為、ただの睡眠ガスだ。

眠らせてしまえばこっちのものだ。

マユミや「ワールド」の連中を助け出し、鬼頭とその仲間たちは今後の動きを封じる為に足の骨を2~3本折れば上出来だろう。

 だが、奴らはあっさりと外に飛び出してきた。

こうなったら予定変更だ。

唯一の救いは奴らが一箇所に固まっていないということだ。

ヒデを相手にしてみて確信したが、鬼頭の仲間たちは一筋縄ではいかない連中が揃っているような気がした。

以前の「ニガー」の連中の比ではない。

俺は國無に習ったことを頭の中でリピートしていた。

多勢を相手にする時は一人ひとり確実に潰す。

完全装備で〝デザイア〟に変身した俺は自信に満ち溢れていた。

精神的なことだけではなく、〝デザイア〟になることで俺は確実に強くなっていた。

 俺は一番近くにいる若い男をターゲットに選んだ。

俺はイブの進行方向を先読みし、戦いの場を細い路地裏に決めた。

俺は闇に紛れながら路地裏に移動した。

國無からの指示で自宅に〝デザイア変身セット〟を取りに行った時、郵便受けの中に鬼頭の仲間全員の写真と新たな武器が入っていた。

 俺の一番近くにいる男はイブという男だ。

イブは辺りを窺いながらこっちに歩いてくる。

辺りに他の奴らの姿は見えなかった。

「おい、イブ、こっちに〝デザイア〟がいたぞ」

俺はボイスチェンジャードロップで低くなった声をさらに変えてイブを呼び寄せた。

俺の声に反応し、イブはこっちに近づいてきた。

 俺は闇の中からイブの右腕を掴み、路地裏に引きずり込んだ。

突然の出来事にもちろんイブはすぐに反応することはできずにいた。

イブがあっけに取られている瞬間に、防犯スプレーを奴の目に喰らわせ視界を奪えば勝ちだと思った。

しかし、俺のスプレーより、イブのナイフが一瞬早く、俺の腕を切り裂いた。

飛び出したスプレーはイブの目からは外れ、空振りに終わった。

俺は瞬時にイブから離れ、距離を取った。

イブは俺を蛙を狙う蛇のような冷たい眼で見つめていた。

イブの眼を見て俺は正直心が凍りつくほどの恐怖を感じた。

イブの眼は今まであった誰よりも機械的でまるで感情を感じられなかった。

「お前が〝デザイア〟か?意外ときゃしゃだな」

「……」

イブは仲間を呼ぶわけでもなく、ジリジリと俺に近づいてきていた。

俺は無意識のうちに路地の奥へ後ずさりしていた。

「何だ、逃げるのか?さっき殺した細い男の方がよっぽど威勢がよかったぞ」

「……殺しただと?一体誰を」

「さあな。名前などいちいち覚えてないな。ただビデオ屋の従業員なのは間違いない。恐らく他の従業員たちも他の奴らに殺されたんじゃないか?今日一日でビデオ屋の連中は全滅だ。もちろん原因はお前のせいだ。お前があいつらを殺したようなもんだな」

 イブの話を聞いても俺にはまるで現実味がなかった。

「ワールド」で一緒に働いていた仲間が目の前の男に殺された?

まるで実感がなかったが俺は無意識にイブに飛び掛っていた。

 イブは俺が飛び掛ってくるのを待ち構えていたように懐からサイレンサー付きの拳銃を抜き、何のためらいもなく発射した。

 銃弾は俺の胸に突き刺さり、俺は路地の奥に吹っ飛んだ。

「さっきはとっさにナイフを抜いちまったが、俺は銃の方が好きでな。手っ取り早くていい。殺しに感情など必要ない」

路上に倒れている俺に近づきながらイブはコンピューター内のデータを処理するように淡々と口走った。

 イブの言葉はしっかりと俺の耳に届いていた。

それは時間にすれば一秒にも満たないわずかな時間だった。

俺の中で今まで無かった感情が爆発的に膨れ上がった。

特に目の前のイブに恨みがあるわけではなかった。

それなのにイブに対して絶対に許せないという感情がみるみるうちに膨張していった。

人は感情があるから生きていられるんだ。

何の感情も持たないお前は生きている資格はない。

すでに死んでいるのと同じだからな。

そんな奴に他人の命を奪う権利はない。

お前の命は俺が終わりにしてやる。

俺の欲望に潰されろ。

イブはジリジリと俺に近づき、トドメ刺しにきている。

俺は足でイブの持っていた拳銃を蹴り上げ、反動をつけて起き上がるとイブの喉を左手で後ろから支え、右の拳を思いっきり叩き込んだ。

イブは拍子をつかれ、口から唾液と吐血が交じり合った液体を吐きながらもがき苦しんだ。

俺は落ちている拳銃をイブのこめかみに近づけるとためらいもなく引き金を引いた。

それは思っていた以上に簡単なものだった。

俺が発射した銃弾はまっすぐにイブの頭を貫通して、あっさりとその命を奪い去った。

人間は簡単に死ぬ。

初めて人を殺したにもかかわらず、俺の心は落ち着いていた。

俺は持っていた拳銃を上着で指紋をふき取り、イブに握らせ、自殺したように見せかけた。

俺は穴の開いた上着に視線を送った。

國無が用意してくれた防弾チョッキのおかげで助かった。

まさか、拳銃が実際に出てくるとは思っていなかったが、護身用に身に着けていて命拾いした。

俺は血を流し、路地に倒れているイブを残し、その場から立ち去った。

          4

 廃屋団地の秘密の部屋で凛一郎の初めての殺人を鑑賞していた國無由自は、画面に身を乗り出して唸り声を上げた。

ついに凛一郎は一線を越えた。

殺人マシンイブを射殺した。

それはあまりにもあっさりと決まった。

 國無はグラスの中に残っていたワインを一気に飲み干し、新しくグラスにワインをなみなみと注いだ。

國無は再びワインを一口飲み、口の周りをティッシュでふき取ると、笑みを浮かべながら画面に視線を戻した。

國無は今、満足していた。

 凛一郎がこれで完全な犯罪者の仲間入りを果たしたような気がした。

これで凛一郎は後戻りできなくなった。

罪人は必ず罪を償わなければならない。

凛一郎には一体どんな罰が待ち受けているのだろうか?

それを想像すると國無は身震いがした。

國無が頭の中で思い描いている妄想はやがて、近い将来現実に起こりえることなのだ。

 イブを射殺した俺は「ワールド」の中に足を踏み入れた。

さすがに防弾チョッキを着ていたとはいえ、実弾の衝撃は半端なものではなかった。

鋼鉄のボディーブローを喰らったのだ。

内臓に相当の衝撃を受けた。

もしかしたら、何本か骨がイっているかもしれない。

 俺は少し休みたかった。

ガスを送り込んだ店内なら奴らも入ってこないだろう。

もちろん口にはミニガスマスクを着けている。

しかし、鬼頭たちは外に飛び出した時、扉を開けっぱなしで出て行った為、ガスはほとんど抜けてしまっていた。

 真っ暗な店内は棚が全部左右に寄せられ、変わり果てた姿になっていた。

俺はそこで信じられないような光景を目にした。

まず入り口のすぐ近くに全裸のユカが無残な姿で倒れていた。

俺はユカがレイプされ、ガスによって意識を失っているだけだと思っていた。

しかし、近づいていくとそれがすぐに違うということに気づいた。

ユカは舌を切り取られ死んでいた。

おまけに歯も何本か抜かれている。

ユカの腹の上にはまだねばねばしたザーメンがたっぷりとかけられていた。

 そして、広く開けられたスペースの中央では裸にされた小学生の男の子が仰向けに倒れていた。

この子が誰なのか俺には分からなかったが、この地獄のような現場に裸にされた小学生が倒れていること事態、狂った状況を物語っていた。

唯一の救いはこの小学生がまだ生きていたということだ。

男の子はただ意識を失っているだけだった。

ただし、何者かによって何らかの猥褻行為を受けていることは間違いなかった。

その証拠に、この小学生の顔にも薄汚い精液がたっぷりとかけられていたのだ。

俺は手袋をはめた手で精液をふき取り、その子を抱きかかえカウンターの裏側にある元休憩室だった店の奥に運び、横に寝かせた。

今すぐこの子を連れてここから脱出するのは不可能だ。

全てが片付いたら安全な場所までこの子を運び出すつもりだ。

俺は元休憩室のカーテンを閉め、個室を確保した。

 俺は休憩室を出て再び外へ出ようとした時、AVコーナーの入り口近くの壁際にゴミのような塊があるのに気が付いた。

恐る恐る近づいてみると、床の上に転がっているのは変わり果てた小原の姿だった。

俺は急いでしゃがみこみ、小原の生死を確認した。

小原は生きていた。瀕死の状態だったがまだ微かに生きていた。

ガスによって意識は失っていたがまだ心臓は動き、呼吸もしている。

しかし、これは一刻を争う事態となった。

すぐにでも小原をここから連れ出し、病院へ運ばなければならない。

それは不可能に近いことだった。

まだ、鬼頭とその仲間たちは外で〝デザイア〟を捜している。

その包囲網を潜り抜け、病院に行くのは不可能だ。

俺は足元に横たわる虫の息の小原を見つめた。

やはり見殺しにはできない。

もうこれ以上俺の周りで人が死ぬのはごめんだ。

その時、俺はあるアイディアを思いついた。

俺は小原のズボンのポケットから携帯を取り出し、119番をプッシュした。

「ここに瀕死の状態のケガ人がいる。すぐ来てくれ。緊急事態だ。ここは三宿の交差点付近のレンタルビデオ店『ワールド』だ」

電話の向こうで女が何かを言っていたが、俺は無視して電話を切った。

続いて俺は小原の携帯で110番をプッシュした。

「大変だ。人が死んでる。ここは三宿の交差点付近のレンタルビデオ店『ワールド』だ」

そう言って俺は同じように電話を切った。

これは賭けだ。

救急車と警察が来るドサクサに紛れて鬼頭たちの包囲網を掻い潜る。

状況によって判断し、救急車に小原を任せるか、一緒に脱出するかはまだ決められないが、とにかくこの絶望的な状況をかき混ぜて切り抜けてみせる。

 警察と救急車が到着するまで早くても15分はかかる。

それまではここで身を休めよう。

俺がそう思った時、俺は後ろに気配を感じた。

まだ、この空間に誰かがいるのか?

俺がそう思って振り返ると、入り口のところにマルイケが立っていた。

「……こいつは驚きだ。あの子供を一緒に連れて行こうと思って戻ってみたら思わぬ獲物をみつけた」

そう言ってマルイケは入り口の扉を閉めた。

 マルイケは俺をジッと見つめている。

「おい、ここにいた小学生のガキはどうした?あいつは俺の獲物だ。誰にもわたさないぞ」

辺りを見回し、子供を探すその眼はイブとは違い薄汚いロリコンの汚らわしい欲望に溢れていた。

マルイケは元休憩室だったカーテンの奥へ視線を送り、近づいていった。

俺はマルイケの進行方向に立ちふさがり、奴の行く先を邪魔した。

「おい、邪魔するな。俺は子供にしか興味ないんだ。それが男だろうが女だろうが関係ない。汚れていない純粋な子供を犯すことが俺の生きがいなんだ。そこをどきやがれ」

「勘違いするな。別に子供なんてどうでもいい。ただお前の好きにはさせないということだ。俺はお前を殺したいと思ってるんだからな。なんだったら殺す前に犯してやろうか?」

マルイケの眼つきが変わった。

奴はここで俺を狩ろうとしている。

だが、のんびりしている時間はない。

さっきの電話がタイムリミットを作ってしまった。

のんびりとここでマルイケと戦っていれば、俺まで警察に捕まってしまう。

それにここで激しく争えば小原や小学生にまで危害が及ぶ恐れがある。

 俺が頭の中で考えをめぐらせている間にマルイケは猛突進して向かってきた。

俺は必死に身をかわしたが、予想以上に素早いマルイケに腕を掴まれてしまった。

「捕まえたぞ。俺は昔からすばしっこい子供を追いかけて捕まえてきたからな。お前を捕まえるなんて簡単だ」

俺はマルイケの言葉を無視して、マルイケの顔面を力いっぱい殴りつけた。

マルイケは吹っ飛びDVDが並んでいる棚に激突し、その衝撃で落ちてきた商品の下敷きになった。

たが、その一瞬の隙に奴は巧みな罠を仕掛けていた。

マルイケは俺の手首にヒモ状の拘束具をはめていたのだ。

俺は必死に拘束具を外そうとしたが、それは外れなかった。

「無駄だ。それはアメリカの警察が向こうの凶悪犯を逮捕する時に使う拘束具だ。手錠よりも簡単にはめられて、ナイフでも簡単には切れないぜ。俺はいつもそれを子供にはめて、自由を奪って遊んでいたんだ」

 マルイケはポケットからもう一つの拘束具を取り出した。

「さあ、今度は足だ」

あれを足にはめられたら完全にアウトだ。

俺は迫り来るマルイケから逃げ惑うだけで精一杯だった。

マルイケは狂ったように飛び掛ってきて、俺の足に拘束具をはめようとしている。

俺はマルイケの顔面を蹴り上げ、また距離を取った。

 それでもマルイケはゆっくりと起き上がり、首を振って意識を保つと、再び俺に襲い掛かろうと歩み寄ってきた。

このままじゃラチがあかない。

しかし、手首に拘束具をはめられた状態じゃ満足に攻撃することもできない。

早くしないと警察が突入してくる。

 俺の足に拘束具をかけることのできないと悟ったマルイケは作戦を変更したようだった。

マルイケは懐からナイフを抜き、俺に容赦なく襲い掛かってきた。

腕の自由を奪われた状態で、目の前から刃物を持った狂人が襲ってくるのは想像以上に怖いことだった。

マルイケのナイフが俺の肩や頬をかする度に、俺は自分の死を覚悟した。

俺はここで死ぬのか?

そんなことに気をとられていた時、俺は足を滑らせ、床に尻餅をついた。

絶好のチャンスとばかりにマルイケがナイフと拘束具を構えて飛び掛ってきた。

ヤバイ、やられる。

 しかし、マルイケはその場に立ち止まり、ふらふらと千鳥足で苦しみ始めた。

それはまるで酒に酔った酔っ払いのような状態だった。

マルイケはついにナイフとヒモ状の拘束具を手から離し、ガッツリと膝を床につけた。

その時、俺はハッとなった。

俺がはじめにエアコンに細工して仕掛けた睡眠ガスがそのまま出しっぱなしの状態になっていたのだ。

マルイケがやってきた時、扉を閉め密室にしたことでガスが充満し、マルイケは倒れたのだった。

俺はずっとガスマスクを着けた状態だった為、そのことをすっかりと忘れていた。

思わぬ儲けものだった。

 俺は転がっていたマルイケのナイフを拾い、倒れているマルイケを見つめた。

こいつはたぶん今までに何人もの子供たちを虐待し、犯して、猥褻行為を繰り返してきたに違いない。

ここで奴を殺しておいたほうが世の中の為なんじゃないか?

その時、俺は今目の前で倒れているマルイケと自分の姿を重ね合わせていた。

俺とこいつのどこに違いがある。

こいつは自分の欲望の為に他人を犠牲にして生きてきた男だ。

しかし、それは人間として当たり前のことだ。

こいつのやってきたことを認めるわけではないが、今ここでこいつを殺してもこいつは何の後悔もしないで勝ちのまま死ぬのだ。こいつには生きて自分のしてきた人生が本当に正しかったのかを問いただして苦しめたいと思った。

死ぬことは償いにはならない。

死よりも生きる方が遥かに過酷で辛いものだ。

俺はマルイケを殺すのをやめ、手首を締め付けている拘束具に切り込みを入れた。

しかし、マルイケが言っていた通り、拘束具はなかなか切れなかった。

さすがにアメリカの凶悪犯を拘束するだけのことはある。

俺が時間をかけて拘束具を切っていた時、外でパトカーのサイレンが聞こえてきた。

まずい、とにかくここから脱出だ。

俺は時間を稼ぐ為に扉に鍵を掛け、カーテンの中に元休憩室の奥にあるトイレへ向かった。

休憩室では小学生の男の子が俺が移動させた状態のまま眠っていた。

これで警察と救急車が来れば、小原と小学生は病院に運ばれるだろう。

ユカは……残念だが、今は放っておくしかない。

俺はもう一度床に倒れているマルイケの姿を見つめた。

マルイケには「ワールド」で起きた全ての罪を被ってもらおう。

 俺は手首を縛られたまま、トイレの天井の通気候から天井裏に出て、惨劇の現場から逃げ出した。

                                                 【続く】

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2007年2月14日 (水)

デザイアと呼ばれた男  VOL 21

 こんにちは。D・二プルです。

 今日はバレンタインデー、二プルの特性有害チョコを召し上がれ!

   【二プルのおススメ映画】

 「ショコラ」

 

 フランスの小さな村。レノ伯爵(アルフレッド・モリーナ)の猛威で因習に凝り固まったこの村に、ある日、不思議な女ヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)と娘アヌーク(ヴィクトワール・ティヴィソル)が越してきてチョコレート店を開く。次々と村の掟を吹き飛ばす二人の美しい新参者に、訝しげな視線を注ぐ人々。しかし、チョコレートのおいしさに魅了された村人たちは、心を開き、それまで秘めていた情熱を目覚めさせていく。そして、夫の暴力を恐れ店に逃げ込んだジョゼフィーヌ(レナ・オリン)がヴィアンヌ母娘の生活に加わってまもなく、河辺にジプシーの一団が停泊する。ヴィアンヌは、そのリーダーであるルー(ジョニー・デップ)という美しい男性に心を奪われ、彼を店に招き入れる。だがよそ者であるジプシーたちを快く思わない村人たちの、ヴィアンヌに対する風当たりは強くなった。やがて老女アルマンド(ジュディ・デンチ)の誕生日パーティー中、ルーの船は放火され、ジプシーの一行は村を出ていく。そして疲れて眠ったまま息を引き取ったアルマンドの葬式が続く中、ヴィアンヌは荷造りをして、次の土地に移るべく、嫌がる娘を引っ張って出ていこうとするのだった。

 不思議なチョコレートを売る母娘が因習に閉ざされた村を幸せに導くファンタジック・ロマン。監督は「サイダーハウス・ルール」のラッセ・ハルストレム。脚本は「ダイナソー」のロバート・ネルスン・ジェイコブズ。原作はジョアン・ハリス。撮影は「102」のロジャー・プラット。音楽は「バガー・ヴァンスの伝説」のレイチェル・ポートマン。出演は「サン・ピエールの生命」のジュリエット・ビノシュ、「スリーピー・ホロウ」のジョニー・デップ、「ムッソリーニとお茶を」のジュディ・デンチ、「ナインス・ゲート」のレナ・オリン、「マグノリア」のアルフレッド・モリーナ、「ミリオンダラー・ホテル」のピーター・ストーメア、「レッド プラネット」のキャリー=アン・モス、「タメージ」のレスリー・キャロン、「理想の結婚」のジョン・ウッド、「ホテル・スプレンディッド」のヒュー・オコナー、「年下のひと」のヴィクトワール・ティヴィソルほか。2000年サン・ディエゴ映画批評家協会最優秀脚色賞受賞。

 それでは引き続き「デザイアと呼ばれた男」をお楽しみ下さい。

第七章  獣たちの宴

          1

「ワールド」は異様な空気に包まれていた。

まだ23時前だというのに扉には鍵が掛かり、「CLOSE」のプレートがぶら下がっていた。

 さらに店内は異常な状態だった。

通常所狭しと並べられているDVDとビデオの棚が左右両端に押しやられ、カウンターの前には大きなスペースが空けられていた。

その中央には手足に手錠を掛けられ口から血を流した小原がうつ伏せに倒れていた。

小原の周りを囲むようにシロー、タツオ、タツヒコ、ジャック、イブ、エナリがカウンターの上や地べたに座って鬼頭の到着を待っていた。

「誰か〝デザイア〟にたどり着いた奴はいたのか?」

「まだ誰も決定的な情報は掴めてないようだな」

「どうせ、途中で飽きて自分の趣味に突っ走ってたんじゃないのか?」

「鬼頭はまだかよ。人を呼び出しといて待たせるなんて相変わらず勝手な奴だ」

「退屈しのぎにそこで縛られてる坊ちゃん刈りを拷問しようか?〝デザイア〟の情報を知ってるかもしれないぜ」

その一言で小原の表情は凍りついた。

「それならコイツの歯を一本ずつ抜いていこうか?きっとしゃべるぜ」

「待てよ。どうせなら、ここにかわいい小動物がいるぜ。こいつと遊ばせよう」

「蟲どもを飲ませるのもオツだぜ」

「誰かコイツをレイプしてみろ。なんなら俺がやってもいいけどな」

「さっさと消しちまえばいいんだ」

「待て、そいつがどれだけ痛みを与えられるか開放してみるってのはどうだ?」

それぞれが勝手に自分の趣味を口走っていたが、小原からすればとても生きた心地がしなかった。

 その時、ドアをノックする音がした。

「お、鬼頭が来たか」

エナリがドアを開けると大きなダンボールを抱えたマルイケが立っていた。

マルイケはダンボールを抱えたまま中に入ってきた。

その後ろからユカが恐る恐る入ってきた。

ユカは縛られ、傷ついている小原を見てその異常な状態に驚いた。

まさか小原にも自分と同じような非常事態が起こっているとは思いもよらなかったのだ。

「おお、女だ」

ジャックがユカに近づき触れようとした。

「待て、まだその女に手を出すな。そいつは〝デザイア〟の情報を知ってるようだ。こいつが言うには〝デザイア〟は女だそうだ」

「女?本当かよ」

「女なら楽しみが増えるってもんだな」

「まあ、それが本当だったらな。もし、嘘だったら殺せばいい。息子の目の前でな」

そう言ってマルイケはダンボールを開け、中から巨大な熊のぬいぐるみを取り出し、ジッパーを開き中から眠っているスグルを取り出した。

「こいつ、また子供までさらってきやがった。本当に好きだなお前も」

「うるせえ、女はくれてやる。ただし、こいつは俺の獲物だ」

そう言ってマルイケは眠っているスグルの頬をヨダレが滴る舌で嘗めた。

「ちょっと、スグルに手を出さないで」

ユカがスグルに近づこうとするのをジャックが止めた。

「お母さん、息子さんより自分の心配をしたほうがいいんじゃないかな。こいつは子供にしか興味がないからあんたに手を出さなかったけど、ここにいる奴らは女とみれば目の色変えて飛びつくような変態ばかりだ。これからどうなるか想像できるか?」

ジャックはユカの肩を抱きすくめながら、髪を指で掬い上げながら匂いを嗅いだ。

「ちょっと触らないで」

「気が強い女は大好きだぜ」

「私に手を出したら〝デザイア〟の情報は教えないわよ」

「なーに、それでも構わないさ。そのうち話したくても話せなくなるんだからな」

「……」

ジャックたちの異常な態度にユカは言葉を失いどうすることもできなかった。

 その時、ノックがして、鬼頭が店内に入ってきた。

「お前ら、鍵を掛けとけって言っておいただろうが。ん、何だその女と子供は?」

鬼頭はユカとスグルに視線を向けた。

「鬼頭、この女が言うのは〝デザイア〟は女らしいぜ」

「何?ふざけるんじゃねえ。奴は間違いなく男だ。奴は俺の女を犯してるんだ。それに俺は実際に〝デザイア〟をこの目で見てる。あれは間違いなく俺たちと同じ男だ」

「……このアマ、やっぱり嘘だったのか。てめえ、どうなるか分かってるんだろうな」

マルイケはスグルの髪を掴み、スグルを宙に持ち上げた。

「止めて、息子には手を出さないで」

次の瞬間、ジャックがユカの服を一気に毟り取り、その場に押し倒した。

その様子を見ていた小原は身動きが取れない状態でもがいていた。

そんな小原の顔面をイブが蹴り上げた。

小原の額はぱっくりと割れ、おびただしい流血が辺りを染めた。

小原は棚に背中をぶつけ、ぴくぴくと痙攣したまま動かなくなった。

 その間にジャックはユカの両腕を右手で押さえ、左手を嘗め、ヴァギナを濡らすとそのまま自分のペニスを挿入した。

ユカは泣き叫びながら抵抗したが、かえってジャックを欲情させた。

「もっと抵抗しろよ。それがレイプの醍醐味なんだからな」

その様子を他の者たちは薄ら笑いを浮かべながら見ていた。

「おい、犯り終わったら殺すなよ。次は俺と兄ちゃんにまわせよ」

タツヒコがそう言っている間に、シローが犯されているユカの歯をペンチで抜いていた。

「うひょー、たまんないぜ」

「おい、お前ら、後始末はしっかりしとけよ。それに肝心の〝デザイア〟の情報がまったく掴めてないじゃないか」

鬼頭は少しキレぎみで言った。

シローはユカの二本目の歯を抜いた。

ジャックは激しくピストン運動を続けている。

タツオとタツヒコが倒れている小原に近づいて何かをしようとしていた。

鬼頭が小原に近づいていく。

「おい、コイツは死んだのか?」

「いや、まだわずかに生きてるよ」

イブがあっさりと言った。

マルイケがスグルを裸にして下半身を弄っていた。

その地獄のような光景を見てユカはもう助からないと覚悟を決めた。

シローに歯を抜かれながら突然、ユカは狂ったように大声で笑い出した。

その意外なユカの笑いに一瞬、全員の視線が集まった。

「確かに私は嘘をついてたわ。私はずっとあの女を憎んでいただけなの。あの女に嫉妬していただけなの。いつかあの女をめちゃくちゃにしてやりたいと思ってた。あんた達が捜してる〝デザイア〟なんて本当は全然知らないけど、あの女に聞くといいわ。あの女はその〝デザイア〟に恋していた。それは間違いない。あの子をたどれば必ず〝デザイア〟にたどり着くはずだわ……」

 鬼頭は思わず、ユカに駆け寄った。

「誰だ?その女ってのは。名前を言え」

「……安久津マユミ。あの女、ひどい目にあえばいいのよ。あいつが好きな男のせいで私やスグルがこんな目にあってるんだもの。どうせなら死ぬ以上に悲惨な想いをすればいいのよ。あ~あ、どうせなら私の手でめちゃくちゃにしてやりたかった……」

「……ジャック、どけ!その女にまだ聞きたいことがある」

鬼頭がそう叫んだ次の瞬間、ユカは自分の舌を噛み切って自殺した。

ユカは噛み切った舌を喉の詰まらせ、窒息死して死んだ。

ジャックはユカから離れ、服を着始めた。

「あ~あ、死んじまった。これじゃもう、おもしろくない」

「ヒデがいれば喜んで犯しただろうがな。そう言えばヒデが来てないな」

「そう言えばジョーの奴も来てないぜ」

「……やはりあの女、〝デザイア〟と繋がってたか。はやりあの女は第一に押さえておくべきだった。おい、誰かこの中で安久津マユミと接触した者はいるか?正直に答えろ。まさかまだ殺していないだろうな」

鬼頭がそう叫んだ時、突然、店内の照明が落ちた。

「……何だ?どうなってんだ。停電か?」

皆が動揺する中、鬼頭はハッとなった。

「……全員すぐに表に出るんだ。これは奴の罠だ。恐らく室内を暗くしてガスを流すつもりだ。表に出ても油断するな奴は必ず近くに潜んでるぞ」

鬼頭の言葉を聞いてイブを先頭に全員が急いで外に飛び出した。

「俺が〝デザイア〟を殺す」

全員が心の中でそう叫んでいた。

          2

 國無がアジトとして使っている廃屋団地の前に一台のワンボックスカーが停まっていた。

ワンボックスカーの窓ガラスにはスモークが張られ、外から中の様子を見ることはできなかった。

とはいえ、夜の10時を回ればこの辺は人通りもなくなる為、中を覗かれる心配はまずなかった。

 ワンボックスカーの後部座席には意識を失ったマユミが横になっていた。

もちろんマユミは息をして生きている。

 國無がなぜマユミを助けたのか?

國無はなぜマユミの場所を把握していたのか?

國無の行動はその時の気分次第で衝動的なもののようにも思えた。

しかし、それは緻密に計算され、全て初めからシナリオに書かれていた行動だった。

 マユミをワンボックスカーに残し、國無はアジトの廃屋団地の中の一室にいた。

しかし、そこはいつも凛一郎と密談する部屋ではなく、その隣に位置する國無以外誰も入れない秘密の部屋の一つだった。

 國無はこの団地内にそれぞれの役割に担う部屋をいくつも確保していた。

凛一郎が知る部屋はその中でも一つだけだった。

 國無は大きなソファーに座り、ワインを飲みながら優雅に目の前の画面を見つめていた。

画面といっても國無の目の前にあるそのモニターの数は全部で30あった。

一番大きなプラズマテレビを使ったメインモニターを筆頭に、壁一面にモニターが並べられていた。

 そこに映し出されていた映像は映画でも今日のニュースでもスポーツ中継でもなく、今、現在の「ワールド」周辺の映像が流れていた。

そこには鬼頭も、鬼頭の仲間たちも、〝デザイア〟に変身した凛一郎の姿も映っていた。

とても信じられないことだったが、國無は自ら用意し取り付けた隠しカメラで「ワールド」周辺で起きている出来事の一部始終をこの部屋で観賞することを可能にしてしまったのだ。

もちろん、音声も傍受可能だった。

 國無はテーブルの上に置いてあるノートパソコンを開き、自分の書いた「バク計画 五味凛一郎のデザイア」というホルダーを開いた。

そこには今まで凛一郎が体験してきた出来事がそのままシナリオの形になって書き上げられていた。

問題なのはこのシナリオが現実に起きた出来事の後に書かれたものではなく、凛一郎が体験する前に書かれていたということだった。

 凛一郎の行動は全て國無が作り上げたシナリオ上に書かれたことだったのだ。

もちろん、そのシナリオの中には人の死も描かれていて、シナリオに書かれている通りに人が死んでいた。

これは恐ろしいことだった。

誰も知らないところで恐ろしい出来事が現実に起こっていた。

 しかし、國無にとってこれは初めてのことではなく、もうすでに何度も経験していることだった。

國無は何度もこの恐ろしい実験を繰り返し行ってきた。

 ノートパソコンの画面には「ワールド」周辺での〝デザイア〟と鬼頭の仲間たちとの死闘が描かれていた。

画面を見つめながら國無は独り言を呟いた。

「いよいよ、ここまで来たか。さあ、楽しませてもらうぜ。凛一郎にとってここは大きな山場だ。ここで鬼頭の仲間たちとぶつかることで凛一郎に欠けている要素を吸収することができれば奴は生き残れる。もし、それができなければ凛一郎は死ぬ。これは大きな賭けだが、ここで死ぬようなら所詮そこまでの男だったということだ。この先、俺の作り上げたシナリオを進むことはできない。しかし、もしもここで生き残れることができれば、凛一郎は本物の犯罪者へと成長する。それにはどうしても超えなければならない一線がある。ヒデとの戦いでそれが開花するかとも思ったが、奴はギリギリのところで留まり一線を越えなかった。だが、ここでそれを見出せなければこの先の修羅場を生き残ることはできない……」

 國無は再び30の画面を見つめ、リモコンで凛一郎が映っている画面に切り替えた。

完全装備で〝デザイア〟に変身した凛一郎は闇に潜み、鬼頭たちの動向を窺っていた。

鬼頭たちは一斉に「ワールド」から飛び出してきたが一箇所には固まらずバラバラに散り、〝デザイア〟を捜していた。

鬼頭の仲間たちにとって基本的にチームプレイという考えは頭になかった。

それぞれが自分のスタイルに自信を持っていて、集団行動を嫌い、欲望と本能のままに行動する獣たちだった。

標的である〝デザイア〟が近くにいると知り、未知の敵に対する好奇心を燃やし、それぞれが自分の手で最高の獲物を陵辱したいと思っていた。

だから、他の者と協力しようと考えるものは一人もいなかった。

それは鬼頭も人一倍理解していた。

がからこそ自分自身が一番に〝デザイア〟を見つけなければならないと思っていた。

 しかし、物陰から見つめる凛一郎の視界に先にはイブの姿があった。

凛一郎は第一のターゲットをイブに決めたようだった。

 「初めはイブか。ちょうどいい。あいつは凛一郎に一番欠けている冷酷さを一番持っている」

そう呟くと國無はノートパソコンの別のフォルダーを開いた。

そこには鬼頭の仲間たちの細かい情報が鮮明に書き込まれていた。

その中で國無自身が殺害したジョーと凛一郎に重傷を負わされ警察に逮捕されたヒデの二人のデータは黒く色を分けられ分別されていた。

 「イブ タカアキ 21歳……幼い頃から両親に虐待され続けて育つ。9歳の時、親を撲殺して自宅を放火。その後世間から姿をくらませる。表向きには行方不明のまま処理されているが、その後、イブは生き残る為に犯罪を繰り返す。しかし、前科は一度もなし。殺害人数は調べがついているだけでも128人。恐らくはそれ以上。イブの場合は特殊な性癖は無く、ただ自分に邪魔な存在の人間はためらいも無く殺す。しかも殺す時に何の感情ももたず、ただ虫を殺すのと同じ感覚で人を殺す。メンバーの中でも一番〝デザイア〟に関心を持っていない。ただ、暇つぶしに珍しい害虫を殺してみようかぐらいの想い……」

 國無はファイルを消し、元のシナリオの画面に戻した。

「ワールド周辺バトルロワイヤル」一回戦は〝レイパー デザイア〟対〝無感傷殺人鬼 イブ〟だ。

                                                     【続く】

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2007年2月 5日 (月)

デザイアと呼ばれた男     VOL 20

 こんにちは。D・二プルです。

 皆さん、暖冬の日々をどうお過ごしですか?

 【二プルおススメ映画】

  「悪魔を憐れむ歌

  殺人課の刑事ジョン・ホブズ(デンゼル・ワシントン)が逮捕した残虐な連続殺人犯が死刑に処せられた。その直前、彼はジョンに奇妙な言葉を残していた。「また会おうぜ。俺は、お前の元に戻ってくる」。立ち会ったホブズの前で、男は確かに絶命したはずだった。“Time is on my side・・・”と歌いながら。
 しかし、その直後から処刑された殺人犯と同じ手口と連続殺人事件が起きる・・・・。

  ローリング・ストーンズの名曲『Time is on my side』が印象的な作品。見終わってもまだ耳に残っていて、まさに”悪魔”に魅入られたように、しばらくこの曲を口ずさみながら歩く日が続いた。
 主演は実力派俳優、デンゼル・ワシントン。殺人課の刑事ジョンに扮し、犯行現場に遺された謎の言葉と、暗号めいた数字を手がかりに捜査を進める。人間から人間へと渡り歩く“悪魔”には通常の人間では到底歯が立たず、「オーメン」を見て感じたような絶望的な気持ちに陥る。その”悪魔”に対し、ジョンは秘策をもって最後の闘いを挑むが、それ以上に悪魔は巧妙だった。意外なラストは見モノ。
 最近、”悪魔”に取り憑かれたような犯罪が多発している。動機不明の殺人事件も起こってきている。普通の人間が残虐な手口で殺人を犯したというニュースに接すると、人に取り憑く”悪魔”の存在を信じたくなってくる。全編にわたり、得体の知れない”悪魔”の不気味さと怖さを感じさせてくれる作品である。

監督:グレゴリー・ホブリット
製作:チャールズ・ローベン/ドーン・スティール

出演:
デンゼル・ワシントン
ジョン・グッドマン
ドナルド・サザーランド

 それでは引き続き「デザイアと呼ばれた男」をお楽しみ下さい!

11

 自転車でマユミの家に向かう俺の携帯が突然鳴り響いた。

液晶画面を見ると電話の相手は國無だった。

「もしもし……」

「凛一郎、今どこにいる?」

「……いま、ちょっと外に出てるんだけど……」

「大変だ。マユミが鬼頭の仲間にさらわれたぞ」

「……さらわれた?あんたそれを黙って見てたのか?何で助けなかったんだ」

「オレの所にも鬼頭の仲間が襲ってきたんだ。それを撃退するのに時間がかかってマユミを助けられなかった。すまん。とにかく、お前は今すぐ『ワールド』に行け。奴ら、『ワールド』で〝デザイア〟を待ち伏せするつもりだ。いいか、一度家に戻り、完全に装備を整えて〝デザイア〟として行くんだ。奴らは本気でお前を殺そうとしている。それにマユミや他の奴らに正体がばれないように気をつけるんだ。オレもなるべく早く着くようにするからな」

そう言って國無は一方的に電話を切った。

 マユミが鬼頭の仲間にさらわれたって?

やはり予感が的中した。

マユミをさらった奴がどんな奴か知らないが、ヒデを見た限り危ない奴である可能性が高い。

 俺は慌てて自転車をUターンさせ、「ワールド」に引き返した。

 ユカは自宅のアパートで食事の後片付けをしていた。

ユカの息子スグルはリビングで大好きなテレビゲームをしていた。

 ユカは昼間「ワールド」で働き、帰ってきてから家事とスグルの世話を全て一人でこなしていた。

スグルは今年で10歳になり、だいぶ手が掛からなくなってきたとはいえ、まだまだ母親を必要とする年頃だった。

ユカはスグルにシングルマザーであることを感じさせないように精一杯愛情を注いでいた。

ユカにとってスグルはかけがえの無い最愛の宝だった。

 そんなユカでも女手一つでスグルを育てながら生活を支えていくのはとても大変だった。

それは並大抵の努力ではなかった。

ストレスも人並み以上に溜まった。

それでもユカは誰の力も借りずに生きていた。

 そんなユカにとって自由奔放に生きるマユミは気に入らない存在だった。

同い年にもかかわらず好きなミュージシャンの追っかけをして、すき放題酒を飲み、男と乱闘騒ぎを起こすような女を許すことができなかった。

そのくせ、妙に男を引き付けるところがあり、マユミの顔を見るとユカはイライラした。

「ワールド」でマユミと一緒のシフトに入っている時、ユカは絶対に顔には出さなかったが、心の中ではハラワタが煮えくり返るほど、マユミに苛立ちを感じていた。

それでも「ワールド」内での仕事は互角で、いくらプライベートが乱れているとはいえ、ユカにはマユミを批判することはできなかった。

ユカは心の奥底でいつかマユミをめちゃくちゃにしたいと思っていた。

 もちろんユカはマユミの過去を知らなかった。

マユミの恋人が殺されたことや、レイプされたことなどユカは知る由もなかった。

もし、ユカがマユミの過去を知っていれば事態は変わっていたかもしれなかった。

 

 ピンポーン。

突然、アパートのインターホンが鳴った。

「ママー、誰か来たよー」

スグルはTV画面から視線をそらさずに叫んだ。

こんな時間に訪れる来客は珍しかった。

ユカは洗い物をしていた手を止め、玄関に小走りで近づいて行った。

「はーい、どちら様ですか」

「お届け物です」

ユカが覗き穴から見ると、ドアの前に大きなダンボールを抱えた男が立っていた。

ダンボールで顔は見えなかったが、持っていた荷物のせいもあってユカはドアの鍵を開けた。
するとダンボールを持った男はつかつかと玄関から室内に上がりこんできた。

「……ちょっとあなた、何なんですか?」

ユカはそう言って男の後を追いかけて部屋の奥へ進んで行った。

男は確かに宅急便の配達員の格好をしていたが、その行動は明らかに異常だった。

男はスグルの前にダンボールを置くと「あけてごらん」と甘い声で囁き、再び玄関のほうへ早足で歩いていった。

男はユカを通り越し、玄関の鍵を掛けると、再びリビングに戻ってきた。

男の顔は笑っていたが、ユカをリビングに手で押しやり、逃げ道を塞いだ。

突然の異常な事態にユカはどうすることもできなかった。

スグルはわけも分からずうれしそうにダンボールの包み紙を開けている。

 そんなスグルの姿を男はジッと見つめていた。

ユカはその男の視線を見逃さなかった。

スグルを見つめる男の眼は明らかに異常だった。

ユカはその恐怖で声を出すことも動くこともできなかった。

スグルがダンボールを開けると中からは巨大な熊のぬいぐるみが出てきた。

「うわー、すごい、すごい」

スグルはユカの気持ちなど知らずに目の前のプレゼントにはしゃいでいる。

男はそんなスグルの頭をニタニタしながら撫でた。

「ねえ、おじさん誰なの?何でこんなプレゼントくれるの?」

「僕はマルイケ。夢の国から君を迎えに来たんだよ。さあ、一緒に遊ぼうよ」

そう言ってマルイケはスグルに棒つきのキャンディーを差し出した。

「わぁ、ありがと」

スグルはマルイケからキャンディーを受け取り、すぐに包み紙を剥がし、口の中に入れた。

キャンディーでスグルの口を塞いだマルイケは初めてユカに視線を向けた。

「お母さん、あなたに聞きたいことがあるんだ。正直に答えてね。〝デザイア〟がどこにいるか知ってる?」

「……〝デザイア〟?何それ?」

「僕は今〝デザイア〟って男を捜してるんだ。あなたはその男を知ってるんじゃないかな?知ってたら教えて欲しいんだ。〝デザイア〟はどこにいる?」

「……知らないわ」

「あっそう。やっぱりそうか……」

マルイケはユカの答えにまるで興味がなさそうに呟いた。

「初めからあんたが知ってる可能性は低かったんだよね。別にあんたが嘘つく理由も無いしね。まあ、あんたを選んだのは別の理由だったんだけど……」

そう言いながらマルイケはスグルに視線を送った。

マルイケの視線に釣られユカもスグルに視線を向けた。

すると今までキャンディーを嘗めていたはずのスグルはいつの間にか意識を失い床に倒れていた。

「スグル……」

「大丈夫、眠ってるだけだよ」

マルイケは初めから分かっていたように落ち着いた態度で言うと、巨大な熊のぬいぐるみのジッパーを開け、中から綿を抜き始めた。

マルイケは慣れた手つきで全ての綿を抜き取ると、その場に倒れているスグルを抱きかかえ、ぬいぐるみの中に詰め込んだ。

「……ちょっと何するの!」

マルイケの異常な行動にユカは殺到する。

「どうやら、あんたも〝デザイア〟の情報を知らないようだし、僕は自分の趣味を楽しませてもらうわ」

そう言ってマルイケはスグルの入った熊のぬいぐるみを今度はダンボールにしまいこんだ。

「ちょっと、息子を返して」

必死にダンボールにしがみつこうとするユカをマルイケは裏拳で殴り倒した。

「邪魔するな。僕は女には興味ないんだ。僕が愛するのは子供たちだけさ」

マルイケはそう言って淡々と作業を続けた。

 マルイケは児童性愛の性癖を持っていた。

これまで何人もの幼い子供たちを欲望のままに弄び、なぶり殺しにしてきた。

〝ネバーランド〟と名づけた自宅に何人もの小学生を監禁していた。

マルイケにとっては3歳から12歳までの子供だけが性の対象だった。

それでもユカはスグルを取り返そうとマルイケに立ちはだかった。

マルイケは面倒くさそうにユカを殴り付け、倒れたユカの顔を踏みつけた。

「あんまり邪魔してると殺すよ。この子は僕が貰うって決めたんだから」

その一言でそれまでユカを支配していた恐怖はどこかに消え去った。

そして、ユカの脳裏に一つの考えが浮かんだ。

ユカは口から血を流しながらゆっくりと立ち上がった。

「せっかちね。それにあなた全然分かってないわ。あんたが捜してるって〝デザイア〟は女よ」

「……何だって」

マルイケは初めて手を止めユカに興味を持った。

「私は〝デザイア〟の正体を知ってるわ。でも、その子に手を出したら私は殺されたって〝デザイア〟のことを話さないわ。その代わり、その子を見逃してくれたら私が知ってる〝デザイア〟の情報を全部教えてあげるわ」

「……」

 もちろんユカが言っていることは真っ赤な嘘だった。

ユカが〝デザイア〟の情報など知るはずも無かった。

それでも息子を想う母親の気持ちと日ごろ胸の奥に秘めたユカの欲望が一つとなり、その言葉にリアリティーを持たせマルイケを信じさせた。

「それは本当だろうな。口先だけの嘘だったらお前の目の前で子供を殺すぞ」

「いいわ。〝デザイア〟の正体は私と同じバイト先で働く女よ。今から一緒にその女の元へ行きましょ」

 ユカは本能でしゃべっていた。

ユカが言っている女とはマユミのことだった。

ユカはスグルを助ける為にマユミを犠牲にしようと心に決めた。

とにかくスグルをマルイケから引き離したかった。

スグルを家に残し、マルイケと共にマユミの所へ向かい、無理やりマユミを〝デザイア〟に仕立て上げようとしていた。

そこでマユミが否定しても必ずチャンスが生まれるとユカは考えていた。

この場で何もしなければ事態は最悪のままだった。一瞬でもマルイケからスグルを離せばその間にスグルの安全を確保できると確信していた。

「ただ、その女の住所を確認する為に一回バイト先のビデオ屋に寄って。それで〝デザイア〟の元へ案内してあげる。ただしスグルはここに置いていくわ。それでいい?」

「駄目だ。こいつも一緒に連れて行く。お前が嘘をついていたらその場でコイツを殺す」

そう言ってマルイケはスグルが入ったダンボールを抱え上げ、玄関に向かった。

ユカもマルイケに着いていった。

今はマルイケに従うしかなかった。

外に出ればチャンスは生まれる。

ユカは一筋の光に希望を賭け、マルイケの車に乗り込んだ。

12

                                     

 246沿いの歩道をスーツ姿のミシマは早足で歩いていた。

打ち合わせが長引いてすっかり遅くなってしまった。

 ミシマにとって「ワールド」のバイトは特別なものだった。

小原が店長になるずっと前、ミシマは親友の頼みで「ワールド」のバイトを始めた。

その親友は「ワールド」の創立者で一緒に理想のレンタルビデオ店を作ろうと誓った男だった。

しかし、その親友は交通事故で死んでしまった。

その親友の意思を継ぎ、今でも「ワールド」でのバイトを続けていた。

 元々ミシマはエリートプログラマーで今では自分の会社を経営していた。

ミシマは経済的にもバイトをする必要はなかったが、それでも「ワールド」を辞めようとは思わなかった。

ミシマにとって「ワールド」は親友が残した形見のような存在だったからだ。

 早足で歩きながらミシマは腕時計を見つめた。

すでに一時間ぐらい遅刻している。

小原には電話も入れ、事情を説明したがはやり申し訳ないと思っていた。

そうだ、今日は半額キャンペーンの日だ。

突然思い出したミシマは自動販売機の前で立ち止まった。

小原に缶コーヒーでも買っていってやるか。

 その時、ミシマは背後に気配を感じた。

ミシマが振り返るとそこにはスーツ姿のひょろっとした男が立っていた。

色黒でロングヘアーの髪を後ろで留めて体格のいいミシマに比べると、その男は善良なサラリーマンという印象だった。

「あの、突然すみません。私エナリと申しますが『ワールド』のミシマさんですよね」

「……ええ、そうですが、何か?」

ミシマはこのエナリという男にまったく見覚えがなかった。

しかし、向こうは自分のことを知っているように話しかけてくる。

「ワールド」の客かと思ったが、それにしてもこの男にはどこか得体の知れない不気味さが漂っていた。

思い過ごしかもしれないが、突然夜道で知らない人間に声を掛けられるのはあまり気持ちのいいものではなかった。

「ちょっとあなたにお聞きしたいことがあるんですが〝デザイア〟という者をご存知ですか?」

「……でざいあ?何ですかそれは?ちょっと心当たりありませんが」

するとエナリは思い出したようにポケットからチラシのようなものを取り出した。

それは以前「ワールド」に置いてあった見覚えのあるものだった。

「私達は今この男を捜しているんですよ。ミシマさん、ご存知ありませんか?」

「いや、わかりませんね。あの、私ちょっと急ぎますので……」

ミシマが立ち去ろうとすると、エナリは突然、ミシマのスーツの袖を掴み、動きを止めた。

「急ぐ必要はありませんよ。今日はもう『ワールド』は営業していませんから。バイトの必要はありませんよ」

「何だって。どういうことだ?」

「グダグダ言ってないでさっさと質問に答えろ。〝デザイア〟の知ってる情報を全部吐くんだ」

 エナリは突然、口調と表情を一変させ、ミシマに迫ってきた。

その瞬間、ミシマはエナリの顔面を殴りつけた。

 学生時代からミシマは喧嘩に明け暮れ、数え切れないほどの修羅場を潜り抜けてきた。

そんなミシマの本能がエナリの変貌ぶりに危機を感じ、手を出させたのだった。

基本的に喧嘩は先手必勝だ。

初めに一発いいのを決めてしまえば漫画や映画のように反撃してくることはまずありあない。

相手の戦意を喪失させてしまえば勝ちなのだ。

 ミシマは長年のやんちゃをしてきた勘でエナリに強烈な一発をおみまいした。

 エナリは左手でミシマに殴られて出た鼻血を押さえていたが、右手はミシマのスーツの袖を掴んだままだった。

「おい、いい加減手を離せよ」

「お前の力で離させてみろよ。あんなへなちょこパンチじゃお話にならないがな。このロンゲ野郎」

エナリのあざけるような挑発にミシマはキレた。

 ミシマはエナリの胸倉を掴み、細い路地裏に押し込んだ。

そこで民家の塀にエナリを叩きつけ、何発も殴り続けた。

パンチの合間に肘鉄や膝蹴りも喰らわせた。

「どうだ、この野郎。調子に乗ってんじゃねーぞ」

ミシマは息を切らせながら怒鳴り散らした。

 それでもエナリは右手を袖から離していなかった。

そればかりかエナリは不適な笑みを浮かべ、半分目蓋が塞がった眼でミシマを見つめながら言った。

「き、気持ちいい。あんたいいよ。最近じゃ、他人に暴力も与えられない軟弱な奴が増えて困ってたんだ。なかなか俺に痛みを与えられる奴が少なくてさ。さあ、もっと殴れよ。骨を折ったていい。殺す気でかかって来いよ。そんなんじゃ俺はまだまだイカないぜ」

ミシマがふと見るとエナリの股間は膨らみ、明らかに勃起しているのが分かった。

「……この変態野郎が」

ミシマはエナリの股間を思いっきり蹴り上げた。

エナリは一瞬飛び上がるほど悶絶したが、それでも身体をねじりながら悶え、手は離さなかった。

「……こいつ、狂ってやがる」

ミシマがそう呟いた時、エナリが口から血を流しながら言った。

「それが、お前の限界か?ゲームも終了だな」

 エナリは突然、左手でスーツのポケットからナイフを取り出すと、ミシマの太ももに突き刺した。

ミシマの太ももからは血があふれ出し、ミシマはガックリと地面に膝を着いた。

「どうだ、刺された気分は?攻めるばかりじゃ疲れるだろう。攻守交代だ」

「……てめえ、何が目的か知らないが、人を刺してただで済むと思うなよ」

「そんなことどうでもいいよ。俺は痛みを与えられることにしか興味ないんだよ。与える方はあまり得意じゃないしな。お前が俺を殴りだした時はお前が〝デザイア〟かとも思ったがどうやら違うみたいだな。これでお前に用はなくなったわけだ」

そう言うとエナリは、それまでずっと離さなかった右手を袖から離し、ポケットから特殊な器具を取り出すと、一番近くにあったマンホールにその器具を差し込み、蓋を外した。

「これでも俺は社会的な立場もあるからな。お前の死体がすぐ出てくるとまずいんだよ」

エナリは独り言のように呟くと再びミシマに近づいて行った。

ミシマは近づいてくるエナリに恐怖を感じた。

エナリはミシマの前で立ち止まると冷たい視線で見下ろしながら言った。

「悲しむ必要はないぞ。たぶん他の『ワールド』の連中もあっちにいるから。ま、仲良くやってくれ。じゃあ、バイバイ」

 エナリは笑顔でミシマの心臓をナイフで一突きにした。

そして、すばやくナイフを抜き取り、ミシマの喉元を掻っ切った。

大量の血がその場に飛び散り、エナリも返り血を浴びた。

エナリは血だらけのミシマを担ぎ上げると口の開いたマンホールからミシマを投げ込んだ。

ボッチャーンという下水に落ちる音を聞き、エナリは器具を使い、マンホールの蓋を閉めた。

 その時、ポツポツと雨が降り出してきた。

その雨はエナリの体についた返り血を洗い流してくれるようだった。

エナリは両手を広げ、雨をシャワーのように全身で浴びた。

 その時、エナリの携帯が鳴った。

電話は鬼頭からだった。

「もしもし」

「エナリ、すぐ『ワールド』に来てくれ。匿名の情報が入った。〝デザイア〟本人が現れるそうだ。だが、罠かもしれん。全員で迎え撃ちたいがなかなか全員と繋がらなくてな。とにかく急いで来てくれ」

そう言って鬼頭は電話を切った。

エナリは傘もささず、ずぶ濡れのまま「ワールド」に向かって歩き出した。

エナリの体に飛び散ったミシマの返り血が少しずつ雨で洗い流されていった。

                                                               【続く】

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2007年1月31日 (水)

デザイアと呼ばれた男     VOL 19

          9

 俺は世田谷公園内の坂道を自転車で登っていた。

後ろを振り返るとヒデの姿はない。

そこには闇が広がっているだけだった。

どうやら撒いたようだ。

しかし、油断はできない。

 ヒデは鬼頭の仲間だということが明らかになった。

恐らく鬼頭が〝デザイア〟を捜し出す為に差し向けた刺客だろう。

ヒデが俺のことを〝デザイア〟とめぼしをつけたのは、「ワールド」から出てくる俺を見て勝手に思い込んだに過ぎない。

恐らく鬼頭は〝デザイア〟を捜す手がかりとして「ワールド」の従業員の情報を仲間たちに流したに違いない。

ということは、マユミや他のみんなにも鬼頭の仲間の魔の手が伸びるかもしれないということを予感させた。

 俺は行方不明になっていたアカイやバイト時間を過ぎても出勤してこないノジリのことを思い出した。

もしかしたらあいつらの元にも鬼頭の仲間がやってきたかもしれない。

俺はマユミの安否が気になり、携帯を取り出し、マユミに電話を掛けた。

俺は自転車にまたがったまま耳元の呼び出し音を聞いていた。

「はい、もしもし……」

俺はマユミのいつも通りの声を聞いて安心した。

「あ、いや、何か急に声が聞きたくなっちゃってさ……」

「……変なの」

その時、携帯を持っていた右手がフッと軽くなった。

俺の視線の先には携帯を奪い取ったヒデが不適な笑みを浮かべながら立っていた。

「このやろう。返しやがれ」

俺の言葉を聞くとヒデは条件反射のように携帯の電源を切った。

「これを返してほしかったら着いて来い」

そう言うとヒデは携帯を持ったまま丘へ続く階段を駆け上がって行った。

俺はすぐにヒデの後を追わず、冷静に考えてみた。

このまま携帯を捨てて逃げてしまおうか?

ヒデは鬼頭の仲間だし、かかわらない方が身のためだ。

だめだ。

あの携帯の中にはマユミや國無からのメールが残っている。

ヒデはあの通りバカだが、鬼頭にあれが渡れば〝デザイア〟の正体がばれる恐れがある。

仕方ない、行くか。

俺は自転車を停め、夜の丘へ続く階段を上って行った。

 丘の上に着くとそこにヒデの姿は無かった。

小さな外灯の明かりが点いていたがそれ以外は闇に包まれていた。

丘の頂上は見晴台になっていて、周りは植え込みで囲まれている。

 俺は警戒しながら、ゆっくりと歩いていた。

丘の裏側にも階段があり、反対からも降りられるようになっている。

ヒデはここから下に降りたのだろうか?

反対側の階段以外にも植え込みの中に入れば下に降りることも身を隠すこともできる。

ヒデは確実に俺の様子を伺いながら攻撃のチャンスを狙っているに違いない。

俺は耳を研ぎ澄ませ集中した。

闇の中を風に揺れた木々の音や虫や小動物の鳴き声が聞こえてくる。

俺はこんな時に暗視ゴーグルがあればどんなに楽かと思った。

〝デザイア〟に変身することは姿を変えるだけではなく、確実に戦闘能力を上げることを意味していた。

その変身用具を俺はまったく持っていなかった。

もちろん普段から〝デザイア変身セット〟を持ち歩いてはいなかった。

うかつに持ち歩けばそれだけ正体がばれる恐れがある。

「ワールド」に行く時はなおさら気をつけなければならなかった。

 それでも、今は國無が与えてくれたあの道具がどれほど頼りになるか身をもって分かった。

今、この場で頼れるのは自分の力だけだ。

あらゆる状況を考えろ。

自分の選択一つで運命が決まる。

これは紛れも無く命を賭けた真剣勝負だった。

 その時、ガサッという音がして植え込みの中から何かが飛んできた。

俺は音がした方を見たがヒデの姿はなかった。

 俺は足元に転がっている今飛んできた物体に顔を近づけて見てみた。

「うわぁぁぁ」

俺は思わず叫び、後ずさりしてしまった。

俺の足元に転がっていたのは血まみれになった猫の死骸だった。

俺に恐怖を与える為にヒデが野良猫を殺し、投げつけたのだ。

間髪入れずに今度は木の上から鳩の死骸が降ってきた。

俺がギョッとなって身をかわした瞬間、どこからともなくヒデが猛スピードで突進してきて、俺の腹を殴りつけ、再び闇の中に消えていった。

その動きはすでに人間の速さではなかった。

まるで野生動物を相手にしているような感じだった。

「どうだ。すごいだろう。俺は子供の頃からここで遊びまわっていたからお前が適うはずないんだ」

どこからともなくヒデの声が鳴り響いたかと思うと、再びヒデは姿を現し、俺に攻撃してきた。

攻撃しては身を潜め、言葉や動物の死骸で威嚇してはまた攻撃して姿を消す。

俺はヒデのペースにはまり、好きなように弄ばれるように徐々に命をそぎ落とされていた。

「おい、何で俺を攻撃するんだ。俺は鬼頭の友達だって言っただろう。俺とお前は仲間じゃないか」

俺は何とか形勢を逆転しようとハッタリをかました。

「黙れ。俺はお前が嫌いだ。鬼頭の友達だろうが俺の友達じゃない。だから関係ないんだ。お前を殺して〝デザイア〟としてみんなに俺のすごさを証明するんだ」

ヒデは完全に狂っている。

 またしてもヒデが猛スピードで攻撃してきたが、今度はさっきまでとは違っていた。

ヒデはナイフを持って俺に切りかかってきたのだ。

ナイフは俺の左肩の下を切り裂いた。

ヒデはそれでも堂々と姿を見せることはなく、闇の中に身を潜め、肉食動物が獲物を狙うようにジリジリと詰め寄ってくるスタイルを崩さなかった。

悲鳴のような動物の鳴き声がしたと思うと今度はカラスの死骸が俺の足元に投げつけられてきた。

「どうだ、怖いか?俺は死体を見るとムラムラするんだ。生き物が死ぬ瞬間に最高の快感が得られるんだ。死体にザーメンをかけるのが最高さ。だけど今は我慢してるんだ。お前の死体にたっぷりかけてやる為にさ」

俺はヒデの言葉に恐怖を感じた。

ヒデの言葉がたんなるハッタリや脅し文句でないことが分かったからだ。

恐らくヒデはこれまでに殺人を犯したことがあるだろう。

それはまだ俺が体験したことのない未知のゾーンだった。

人を殺した経験を持つ人間は一般の人間とは別種類だと思う。

その一線を越えてしまったら人間ではなくなってしまうような気がした。

俺がヒデに感じたこれまで出会った敵とまったく違った違和感を持ったのは恐らくそのせいだろう。

ヒデは俺とは別次元の生き物だ。

そんな奴を相手にできるはずがない。

そんなことを考えている間にもヒデは俺のわき腹と太ももを切り裂いていった。

 俺はここで死ぬのか?

……嫌だ。

俺はまだ何も手に入れてない。

マユミと付き合いだしたといっても、まだ何も手にしていない。

まだまだ満足していない。

俺はレイプ以外のセックスでイッたことがない。

そんな状態で死ぬことができるか。

俺にはまだまだ遣り残したことがたくさんある。

それを手に入れるまでは死ぬわけにはいかない。

例え相手が殺人鬼であったとしても関係ない。

あいつは死体を見て絶頂すると言うが俺は絶頂することができない。

その怒りが俺に生きる希望をみなぎらせた。

 俺は國無由自の言葉を思い出した。

「命を賭けたギリギリの駆け引きの中で勝利するのは欲望の大きさで決まる。より多くの絶望を知り、尚且つ巨大な欲望を見出せる者が勝つ」

俺はまだイッてない。

こんなところで死ぬわけにはいかない。

 その時、奇跡が起こった。

闇の中で突然「ラストスマイル」のメロディーが聞こえてきたのだ。

それは俺の携帯の着メロだった。

ヒデは俺の携帯を奪い取った。

それは俺をおびき寄せる為にとった行動だったが、それが逆にアダとなったのだ。

しかも「ラストスマイル」はマユミからの着信にだけ鳴るようにセットされていた。

マユミが俺にチャンスをくれたのだ。

俺は「ラストスマイル」の鳴る方に猛スピードで突進して行った。

ヒデは突然の着信に驚き、音の消し方が分からなかったようであたふたと戸惑っていた。

そして、ヒデが突進してきた俺に気づいた時は既に遅かった。

俺は茂みの中に身を隠すヒデに飛び蹴りを喰らわせると、今までの借りを返すよう一気に殴り続けた。

ヒデは茂みの中にナイフを落とし、それに気をとられまったく反撃出来なかった。

ヒデは俺に顎を蹴られ、意識を失った。

極限状態を超えた俺はそれでも攻撃を止めなかった。

倒れているヒデの顔面を何度も足でおもいっきり踏みつけ、服を毟り取り裸にすると、ヒデのアナルに自分のペニスを突っ込んだ。

俺の中で、何かが切れていた。

未だにセックスでイッたことのない怒りを俺は全てヒデにぶちまけた。

俺は激しく腰を動かし、突いて突いて突きまくった。

ヒデは白目をむき、口から泡を吐いていた。

俺はイク寸前にペニスを抜き、ヒデの顔面にザーメンをたっぷりとかけてやった。

「どうだ、俺の勝ちだ」

そう言うと俺はヒデの横に落ちていた携帯を拾い上げた。

携帯は泥で汚れていたが壊れていなかった。

液晶画面には「不在着信 マユミ」の文字が映し出されていた。

俺はマユミに心から感謝し、丘の上のベンチに腰を下ろし電話を掛けた。

10

 俺の耳元で携帯の呼び出し音が鳴り続けていた。

しかし、いつまで経ってもマユミは電話を取らなかった。

たった数分前に掛けてくれたのにどうしたんだ?

これがただのすれ違いなのか、それともマユミの身に何かあったのか?

俺はマユミに「今、どこにいる?」というメールを出した後、もう一度電話を掛けたが、やはり繋がることはなかった。

 俺はマユミのことが心配で堪らなかった。

今日は何かがおかしい。

いつもと違う違和感が支配している。

 ヒデのように鬼頭の仲間が何人いるのか知らないが、マユミにも被害が及ぶ可能性がある。

 携帯の液晶画面は21時36分を刻んでいる。

今の時間なら家にいる可能性が高いかもしれない。

 俺はマユミの家に向かおうとして、倒れているヒデに目を向けた。

ヒデから情報を聞き出そうとも考えたが、ヒデの性格上、聞き出すのに時間がかかりそうだし、素直に話すとは思えない。

それならこれ以上、鬼頭の仲間を野放しにしておく理由はなかった。

予想される危険は早いうちに根絶やしにしておいたほうがいい。

俺は110番をプッシュした。

「もしもし、世田谷公園の丘の上で下半身をまるだしにした変質者が動物を殺して暴れています。すぐ来てください」

そう言って俺は携帯を切った。

これでヒデはブタ箱行きだ。

俺は一気に石段を駆け下り、自転車にまたがるとマユミの家に向かった。

 その頃、マユミは行きつけのバーで一人で飲んでいた。

マユミの前には飲みかけのテキーラのグラスがあった。

マユミは一気に残っていたテキーラを飲み干すと、バーテンに同じものを注文した。

バーテンはすぐに新しいテキーラをマユミの前に差し出した。

これで今日3倍目のテキーラだった。

 マユミは最近ずっと凛一郎との関係について悩んでいた。

凛一郎と付き合い始めてマユミの気持ちは徐々に大きくなっていった。

しかし、それに伴い凛一郎が自分とのセックスで絶頂しないことにマユミは不安を感じていた。

凛一郎が絶頂しないのは自分に魅力が無いからだとマユミは思っていた。

そうでなければ二人の〝性の不一致〟はこれから将来を築いていく関係を作るうえで致命的な問題だと思っていた。

何とか二人でこの問題を解決したいと思っていたが、どうすればいいのか分からなかった。

 マユミは数分前に掛けた電話に凛一郎が出なかったことに苛立ちを感じていた。

それ以来、マユミは自分の携帯をマナーモードにして鞄の奥に突っ込んでいた為、凛一郎からの着信にも気づかなかった。

マユミはこのまま凛一郎との関係がうやむやになり、気持ちが離れてしまうことを恐れていた。

そして、心の片隅にはいまだに謎の男〝デザイア〟への想いも消えていなかった。

そして、死んだ元彼 マサキのこともいまだに忘れることはできなかった。

身近にいてやさしくしてくれる凛一郎のことは確かに好きだったが、〝デザイア〟やマサキに感じたドキドキ感が凛一郎には欠けているように思えた。

あの胸の高鳴りをマユミは凛一郎に求めていた。

 それと同時にマユミはとても不安だった。

父が突然自殺し、心が不安定だった。

そんな気持ちを誰かに包み込んでもらいたかった。

それを望むには、凛一郎は精神的にあまりにも幼すぎた。

マユミは無意識のうちにもっと年上の大人の男を必要としていた。

 マユミがふと気が付くと、カウンターの隣の席にスーツ姿の中年の男が座っていた。

中年の男は一人で独特の渋みをかもし出しながら、グラスの中のウイスキーを飲み、タバコを吹かしていた。

「……カッコいい」

マユミは無意識に呟いていた。

「飲みすぎだよお嬢さん。何杯目だい?」

中年の男は冗談めかしく言った。

「まだ三倍目。大丈夫、全然酔ってないから」

「すいません、チェイサーを一つ」

中年の男はバーテンに言って出てきたチェイサーをマユミに差し出した。

「一杯おごるよ」

マユミは笑いながら水を一口飲み、中年の男に話しかけた。

「おじさんおもしろいね。何て名前のおじさん?」

「城 敏明です。ここらじゃ〝遊び人のジョー〟で通ってるんだよ」

「遊び人?そうは見えないけどね。ジョーはどんな遊びするのかな?」

「……そうだな、旅をして詩を書くのが好きだな。僕は旅人で詩人なんだ」

「あははは。何それおかしい。相当やられちゃってるね。ねえ、何か言ってみてよ。ジョーの詩聞いてみたいな」

「今度二人っきりの時にね。僕は人前では詩は語らないんだ。これでもすごくシャイでね。今まで書いた詩だったら今度見せてあげてもいいけどね」

「ねえ、今まで書いた詩ってどこにあるの?ジョーのうち?」

「秘密の隠れ家に展示してあるんだ」

「今からそこに連れてってよ。ジョーの詩が見たいの」

「……やれやれ、困ったもんだな。よし、じゃあ、ちょっとだけだよ」

「うん、ありがと」

ジョーはマユミの分も一緒に会計を済ませ、二人はバーを後にした。

 「ここだよ」

ジョーの隠れ家は高級住宅街の一角にあった。

 マユミはジョーに続いて地下へ続く階段を下りていった。

マユミはまったく気にしていなかったがここは携帯の電波も遮断されていた。

物々しい分厚い扉の奥には、巨大なベッドが中央に置かれた寝室になっていた。

そして壁にはジョーが書いた詩が一面に貼られていた。

 マユミは壁に駆け寄り、ジョーが書いた詩を見つめていた。

ジョーはその後ろからシャンパンの入ったグラスを持って近づいた。

「詩人って本当だったんだね」

「そうさ。僕は君に嘘はつかないよ」

ジョーはマユミにグラスを手渡した。

「さあ、君をここに招待したからには僕の最新作の詩を直に披露しよう。それは口にするにはあまりにも卑猥な物語だ。ただし、これは誰にでも聞かせることのできるものではない。限られた一部の者だけが聞くことを許された禁断の果実なのだ」

マユミは微笑みながらグラスに入ったシャンパンに口をつけながら聞いていた。

「そこは薄暗い牢獄の中、無実の罪で囚われた可憐な一厘の赤いバラ。そのまだ開いていない蕾を無理やりこじ開けようとする罪深き看守の太い指が今、まさに迫ろうとしている。

バラは全てを理解した上で看守にその身を任せた……」

 そう囁くとジョーはマユミの唇にしっとキスした。

マユミはまったく抵抗することなく、ジョーを受け入れるように目を閉じた。

「……看守はバラの蕾を一枚一枚剥がしていった。しかし、気が付きと看守の手は真っ赤に染まっていた。バラは自らの意思とは関係なく、その研ぎ澄まされたトゲによって看守を傷つけていたのだ……」

 ジョーはマユミの服を一枚一枚脱がしていった。

マユミは魔法にかかったようにジョーにその身を任せていた。

バーを出た時点でマユミはいまある光景を頭の中で描いていた。

バーでジョーと出会った時、ジョーに抱かれてもいいと思った。

凛一郎との満たされない欲望を大人の男の魅力で包み込んで欲しかった。

凛一郎が途中で止めてしまうせいもあり、マユミは凛一郎とのセックスでまだ絶頂したことがなかったのだ。

そればかりか、いつも蛇の生殺しのようなやり場の無い欲求不満の状態が続いていた。

 ジョーはマユミの首すじにキスしながら、乳房を揉み解した。

ジョーの指先はまるで蛇のようにマユミの火照った身体を這いずり回り、快楽を与えた。

ここまでの流れはまさにマユミが思い描いていた通りの展開だった。

しかし、突然手を止めたジョーはマユミの予想していなかった行動に出たのだった。

 ジョーは壁に掛かっていた鞭を手に取り、マユミの白い肌を打ちつけた。

あまりの激痛にマユミは叫び声を上げた。

マユミの白い背中はみるみるうちに蚯蚓腫れになり、赤く染まっていった。

それでもジョーは手を休めることなくマユミの背中を鞭で打ち続けた。

マユミは泣きながら「やめて」と懇願したが、マユミのそんな表情を見てジョーはますます欲情し、力強く鞭を打ち続けた。

 しばらくするとジョーは手を止め、持っていた鞭をマユミに手渡してきた。

「さあ、これで私を打つんだ。僕も君と同じ痛みを味わいたい」

「……できないよ」

「できるさ。さあ、思いっきり打つんだ。そうすれば〝デザイア〟に会えるかもしれないぞ」

「え?」

 ジョーの口から出た〝デザイア〟という言葉にマユミは驚いた。

 ジョーはマユミのその表情の変化を見逃さなかった。

「さあ、思いっきり打つんだ。そして、〝デザイア〟を呼び寄せよう」

 ジョーの言葉に後押しされるようにマユミは鞭でジョーの背中を打った。

鞭は唸りを上げジョーの背中に喰らいついた。

その今まで味わったことのなかった感覚にマユミは驚きを隠せなかった。

「さあ、もっと打つんだ」

マユミは何度も何度もジョーの背中を鞭で打ち続けた。

「いいぞ。もっとだ。もっと打て!」

ジョーはマユミを駆り立てるように叫び続けた。

いつの間にかジョーの股間は破裂寸前まで膨れ上がっていた。

ジョーは鞭を振りかざしていたマユミを再びベッドに押し倒し、うつ伏せの状態にした。

そして、マユミのアナルにギンギンに膨れ上がったペニスを挿入しようとした。

「待って。後ろは嫌。前から入れて……」

「いいじゃないか。ここまできたらもう普通の仕方じゃつまらない。全てを僕に任せるんだ。未知の扉を開こう。二人で快楽の果てに行こう」

そう言って、ジョーはマユミのアナルにペニスを挿入した。

「……ああ」

マユミは高々に声を上げた。

ジョーはパンパンと音を立てながら、激しくピストンし、絶頂した。

ジョーが絶頂する直前