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2007年2月22日 (木)

デザイアと呼ばれた男       VOL 22

 こんにちは。D・二プルです。

  【二プルおススメ映画】

   「アマデウス」

 1823年11月、凍てつくウィーンの街で1人の老人が自殺をはかった。「許してくれモーツァルト、おまえを殺したのは私だ」、老人は浮わ言を吐きながら精神病院に運ばれた。数週間後、元気になった老人は神父フォーグラー(リチャード・フランク)に、意外な告白をはじめた。--老人の名はアントニオ・サリエリ(F・マーリー・エイブラハム)。かつてはオーストリア皇帝ヨゼフ二世(ジェフリー・ジョーンズ)に仕えた作曲家だった。神が与え給うた音楽の才に深く感謝し、音楽を通じて神の下僕を任じていた彼だが、神童としてその名がヨーロッパ中に轟いていたウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(トム・ハルス)が彼の前に出現したときその運命が狂い出した。作曲の才能は比類なかったが女たらしのモーツァルトが、サリエリが思いよせるオベラ歌手カテリナ・カヴァリエリ(クリスティン・エバソール)に手を出したことから、彼の凄まじい憎悪は神に向けられたのだ。皇帝が姪の音楽教師としてモーツァルトに白羽の矢を立てようとした時、選考の権限を持っていたサリエリはこれに反対した。そんな彼の許へ、モーツァルトの新妻コンスタンツェ(エリザベス・ベリッジ)が、夫を音楽教師に推薦してもらうべく、音譜を携えて訪れた。コンスタンツェは苦しい家計を支えるために、何としても音楽教師の仕事が欲しかったのだ。フルートとハープの協奏曲、2台のピアノのための協奏曲・・・。譜面の中身は訂正・加筆の跡がない素晴らしい作品ばかりだった。再びショックに打ちのめされたサリエリは神との永遠の訣別を決意した。神はモーツァルトの方を下僕に選んだのだ。ある夜の、仮面舞踏会。ザルツブルグから訪れた父レオポルド(ロイ・ドートリス)、コンスタンツェと共に陽気にはしゃぎ回るモーツァルトが、サリエリの神経を逆撫でする。天才への嫉妬と復讐心に燃えるサリエリは、若きメイドをスパイとしてモーツァルトの家にさし向けた。そして復讐のときがやってきた。皇帝が禁じていたオペラ「フィガロの結婚」の上演をモーツァルトが計画したのだ。サリエリがスパイから得た情報を皇帝に密告したとも知らず、モーツァルトはサリエリに助けを求める。それを放っておくサリエリ。やがて父レオポルドが死んだ。失意のモーツァルトは酒と下品なパーティにのめり込んでいく。そして金のために大衆劇場での「ドン・ジョバンニ」作曲に没頭していくモーツァルトに、サリエリが追い打ちをかける。変装したサリエリがモーツァルトにレクイエムの作曲を依頼したのだ。金の力に負けて作曲を引き受けるモーツァルトだが、精神と肉体の疲労は想像以上にすさまじく、「魔笛」上演中に倒れてしまう。コンスタンツェが夫のあまりの乱行に愛想をつかし旅に出てしまったために無人になった家に、モーツァルトを運び込むサリエリ。仮装した彼は衰弱したモーツァルトにレクイエムの引き渡しを迫る。サリエリは作曲の協力を申し出て、一晩かかってレクイエムを仕上げさせるが、翌朝、サリエリが強いた過酷な労働のためか、モーツァルトは息を引きとった。モーツァルト35歳、1791年12月のことだった。すべてを告白し、いまや老いさらばえたサリエリひとりが、惨めな生を生きるのだった。

 若くして逝った天才音楽家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトと宮庭音楽家アントニオ・サリエリの対決を通してモーツァルトの謎にみちた生涯を描く。製作はソウル・ゼインツ、監督は「ラグタイム」のミロシュ・フォアマン。ピーター・シェーファーが舞台のために書いた脚本を自ら映画のために書き直した。エグゼクティヴ・プロデューサーはマイケル・ハウスマンとバーティル・オールソン、撮影はミロスラフ・オンドリチェク、音楽監督・指揮はネヴィル・マリナー、美術はカレル・サーニー、衣裳はテオドール・ピステック、編集はネーナ・デーンヴィックとマイケル・チャンドラー、プロダクションデザインはP・フフォン・ブランデンシュタイン、オペラ舞台デザインはヨゼフ・スボボダが担当。出演はF・マーリー・エイブラハム、トム・ハルスなど。日本版字幕は戸田奈津子。ドルビーステレオ、テクニカラー、パナビジョン。1984年作品。

     それでは引き続き「デザイアと呼ばれた男」をお楽しみ下さい!

          3

 俺は路上駐車してある車の物陰から奴らの動向を窺っていた。

さすがに良い動きだ。

「ワールド」の照明を落として15秒弱で全員が外に飛び出してきた。

虚勢を張り、すぐに外に出なければ全員ガスの餌食だった。

中にはマユミや小原たちがいる可能性があった為、ただの睡眠ガスだ。

眠らせてしまえばこっちのものだ。

マユミや「ワールド」の連中を助け出し、鬼頭とその仲間たちは今後の動きを封じる為に足の骨を2~3本折れば上出来だろう。

 だが、奴らはあっさりと外に飛び出してきた。

こうなったら予定変更だ。

唯一の救いは奴らが一箇所に固まっていないということだ。

ヒデを相手にしてみて確信したが、鬼頭の仲間たちは一筋縄ではいかない連中が揃っているような気がした。

以前の「ニガー」の連中の比ではない。

俺は國無に習ったことを頭の中でリピートしていた。

多勢を相手にする時は一人ひとり確実に潰す。

完全装備で〝デザイア〟に変身した俺は自信に満ち溢れていた。

精神的なことだけではなく、〝デザイア〟になることで俺は確実に強くなっていた。

 俺は一番近くにいる若い男をターゲットに選んだ。

俺はイブの進行方向を先読みし、戦いの場を細い路地裏に決めた。

俺は闇に紛れながら路地裏に移動した。

國無からの指示で自宅に〝デザイア変身セット〟を取りに行った時、郵便受けの中に鬼頭の仲間全員の写真と新たな武器が入っていた。

 俺の一番近くにいる男はイブという男だ。

イブは辺りを窺いながらこっちに歩いてくる。

辺りに他の奴らの姿は見えなかった。

「おい、イブ、こっちに〝デザイア〟がいたぞ」

俺はボイスチェンジャードロップで低くなった声をさらに変えてイブを呼び寄せた。

俺の声に反応し、イブはこっちに近づいてきた。

 俺は闇の中からイブの右腕を掴み、路地裏に引きずり込んだ。

突然の出来事にもちろんイブはすぐに反応することはできずにいた。

イブがあっけに取られている瞬間に、防犯スプレーを奴の目に喰らわせ視界を奪えば勝ちだと思った。

しかし、俺のスプレーより、イブのナイフが一瞬早く、俺の腕を切り裂いた。

飛び出したスプレーはイブの目からは外れ、空振りに終わった。

俺は瞬時にイブから離れ、距離を取った。

イブは俺を蛙を狙う蛇のような冷たい眼で見つめていた。

イブの眼を見て俺は正直心が凍りつくほどの恐怖を感じた。

イブの眼は今まであった誰よりも機械的でまるで感情を感じられなかった。

「お前が〝デザイア〟か?意外ときゃしゃだな」

「……」

イブは仲間を呼ぶわけでもなく、ジリジリと俺に近づいてきていた。

俺は無意識のうちに路地の奥へ後ずさりしていた。

「何だ、逃げるのか?さっき殺した細い男の方がよっぽど威勢がよかったぞ」

「……殺しただと?一体誰を」

「さあな。名前などいちいち覚えてないな。ただビデオ屋の従業員なのは間違いない。恐らく他の従業員たちも他の奴らに殺されたんじゃないか?今日一日でビデオ屋の連中は全滅だ。もちろん原因はお前のせいだ。お前があいつらを殺したようなもんだな」

 イブの話を聞いても俺にはまるで現実味がなかった。

「ワールド」で一緒に働いていた仲間が目の前の男に殺された?

まるで実感がなかったが俺は無意識にイブに飛び掛っていた。

 イブは俺が飛び掛ってくるのを待ち構えていたように懐からサイレンサー付きの拳銃を抜き、何のためらいもなく発射した。

 銃弾は俺の胸に突き刺さり、俺は路地の奥に吹っ飛んだ。

「さっきはとっさにナイフを抜いちまったが、俺は銃の方が好きでな。手っ取り早くていい。殺しに感情など必要ない」

路上に倒れている俺に近づきながらイブはコンピューター内のデータを処理するように淡々と口走った。

 イブの言葉はしっかりと俺の耳に届いていた。

それは時間にすれば一秒にも満たないわずかな時間だった。

俺の中で今まで無かった感情が爆発的に膨れ上がった。

特に目の前のイブに恨みがあるわけではなかった。

それなのにイブに対して絶対に許せないという感情がみるみるうちに膨張していった。

人は感情があるから生きていられるんだ。

何の感情も持たないお前は生きている資格はない。

すでに死んでいるのと同じだからな。

そんな奴に他人の命を奪う権利はない。

お前の命は俺が終わりにしてやる。

俺の欲望に潰されろ。

イブはジリジリと俺に近づき、トドメ刺しにきている。

俺は足でイブの持っていた拳銃を蹴り上げ、反動をつけて起き上がるとイブの喉を左手で後ろから支え、右の拳を思いっきり叩き込んだ。

イブは拍子をつかれ、口から唾液と吐血が交じり合った液体を吐きながらもがき苦しんだ。

俺は落ちている拳銃をイブのこめかみに近づけるとためらいもなく引き金を引いた。

それは思っていた以上に簡単なものだった。

俺が発射した銃弾はまっすぐにイブの頭を貫通して、あっさりとその命を奪い去った。

人間は簡単に死ぬ。

初めて人を殺したにもかかわらず、俺の心は落ち着いていた。

俺は持っていた拳銃を上着で指紋をふき取り、イブに握らせ、自殺したように見せかけた。

俺は穴の開いた上着に視線を送った。

國無が用意してくれた防弾チョッキのおかげで助かった。

まさか、拳銃が実際に出てくるとは思っていなかったが、護身用に身に着けていて命拾いした。

俺は血を流し、路地に倒れているイブを残し、その場から立ち去った。

          4

 廃屋団地の秘密の部屋で凛一郎の初めての殺人を鑑賞していた國無由自は、画面に身を乗り出して唸り声を上げた。

ついに凛一郎は一線を越えた。

殺人マシンイブを射殺した。

それはあまりにもあっさりと決まった。

 國無はグラスの中に残っていたワインを一気に飲み干し、新しくグラスにワインをなみなみと注いだ。

國無は再びワインを一口飲み、口の周りをティッシュでふき取ると、笑みを浮かべながら画面に視線を戻した。

國無は今、満足していた。

 凛一郎がこれで完全な犯罪者の仲間入りを果たしたような気がした。

これで凛一郎は後戻りできなくなった。

罪人は必ず罪を償わなければならない。

凛一郎には一体どんな罰が待ち受けているのだろうか?

それを想像すると國無は身震いがした。

國無が頭の中で思い描いている妄想はやがて、近い将来現実に起こりえることなのだ。

 イブを射殺した俺は「ワールド」の中に足を踏み入れた。

さすがに防弾チョッキを着ていたとはいえ、実弾の衝撃は半端なものではなかった。

鋼鉄のボディーブローを喰らったのだ。

内臓に相当の衝撃を受けた。

もしかしたら、何本か骨がイっているかもしれない。

 俺は少し休みたかった。

ガスを送り込んだ店内なら奴らも入ってこないだろう。

もちろん口にはミニガスマスクを着けている。

しかし、鬼頭たちは外に飛び出した時、扉を開けっぱなしで出て行った為、ガスはほとんど抜けてしまっていた。

 真っ暗な店内は棚が全部左右に寄せられ、変わり果てた姿になっていた。

俺はそこで信じられないような光景を目にした。

まず入り口のすぐ近くに全裸のユカが無残な姿で倒れていた。

俺はユカがレイプされ、ガスによって意識を失っているだけだと思っていた。

しかし、近づいていくとそれがすぐに違うということに気づいた。

ユカは舌を切り取られ死んでいた。

おまけに歯も何本か抜かれている。

ユカの腹の上にはまだねばねばしたザーメンがたっぷりとかけられていた。

 そして、広く開けられたスペースの中央では裸にされた小学生の男の子が仰向けに倒れていた。

この子が誰なのか俺には分からなかったが、この地獄のような現場に裸にされた小学生が倒れていること事態、狂った状況を物語っていた。

唯一の救いはこの小学生がまだ生きていたということだ。

男の子はただ意識を失っているだけだった。

ただし、何者かによって何らかの猥褻行為を受けていることは間違いなかった。

その証拠に、この小学生の顔にも薄汚い精液がたっぷりとかけられていたのだ。

俺は手袋をはめた手で精液をふき取り、その子を抱きかかえカウンターの裏側にある元休憩室だった店の奥に運び、横に寝かせた。

今すぐこの子を連れてここから脱出するのは不可能だ。

全てが片付いたら安全な場所までこの子を運び出すつもりだ。

俺は元休憩室のカーテンを閉め、個室を確保した。

 俺は休憩室を出て再び外へ出ようとした時、AVコーナーの入り口近くの壁際にゴミのような塊があるのに気が付いた。

恐る恐る近づいてみると、床の上に転がっているのは変わり果てた小原の姿だった。

俺は急いでしゃがみこみ、小原の生死を確認した。

小原は生きていた。瀕死の状態だったがまだ微かに生きていた。

ガスによって意識は失っていたがまだ心臓は動き、呼吸もしている。

しかし、これは一刻を争う事態となった。

すぐにでも小原をここから連れ出し、病院へ運ばなければならない。

それは不可能に近いことだった。

まだ、鬼頭とその仲間たちは外で〝デザイア〟を捜している。

その包囲網を潜り抜け、病院に行くのは不可能だ。

俺は足元に横たわる虫の息の小原を見つめた。

やはり見殺しにはできない。

もうこれ以上俺の周りで人が死ぬのはごめんだ。

その時、俺はあるアイディアを思いついた。

俺は小原のズボンのポケットから携帯を取り出し、119番をプッシュした。

「ここに瀕死の状態のケガ人がいる。すぐ来てくれ。緊急事態だ。ここは三宿の交差点付近のレンタルビデオ店『ワールド』だ」

電話の向こうで女が何かを言っていたが、俺は無視して電話を切った。

続いて俺は小原の携帯で110番をプッシュした。

「大変だ。人が死んでる。ここは三宿の交差点付近のレンタルビデオ店『ワールド』だ」

そう言って俺は同じように電話を切った。

これは賭けだ。

救急車と警察が来るドサクサに紛れて鬼頭たちの包囲網を掻い潜る。

状況によって判断し、救急車に小原を任せるか、一緒に脱出するかはまだ決められないが、とにかくこの絶望的な状況をかき混ぜて切り抜けてみせる。

 警察と救急車が到着するまで早くても15分はかかる。

それまではここで身を休めよう。

俺がそう思った時、俺は後ろに気配を感じた。

まだ、この空間に誰かがいるのか?

俺がそう思って振り返ると、入り口のところにマルイケが立っていた。

「……こいつは驚きだ。あの子供を一緒に連れて行こうと思って戻ってみたら思わぬ獲物をみつけた」

そう言ってマルイケは入り口の扉を閉めた。

 マルイケは俺をジッと見つめている。

「おい、ここにいた小学生のガキはどうした?あいつは俺の獲物だ。誰にもわたさないぞ」

辺りを見回し、子供を探すその眼はイブとは違い薄汚いロリコンの汚らわしい欲望に溢れていた。

マルイケは元休憩室だったカーテンの奥へ視線を送り、近づいていった。

俺はマルイケの進行方向に立ちふさがり、奴の行く先を邪魔した。

「おい、邪魔するな。俺は子供にしか興味ないんだ。それが男だろうが女だろうが関係ない。汚れていない純粋な子供を犯すことが俺の生きがいなんだ。そこをどきやがれ」

「勘違いするな。別に子供なんてどうでもいい。ただお前の好きにはさせないということだ。俺はお前を殺したいと思ってるんだからな。なんだったら殺す前に犯してやろうか?」

マルイケの眼つきが変わった。

奴はここで俺を狩ろうとしている。

だが、のんびりしている時間はない。

さっきの電話がタイムリミットを作ってしまった。

のんびりとここでマルイケと戦っていれば、俺まで警察に捕まってしまう。

それにここで激しく争えば小原や小学生にまで危害が及ぶ恐れがある。

 俺が頭の中で考えをめぐらせている間にマルイケは猛突進して向かってきた。

俺は必死に身をかわしたが、予想以上に素早いマルイケに腕を掴まれてしまった。

「捕まえたぞ。俺は昔からすばしっこい子供を追いかけて捕まえてきたからな。お前を捕まえるなんて簡単だ」

俺はマルイケの言葉を無視して、マルイケの顔面を力いっぱい殴りつけた。

マルイケは吹っ飛びDVDが並んでいる棚に激突し、その衝撃で落ちてきた商品の下敷きになった。

たが、その一瞬の隙に奴は巧みな罠を仕掛けていた。

マルイケは俺の手首にヒモ状の拘束具をはめていたのだ。

俺は必死に拘束具を外そうとしたが、それは外れなかった。

「無駄だ。それはアメリカの警察が向こうの凶悪犯を逮捕する時に使う拘束具だ。手錠よりも簡単にはめられて、ナイフでも簡単には切れないぜ。俺はいつもそれを子供にはめて、自由を奪って遊んでいたんだ」

 マルイケはポケットからもう一つの拘束具を取り出した。

「さあ、今度は足だ」

あれを足にはめられたら完全にアウトだ。

俺は迫り来るマルイケから逃げ惑うだけで精一杯だった。

マルイケは狂ったように飛び掛ってきて、俺の足に拘束具をはめようとしている。

俺はマルイケの顔面を蹴り上げ、また距離を取った。

 それでもマルイケはゆっくりと起き上がり、首を振って意識を保つと、再び俺に襲い掛かろうと歩み寄ってきた。

このままじゃラチがあかない。

しかし、手首に拘束具をはめられた状態じゃ満足に攻撃することもできない。

早くしないと警察が突入してくる。

 俺の足に拘束具をかけることのできないと悟ったマルイケは作戦を変更したようだった。

マルイケは懐からナイフを抜き、俺に容赦なく襲い掛かってきた。

腕の自由を奪われた状態で、目の前から刃物を持った狂人が襲ってくるのは想像以上に怖いことだった。

マルイケのナイフが俺の肩や頬をかする度に、俺は自分の死を覚悟した。

俺はここで死ぬのか?

そんなことに気をとられていた時、俺は足を滑らせ、床に尻餅をついた。

絶好のチャンスとばかりにマルイケがナイフと拘束具を構えて飛び掛ってきた。

ヤバイ、やられる。

 しかし、マルイケはその場に立ち止まり、ふらふらと千鳥足で苦しみ始めた。

それはまるで酒に酔った酔っ払いのような状態だった。

マルイケはついにナイフとヒモ状の拘束具を手から離し、ガッツリと膝を床につけた。

その時、俺はハッとなった。

俺がはじめにエアコンに細工して仕掛けた睡眠ガスがそのまま出しっぱなしの状態になっていたのだ。

マルイケがやってきた時、扉を閉め密室にしたことでガスが充満し、マルイケは倒れたのだった。

俺はずっとガスマスクを着けた状態だった為、そのことをすっかりと忘れていた。

思わぬ儲けものだった。

 俺は転がっていたマルイケのナイフを拾い、倒れているマルイケを見つめた。

こいつはたぶん今までに何人もの子供たちを虐待し、犯して、猥褻行為を繰り返してきたに違いない。

ここで奴を殺しておいたほうが世の中の為なんじゃないか?

その時、俺は今目の前で倒れているマルイケと自分の姿を重ね合わせていた。

俺とこいつのどこに違いがある。

こいつは自分の欲望の為に他人を犠牲にして生きてきた男だ。

しかし、それは人間として当たり前のことだ。

こいつのやってきたことを認めるわけではないが、今ここでこいつを殺してもこいつは何の後悔もしないで勝ちのまま死ぬのだ。こいつには生きて自分のしてきた人生が本当に正しかったのかを問いただして苦しめたいと思った。

死ぬことは償いにはならない。

死よりも生きる方が遥かに過酷で辛いものだ。

俺はマルイケを殺すのをやめ、手首を締め付けている拘束具に切り込みを入れた。

しかし、マルイケが言っていた通り、拘束具はなかなか切れなかった。

さすがにアメリカの凶悪犯を拘束するだけのことはある。

俺が時間をかけて拘束具を切っていた時、外でパトカーのサイレンが聞こえてきた。

まずい、とにかくここから脱出だ。

俺は時間を稼ぐ為に扉に鍵を掛け、カーテンの中に元休憩室の奥にあるトイレへ向かった。

休憩室では小学生の男の子が俺が移動させた状態のまま眠っていた。

これで警察と救急車が来れば、小原と小学生は病院に運ばれるだろう。

ユカは……残念だが、今は放っておくしかない。

俺はもう一度床に倒れているマルイケの姿を見つめた。

マルイケには「ワールド」で起きた全ての罪を被ってもらおう。

 俺は手首を縛られたまま、トイレの天井の通気候から天井裏に出て、惨劇の現場から逃げ出した。

                                                 【続く】

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2007年2月14日 (水)

デザイアと呼ばれた男  VOL 21

 こんにちは。D・二プルです。

 今日はバレンタインデー、二プルの特性有害チョコを召し上がれ!

   【二プルのおススメ映画】

 「ショコラ」

 

 フランスの小さな村。レノ伯爵(アルフレッド・モリーナ)の猛威で因習に凝り固まったこの村に、ある日、不思議な女ヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)と娘アヌーク(ヴィクトワール・ティヴィソル)が越してきてチョコレート店を開く。次々と村の掟を吹き飛ばす二人の美しい新参者に、訝しげな視線を注ぐ人々。しかし、チョコレートのおいしさに魅了された村人たちは、心を開き、それまで秘めていた情熱を目覚めさせていく。そして、夫の暴力を恐れ店に逃げ込んだジョゼフィーヌ(レナ・オリン)がヴィアンヌ母娘の生活に加わってまもなく、河辺にジプシーの一団が停泊する。ヴィアンヌは、そのリーダーであるルー(ジョニー・デップ)という美しい男性に心を奪われ、彼を店に招き入れる。だがよそ者であるジプシーたちを快く思わない村人たちの、ヴィアンヌに対する風当たりは強くなった。やがて老女アルマンド(ジュディ・デンチ)の誕生日パーティー中、ルーの船は放火され、ジプシーの一行は村を出ていく。そして疲れて眠ったまま息を引き取ったアルマンドの葬式が続く中、ヴィアンヌは荷造りをして、次の土地に移るべく、嫌がる娘を引っ張って出ていこうとするのだった。

 不思議なチョコレートを売る母娘が因習に閉ざされた村を幸せに導くファンタジック・ロマン。監督は「サイダーハウス・ルール」のラッセ・ハルストレム。脚本は「ダイナソー」のロバート・ネルスン・ジェイコブズ。原作はジョアン・ハリス。撮影は「102」のロジャー・プラット。音楽は「バガー・ヴァンスの伝説」のレイチェル・ポートマン。出演は「サン・ピエールの生命」のジュリエット・ビノシュ、「スリーピー・ホロウ」のジョニー・デップ、「ムッソリーニとお茶を」のジュディ・デンチ、「ナインス・ゲート」のレナ・オリン、「マグノリア」のアルフレッド・モリーナ、「ミリオンダラー・ホテル」のピーター・ストーメア、「レッド プラネット」のキャリー=アン・モス、「タメージ」のレスリー・キャロン、「理想の結婚」のジョン・ウッド、「ホテル・スプレンディッド」のヒュー・オコナー、「年下のひと」のヴィクトワール・ティヴィソルほか。2000年サン・ディエゴ映画批評家協会最優秀脚色賞受賞。

 それでは引き続き「デザイアと呼ばれた男」をお楽しみ下さい。

第七章  獣たちの宴

          1

「ワールド」は異様な空気に包まれていた。

まだ23時前だというのに扉には鍵が掛かり、「CLOSE」のプレートがぶら下がっていた。

 さらに店内は異常な状態だった。

通常所狭しと並べられているDVDとビデオの棚が左右両端に押しやられ、カウンターの前には大きなスペースが空けられていた。

その中央には手足に手錠を掛けられ口から血を流した小原がうつ伏せに倒れていた。

小原の周りを囲むようにシロー、タツオ、タツヒコ、ジャック、イブ、エナリがカウンターの上や地べたに座って鬼頭の到着を待っていた。

「誰か〝デザイア〟にたどり着いた奴はいたのか?」

「まだ誰も決定的な情報は掴めてないようだな」

「どうせ、途中で飽きて自分の趣味に突っ走ってたんじゃないのか?」

「鬼頭はまだかよ。人を呼び出しといて待たせるなんて相変わらず勝手な奴だ」

「退屈しのぎにそこで縛られてる坊ちゃん刈りを拷問しようか?〝デザイア〟の情報を知ってるかもしれないぜ」

その一言で小原の表情は凍りついた。

「それならコイツの歯を一本ずつ抜いていこうか?きっとしゃべるぜ」

「待てよ。どうせなら、ここにかわいい小動物がいるぜ。こいつと遊ばせよう」

「蟲どもを飲ませるのもオツだぜ」

「誰かコイツをレイプしてみろ。なんなら俺がやってもいいけどな」

「さっさと消しちまえばいいんだ」

「待て、そいつがどれだけ痛みを与えられるか開放してみるってのはどうだ?」

それぞれが勝手に自分の趣味を口走っていたが、小原からすればとても生きた心地がしなかった。

 その時、ドアをノックする音がした。

「お、鬼頭が来たか」

エナリがドアを開けると大きなダンボールを抱えたマルイケが立っていた。

マルイケはダンボールを抱えたまま中に入ってきた。

その後ろからユカが恐る恐る入ってきた。

ユカは縛られ、傷ついている小原を見てその異常な状態に驚いた。

まさか小原にも自分と同じような非常事態が起こっているとは思いもよらなかったのだ。

「おお、女だ」

ジャックがユカに近づき触れようとした。

「待て、まだその女に手を出すな。そいつは〝デザイア〟の情報を知ってるようだ。こいつが言うには〝デザイア〟は女だそうだ」

「女?本当かよ」

「女なら楽しみが増えるってもんだな」

「まあ、それが本当だったらな。もし、嘘だったら殺せばいい。息子の目の前でな」

そう言ってマルイケはダンボールを開け、中から巨大な熊のぬいぐるみを取り出し、ジッパーを開き中から眠っているスグルを取り出した。

「こいつ、また子供までさらってきやがった。本当に好きだなお前も」

「うるせえ、女はくれてやる。ただし、こいつは俺の獲物だ」

そう言ってマルイケは眠っているスグルの頬をヨダレが滴る舌で嘗めた。

「ちょっと、スグルに手を出さないで」

ユカがスグルに近づこうとするのをジャックが止めた。

「お母さん、息子さんより自分の心配をしたほうがいいんじゃないかな。こいつは子供にしか興味がないからあんたに手を出さなかったけど、ここにいる奴らは女とみれば目の色変えて飛びつくような変態ばかりだ。これからどうなるか想像できるか?」

ジャックはユカの肩を抱きすくめながら、髪を指で掬い上げながら匂いを嗅いだ。

「ちょっと触らないで」

「気が強い女は大好きだぜ」

「私に手を出したら〝デザイア〟の情報は教えないわよ」

「なーに、それでも構わないさ。そのうち話したくても話せなくなるんだからな」

「……」

ジャックたちの異常な態度にユカは言葉を失いどうすることもできなかった。

 その時、ノックがして、鬼頭が店内に入ってきた。

「お前ら、鍵を掛けとけって言っておいただろうが。ん、何だその女と子供は?」

鬼頭はユカとスグルに視線を向けた。

「鬼頭、この女が言うのは〝デザイア〟は女らしいぜ」

「何?ふざけるんじゃねえ。奴は間違いなく男だ。奴は俺の女を犯してるんだ。それに俺は実際に〝デザイア〟をこの目で見てる。あれは間違いなく俺たちと同じ男だ」

「……このアマ、やっぱり嘘だったのか。てめえ、どうなるか分かってるんだろうな」

マルイケはスグルの髪を掴み、スグルを宙に持ち上げた。

「止めて、息子には手を出さないで」

次の瞬間、ジャックがユカの服を一気に毟り取り、その場に押し倒した。

その様子を見ていた小原は身動きが取れない状態でもがいていた。

そんな小原の顔面をイブが蹴り上げた。

小原の額はぱっくりと割れ、おびただしい流血が辺りを染めた。

小原は棚に背中をぶつけ、ぴくぴくと痙攣したまま動かなくなった。

 その間にジャックはユカの両腕を右手で押さえ、左手を嘗め、ヴァギナを濡らすとそのまま自分のペニスを挿入した。

ユカは泣き叫びながら抵抗したが、かえってジャックを欲情させた。

「もっと抵抗しろよ。それがレイプの醍醐味なんだからな」

その様子を他の者たちは薄ら笑いを浮かべながら見ていた。

「おい、犯り終わったら殺すなよ。次は俺と兄ちゃんにまわせよ」

タツヒコがそう言っている間に、シローが犯されているユカの歯をペンチで抜いていた。

「うひょー、たまんないぜ」

「おい、お前ら、後始末はしっかりしとけよ。それに肝心の〝デザイア〟の情報がまったく掴めてないじゃないか」

鬼頭は少しキレぎみで言った。

シローはユカの二本目の歯を抜いた。

ジャックは激しくピストン運動を続けている。

タツオとタツヒコが倒れている小原に近づいて何かをしようとしていた。

鬼頭が小原に近づいていく。

「おい、コイツは死んだのか?」

「いや、まだわずかに生きてるよ」

イブがあっさりと言った。

マルイケがスグルを裸にして下半身を弄っていた。

その地獄のような光景を見てユカはもう助からないと覚悟を決めた。

シローに歯を抜かれながら突然、ユカは狂ったように大声で笑い出した。

その意外なユカの笑いに一瞬、全員の視線が集まった。

「確かに私は嘘をついてたわ。私はずっとあの女を憎んでいただけなの。あの女に嫉妬していただけなの。いつかあの女をめちゃくちゃにしてやりたいと思ってた。あんた達が捜してる〝デザイア〟なんて本当は全然知らないけど、あの女に聞くといいわ。あの女はその〝デザイア〟に恋していた。それは間違いない。あの子をたどれば必ず〝デザイア〟にたどり着くはずだわ……」

 鬼頭は思わず、ユカに駆け寄った。

「誰だ?その女ってのは。名前を言え」

「……安久津マユミ。あの女、ひどい目にあえばいいのよ。あいつが好きな男のせいで私やスグルがこんな目にあってるんだもの。どうせなら死ぬ以上に悲惨な想いをすればいいのよ。あ~あ、どうせなら私の手でめちゃくちゃにしてやりたかった……」

「……ジャック、どけ!その女にまだ聞きたいことがある」

鬼頭がそう叫んだ次の瞬間、ユカは自分の舌を噛み切って自殺した。

ユカは噛み切った舌を喉の詰まらせ、窒息死して死んだ。

ジャックはユカから離れ、服を着始めた。

「あ~あ、死んじまった。これじゃもう、おもしろくない」

「ヒデがいれば喜んで犯しただろうがな。そう言えばヒデが来てないな」

「そう言えばジョーの奴も来てないぜ」

「……やはりあの女、〝デザイア〟と繋がってたか。はやりあの女は第一に押さえておくべきだった。おい、誰かこの中で安久津マユミと接触した者はいるか?正直に答えろ。まさかまだ殺していないだろうな」

鬼頭がそう叫んだ時、突然、店内の照明が落ちた。

「……何だ?どうなってんだ。停電か?」

皆が動揺する中、鬼頭はハッとなった。

「……全員すぐに表に出るんだ。これは奴の罠だ。恐らく室内を暗くしてガスを流すつもりだ。表に出ても油断するな奴は必ず近くに潜んでるぞ」

鬼頭の言葉を聞いてイブを先頭に全員が急いで外に飛び出した。

「俺が〝デザイア〟を殺す」

全員が心の中でそう叫んでいた。

          2

 國無がアジトとして使っている廃屋団地の前に一台のワンボックスカーが停まっていた。

ワンボックスカーの窓ガラスにはスモークが張られ、外から中の様子を見ることはできなかった。

とはいえ、夜の10時を回ればこの辺は人通りもなくなる為、中を覗かれる心配はまずなかった。

 ワンボックスカーの後部座席には意識を失ったマユミが横になっていた。

もちろんマユミは息をして生きている。

 國無がなぜマユミを助けたのか?

國無はなぜマユミの場所を把握していたのか?

國無の行動はその時の気分次第で衝動的なもののようにも思えた。

しかし、それは緻密に計算され、全て初めからシナリオに書かれていた行動だった。

 マユミをワンボックスカーに残し、國無はアジトの廃屋団地の中の一室にいた。

しかし、そこはいつも凛一郎と密談する部屋ではなく、その隣に位置する國無以外誰も入れない秘密の部屋の一つだった。

 國無はこの団地内にそれぞれの役割に担う部屋をいくつも確保していた。

凛一郎が知る部屋はその中でも一つだけだった。

 國無は大きなソファーに座り、ワインを飲みながら優雅に目の前の画面を見つめていた。

画面といっても國無の目の前にあるそのモニターの数は全部で30あった。

一番大きなプラズマテレビを使ったメインモニターを筆頭に、壁一面にモニターが並べられていた。

 そこに映し出されていた映像は映画でも今日のニュースでもスポーツ中継でもなく、今、現在の「ワールド」周辺の映像が流れていた。

そこには鬼頭も、鬼頭の仲間たちも、〝デザイア〟に変身した凛一郎の姿も映っていた。

とても信じられないことだったが、國無は自ら用意し取り付けた隠しカメラで「ワールド」周辺で起きている出来事の一部始終をこの部屋で観賞することを可能にしてしまったのだ。

もちろん、音声も傍受可能だった。

 國無はテーブルの上に置いてあるノートパソコンを開き、自分の書いた「バク計画 五味凛一郎のデザイア」というホルダーを開いた。

そこには今まで凛一郎が体験してきた出来事がそのままシナリオの形になって書き上げられていた。

問題なのはこのシナリオが現実に起きた出来事の後に書かれたものではなく、凛一郎が体験する前に書かれていたということだった。

 凛一郎の行動は全て國無が作り上げたシナリオ上に書かれたことだったのだ。

もちろん、そのシナリオの中には人の死も描かれていて、シナリオに書かれている通りに人が死んでいた。

これは恐ろしいことだった。

誰も知らないところで恐ろしい出来事が現実に起こっていた。

 しかし、國無にとってこれは初めてのことではなく、もうすでに何度も経験していることだった。

國無は何度もこの恐ろしい実験を繰り返し行ってきた。

 ノートパソコンの画面には「ワールド」周辺での〝デザイア〟と鬼頭の仲間たちとの死闘が描かれていた。

画面を見つめながら國無は独り言を呟いた。

「いよいよ、ここまで来たか。さあ、楽しませてもらうぜ。凛一郎にとってここは大きな山場だ。ここで鬼頭の仲間たちとぶつかることで凛一郎に欠けている要素を吸収することができれば奴は生き残れる。もし、それができなければ凛一郎は死ぬ。これは大きな賭けだが、ここで死ぬようなら所詮そこまでの男だったということだ。この先、俺の作り上げたシナリオを進むことはできない。しかし、もしもここで生き残れることができれば、凛一郎は本物の犯罪者へと成長する。それにはどうしても超えなければならない一線がある。ヒデとの戦いでそれが開花するかとも思ったが、奴はギリギリのところで留まり一線を越えなかった。だが、ここでそれを見出せなければこの先の修羅場を生き残ることはできない……」

 國無は再び30の画面を見つめ、リモコンで凛一郎が映っている画面に切り替えた。

完全装備で〝デザイア〟に変身した凛一郎は闇に潜み、鬼頭たちの動向を窺っていた。

鬼頭たちは一斉に「ワールド」から飛び出してきたが一箇所には固まらずバラバラに散り、〝デザイア〟を捜していた。

鬼頭の仲間たちにとって基本的にチームプレイという考えは頭になかった。

それぞれが自分のスタイルに自信を持っていて、集団行動を嫌い、欲望と本能のままに行動する獣たちだった。

標的である〝デザイア〟が近くにいると知り、未知の敵に対する好奇心を燃やし、それぞれが自分の手で最高の獲物を陵辱したいと思っていた。

だから、他の者と協力しようと考えるものは一人もいなかった。

それは鬼頭も人一倍理解していた。

がからこそ自分自身が一番に〝デザイア〟を見つけなければならないと思っていた。

 しかし、物陰から見つめる凛一郎の視界に先にはイブの姿があった。

凛一郎は第一のターゲットをイブに決めたようだった。

 「初めはイブか。ちょうどいい。あいつは凛一郎に一番欠けている冷酷さを一番持っている」

そう呟くと國無はノートパソコンの別のフォルダーを開いた。

そこには鬼頭の仲間たちの細かい情報が鮮明に書き込まれていた。

その中で國無自身が殺害したジョーと凛一郎に重傷を負わされ警察に逮捕されたヒデの二人のデータは黒く色を分けられ分別されていた。

 「イブ タカアキ 21歳……幼い頃から両親に虐待され続けて育つ。9歳の時、親を撲殺して自宅を放火。その後世間から姿をくらませる。表向きには行方不明のまま処理されているが、その後、イブは生き残る為に犯罪を繰り返す。しかし、前科は一度もなし。殺害人数は調べがついているだけでも128人。恐らくはそれ以上。イブの場合は特殊な性癖は無く、ただ自分に邪魔な存在の人間はためらいも無く殺す。しかも殺す時に何の感情ももたず、ただ虫を殺すのと同じ感覚で人を殺す。メンバーの中でも一番〝デザイア〟に関心を持っていない。ただ、暇つぶしに珍しい害虫を殺してみようかぐらいの想い……」

 國無はファイルを消し、元のシナリオの画面に戻した。

「ワールド周辺バトルロワイヤル」一回戦は〝レイパー デザイア〟対〝無感傷殺人鬼 イブ〟だ。

                                                     【続く】

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2007年2月 5日 (月)

デザイアと呼ばれた男     VOL 20

 こんにちは。D・二プルです。

 皆さん、暖冬の日々をどうお過ごしですか?

 【二プルおススメ映画】

  「悪魔を憐れむ歌

  殺人課の刑事ジョン・ホブズ(デンゼル・ワシントン)が逮捕した残虐な連続殺人犯が死刑に処せられた。その直前、彼はジョンに奇妙な言葉を残していた。「また会おうぜ。俺は、お前の元に戻ってくる」。立ち会ったホブズの前で、男は確かに絶命したはずだった。“Time is on my side・・・”と歌いながら。
 しかし、その直後から処刑された殺人犯と同じ手口と連続殺人事件が起きる・・・・。

  ローリング・ストーンズの名曲『Time is on my side』が印象的な作品。見終わってもまだ耳に残っていて、まさに”悪魔”に魅入られたように、しばらくこの曲を口ずさみながら歩く日が続いた。
 主演は実力派俳優、デンゼル・ワシントン。殺人課の刑事ジョンに扮し、犯行現場に遺された謎の言葉と、暗号めいた数字を手がかりに捜査を進める。人間から人間へと渡り歩く“悪魔”には通常の人間では到底歯が立たず、「オーメン」を見て感じたような絶望的な気持ちに陥る。その”悪魔”に対し、ジョンは秘策をもって最後の闘いを挑むが、それ以上に悪魔は巧妙だった。意外なラストは見モノ。
 最近、”悪魔”に取り憑かれたような犯罪が多発している。動機不明の殺人事件も起こってきている。普通の人間が残虐な手口で殺人を犯したというニュースに接すると、人に取り憑く”悪魔”の存在を信じたくなってくる。全編にわたり、得体の知れない”悪魔”の不気味さと怖さを感じさせてくれる作品である。

監督:グレゴリー・ホブリット
製作:チャールズ・ローベン/ドーン・スティール

出演:
デンゼル・ワシントン
ジョン・グッドマン
ドナルド・サザーランド

 それでは引き続き「デザイアと呼ばれた男」をお楽しみ下さい!

11

 自転車でマユミの家に向かう俺の携帯が突然鳴り響いた。

液晶画面を見ると電話の相手は國無だった。

「もしもし……」

「凛一郎、今どこにいる?」

「……いま、ちょっと外に出てるんだけど……」

「大変だ。マユミが鬼頭の仲間にさらわれたぞ」

「……さらわれた?あんたそれを黙って見てたのか?何で助けなかったんだ」

「オレの所にも鬼頭の仲間が襲ってきたんだ。それを撃退するのに時間がかかってマユミを助けられなかった。すまん。とにかく、お前は今すぐ『ワールド』に行け。奴ら、『ワールド』で〝デザイア〟を待ち伏せするつもりだ。いいか、一度家に戻り、完全に装備を整えて〝デザイア〟として行くんだ。奴らは本気でお前を殺そうとしている。それにマユミや他の奴らに正体がばれないように気をつけるんだ。オレもなるべく早く着くようにするからな」

そう言って國無は一方的に電話を切った。

 マユミが鬼頭の仲間にさらわれたって?

やはり予感が的中した。

マユミをさらった奴がどんな奴か知らないが、ヒデを見た限り危ない奴である可能性が高い。

 俺は慌てて自転車をUターンさせ、「ワールド」に引き返した。

 ユカは自宅のアパートで食事の後片付けをしていた。

ユカの息子スグルはリビングで大好きなテレビゲームをしていた。

 ユカは昼間「ワールド」で働き、帰ってきてから家事とスグルの世話を全て一人でこなしていた。

スグルは今年で10歳になり、だいぶ手が掛からなくなってきたとはいえ、まだまだ母親を必要とする年頃だった。

ユカはスグルにシングルマザーであることを感じさせないように精一杯愛情を注いでいた。

ユカにとってスグルはかけがえの無い最愛の宝だった。

 そんなユカでも女手一つでスグルを育てながら生活を支えていくのはとても大変だった。

それは並大抵の努力ではなかった。

ストレスも人並み以上に溜まった。

それでもユカは誰の力も借りずに生きていた。

 そんなユカにとって自由奔放に生きるマユミは気に入らない存在だった。

同い年にもかかわらず好きなミュージシャンの追っかけをして、すき放題酒を飲み、男と乱闘騒ぎを起こすような女を許すことができなかった。

そのくせ、妙に男を引き付けるところがあり、マユミの顔を見るとユカはイライラした。

「ワールド」でマユミと一緒のシフトに入っている時、ユカは絶対に顔には出さなかったが、心の中ではハラワタが煮えくり返るほど、マユミに苛立ちを感じていた。

それでも「ワールド」内での仕事は互角で、いくらプライベートが乱れているとはいえ、ユカにはマユミを批判することはできなかった。

ユカは心の奥底でいつかマユミをめちゃくちゃにしたいと思っていた。

 もちろんユカはマユミの過去を知らなかった。

マユミの恋人が殺されたことや、レイプされたことなどユカは知る由もなかった。

もし、ユカがマユミの過去を知っていれば事態は変わっていたかもしれなかった。

 

 ピンポーン。

突然、アパートのインターホンが鳴った。

「ママー、誰か来たよー」

スグルはTV画面から視線をそらさずに叫んだ。

こんな時間に訪れる来客は珍しかった。

ユカは洗い物をしていた手を止め、玄関に小走りで近づいて行った。

「はーい、どちら様ですか」

「お届け物です」

ユカが覗き穴から見ると、ドアの前に大きなダンボールを抱えた男が立っていた。

ダンボールで顔は見えなかったが、持っていた荷物のせいもあってユカはドアの鍵を開けた。
するとダンボールを持った男はつかつかと玄関から室内に上がりこんできた。

「……ちょっとあなた、何なんですか?」

ユカはそう言って男の後を追いかけて部屋の奥へ進んで行った。

男は確かに宅急便の配達員の格好をしていたが、その行動は明らかに異常だった。

男はスグルの前にダンボールを置くと「あけてごらん」と甘い声で囁き、再び玄関のほうへ早足で歩いていった。

男はユカを通り越し、玄関の鍵を掛けると、再びリビングに戻ってきた。

男の顔は笑っていたが、ユカをリビングに手で押しやり、逃げ道を塞いだ。

突然の異常な事態にユカはどうすることもできなかった。

スグルはわけも分からずうれしそうにダンボールの包み紙を開けている。

 そんなスグルの姿を男はジッと見つめていた。

ユカはその男の視線を見逃さなかった。

スグルを見つめる男の眼は明らかに異常だった。

ユカはその恐怖で声を出すことも動くこともできなかった。

スグルがダンボールを開けると中からは巨大な熊のぬいぐるみが出てきた。

「うわー、すごい、すごい」

スグルはユカの気持ちなど知らずに目の前のプレゼントにはしゃいでいる。

男はそんなスグルの頭をニタニタしながら撫でた。

「ねえ、おじさん誰なの?何でこんなプレゼントくれるの?」

「僕はマルイケ。夢の国から君を迎えに来たんだよ。さあ、一緒に遊ぼうよ」

そう言ってマルイケはスグルに棒つきのキャンディーを差し出した。

「わぁ、ありがと」

スグルはマルイケからキャンディーを受け取り、すぐに包み紙を剥がし、口の中に入れた。

キャンディーでスグルの口を塞いだマルイケは初めてユカに視線を向けた。

「お母さん、あなたに聞きたいことがあるんだ。正直に答えてね。〝デザイア〟がどこにいるか知ってる?」

「……〝デザイア〟?何それ?」

「僕は今〝デザイア〟って男を捜してるんだ。あなたはその男を知ってるんじゃないかな?知ってたら教えて欲しいんだ。〝デザイア〟はどこにいる?」

「……知らないわ」

「あっそう。やっぱりそうか……」

マルイケはユカの答えにまるで興味がなさそうに呟いた。

「初めからあんたが知ってる可能性は低かったんだよね。別にあんたが嘘つく理由も無いしね。まあ、あんたを選んだのは別の理由だったんだけど……」

そう言いながらマルイケはスグルに視線を送った。

マルイケの視線に釣られユカもスグルに視線を向けた。

すると今までキャンディーを嘗めていたはずのスグルはいつの間にか意識を失い床に倒れていた。

「スグル……」

「大丈夫、眠ってるだけだよ」

マルイケは初めから分かっていたように落ち着いた態度で言うと、巨大な熊のぬいぐるみのジッパーを開け、中から綿を抜き始めた。

マルイケは慣れた手つきで全ての綿を抜き取ると、その場に倒れているスグルを抱きかかえ、ぬいぐるみの中に詰め込んだ。

「……ちょっと何するの!」

マルイケの異常な行動にユカは殺到する。

「どうやら、あんたも〝デザイア〟の情報を知らないようだし、僕は自分の趣味を楽しませてもらうわ」

そう言ってマルイケはスグルの入った熊のぬいぐるみを今度はダンボールにしまいこんだ。

「ちょっと、息子を返して」

必死にダンボールにしがみつこうとするユカをマルイケは裏拳で殴り倒した。

「邪魔するな。僕は女には興味ないんだ。僕が愛するのは子供たちだけさ」

マルイケはそう言って淡々と作業を続けた。

 マルイケは児童性愛の性癖を持っていた。

これまで何人もの幼い子供たちを欲望のままに弄び、なぶり殺しにしてきた。

〝ネバーランド〟と名づけた自宅に何人もの小学生を監禁していた。

マルイケにとっては3歳から12歳までの子供だけが性の対象だった。

それでもユカはスグルを取り返そうとマルイケに立ちはだかった。

マルイケは面倒くさそうにユカを殴り付け、倒れたユカの顔を踏みつけた。

「あんまり邪魔してると殺すよ。この子は僕が貰うって決めたんだから」

その一言でそれまでユカを支配していた恐怖はどこかに消え去った。

そして、ユカの脳裏に一つの考えが浮かんだ。

ユカは口から血を流しながらゆっくりと立ち上がった。

「せっかちね。それにあなた全然分かってないわ。あんたが捜してるって〝デザイア〟は女よ」

「……何だって」

マルイケは初めて手を止めユカに興味を持った。

「私は〝デザイア〟の正体を知ってるわ。でも、その子に手を出したら私は殺されたって〝デザイア〟のことを話さないわ。その代わり、その子を見逃してくれたら私が知ってる〝デザイア〟の情報を全部教えてあげるわ」

「……」

 もちろんユカが言っていることは真っ赤な嘘だった。

ユカが〝デザイア〟の情報など知るはずも無かった。

それでも息子を想う母親の気持ちと日ごろ胸の奥に秘めたユカの欲望が一つとなり、その言葉にリアリティーを持たせマルイケを信じさせた。

「それは本当だろうな。口先だけの嘘だったらお前の目の前で子供を殺すぞ」

「いいわ。〝デザイア〟の正体は私と同じバイト先で働く女よ。今から一緒にその女の元へ行きましょ」

 ユカは本能でしゃべっていた。

ユカが言っている女とはマユミのことだった。

ユカはスグルを助ける為にマユミを犠牲にしようと心に決めた。

とにかくスグルをマルイケから引き離したかった。

スグルを家に残し、マルイケと共にマユミの所へ向かい、無理やりマユミを〝デザイア〟に仕立て上げようとしていた。

そこでマユミが否定しても必ずチャンスが生まれるとユカは考えていた。

この場で何もしなければ事態は最悪のままだった。一瞬でもマルイケからスグルを離せばその間にスグルの安全を確保できると確信していた。

「ただ、その女の住所を確認する為に一回バイト先のビデオ屋に寄って。それで〝デザイア〟の元へ案内してあげる。ただしスグルはここに置いていくわ。それでいい?」

「駄目だ。こいつも一緒に連れて行く。お前が嘘をついていたらその場でコイツを殺す」

そう言ってマルイケはスグルが入ったダンボールを抱え上げ、玄関に向かった。

ユカもマルイケに着いていった。

今はマルイケに従うしかなかった。

外に出ればチャンスは生まれる。

ユカは一筋の光に希望を賭け、マルイケの車に乗り込んだ。

12

                                     

 246沿いの歩道をスーツ姿のミシマは早足で歩いていた。

打ち合わせが長引いてすっかり遅くなってしまった。

 ミシマにとって「ワールド」のバイトは特別なものだった。

小原が店長になるずっと前、ミシマは親友の頼みで「ワールド」のバイトを始めた。

その親友は「ワールド」の創立者で一緒に理想のレンタルビデオ店を作ろうと誓った男だった。

しかし、その親友は交通事故で死んでしまった。

その親友の意思を継ぎ、今でも「ワールド」でのバイトを続けていた。

 元々ミシマはエリートプログラマーで今では自分の会社を経営していた。

ミシマは経済的にもバイトをする必要はなかったが、それでも「ワールド」を辞めようとは思わなかった。

ミシマにとって「ワールド」は親友が残した形見のような存在だったからだ。

 早足で歩きながらミシマは腕時計を見つめた。

すでに一時間ぐらい遅刻している。

小原には電話も入れ、事情を説明したがはやり申し訳ないと思っていた。

そうだ、今日は半額キャンペーンの日だ。

突然思い出したミシマは自動販売機の前で立ち止まった。

小原に缶コーヒーでも買っていってやるか。

 その時、ミシマは背後に気配を感じた。

ミシマが振り返るとそこにはスーツ姿のひょろっとした男が立っていた。

色黒でロングヘアーの髪を後ろで留めて体格のいいミシマに比べると、その男は善良なサラリーマンという印象だった。

「あの、突然すみません。私エナリと申しますが『ワールド』のミシマさんですよね」

「……ええ、そうですが、何か?」

ミシマはこのエナリという男にまったく見覚えがなかった。

しかし、向こうは自分のことを知っているように話しかけてくる。

「ワールド」の客かと思ったが、それにしてもこの男にはどこか得体の知れない不気味さが漂っていた。

思い過ごしかもしれないが、突然夜道で知らない人間に声を掛けられるのはあまり気持ちのいいものではなかった。

「ちょっとあなたにお聞きしたいことがあるんですが〝デザイア〟という者をご存知ですか?」

「……でざいあ?何ですかそれは?ちょっと心当たりありませんが」

するとエナリは思い出したようにポケットからチラシのようなものを取り出した。

それは以前「ワールド」に置いてあった見覚えのあるものだった。

「私達は今この男を捜しているんですよ。ミシマさん、ご存知ありませんか?」

「いや、わかりませんね。あの、私ちょっと急ぎますので……」

ミシマが立ち去ろうとすると、エナリは突然、ミシマのスーツの袖を掴み、動きを止めた。

「急ぐ必要はありませんよ。今日はもう『ワールド』は営業していませんから。バイトの必要はありませんよ」

「何だって。どういうことだ?」

「グダグダ言ってないでさっさと質問に答えろ。〝デザイア〟の知ってる情報を全部吐くんだ」

 エナリは突然、口調と表情を一変させ、ミシマに迫ってきた。

その瞬間、ミシマはエナリの顔面を殴りつけた。

 学生時代からミシマは喧嘩に明け暮れ、数え切れないほどの修羅場を潜り抜けてきた。

そんなミシマの本能がエナリの変貌ぶりに危機を感じ、手を出させたのだった。

基本的に喧嘩は先手必勝だ。

初めに一発いいのを決めてしまえば漫画や映画のように反撃してくることはまずありあない。

相手の戦意を喪失させてしまえば勝ちなのだ。

 ミシマは長年のやんちゃをしてきた勘でエナリに強烈な一発をおみまいした。

 エナリは左手でミシマに殴られて出た鼻血を押さえていたが、右手はミシマのスーツの袖を掴んだままだった。

「おい、いい加減手を離せよ」

「お前の力で離させてみろよ。あんなへなちょこパンチじゃお話にならないがな。このロンゲ野郎」

エナリのあざけるような挑発にミシマはキレた。

 ミシマはエナリの胸倉を掴み、細い路地裏に押し込んだ。

そこで民家の塀にエナリを叩きつけ、何発も殴り続けた。

パンチの合間に肘鉄や膝蹴りも喰らわせた。

「どうだ、この野郎。調子に乗ってんじゃねーぞ」

ミシマは息を切らせながら怒鳴り散らした。

 それでもエナリは右手を袖から離していなかった。

そればかりかエナリは不適な笑みを浮かべ、半分目蓋が塞がった眼でミシマを見つめながら言った。

「き、気持ちいい。あんたいいよ。最近じゃ、他人に暴力も与えられない軟弱な奴が増えて困ってたんだ。なかなか俺に痛みを与えられる奴が少なくてさ。さあ、もっと殴れよ。骨を折ったていい。殺す気でかかって来いよ。そんなんじゃ俺はまだまだイカないぜ」

ミシマがふと見るとエナリの股間は膨らみ、明らかに勃起しているのが分かった。

「……この変態野郎が」

ミシマはエナリの股間を思いっきり蹴り上げた。

エナリは一瞬飛び上がるほど悶絶したが、それでも身体をねじりながら悶え、手は離さなかった。

「……こいつ、狂ってやがる」

ミシマがそう呟いた時、エナリが口から血を流しながら言った。

「それが、お前の限界か?ゲームも終了だな」

 エナリは突然、左手でスーツのポケットからナイフを取り出すと、ミシマの太ももに突き刺した。

ミシマの太ももからは血があふれ出し、ミシマはガックリと地面に膝を着いた。

「どうだ、刺された気分は?攻めるばかりじゃ疲れるだろう。攻守交代だ」

「……てめえ、何が目的か知らないが、人を刺してただで済むと思うなよ」

「そんなことどうでもいいよ。俺は痛みを与えられることにしか興味ないんだよ。与える方はあまり得意じゃないしな。お前が俺を殴りだした時はお前が〝デザイア〟かとも思ったがどうやら違うみたいだな。これでお前に用はなくなったわけだ」

そう言うとエナリは、それまでずっと離さなかった右手を袖から離し、ポケットから特殊な器具を取り出すと、一番近くにあったマンホールにその器具を差し込み、蓋を外した。

「これでも俺は社会的な立場もあるからな。お前の死体がすぐ出てくるとまずいんだよ」

エナリは独り言のように呟くと再びミシマに近づいて行った。

ミシマは近づいてくるエナリに恐怖を感じた。

エナリはミシマの前で立ち止まると冷たい視線で見下ろしながら言った。

「悲しむ必要はないぞ。たぶん他の『ワールド』の連中もあっちにいるから。ま、仲良くやってくれ。じゃあ、バイバイ」

 エナリは笑顔でミシマの心臓をナイフで一突きにした。

そして、すばやくナイフを抜き取り、ミシマの喉元を掻っ切った。

大量の血がその場に飛び散り、エナリも返り血を浴びた。

エナリは血だらけのミシマを担ぎ上げると口の開いたマンホールからミシマを投げ込んだ。

ボッチャーンという下水に落ちる音を聞き、エナリは器具を使い、マンホールの蓋を閉めた。

 その時、ポツポツと雨が降り出してきた。

その雨はエナリの体についた返り血を洗い流してくれるようだった。

エナリは両手を広げ、雨をシャワーのように全身で浴びた。

 その時、エナリの携帯が鳴った。

電話は鬼頭からだった。

「もしもし」

「エナリ、すぐ『ワールド』に来てくれ。匿名の情報が入った。〝デザイア〟本人が現れるそうだ。だが、罠かもしれん。全員で迎え撃ちたいがなかなか全員と繋がらなくてな。とにかく急いで来てくれ」

そう言って鬼頭は電話を切った。

エナリは傘もささず、ずぶ濡れのまま「ワールド」に向かって歩き出した。

エナリの体に飛び散ったミシマの返り血が少しずつ雨で洗い流されていった。

                                                               【続く】

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