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2007年1月31日 (水)

デザイアと呼ばれた男     VOL 19

          9

 俺は世田谷公園内の坂道を自転車で登っていた。

後ろを振り返るとヒデの姿はない。

そこには闇が広がっているだけだった。

どうやら撒いたようだ。

しかし、油断はできない。

 ヒデは鬼頭の仲間だということが明らかになった。

恐らく鬼頭が〝デザイア〟を捜し出す為に差し向けた刺客だろう。

ヒデが俺のことを〝デザイア〟とめぼしをつけたのは、「ワールド」から出てくる俺を見て勝手に思い込んだに過ぎない。

恐らく鬼頭は〝デザイア〟を捜す手がかりとして「ワールド」の従業員の情報を仲間たちに流したに違いない。

ということは、マユミや他のみんなにも鬼頭の仲間の魔の手が伸びるかもしれないということを予感させた。

 俺は行方不明になっていたアカイやバイト時間を過ぎても出勤してこないノジリのことを思い出した。

もしかしたらあいつらの元にも鬼頭の仲間がやってきたかもしれない。

俺はマユミの安否が気になり、携帯を取り出し、マユミに電話を掛けた。

俺は自転車にまたがったまま耳元の呼び出し音を聞いていた。

「はい、もしもし……」

俺はマユミのいつも通りの声を聞いて安心した。

「あ、いや、何か急に声が聞きたくなっちゃってさ……」

「……変なの」

その時、携帯を持っていた右手がフッと軽くなった。

俺の視線の先には携帯を奪い取ったヒデが不適な笑みを浮かべながら立っていた。

「このやろう。返しやがれ」

俺の言葉を聞くとヒデは条件反射のように携帯の電源を切った。

「これを返してほしかったら着いて来い」

そう言うとヒデは携帯を持ったまま丘へ続く階段を駆け上がって行った。

俺はすぐにヒデの後を追わず、冷静に考えてみた。

このまま携帯を捨てて逃げてしまおうか?

ヒデは鬼頭の仲間だし、かかわらない方が身のためだ。

だめだ。

あの携帯の中にはマユミや國無からのメールが残っている。

ヒデはあの通りバカだが、鬼頭にあれが渡れば〝デザイア〟の正体がばれる恐れがある。

仕方ない、行くか。

俺は自転車を停め、夜の丘へ続く階段を上って行った。

 丘の上に着くとそこにヒデの姿は無かった。

小さな外灯の明かりが点いていたがそれ以外は闇に包まれていた。

丘の頂上は見晴台になっていて、周りは植え込みで囲まれている。

 俺は警戒しながら、ゆっくりと歩いていた。

丘の裏側にも階段があり、反対からも降りられるようになっている。

ヒデはここから下に降りたのだろうか?

反対側の階段以外にも植え込みの中に入れば下に降りることも身を隠すこともできる。

ヒデは確実に俺の様子を伺いながら攻撃のチャンスを狙っているに違いない。

俺は耳を研ぎ澄ませ集中した。

闇の中を風に揺れた木々の音や虫や小動物の鳴き声が聞こえてくる。

俺はこんな時に暗視ゴーグルがあればどんなに楽かと思った。

〝デザイア〟に変身することは姿を変えるだけではなく、確実に戦闘能力を上げることを意味していた。

その変身用具を俺はまったく持っていなかった。

もちろん普段から〝デザイア変身セット〟を持ち歩いてはいなかった。

うかつに持ち歩けばそれだけ正体がばれる恐れがある。

「ワールド」に行く時はなおさら気をつけなければならなかった。

 それでも、今は國無が与えてくれたあの道具がどれほど頼りになるか身をもって分かった。

今、この場で頼れるのは自分の力だけだ。

あらゆる状況を考えろ。

自分の選択一つで運命が決まる。

これは紛れも無く命を賭けた真剣勝負だった。

 その時、ガサッという音がして植え込みの中から何かが飛んできた。

俺は音がした方を見たがヒデの姿はなかった。

 俺は足元に転がっている今飛んできた物体に顔を近づけて見てみた。

「うわぁぁぁ」

俺は思わず叫び、後ずさりしてしまった。

俺の足元に転がっていたのは血まみれになった猫の死骸だった。

俺に恐怖を与える為にヒデが野良猫を殺し、投げつけたのだ。

間髪入れずに今度は木の上から鳩の死骸が降ってきた。

俺がギョッとなって身をかわした瞬間、どこからともなくヒデが猛スピードで突進してきて、俺の腹を殴りつけ、再び闇の中に消えていった。

その動きはすでに人間の速さではなかった。

まるで野生動物を相手にしているような感じだった。

「どうだ。すごいだろう。俺は子供の頃からここで遊びまわっていたからお前が適うはずないんだ」

どこからともなくヒデの声が鳴り響いたかと思うと、再びヒデは姿を現し、俺に攻撃してきた。

攻撃しては身を潜め、言葉や動物の死骸で威嚇してはまた攻撃して姿を消す。

俺はヒデのペースにはまり、好きなように弄ばれるように徐々に命をそぎ落とされていた。

「おい、何で俺を攻撃するんだ。俺は鬼頭の友達だって言っただろう。俺とお前は仲間じゃないか」

俺は何とか形勢を逆転しようとハッタリをかました。

「黙れ。俺はお前が嫌いだ。鬼頭の友達だろうが俺の友達じゃない。だから関係ないんだ。お前を殺して〝デザイア〟としてみんなに俺のすごさを証明するんだ」

ヒデは完全に狂っている。

 またしてもヒデが猛スピードで攻撃してきたが、今度はさっきまでとは違っていた。

ヒデはナイフを持って俺に切りかかってきたのだ。

ナイフは俺の左肩の下を切り裂いた。

ヒデはそれでも堂々と姿を見せることはなく、闇の中に身を潜め、肉食動物が獲物を狙うようにジリジリと詰め寄ってくるスタイルを崩さなかった。

悲鳴のような動物の鳴き声がしたと思うと今度はカラスの死骸が俺の足元に投げつけられてきた。

「どうだ、怖いか?俺は死体を見るとムラムラするんだ。生き物が死ぬ瞬間に最高の快感が得られるんだ。死体にザーメンをかけるのが最高さ。だけど今は我慢してるんだ。お前の死体にたっぷりかけてやる為にさ」

俺はヒデの言葉に恐怖を感じた。

ヒデの言葉がたんなるハッタリや脅し文句でないことが分かったからだ。

恐らくヒデはこれまでに殺人を犯したことがあるだろう。

それはまだ俺が体験したことのない未知のゾーンだった。

人を殺した経験を持つ人間は一般の人間とは別種類だと思う。

その一線を越えてしまったら人間ではなくなってしまうような気がした。

俺がヒデに感じたこれまで出会った敵とまったく違った違和感を持ったのは恐らくそのせいだろう。

ヒデは俺とは別次元の生き物だ。

そんな奴を相手にできるはずがない。

そんなことを考えている間にもヒデは俺のわき腹と太ももを切り裂いていった。

 俺はここで死ぬのか?

……嫌だ。

俺はまだ何も手に入れてない。

マユミと付き合いだしたといっても、まだ何も手にしていない。

まだまだ満足していない。

俺はレイプ以外のセックスでイッたことがない。

そんな状態で死ぬことができるか。

俺にはまだまだ遣り残したことがたくさんある。

それを手に入れるまでは死ぬわけにはいかない。

例え相手が殺人鬼であったとしても関係ない。

あいつは死体を見て絶頂すると言うが俺は絶頂することができない。

その怒りが俺に生きる希望をみなぎらせた。

 俺は國無由自の言葉を思い出した。

「命を賭けたギリギリの駆け引きの中で勝利するのは欲望の大きさで決まる。より多くの絶望を知り、尚且つ巨大な欲望を見出せる者が勝つ」

俺はまだイッてない。

こんなところで死ぬわけにはいかない。

 その時、奇跡が起こった。

闇の中で突然「ラストスマイル」のメロディーが聞こえてきたのだ。

それは俺の携帯の着メロだった。

ヒデは俺の携帯を奪い取った。

それは俺をおびき寄せる為にとった行動だったが、それが逆にアダとなったのだ。

しかも「ラストスマイル」はマユミからの着信にだけ鳴るようにセットされていた。

マユミが俺にチャンスをくれたのだ。

俺は「ラストスマイル」の鳴る方に猛スピードで突進して行った。

ヒデは突然の着信に驚き、音の消し方が分からなかったようであたふたと戸惑っていた。

そして、ヒデが突進してきた俺に気づいた時は既に遅かった。

俺は茂みの中に身を隠すヒデに飛び蹴りを喰らわせると、今までの借りを返すよう一気に殴り続けた。

ヒデは茂みの中にナイフを落とし、それに気をとられまったく反撃出来なかった。

ヒデは俺に顎を蹴られ、意識を失った。

極限状態を超えた俺はそれでも攻撃を止めなかった。

倒れているヒデの顔面を何度も足でおもいっきり踏みつけ、服を毟り取り裸にすると、ヒデのアナルに自分のペニスを突っ込んだ。

俺の中で、何かが切れていた。

未だにセックスでイッたことのない怒りを俺は全てヒデにぶちまけた。

俺は激しく腰を動かし、突いて突いて突きまくった。

ヒデは白目をむき、口から泡を吐いていた。

俺はイク寸前にペニスを抜き、ヒデの顔面にザーメンをたっぷりとかけてやった。

「どうだ、俺の勝ちだ」

そう言うと俺はヒデの横に落ちていた携帯を拾い上げた。

携帯は泥で汚れていたが壊れていなかった。

液晶画面には「不在着信 マユミ」の文字が映し出されていた。

俺はマユミに心から感謝し、丘の上のベンチに腰を下ろし電話を掛けた。

10

 俺の耳元で携帯の呼び出し音が鳴り続けていた。

しかし、いつまで経ってもマユミは電話を取らなかった。

たった数分前に掛けてくれたのにどうしたんだ?

これがただのすれ違いなのか、それともマユミの身に何かあったのか?

俺はマユミに「今、どこにいる?」というメールを出した後、もう一度電話を掛けたが、やはり繋がることはなかった。

 俺はマユミのことが心配で堪らなかった。

今日は何かがおかしい。

いつもと違う違和感が支配している。

 ヒデのように鬼頭の仲間が何人いるのか知らないが、マユミにも被害が及ぶ可能性がある。

 携帯の液晶画面は21時36分を刻んでいる。

今の時間なら家にいる可能性が高いかもしれない。

 俺はマユミの家に向かおうとして、倒れているヒデに目を向けた。

ヒデから情報を聞き出そうとも考えたが、ヒデの性格上、聞き出すのに時間がかかりそうだし、素直に話すとは思えない。

それならこれ以上、鬼頭の仲間を野放しにしておく理由はなかった。

予想される危険は早いうちに根絶やしにしておいたほうがいい。

俺は110番をプッシュした。

「もしもし、世田谷公園の丘の上で下半身をまるだしにした変質者が動物を殺して暴れています。すぐ来てください」

そう言って俺は携帯を切った。

これでヒデはブタ箱行きだ。

俺は一気に石段を駆け下り、自転車にまたがるとマユミの家に向かった。

 その頃、マユミは行きつけのバーで一人で飲んでいた。

マユミの前には飲みかけのテキーラのグラスがあった。

マユミは一気に残っていたテキーラを飲み干すと、バーテンに同じものを注文した。

バーテンはすぐに新しいテキーラをマユミの前に差し出した。

これで今日3倍目のテキーラだった。

 マユミは最近ずっと凛一郎との関係について悩んでいた。

凛一郎と付き合い始めてマユミの気持ちは徐々に大きくなっていった。

しかし、それに伴い凛一郎が自分とのセックスで絶頂しないことにマユミは不安を感じていた。

凛一郎が絶頂しないのは自分に魅力が無いからだとマユミは思っていた。

そうでなければ二人の〝性の不一致〟はこれから将来を築いていく関係を作るうえで致命的な問題だと思っていた。

何とか二人でこの問題を解決したいと思っていたが、どうすればいいのか分からなかった。

 マユミは数分前に掛けた電話に凛一郎が出なかったことに苛立ちを感じていた。

それ以来、マユミは自分の携帯をマナーモードにして鞄の奥に突っ込んでいた為、凛一郎からの着信にも気づかなかった。

マユミはこのまま凛一郎との関係がうやむやになり、気持ちが離れてしまうことを恐れていた。

そして、心の片隅にはいまだに謎の男〝デザイア〟への想いも消えていなかった。

そして、死んだ元彼 マサキのこともいまだに忘れることはできなかった。

身近にいてやさしくしてくれる凛一郎のことは確かに好きだったが、〝デザイア〟やマサキに感じたドキドキ感が凛一郎には欠けているように思えた。

あの胸の高鳴りをマユミは凛一郎に求めていた。

 それと同時にマユミはとても不安だった。

父が突然自殺し、心が不安定だった。

そんな気持ちを誰かに包み込んでもらいたかった。

それを望むには、凛一郎は精神的にあまりにも幼すぎた。

マユミは無意識のうちにもっと年上の大人の男を必要としていた。

 マユミがふと気が付くと、カウンターの隣の席にスーツ姿の中年の男が座っていた。

中年の男は一人で独特の渋みをかもし出しながら、グラスの中のウイスキーを飲み、タバコを吹かしていた。

「……カッコいい」

マユミは無意識に呟いていた。

「飲みすぎだよお嬢さん。何杯目だい?」

中年の男は冗談めかしく言った。

「まだ三倍目。大丈夫、全然酔ってないから」

「すいません、チェイサーを一つ」

中年の男はバーテンに言って出てきたチェイサーをマユミに差し出した。

「一杯おごるよ」

マユミは笑いながら水を一口飲み、中年の男に話しかけた。

「おじさんおもしろいね。何て名前のおじさん?」

「城 敏明です。ここらじゃ〝遊び人のジョー〟で通ってるんだよ」

「遊び人?そうは見えないけどね。ジョーはどんな遊びするのかな?」

「……そうだな、旅をして詩を書くのが好きだな。僕は旅人で詩人なんだ」

「あははは。何それおかしい。相当やられちゃってるね。ねえ、何か言ってみてよ。ジョーの詩聞いてみたいな」

「今度二人っきりの時にね。僕は人前では詩は語らないんだ。これでもすごくシャイでね。今まで書いた詩だったら今度見せてあげてもいいけどね」

「ねえ、今まで書いた詩ってどこにあるの?ジョーのうち?」

「秘密の隠れ家に展示してあるんだ」

「今からそこに連れてってよ。ジョーの詩が見たいの」

「……やれやれ、困ったもんだな。よし、じゃあ、ちょっとだけだよ」

「うん、ありがと」

ジョーはマユミの分も一緒に会計を済ませ、二人はバーを後にした。

 「ここだよ」

ジョーの隠れ家は高級住宅街の一角にあった。

 マユミはジョーに続いて地下へ続く階段を下りていった。

マユミはまったく気にしていなかったがここは携帯の電波も遮断されていた。

物々しい分厚い扉の奥には、巨大なベッドが中央に置かれた寝室になっていた。

そして壁にはジョーが書いた詩が一面に貼られていた。

 マユミは壁に駆け寄り、ジョーが書いた詩を見つめていた。

ジョーはその後ろからシャンパンの入ったグラスを持って近づいた。

「詩人って本当だったんだね」

「そうさ。僕は君に嘘はつかないよ」

ジョーはマユミにグラスを手渡した。

「さあ、君をここに招待したからには僕の最新作の詩を直に披露しよう。それは口にするにはあまりにも卑猥な物語だ。ただし、これは誰にでも聞かせることのできるものではない。限られた一部の者だけが聞くことを許された禁断の果実なのだ」

マユミは微笑みながらグラスに入ったシャンパンに口をつけながら聞いていた。

「そこは薄暗い牢獄の中、無実の罪で囚われた可憐な一厘の赤いバラ。そのまだ開いていない蕾を無理やりこじ開けようとする罪深き看守の太い指が今、まさに迫ろうとしている。

バラは全てを理解した上で看守にその身を任せた……」

 そう囁くとジョーはマユミの唇にしっとキスした。

マユミはまったく抵抗することなく、ジョーを受け入れるように目を閉じた。

「……看守はバラの蕾を一枚一枚剥がしていった。しかし、気が付きと看守の手は真っ赤に染まっていた。バラは自らの意思とは関係なく、その研ぎ澄まされたトゲによって看守を傷つけていたのだ……」

 ジョーはマユミの服を一枚一枚脱がしていった。

マユミは魔法にかかったようにジョーにその身を任せていた。

バーを出た時点でマユミはいまある光景を頭の中で描いていた。

バーでジョーと出会った時、ジョーに抱かれてもいいと思った。

凛一郎との満たされない欲望を大人の男の魅力で包み込んで欲しかった。

凛一郎が途中で止めてしまうせいもあり、マユミは凛一郎とのセックスでまだ絶頂したことがなかったのだ。

そればかりか、いつも蛇の生殺しのようなやり場の無い欲求不満の状態が続いていた。

 ジョーはマユミの首すじにキスしながら、乳房を揉み解した。

ジョーの指先はまるで蛇のようにマユミの火照った身体を這いずり回り、快楽を与えた。

ここまでの流れはまさにマユミが思い描いていた通りの展開だった。

しかし、突然手を止めたジョーはマユミの予想していなかった行動に出たのだった。

 ジョーは壁に掛かっていた鞭を手に取り、マユミの白い肌を打ちつけた。

あまりの激痛にマユミは叫び声を上げた。

マユミの白い背中はみるみるうちに蚯蚓腫れになり、赤く染まっていった。

それでもジョーは手を休めることなくマユミの背中を鞭で打ち続けた。

マユミは泣きながら「やめて」と懇願したが、マユミのそんな表情を見てジョーはますます欲情し、力強く鞭を打ち続けた。

 しばらくするとジョーは手を止め、持っていた鞭をマユミに手渡してきた。

「さあ、これで私を打つんだ。僕も君と同じ痛みを味わいたい」

「……できないよ」

「できるさ。さあ、思いっきり打つんだ。そうすれば〝デザイア〟に会えるかもしれないぞ」

「え?」

 ジョーの口から出た〝デザイア〟という言葉にマユミは驚いた。

 ジョーはマユミのその表情の変化を見逃さなかった。

「さあ、思いっきり打つんだ。そして、〝デザイア〟を呼び寄せよう」

 ジョーの言葉に後押しされるようにマユミは鞭でジョーの背中を打った。

鞭は唸りを上げジョーの背中に喰らいついた。

その今まで味わったことのなかった感覚にマユミは驚きを隠せなかった。

「さあ、もっと打つんだ」

マユミは何度も何度もジョーの背中を鞭で打ち続けた。

「いいぞ。もっとだ。もっと打て!」

ジョーはマユミを駆り立てるように叫び続けた。

いつの間にかジョーの股間は破裂寸前まで膨れ上がっていた。

ジョーは鞭を振りかざしていたマユミを再びベッドに押し倒し、うつ伏せの状態にした。

そして、マユミのアナルにギンギンに膨れ上がったペニスを挿入しようとした。

「待って。後ろは嫌。前から入れて……」

「いいじゃないか。ここまできたらもう普通の仕方じゃつまらない。全てを僕に任せるんだ。未知の扉を開こう。二人で快楽の果てに行こう」

そう言って、ジョーはマユミのアナルにペニスを挿入した。

「……ああ」

マユミは高々に声を上げた。

ジョーはパンパンと音を立てながら、激しくピストンし、絶頂した。

ジョーが絶頂する直前にマユミも絶頂していた。

それは久しぶりに味わった快感だった。

 マユミはベッドの上で息を乱しながらしばらく動くことができずにいた。

そんなマユミの横でジョーはもぞもぞと動いていた。

マユミが横目でジョーを見ると、ジョーは液体の入った注射器を手に持ち、今にも自分に打ち込もうとしていた。

「……待って。何するの?」

「いいから、黙って。悪いようにはしないよ。君の心の奥が見たいだけさ。一緒に〝デザイア〟に会いに行こう」

ジョーが手にしていたのは自白剤だった。

ジョーは始めからマユミに目を付け、〝デザイア〟の情報を聞き出すためにここに連れ込んだのだった。

今までのSMプレイはただのおまけのようなものだった。

「……薬は嫌。お願い、やめて……」

「大丈夫。安心して……」

その時、ジョーはマユミの異変に気づいた。

マユミは急に意識を失ったのだ。

マユミだけではない。

ジョーは自分の頭の中もグラグラと揺れているような感覚に囚われた。

目の前が急に真っ暗になり、聴覚も遮断されたように音が聞こえなくなった。

何なんだこれは?

 ジョーは普段からドラッグを楽しむことがあったが、それは分量を考慮した上で後遺症や、禁断症状は出ない程度に抑えていた。

……おかしい。

ジョーの足は立っていられないほどグラグラになり、床の上に倒れこんだ。

次第に意識が薄れていく。

 その時、突然扉が開き、外からガスマスクをつけた小柄の人物が室内に入ってきた。

初めは幻覚かと思ったがそうではなかった。

ガスマスクの男は確かにジョーの秘密の部屋に鍵をこじ開け侵入していたのだ。

ここは様々な防犯システムが仕掛けてあるはずだった。

ガスマスクの男はそのシステムを破りここまで来たことになる。

薄れゆく意識の中でジョーはハッとなった。

まさか、こいつが〝デザイア〟なのか?

ジョーはなぜこの侵入してきた男がガスマスクをつけているのかが分かった。

こいつは室内にガスを流し込み、動きを封じ、女を取り返しにきたのか?

ということはこの女はやはり〝デザイア〟と繋がっていたのだ。

ジョーは勝利を確信し、床に倒れながら笑みを浮かべた。

意識を取り戻したら、再びマユミを使って〝デザイア〟を呼び寄せよう。

どんな手段を使っても……

そこでジョーは完全に意識を失った。

ベッドの上のマユミはすでに意識を失っていた。

ガスマスクの男はマユミが意識を失っていることを確認した。

「……まだお前を死なすわけにはいかないからな」

ガスマスクの男の正体は國無由自だった。

國無は床に落ちている鞭を手に取ると倒れているジョーを何度も打ちつけた。

「なかなかいい趣味だったが、相手が悪かったな。お前の欲望は嫌いじゃなかったがここまでだ」

そう言って國無は床に倒れているジョーの首に手を掛け、思いっきりひねり首をへし折った。

國無はジョーの背中から流れている血を手袋をした指で拭い取り、壁に血文字を書いた。

「皆殺しにしてやるぜ!〝デザイア〟」

滴る血でそう書き残すと國無はマユミを担ぎ上げ、ジョーの死体を残したまま地下室を後にした。

                                                【続く】

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デザイアと呼ばれた男  VOL 18

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2007年1月 4日 (木)

デザイアと呼ばれた男  VOL 17

 明けましておめでとうございます!D・二プルです。

 今年も一年よろしくお願いいたします

【二プルのおススメ映画】

 「ナイロビの蜂」

 『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレス監督が、冒険小説の巨匠ジョン・ル・カレの原作を映画化。妻の死に世界的な陰謀の存在を嗅ぎ取った主人公の心の旅路を、ナイロビの雄大な自然を背景に映し出す。命を賭けて謎に迫る夫を『イングリッシュ・ペイシェント』のレイフ・ファインズ、不慮の死を遂げる若妻を『コンスタンティン』のレイチェル・ワイズが熱演する。愛の強さと尊さを壮大なスケールで描き出す感動作。

アフリカのナイロビでイギリスの外交官として働くジャスティン(レイフ・ファインズ)は、ある日、弁護士で救援活動家の美しい妻テッサ(レイチェル・ワイズ)を殺されてしまう。失意の中、ジャスティンは、妻が追っていた事件がイギリスの薬品メーカーによる現地の人々を使った人体実験であることを突き止める。

The Constant Gardener 監督;フェルナンド・メイレレス 2005年製作
出演:レイフ・ファインズ、レイチェル・ワイズ、ビル・ナイ、ピート・ポルスウェイト

 それでは引き続き「デザイアと呼ばれた男」をお楽しみ下さい!

          7

 午後8時を過ぎても夜番のミシマとノジリは姿を現さなかった。

俺と小原はやっと客が途切れたカウンターに二人並んで話をしていた。

今日は昼間から異様な混み具合だった。

それもそのはず、今日は「ワールド」の半額キャンペーンの日だったからだ。

地元の住民たちにこの半額キャンペーンは知れ渡っていて、この日をだけにまとめてレンタルする者も少なくなかった。

「今日はちょっとおかしいですね。アカイさんだけじゃなくて、ミシマさんとノジリさんも来ないなんて」

「ミシマさんはさっき仕事で少し遅れるって連絡があったんだ。ノジリ君は連絡ないけどね。たぶん寝過ごしてもうすぐ慌てて電話掛けてくると思うよ」

「こんな日に限って最悪ですね」

「五味君、もう上がっていいよ。今日は本当に助かったよ」

「いや、でも……」

「大丈夫。もうすぐミシマさんが来るし、ノジリ君が来たら俺も上がるから。お疲れ」

「分かりました。お先に失礼します」

「お疲れさん」

 俺はエプロンを脱ぎ、「ワールド」を後にした。

 夜の道を自転車で走りながら、俺はこれからどうするかを考えていた。

特に予定はなかったのでマユミに電話してみようかと思った。

俺はなんとかしてマユミとのギクシャクした状況を打破したいと思っていた。

セックスがうまくいかず、マユミと気まずくなり少し距離を置いていたが、このままでは自然消滅は目に見えていた。

何とかマユミと話をして二人の関係を修復しなくてはならない。

俺は改めて自分の気持ちを整理した。

俺は今でもマユミが好きだ。

この気持ちだけは何よりも大切にしたかった。

 そんな俺の気持ちとはうらはらに、その日「ワールド」の従業員にとって最悪の一日となる余波が俺にも押し寄せようとしていた。

俺の前に〝敵〟が現れたほぼ同時刻に「ワールド」にいる小原、会社帰りのミシマ、ノジリ、ユカ、そしてマユミにも凶悪な黒い闇が襲いかかろうとしていた。

俺はまだこの時知らなかったが、鬼頭が解き放った鬼畜たちが〝同時多発テロ〟を実行していて、アカイもヒラノもアケミも犠牲になっていたのだった。

 突然、夜道を自転車で走る俺の前に人影が飛び出してきた。

俺は慌ててブレーキを掛け、その拍子に転倒して歩道に投げ出された。

俺が体中の痛みを抑え、前方を見つめると、そこには小柄でぼさぼさな髪を汚らしく伸ばしてボロキレを身に着けた乞食のような男が立っていた。

その男は姿勢が極端に悪く、大きく腰を曲げた猫背の姿勢で俺に近づいてきた。

「おい、何なんだお前は……」

「俺はヒデ。お前か、お前が〝デザイア〟なのか?」

「!!!……」

俺は言葉を失った。

なぜ、この男は俺のいや〝デザイア〟の正体を知っているんだ?

まさか、また國無が仕掛けた罠なのか?

しかし、それがすぐに違うということが男の言動を見ていて分かった。

「お前があのビデオ屋から出てくるのを見たんだ。それで先回りして待ってたんだ。お前が〝デザイア〟ってことにして鬼頭の前に連れて行くんだ。殺しちゃいけないんだ。だけどお前が〝デザイア〟じゃないって言ったら嘘がばれるから、お前の喉を潰さなくちゃな。俺、頭良い……」

ヒデはずっと独り言のようにぶつぶつ喋っていた。

その様子から見て俺はヒデが少し頭が弱いことに気づいた。

恐らく彼は知的障害者だろう。

しかし、油断できないことが二つあった。

一つはこいつが〝鬼頭〟の名を口にしたこと。

恐らく鬼頭の仲間で〝デザイア〟を捜しているんだろう。

そしてもう一つはこいつの身体能力だった。

こいつは恐らく嘘をついていない。

いや、正確には嘘をつけないんだと思うが、ヒデの言葉が本当だとするとこれは恐るべきことだった。

ヒデは俺が「ワールド」を出るのを目撃してから、自転車に乗っている俺を追い越し先回りしてきたのだ。

それはずば抜けた身体能力を持ち合わせていなければ不可能だろう。

それに走ってくる自転車の前に飛び出してくる度胸。

恐らく本能的に何も考えずに行動しているだけだと思うが、それでもヒデの未知数の身体能力に俺は慎重に身構えた。

 辺りには俺たち以外の人の気配は無かった。

もし、ここに人が居たとしてもヒデは迷わず仕掛けてくるだろう。

ここでバトルになれば他人を巻き込む恐れがある。

そうなればますますコトが大きくなり、警察にマークされたり、正体がばれやすくなる。

俺は國無に叩き込まれた犯罪のいろはを思い出していた。

「本当の悪はその素振りさえも相手に気づかせないものだ。目立つ行動は最小限に抑えろ。無駄に敵を増やすな。逃げられるようなら戦いを避けろ」

 目の前の日では俺の眼を見ながらジリジリと近づいてきていた。

「おい、あんた何か勘違いしてるみたいだけど、俺はその〝デザイア〟じゃないよ。証拠がないだろ。俺なんか連れて行って鬼頭が何て言うかな。俺は鬼頭の友達だぞ」

「……何?お前、鬼頭の友達なのか?」

「ああ、そうだ。最近知り合ったばかりだけどな」

「……そうなのか。俺、勘違いしてたのかな」

俺の嘘を信じ込み、ヒデは俺から視線をそらせ考え始めた。

その一瞬の隙をつき、俺は倒れている自転車を持ち上げ、サドルにまたがると猛ダッシュでその場から逃走した。

それを見た瞬間、ヒデは猛スピードで俺を追いかけてきた。

それは動物が本能的に逃げる相手を追いかけるような感じだった。

 俺がペダルをこぎながら後ろを振り返ると、ヒデは獣のような信じられないスピードで俺の自転車を追いかけていた。

これは追いつかれるのも時間の問題だ。

俺は道を変え、世田谷公園に向かった。

あそこなら土地勘もあるし、うまくいけばヒデを撒くことができるかもしれない。

それに夜の公園ならバトルになっても他人を巻き込む可能性が低くなる。

そんな事を考えながら、俺は世田谷公園をバトルの場所に選んだ。

 しかし、それが大きな誤算だったことに俺はまだ気づいていなかった。

世田谷公園こそ、知的障害者ヒデが最大限にその身体能力を発揮できる場所だということを俺は知る由もなかった。

          8

 午後7時、携帯のアラームの音でノジリは眼を覚ました。

ゆっくりとベッドの上で身体を起こし、携帯のアラームを解除した。

ペットボトルの中に入った飲み掛けのコーラを喉に流し込んだ。

コーラはすでに炭酸が抜けていて温くてまずかった。

なんだか、身体がだるい。

こんな日はバイトに行きたくないと思う。

このまま休んでしまおうかとも考えた。

ノジリはもう一度携帯の液晶画面を覗いた。

今日はミシマと一緒のシフトの日だった。

ミシマとのシフトの日はなんとしても行かなければ駄目だ。

 ノジリは昔、ヤクザに追い込みを掛けられていた時、ミシマに助けられ、それ以来慕っていたのだった。

洗面所で顔を洗い、Tシャツを着替えて「ワールド」へ行く支度をしていた時、携帯が鳴った。

液晶画面を見ると知らない番号からだった。

少し考えてからノジリは携帯を取った。

「もしもし……」

「久しぶりだなノジリ。小向だ。今、お前のアパートの前まで来てるんだ。ちょっと面見せろや」

「……はい」

小向はノジリが以前出入りしていたヤクザの事務所の先輩だった。

ミシマに助けられて以来ノジリはヤクザとはきっぱり縁を切っていた。

それ以来小向とも会っていなかった。

ノジリは昔の関係を断ち切る為に携帯番号も新しいものに変えていた。

それでも小向が自分の携帯に電話を掛けてきたことに戸惑いを感じた。

 ノジリはしかたなくアパートの前に出て行った。

相手は本物のヤクザだ。

ここで無視したりバックレたりしたら周りの人間にも迷惑をかけてしまうかもしれない。

電話の通りアパートの前にはスーツを身に着けた小向が立っていた。

小向は以前よりチンピラ色が抜け、その代わりに威厳が増しているように思えた。

 その小向の横に見知らぬ男が立っていた。

男は野球帽を斜めに被り、黒のタンクトップに白のシャツをだらしなく着崩して、ダボダボの迷彩色のパンツを腰履きしていた。

ノジリは初めその男が小向の手下だろうと思った。

しかし、それは違うということがすぐに分かった。

 ヤクザの小向が野球帽を被ったBボーイ風のこの男にヘコヘコと腰を低くし、ご機嫌伺いをしているのが目に見えて分かったのだ。

「おお、ノジリ久しぶりだな。今日はこのイブさんの用でお前に聞きたいことがあって来たんだ。お前、うちを辞めてからレンタルビデオ屋で働いてるんだってな。それで……」

小向の話を途中でさえぎるようにイブはノジリの目の前にしわくちゃに丸まっていた紙くずを広げて言った。

「〝デザイア〟はどこにいる。正直に答えろ」

イブが目の前に突き出したシワシワのチラシにはサングラスにニット帽を被った男のモンタージュが載っていた。

「デザイア?俺は知りませんけど……」

ノジリがそういい終えた直後、イブの拳がノジリの顔面を捉えた。

久しぶりに突然殴られ、ノジリはキレた。

「いきなり何すんだこのヤロー」

イブに殴りかかろうとするノジリを小向が体を張って止めに入った。

「ノジリ、やめとけ。この人はな……」

小向が言い終わる間もなく、イブは小向を振り払い、再びノジリの顔面を殴りつけた。

ノジリの唇と鼻から血が溢れ出した。

「時間がないんだ。本当に知らないんならそう言え」

「だから知らないって……」

その瞬間、イブはパンツのポケットからサイレンサー付きの拳銃を取り出すと躊躇なく引き金を引いた。

それはあっという間の出来事だった。

イブが拳銃を突きつけたかと思うと次の瞬間シュッという音を聞いたのを最後にワケがわからなくなった。

喉元に違和感を感じて手で触ってみるとどす黒い血でべっとりとしていた。

この大量の血が自分のものだと思った瞬間、ノジリはがっくりと膝から崩れ落ちるように地面に倒れこんだ。

 イブは顔色一つ変えずに上からノジリを見下ろしていた。

小向が慌ててノジリに駆け寄って抱きかかえた。

小向は必死に何かをしゃべっていたが、ノジリの耳には届いていなかった。

「後始末しておけ」

そう言い残してイブはその場を立ち去ろうとしていた。

辺りには人影はなかった。

小向は複雑な心境だった。

イブは小向が所属する組の引相手の売人だった。

若頭からイブを紹介され、ノジリに合わせるように言われた。

イブは人を捜しているという。

商売柄もしかしたらノジリを多少痛めつけるかもしれないと思っていたが、まさかたったあれだけのことで殺すとは思っていなかった。

以前ノジリが組に出入りしていた頃、小向はノジリを深夜の海に連れ出したことがあった。

小向が付き合っている女との問題をノジリは親身になって聞いてくれた。

その後、二人で深夜の海に向かって拳銃を撃ちまくった。

正直、小向は今日ノジリに会えることを楽しみにしていた。

仕事を終えたら久しぶりに酒でも飲みたいと思っていた。

そのノジリが自分の目の前で死んでいる。

会ってから間もない男に殺された挙句、男は自分にノジリの後始末をしろと言っている。

小向の心は次第に煮えくり返っていた。

後ろを振り返るとイブはすでに50メートルぐらい先を歩いている。

小向は自分の懐にベレッタが眠っているのを知っている。

辺りには誰もいない。

殺るなら今しかない。

小向は手に汗をかきながら懐のベレッタに手を掛けた。

思い切って懐からベレッタを取り出し振り向いた瞬間、イブが目の前に立っていた。

「何をしているんだ?」

「……いや、その本当に死んでるかと思って。一応とどめをさしておこうかと……」

「その必要はない。こいつはもう死んでる。それより前から人が来た。とりあえず死体をこいつの部屋の中に運べ。肩に腕を回し、気分が悪い相手を介抱しているようにして運ぶんだ」

「……はい、わかりました」

小向はイブに従うしかなかった。

たった今人を殺したばかりとは思えないほどイブは冷静だった。

この男を殺すのは無理だ。

イブの機会のように冷たい眼が、小向の殺気を消し去った。

 ノジリの死体を担ぎ、小向はノジリの部屋に入っていった。

その後からイブが背後霊のように音も無く着いてくる。

イブはノジリの死体をバスルームに運ぶように指示した。

小向はノジリの死体をバスタブの中に突っ込んだ。

その間にイブはノジリの部屋を物色し、キッチンから包丁やハサミを持ち出してきた。

イブはバスタブに転がっているノジリの死体を包丁で切断し始めた。

イブは手際よくノジリの死体をバラバラにしていった。

その様子を見ていて小向は吐き気がしてきた。

ヤクザの小向でもこれまで人を切断したことはなかったのだ。

その作業をイブは顔色一つ変えずに難なくこなしている。

小向は改めてイブの恐ろしさを体感した。

こんな男を殺すことはできないと思った。

そんなことを考えている間にもノジリの死体はおびただしい異臭を放ちながら、5つに切断されていた。

「すいません、俺、気分が悪いんで先に上がらせてもらいます」

小向は一刻も早くこの場から抜け出したかった。

目の前の男とはあまりにも住む世界が違いすぎる。

こいつらは異常だ。

次の瞬間、イブはサイレンサー付きの拳銃で小向の額を打ち抜いていた。

小向はばったりと玄関先の廊下に血を流して倒れこんだ。

イブは額の汗を腕で拭いながら、小向の死体に視線を送り、再び作業を続けた。

                                                【続く】

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