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2007年1月 4日 (木)

デザイアと呼ばれた男  VOL 17

 明けましておめでとうございます!D・二プルです。

 今年も一年よろしくお願いいたします

【二プルのおススメ映画】

 「ナイロビの蜂」

 『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレス監督が、冒険小説の巨匠ジョン・ル・カレの原作を映画化。妻の死に世界的な陰謀の存在を嗅ぎ取った主人公の心の旅路を、ナイロビの雄大な自然を背景に映し出す。命を賭けて謎に迫る夫を『イングリッシュ・ペイシェント』のレイフ・ファインズ、不慮の死を遂げる若妻を『コンスタンティン』のレイチェル・ワイズが熱演する。愛の強さと尊さを壮大なスケールで描き出す感動作。

アフリカのナイロビでイギリスの外交官として働くジャスティン(レイフ・ファインズ)は、ある日、弁護士で救援活動家の美しい妻テッサ(レイチェル・ワイズ)を殺されてしまう。失意の中、ジャスティンは、妻が追っていた事件がイギリスの薬品メーカーによる現地の人々を使った人体実験であることを突き止める。

The Constant Gardener 監督;フェルナンド・メイレレス 2005年製作
出演:レイフ・ファインズ、レイチェル・ワイズ、ビル・ナイ、ピート・ポルスウェイト

 それでは引き続き「デザイアと呼ばれた男」をお楽しみ下さい!

          7

 午後8時を過ぎても夜番のミシマとノジリは姿を現さなかった。

俺と小原はやっと客が途切れたカウンターに二人並んで話をしていた。

今日は昼間から異様な混み具合だった。

それもそのはず、今日は「ワールド」の半額キャンペーンの日だったからだ。

地元の住民たちにこの半額キャンペーンは知れ渡っていて、この日をだけにまとめてレンタルする者も少なくなかった。

「今日はちょっとおかしいですね。アカイさんだけじゃなくて、ミシマさんとノジリさんも来ないなんて」

「ミシマさんはさっき仕事で少し遅れるって連絡があったんだ。ノジリ君は連絡ないけどね。たぶん寝過ごしてもうすぐ慌てて電話掛けてくると思うよ」

「こんな日に限って最悪ですね」

「五味君、もう上がっていいよ。今日は本当に助かったよ」

「いや、でも……」

「大丈夫。もうすぐミシマさんが来るし、ノジリ君が来たら俺も上がるから。お疲れ」

「分かりました。お先に失礼します」

「お疲れさん」

 俺はエプロンを脱ぎ、「ワールド」を後にした。

 夜の道を自転車で走りながら、俺はこれからどうするかを考えていた。

特に予定はなかったのでマユミに電話してみようかと思った。

俺はなんとかしてマユミとのギクシャクした状況を打破したいと思っていた。

セックスがうまくいかず、マユミと気まずくなり少し距離を置いていたが、このままでは自然消滅は目に見えていた。

何とかマユミと話をして二人の関係を修復しなくてはならない。

俺は改めて自分の気持ちを整理した。

俺は今でもマユミが好きだ。

この気持ちだけは何よりも大切にしたかった。

 そんな俺の気持ちとはうらはらに、その日「ワールド」の従業員にとって最悪の一日となる余波が俺にも押し寄せようとしていた。

俺の前に〝敵〟が現れたほぼ同時刻に「ワールド」にいる小原、会社帰りのミシマ、ノジリ、ユカ、そしてマユミにも凶悪な黒い闇が襲いかかろうとしていた。

俺はまだこの時知らなかったが、鬼頭が解き放った鬼畜たちが〝同時多発テロ〟を実行していて、アカイもヒラノもアケミも犠牲になっていたのだった。

 突然、夜道を自転車で走る俺の前に人影が飛び出してきた。

俺は慌ててブレーキを掛け、その拍子に転倒して歩道に投げ出された。

俺が体中の痛みを抑え、前方を見つめると、そこには小柄でぼさぼさな髪を汚らしく伸ばしてボロキレを身に着けた乞食のような男が立っていた。

その男は姿勢が極端に悪く、大きく腰を曲げた猫背の姿勢で俺に近づいてきた。

「おい、何なんだお前は……」

「俺はヒデ。お前か、お前が〝デザイア〟なのか?」

「!!!……」

俺は言葉を失った。

なぜ、この男は俺のいや〝デザイア〟の正体を知っているんだ?

まさか、また國無が仕掛けた罠なのか?

しかし、それがすぐに違うということが男の言動を見ていて分かった。

「お前があのビデオ屋から出てくるのを見たんだ。それで先回りして待ってたんだ。お前が〝デザイア〟ってことにして鬼頭の前に連れて行くんだ。殺しちゃいけないんだ。だけどお前が〝デザイア〟じゃないって言ったら嘘がばれるから、お前の喉を潰さなくちゃな。俺、頭良い……」

ヒデはずっと独り言のようにぶつぶつ喋っていた。

その様子から見て俺はヒデが少し頭が弱いことに気づいた。

恐らく彼は知的障害者だろう。

しかし、油断できないことが二つあった。

一つはこいつが〝鬼頭〟の名を口にしたこと。

恐らく鬼頭の仲間で〝デザイア〟を捜しているんだろう。

そしてもう一つはこいつの身体能力だった。

こいつは恐らく嘘をついていない。

いや、正確には嘘をつけないんだと思うが、ヒデの言葉が本当だとするとこれは恐るべきことだった。

ヒデは俺が「ワールド」を出るのを目撃してから、自転車に乗っている俺を追い越し先回りしてきたのだ。

それはずば抜けた身体能力を持ち合わせていなければ不可能だろう。

それに走ってくる自転車の前に飛び出してくる度胸。

恐らく本能的に何も考えずに行動しているだけだと思うが、それでもヒデの未知数の身体能力に俺は慎重に身構えた。

 辺りには俺たち以外の人の気配は無かった。

もし、ここに人が居たとしてもヒデは迷わず仕掛けてくるだろう。

ここでバトルになれば他人を巻き込む恐れがある。

そうなればますますコトが大きくなり、警察にマークされたり、正体がばれやすくなる。

俺は國無に叩き込まれた犯罪のいろはを思い出していた。

「本当の悪はその素振りさえも相手に気づかせないものだ。目立つ行動は最小限に抑えろ。無駄に敵を増やすな。逃げられるようなら戦いを避けろ」

 目の前の日では俺の眼を見ながらジリジリと近づいてきていた。

「おい、あんた何か勘違いしてるみたいだけど、俺はその〝デザイア〟じゃないよ。証拠がないだろ。俺なんか連れて行って鬼頭が何て言うかな。俺は鬼頭の友達だぞ」

「……何?お前、鬼頭の友達なのか?」

「ああ、そうだ。最近知り合ったばかりだけどな」

「……そうなのか。俺、勘違いしてたのかな」

俺の嘘を信じ込み、ヒデは俺から視線をそらせ考え始めた。

その一瞬の隙をつき、俺は倒れている自転車を持ち上げ、サドルにまたがると猛ダッシュでその場から逃走した。

それを見た瞬間、ヒデは猛スピードで俺を追いかけてきた。

それは動物が本能的に逃げる相手を追いかけるような感じだった。

 俺がペダルをこぎながら後ろを振り返ると、ヒデは獣のような信じられないスピードで俺の自転車を追いかけていた。

これは追いつかれるのも時間の問題だ。

俺は道を変え、世田谷公園に向かった。

あそこなら土地勘もあるし、うまくいけばヒデを撒くことができるかもしれない。

それに夜の公園ならバトルになっても他人を巻き込む可能性が低くなる。

そんな事を考えながら、俺は世田谷公園をバトルの場所に選んだ。

 しかし、それが大きな誤算だったことに俺はまだ気づいていなかった。

世田谷公園こそ、知的障害者ヒデが最大限にその身体能力を発揮できる場所だということを俺は知る由もなかった。

          8

 午後7時、携帯のアラームの音でノジリは眼を覚ました。

ゆっくりとベッドの上で身体を起こし、携帯のアラームを解除した。

ペットボトルの中に入った飲み掛けのコーラを喉に流し込んだ。

コーラはすでに炭酸が抜けていて温くてまずかった。

なんだか、身体がだるい。

こんな日はバイトに行きたくないと思う。

このまま休んでしまおうかとも考えた。

ノジリはもう一度携帯の液晶画面を覗いた。

今日はミシマと一緒のシフトの日だった。

ミシマとのシフトの日はなんとしても行かなければ駄目だ。

 ノジリは昔、ヤクザに追い込みを掛けられていた時、ミシマに助けられ、それ以来慕っていたのだった。

洗面所で顔を洗い、Tシャツを着替えて「ワールド」へ行く支度をしていた時、携帯が鳴った。

液晶画面を見ると知らない番号からだった。

少し考えてからノジリは携帯を取った。

「もしもし……」

「久しぶりだなノジリ。小向だ。今、お前のアパートの前まで来てるんだ。ちょっと面見せろや」

「……はい」

小向はノジリが以前出入りしていたヤクザの事務所の先輩だった。

ミシマに助けられて以来ノジリはヤクザとはきっぱり縁を切っていた。

それ以来小向とも会っていなかった。

ノジリは昔の関係を断ち切る為に携帯番号も新しいものに変えていた。

それでも小向が自分の携帯に電話を掛けてきたことに戸惑いを感じた。

 ノジリはしかたなくアパートの前に出て行った。

相手は本物のヤクザだ。

ここで無視したりバックレたりしたら周りの人間にも迷惑をかけてしまうかもしれない。

電話の通りアパートの前にはスーツを身に着けた小向が立っていた。

小向は以前よりチンピラ色が抜け、その代わりに威厳が増しているように思えた。

 その小向の横に見知らぬ男が立っていた。

男は野球帽を斜めに被り、黒のタンクトップに白のシャツをだらしなく着崩して、ダボダボの迷彩色のパンツを腰履きしていた。

ノジリは初めその男が小向の手下だろうと思った。

しかし、それは違うということがすぐに分かった。

 ヤクザの小向が野球帽を被ったBボーイ風のこの男にヘコヘコと腰を低くし、ご機嫌伺いをしているのが目に見えて分かったのだ。

「おお、ノジリ久しぶりだな。今日はこのイブさんの用でお前に聞きたいことがあって来たんだ。お前、うちを辞めてからレンタルビデオ屋で働いてるんだってな。それで……」

小向の話を途中でさえぎるようにイブはノジリの目の前にしわくちゃに丸まっていた紙くずを広げて言った。

「〝デザイア〟はどこにいる。正直に答えろ」

イブが目の前に突き出したシワシワのチラシにはサングラスにニット帽を被った男のモンタージュが載っていた。

「デザイア?俺は知りませんけど……」

ノジリがそういい終えた直後、イブの拳がノジリの顔面を捉えた。

久しぶりに突然殴られ、ノジリはキレた。

「いきなり何すんだこのヤロー」

イブに殴りかかろうとするノジリを小向が体を張って止めに入った。

「ノジリ、やめとけ。この人はな……」

小向が言い終わる間もなく、イブは小向を振り払い、再びノジリの顔面を殴りつけた。

ノジリの唇と鼻から血が溢れ出した。

「時間がないんだ。本当に知らないんならそう言え」

「だから知らないって……」

その瞬間、イブはパンツのポケットからサイレンサー付きの拳銃を取り出すと躊躇なく引き金を引いた。

それはあっという間の出来事だった。

イブが拳銃を突きつけたかと思うと次の瞬間シュッという音を聞いたのを最後にワケがわからなくなった。

喉元に違和感を感じて手で触ってみるとどす黒い血でべっとりとしていた。

この大量の血が自分のものだと思った瞬間、ノジリはがっくりと膝から崩れ落ちるように地面に倒れこんだ。

 イブは顔色一つ変えずに上からノジリを見下ろしていた。

小向が慌ててノジリに駆け寄って抱きかかえた。

小向は必死に何かをしゃべっていたが、ノジリの耳には届いていなかった。

「後始末しておけ」

そう言い残してイブはその場を立ち去ろうとしていた。

辺りには人影はなかった。

小向は複雑な心境だった。

イブは小向が所属する組の引相手の売人だった。

若頭からイブを紹介され、ノジリに合わせるように言われた。

イブは人を捜しているという。

商売柄もしかしたらノジリを多少痛めつけるかもしれないと思っていたが、まさかたったあれだけのことで殺すとは思っていなかった。

以前ノジリが組に出入りしていた頃、小向はノジリを深夜の海に連れ出したことがあった。

小向が付き合っている女との問題をノジリは親身になって聞いてくれた。

その後、二人で深夜の海に向かって拳銃を撃ちまくった。

正直、小向は今日ノジリに会えることを楽しみにしていた。

仕事を終えたら久しぶりに酒でも飲みたいと思っていた。

そのノジリが自分の目の前で死んでいる。

会ってから間もない男に殺された挙句、男は自分にノジリの後始末をしろと言っている。

小向の心は次第に煮えくり返っていた。

後ろを振り返るとイブはすでに50メートルぐらい先を歩いている。

小向は自分の懐にベレッタが眠っているのを知っている。

辺りには誰もいない。

殺るなら今しかない。

小向は手に汗をかきながら懐のベレッタに手を掛けた。

思い切って懐からベレッタを取り出し振り向いた瞬間、イブが目の前に立っていた。

「何をしているんだ?」

「……いや、その本当に死んでるかと思って。一応とどめをさしておこうかと……」

「その必要はない。こいつはもう死んでる。それより前から人が来た。とりあえず死体をこいつの部屋の中に運べ。肩に腕を回し、気分が悪い相手を介抱しているようにして運ぶんだ」

「……はい、わかりました」

小向はイブに従うしかなかった。

たった今人を殺したばかりとは思えないほどイブは冷静だった。

この男を殺すのは無理だ。

イブの機会のように冷たい眼が、小向の殺気を消し去った。

 ノジリの死体を担ぎ、小向はノジリの部屋に入っていった。

その後からイブが背後霊のように音も無く着いてくる。

イブはノジリの死体をバスルームに運ぶように指示した。

小向はノジリの死体をバスタブの中に突っ込んだ。

その間にイブはノジリの部屋を物色し、キッチンから包丁やハサミを持ち出してきた。

イブはバスタブに転がっているノジリの死体を包丁で切断し始めた。

イブは手際よくノジリの死体をバラバラにしていった。

その様子を見ていて小向は吐き気がしてきた。

ヤクザの小向でもこれまで人を切断したことはなかったのだ。

その作業をイブは顔色一つ変えずに難なくこなしている。

小向は改めてイブの恐ろしさを体感した。

こんな男を殺すことはできないと思った。

そんなことを考えている間にもノジリの死体はおびただしい異臭を放ちながら、5つに切断されていた。

「すいません、俺、気分が悪いんで先に上がらせてもらいます」

小向は一刻も早くこの場から抜け出したかった。

目の前の男とはあまりにも住む世界が違いすぎる。

こいつらは異常だ。

次の瞬間、イブはサイレンサー付きの拳銃で小向の額を打ち抜いていた。

小向はばったりと玄関先の廊下に血を流して倒れこんだ。

イブは額の汗を腕で拭いながら、小向の死体に視線を送り、再び作業を続けた。

                                                【続く】

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