2006年7月25日 (火)

デザイアと呼ばれた男  VOL 3

 こんにちは。D・二プルです。

 皆さん、いかがお過ごしですか?

 「デザイアと呼ばれた男」いかがですか?

 おかげさまで各方面から色々な反響がありました。

 賛否両論はあるかと思いますが、これからも私の作品を読んでみて下さい。

 今回から新章突入です。

 果たしてこの先どうなっていくのか?

 ご期待下さい

第二章  動き出した運命

          1

 それから一週間が経った。

一週間三宿病院に入院していた俺は、安久津に言われるままに精密検査を受けていた。

検査の結果、体に異常は見られないということが解った。

俺は入院代や検査代がいくらになるのかが気になっていた。

俺の所持金は1280円。

銀行の貯金もほとんど残っていなかった。

場合によっては親から金を送ってもらわなければならない。

親に電話するにしても金額を知らなければ電話できなかった。

 ある時俺は安久津に入院代と検査代がどれくらいかかるのか聞いてみた。

しかし、安久津はまだはっきりしたことは分からないと口をにごしてはっきり金額を提示してくれなかった。

安久津が言うには保険の割合や、交通事故にあった場合加害者が入院費を出したり、色々事情が変わってくるからもう少し計算するのに時間がかかると言う。

俺が事情を説明すると、とりあえず書類にサインすれば退院時に所持金がなくても大丈夫だと言うのだ。

安久津の言葉を聞いてとりあえず安心した俺は、翌日の退院の準備をしていた。

準備といっても特に荷物があるわけではなかったので、屋上に行って羽をのばしたり、病院内をうろうろしていた。

 そんな中、俺が自分の病室に戻ろうと廊下を歩いていると正面からマユミが歩いてきたのだった。

久しぶりのマユミの姿を見て俺はうれしかった。

マユミは俺と目が合うとアッというような表情をして立ち止まった。

「こんにちは。最近見かけないと思ったら入院されてたんですか?」

寝巻き姿の俺を見てマユミは話しかけてきた。

「そうなんですよ。ちょっと交通事故にあって。でも、明日退院するんですけどね」

「そうなんですか。大変でしたね」

「今日はどうしたんですか?」

「私はちょっと父に話があってきたんです」

「お父さんもここに入院されてるんですか?」

「いいえ、父はここの医師なんです。それじゃ失礼します」

そう言ってマユミは去っていった。

マユミの父親がここの医者だったとは驚きだった。

そうと分かれば挨拶の一つでもして、今後彼女との仲を深めていく上でポイントを稼いでおけばよかった。

彼女の本名は安久津 真由美。

ん?

安久津?

まさか、俺の担当医の安久津がマユミの父親だったのか?

なんたる偶然だろうか。

俺はマユミとの運命を感じながら自分の病室に戻って行った。

 俺が個室に入るとベッドの前の見舞い客ようのパイプイスに一人の男が座っていた。

ここの個室に人が入っているとは思ってもみなかった俺はギョッとなった。

男は振り返ると俺の眼を見つめて呟いた。

「よお、元気そうじゃないか」

男の顔を見て俺はハッとなった。

男はマユミの働くレンタルビデオ屋「ワールド」で会った老人、國無由自だった。

なぜ國無がここにいるんだ?

俺は國無に蛇崩庵娯の話や蛇崩交差点の話を色々聞きたかった。

しかし、今ここに彼がいることが明らかに不自然だった。

なぜ、國無はここにいるんだろうか?

 次の瞬間、俺の脳裏にある疑惑が浮上した。

確かにあの日、俺は國無に言われるまま午前二時に蛇崩交差点に行った。

そして車に撥ねられてここに運ばれた。

俺を撥ねた車のドライバーはいまだに捕まっておらずここにも顔を出していない。

そこに國無由自が現れた。

自然と点と線が繋がる。

俺を撥ねたドライバーは國無由自ではないか?

「何、突っ立ってんだ。座れよ」

棒立ちになったまま頭の中で考えを張り巡らせていた俺に國無は静かに行った。

俺は言われるままにベッドに腰をかけた。

「で、どうだった?蛇崩庵娯の『カトリーナ』は。見たんだろう?」

「……ああ」

「最後まで見たのか?」

「最後のシーンで気分が悪くなった」

「ああ、あのシーンは最高に狂ってるからな」

「それより……」

「何でオレがここにいるのかが気になるんだろ?」

國無は俺の言葉をさえぎるように言った。

「今日はお前とゆっくり話をしようと思ってここに来たんだ」

「回りくどい言い方してんじゃねえよ。何で俺がここに入院してることを知ってる?俺はあんたに言われた時刻に蛇崩交差点に行って車に撥ねられた。轢いたのはあんたじゃないのか?どういう目的か知らないが、これ以上俺にかまうとこっちにも考えがあるぞ」

突然大声を出した俺に國無は驚きながらも平然と不適な笑みを見せた。

「それじゃあ、その考えというのを聞こうか?」

「え?」

「お前の考えというのを聞かせてみろよ」

「それは……」

俺は言葉に詰まった。

國無の食い入るような眼が完全に俺を飲み込んでいた。

「……まあ、そう焦るな。今日ここに来たのはな、お前を撥ねた犯人を教えに来たんだ」

「えっ、知ってるのか?」

「よく考えてみればお前にもすぐに分かったはずだ。何で金も持たないお前がこんな最高級の個室に一人で入院しているんだ。入院費や検査代もかかっていないはずだ。これは明らかに不自然じゃないか?それは誰かが負担しているということだ。それじゃあそいつは何のためにそんな事をするんだ?自分に後ろめたいことがあるからだろう。そいつがお前を撥ねた犯人だ」

「……誰が一体?本当にあんたじゃないのか?」

「ここで誰がお前の面倒を一番見てくれた。担当医の安久津だろう?」

「安久津?じゃあ、彼が俺を……」

「あの日、安久津はイライラしていて相当酒を飲んでいた。そして、かなりのスピードを出して走っていた。それでお前を撥ねたんだ。安久津は自分が飲酒運転をしていた上に人を撥ねたことを世間に知られたくなかった。もしそうなれば教授になる野望が崩れてしまうからな。そうすぐ選挙も近いことだし、彼は騒ぎを大きくしたくなかったんだ。それで犯人はひき逃げしたことにして、自分は善意の第一発見者を装い、自分の病院に運んだんだ」

「……何であんたはそれを知ってるんだ?」

「あの日、オレはお前をあそこに呼び出し話をしようと思っていた。だが、ある事情で少し遅れてしまい、蛇崩交差点に付いた時はお前はすでに車に引かれた後だった。そして、お前を自分の車に運び込む安久津の姿を目撃したんだ。俺が秘かに安久津の車の後を尾行した。それで三宿病院に運び込まれたことを知ったんだ」

「……あの野郎、何で黙ってやがったんだ」

俺はベッドから立ち上がった。

「一緒に来てくれ。あんたの証言であいつの犯行を暴いてやる」

「まあ、待て。だからそう慌てるな。あいつの犯行を明かすことなんていつでもできる。それよりもここからが大事な話だ。俺はお前と契約する為に今日ここに来た」

「契約?」

國無の言葉の意味が俺には理解できなかった。

國無は俺に一枚の名刺を差し出した。

そこには『株式会社バク企画 代表取締役 國無由自』と書かれていた。

「オレは他人の欲望を現実に具現化することを仕事にしているんだ。悪いが君のことは調べさせてもらった。君は昔のオレに良く似ている。だから君に力を貸したくなったんだ」

「……話が見えないな。調べたなら分かると思うけど俺はニートだし金は持ってないよ。あんたがどんな仕事をしてようが契約なんて出来ないよ」

「オレの目的は金じゃない。まあ、金は他から手に入れるが、オレの欲望は他人の望みをオレの手で適えることだ。それも自分が気に入った奴のな。さっきも言ったがお前は昔のオレに似ている。だから気に入ったんだ。さあ、お前の望みを言ってみろ。俺が何でも適えてやるぞ」

「……別に望みなんてないよ」

「自分の欲望に正直になれよ。あの女を手に入れたくないのか?ずぅっと通ってたよな。あの店に。マユミを自分の女にしたくないのか?」

「……」

「さらに言うならお前はずっと捜しているはずだ。お前がイケる女を。もしかしたらそれがマユミかもしれないぞ」

國無由自の言葉に俺は呆然となっていた。

國無はどこまで俺のことを知っているんだ。

マユミのことはもとよりなぜ、俺が今まで女とSEXしてイッたことのないことまで知っているんだ?それは誰にも話したことの無い秘密のはずなのに……」

「それからお前はまだ、自分でも気づいていない欲望がある。俺はそれを埋めることができる。長々と話したが決めるのはお前の自由だ。オレの話を信じられなければそれでもいい。ただし、それでは今までと何も変わらないぞ。今までお前が見たことの無い世界を見たいなら一週間以内にその名刺に書いてある住所まで来い。嫌なら来ないで名刺は捨てればいい。どちらにしても自分の意思を示せ」

そう言って國無は立ち上がると部屋を出て行った。

俺は國無にもっと聞きたいことが山ほどあったが、聞けなかった。

國無が言っていた自分でも気づいていない欲望とは何のことだ?

俺がイケる女が見つかる?

マユミが俺のものになる?

頭の中がごちゃごちゃになり、俺はベッドに倒れこんだ。

一週間前、蛇崩交差点でロバート・ジョンソンのことを思い出した時、俺も悪魔に魂を売っても欲望を適えたいと思った。

それが今現実のものとなって俺の前に現れている。

しかし、あの國無由自を信用していいのだろうか?

あの全てを知り尽くしたような口調と相手を食い入るような眼は信用できない。

しかし、俺には失うものは何も無い。

金もなく、女もいない。

それでいいのか?

ずっとこのままの人生でいいのか?

もしかしたらこれは大きなチャンスではないか?

人生のターニングポイントなのではないか?

期限は一週間、それまでに答えを出さなければならない。

          2

 あっという間に一週間の月日は流れていた。

國無が病室に訪れた翌日に俺は三宿病院から退院した。

結局、俺は安久津に何も言わずに病院を後にした。

安久津が言っていた通り、簡単な書類にサインしただけで俺は入院費などを一切払わずに出てこられた。

やはり國無の言うとおり安久津が俺を轢いた犯人なのか?

俺はこの真実をそのうちに必ず解明するつもりだった。

俺の知らないところで何かが起ころうとしているような気がした。

確実に俺の人生は変化を見せようとしている。

こんなことはいままで感じたことは無かった。

普通に生きていればそんなことは判らないはずだ。

誰かが意図的に俺の人生を操作しようとしているようだった。

 そう言えば國無は自分の気に入った相手の欲望を現実のものに具現化するのが仕事だと俺に言った。

俺が昔の自分に似ているから気に入ったと。

既に俺の中の決意は決まっていた。

國無の話には乗らない。

正直、俺はアイツの言葉に惹かれていた。

俺がSEXでイクことのできる女。

そんな女が本当に存在するのか興味があった。

マユミを自分のものにできたらどんなに幸せだろう。

今の俺にとってマユミは全てだった。

マユミの存在だけが俺の救いだった。

しかし、それは決して手に入らない高嶺の花だった。

今まではただマユミを見ているだけで幸せだった。

しかし、今の俺の心の中ではそうではなかった。

もうそれだけでは満足できないほどマユミのことが好きになっていた。

しかし、どうやってそれを表現すればいいのか分からなかった。

はっきり言って自分に自信がなかった。

どうすればマユミとうまくいくのかがまるで想像できなかった。

今の状態でマユミとうまくいく可能性は限りなくゼロに近いことは自分でもはっきりと分かっていた。

玉砕覚悟で告白する気にはなれなかった。

そこで俺の出した結論はマユミのことを忘れることだった。

もう二度と「ワールド」にもいくつもりはなかった。

しかし、自分で決断したばかりだというのに頭の中では確実にマユミの存在が膨らみ続けていた。

そんな煮え切らない俺自身に苛立ちを感じていた。

今、この世で一番むかつく人間は自分自身だった。

 俺は自分の決意を固めつる為に「ワールド」に向かって歩きだした。

最後に一目マユミを見て完全に忘れよう。

そう心に決めた。

「ワールド」に向かう道のりで俺の鼓動は確実に早くなっていた。

別に告白するわけでもないのに、心臓が壊れたようにドキドキしていた。

俺は必死に自分の気持ちを落ちつかせた。

 もう間もなく「ワールド」に到着する。

確かこの時間ならマユミはシフトに入っているはずだった。

もしマユミが「ワールド」にいなかったとしてもそれで終わりにしようと心に決めた。

その時、俺は信じられないような光景を目にした。

道路の反対側にマユミが男と楽しそうに手をつないで歩いていたのだ。

マユミのその笑顔は「ワールド」では見たことのない、確実に女の目をしていた。

しかも、マユミと一緒に歩いていた男を俺は知っていた。

男の名は白坂 清己。

俺が映画の制作会社で働いていた時の上司で俺が知る限り最悪の男だった。

自分より目上の者にはへつらい、逆に下の者には絶対的権力を振りかざし、高圧的な態度で接するそんな男だった。

自分の利益だけを常に考え、他人は利用する為だけに存在する道具だと思っているや奴だった。

俺がADをしていた頃、あいつはディレクターで、散々俺をゴミのように扱ってきた。

俺の事を〝ゴミ〟呼ばわりして、自分の気分次第で無駄な仕事を永遠と押し付け、全てのチャンスを奪っていった。

 マユミは白坂の正体を知って付き合っているのか?

あいつは上辺では女を大切にするそぶりを見せているが、裏では女を性の捌け口ぐらいにしか思っていない最低の男なのだ。

絶対にマユミは白坂に騙されていると思った。

しかし、信号待ちをしながらじゃれあっているマユミの姿は心の底から楽しそうだった。

俺が今、二人の前に出て行って白坂のことを洗いざらい暴露したとしても、マユミはまるで相手にしないだろう。

俺とマユミとはただの客と店員の関係でしかなく、まったくの他人だからだ。

俺は道路の反対側で呆然と二人の様子を立ち止まって見つめていた。

やがて二人は人ごみにまぎれ、どこかへ消えてしまった。

それでも俺はしばらくその場で立ち止まり、動くことができなかった。

通行人と肩がぶつかり、俺は道路に倒れこんだ。

その時道路に手を着き、掌を切ってしまった。

その時のコンクリートの感触がやけに冷たく、俺はひどく孤独を感じた。

今まで自分自身を誤魔化して感じないようにしていた孤独感が一気に押し寄せてきた感じだった。

この時俺は、孤独感に押しつぶされそうだった。

その時、俺の中で何かが弾けた。

俺は國無にもらった名刺を取り出し、携帯で電話を掛けた。

俺の行動をまるで見ていたかのように國無はワンコール目で電話にでた。

「で、結論はでたのか?凛一郎」

「……ああ、あんたと契約する。俺はマユミを自分の女にしたい。それが俺の欲望だ。その為だったら何だってやる。悪魔に魂を売ったっていい」

「いい覚悟だ。その答えが聞きたかった。それじゃあ、今から言う場所に明日の午後一時に来い。場所は……」

この時の俺の決断は本当に正しかったのか?

衝動的に國無と契約した俺は思っても見なかったような人生を歩んでいくことになる。

その中で俺は自分の知られざる欲望を知ることになる。

その結果、俺は大切なものを失い自分の過ちに気づくことになる。

しかし、それはまだまだ先の話だった。

          3

 翌日、俺は國無に言われた通りの場所に向かっていた。

時刻はすでに午後一時を回っていた。

しかし、俺はまだ目的地にたどり着いてなかった。

國無が指定した場所は自衛隊中央病院近くの住宅街の一角にあるアパートだった。

恐らくそこが國無の家か会社があるものだと俺は思っていた。

しかし、指定された住所を辿っていくと廃墟と化し、封鎖されている団地にたどり着いてしまう。

この辺りは入り組んでいて、俺は道を間違えたのかと思い、何度も辺りを歩き回ったが、他にそれらしい建物は無く、どうしてもこの廃屋団地に戻ってきてしまうのだった。

携帯を見るとすでに午後一時を回っていた。

俺は國無に電話を掛けようとした時、突然携帯が鳴り響いた。

電話を取ると相手は國無だった。

「何してるんだ。早く入って来い」

「入るってどこに?」

「お前の目の前のゲートをくぐり抜け、左方向に回り込み、一番奥の入り口の前に行け。入り口は閉鎖されているがすぐ後ろの茂みの中にハシゴが倒れているからそれを使って踊り場から上って入って来い。踊り場に上がったら、ハシゴを踊り場に隠し、最上階の一番奥の部屋まで上がって来い。そこで携帯をワン切りしろ」

國無は一歩的に話し、電話を切った。

俺は改めて自分の前に聳え立つ廃屋団地を見上げた。

使われなくなってからどれぐらいたつのだろうか?

とても人が出入りしているとは思えなかった。

こんな所に入るのは区の業者か、ホームレスか、犯罪者ぐらいだと思った。

俺は國無にからかわれているんじゃないか?

それでも俺はしかたなく、國無に指示された通りに針金で封鎖されているゲートを潜り、廃屋団地の敷地内へ入って行った。

中に入る時、俺は辺りをきょろきょろと見回したが、人影はまったくなかった。

他人が見たら俺は明らかに挙動不審な不審者だった。

 敷地内は無差別に生えた雑草で生い茂っていた。

昔は子供の遊び場だったはずの小さな公園の遊具はすっかり錆び付いていて、風に揺れているブランコが寂しさをかもし出していた。

俺は一番奥の入り口の前まで行き、茂みの中からハシゴを取り出し、踊り場に立てかけ、中へ入っていった。

ハシゴを踊り場に隠し、俺はゆっくりと階段を上っていった。

 団地内は薄暗く、冷たい空気が漂いとても静かだった。

しかし、同時に妙な不気味さも漂っていた。

まるでホラー映画のワンシーンのように、突然、殺人鬼や化け物が飛びしてきても不思議ではない感じだった。

俺は内心びくびくしながら早足で最上階を目指した。

最上階の一番奥の部屋の前で俺は携帯をワン切りした。

すると、次の瞬間、扉がギシギシと音を立てて開き、目の前に國無が姿を見せた。

國無の顔を見て俺はほっとした。

「早く入れ」

國無は俺の腕を掴み、中へ引きずり込むように引き入れた。

 俺は國無に案内され奥の部屋に進んでいった。

俺の目の前に信じられないような光景が広がっていた。

ワンルームのこの部屋は外からは想像できないほど綺麗に片付けられていて、普通に毎日生活できるぐらいの快適な空間だった。

一人暮らしの俺の部屋よりも遥かに綺麗に整理されていた。

「何ボケっと突っ立ってるんだ。早く座れ」

「おっさん、ここに住んでるのか?不法占拠だろ?」

「……いいから座れ。話は後だ」

俺は國無に指示されたとおりソファーに腰を下ろした。

辺りを見回すとそこには難しそうな本が本棚いっぱいに所狭しと並べられ、見たことの無いような機械が部屋の隅々に置かれていた。

國無は俺にコーヒーを差し出し、向かい側のソファーに座った。

「さあ、契約だ」

「契約って契約書とかにサインするのか?」

「そんなものは必要ない。とにかくお前は俺の話を聞き、納得するということが大切だ。オレの話を聞いて分からないことがあったら何でも質問しろ。ここまではいいか?」

「ああ、分かった」

俺はコーヒーを飲みながら返事した。

「まず、お前の目標は安久津真由美を自分の女にすることだ。オレはそれを必ず現実のものにしてやる。その代わりお前は俺の指示に従え、それが契約の条件だ。お前が一見何の意意味も分からないようなことでもそれは必ず目的の為にオレが考えたシナリオの一部だ。だから、契約を交わしたら質問は一切無し、俺の言うことに逆らうな。ここまではどうだ?納得できるか?」

「質問は一切無し?あんたの言うことに逆らうなだって?それでマユミを俺の女にできるのか?具体的に何をしてくれるか聞かせてくれよ」

「そうだな。簡単に言えばまずお前はマユミの働いている『ワールド』で働き始める。そして、まずはバイト仲間としてマユミに接するんだ。その後はお前がマユミが抱える問題を一つ一つ解決していく。まあ、その為にやらなければならないことがたくさんあるが、それはまあ、これから徐々に話していくよ。どうだ?」

「分かった。あんたの言うとおり行動するよ。それより、すんなり『ワールド』にバイトとして入れるのか?都合よく今募集かてるのか?」

「そんな事は簡単なことだ。それよりも大変なのはお前がマユミの心を掴む為に心も体も鍛えなければならないということだ。途中で根をあげればそこで終わりだ。それに耐える覚悟はあるか?」

俺の脳裏に昨日見た白坂と歩くマユミの映像が甦ってきた。

「大丈夫だ。マユミを手に入れる為なら俺は何だってする」

「その言葉を忘れるなよ」

「ああ……」

そんな中、突然俺は睡魔に襲われた。

「どうした、眠いのか?」

「ああ、何だか急に眠くなってきた」

「少しここで休んでいくといい。起きたらさっそく行動開始だ。お前が寝てる間にオレはシナリオを完成させておくから、ゆっくり休め。ほら、この枕を使え」

そう言って國無は俺にふっくらとした羽根枕を手渡してくれた。

俺は羽根枕に頭を沈め、ソファーに横になった。

羽根枕の気持ち良さに俺はすぐに深い眠りについてしまった。

 俺が眠っている前で國無由自は忙しそうに動いていた。

國無はまず俺が飲んでいたコーヒーカップをキッチンに片付けた。

流しの横には睡眠薬のビンが置かれていた。

國無はリビングに戻り、テーブルの上にノートパソコンを取り出し、コードを伸ばし、俺が眠っている枕に取り付けた。

俺が知る由も無かったが、この枕にはある機械が埋め込まれていた。

國無のパソコンの画面にある映像が映し出されていた。

そこに映し出されていたのは俺が見ている夢だった。

その映像を見て國無は不適な笑みを見せる。

「すばらしい。これがこいつのデザイアか」

國無は独り言をもらし、書類に何かを書き込み始めた。

書類にはこう書かかれていた。

「バク計画 五味凛一郎のデザイア」

それは俺が予想もしていなかった恐ろしい計画だった。

                                                  【続く】

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