2007年7月13日 (金)

デザイアと呼ばれた男       VOL 27

          3

                                             

 俺は國無と待ち合わせをしていたことなどすっかり忘れて、廃屋団地とはまるで反対方向にトモコと歩いていた。

トモコは仕事の都合で最近この辺りに越してきたばかりでほとんど知り合いもなく、寂しい想いをしていたという。

俺とトモコは近くのファミレスへ行こうということになり、世田谷公園の中を通り抜けて歩いていた。

緑が生い茂る静かな公園の中をあの憧れのトモコとこうして並んで歩いていることがとても信じられなかった。

そういえば、いつだったか思い出せないが最近トモコの夢を見たような気がした。

そして、このタイミングで本物のトモコとの再開である。

俺は過去の記憶と共に長い間ずっとトモコに話したかったあのことを思い出した。

これは二度とないチャンスだと思った。

今日この時を逃せば二度とチャンスは訪れないかもしれない。

俺は今日こそあの時言えなかった誤解を解こうと思った。

それは俺の過去のトラウマにケリをつけることだった。

しかし、その直後俺の頭の中で別の考えが浮かんだ。

もしもトモコがあの時のことなどまったく忘れていたらどうしよう。

考えられないことではない。

俺だってトモコに声を掛けられるまで目の前の女がトモコだとは思わなかったし、実際にトモコのことなど頭の奥底に封印していたほどだ。

何も過去の忌わしい記憶を現在に甦らせることはない。

その時、俺たちの反対側から幼稚園児ぐらいの女の子が三輪車に乗って向かってきた。

女の子はまだ三輪車に乗りなれていないらしく、ハンドル操作がおぼつかないようだった。

女の子は向かいからやってきた俺たちのことを意識し、ハンドルを切ろうとしてバランスを崩して三輪車を転倒させてしまった。

女の子は転んだショックと痛みでとたんに泣き出してしまった。

子供が苦手な俺は気まずくなり、早足でその場を立ち去りたかった。

しかし、トモコはすぐに転んで泣いている女の子に駆け寄り「大丈夫?」と声を掛け、頭を撫でながら立たせていた。

俺はそんなトモコの様子を見て愛おしくなった。

女の子はすっかり泣き止み、倒れていた三輪車を起こすとサドルにまたがり、笑顔で言った。

「お姉ちゃんありがとう。ごめんね、デート中に。彼氏が待ってるよ」

そう言い残し、女の子は三輪車に乗って俺たちの前から走り去っていった。

「最近の子はませてるね。かわいい」

トモコは俺の方を振り向いて笑顔で言った。

女の子の言葉とトモコの笑顔を見て、俺は頬を赤らめてしまった。

俺はさっきよりも少し早足でファミレスに向かって歩き出した。

 ファミレス内はさほど混んでいなかった。

ファミレスで俺とトモコは向かい合って座り、おしゃべりに華を咲かせていた。

「で、五味君は今何してるの?」

「ああ、俺はレンタルビデオ屋でバイトしてるよ。ずっとフリーターだね」

「へぇ~、そうなんだ。バイトしながら何か目指してるとか?」

「いや、そんなの何もないんだけどね……で、高宮さんは何してるの?」

「私もねバイトなんだけど、派遣の仕事でお掃除屋さんやってるんだ。一人暮らしの男の人とか、自分の部屋を片付けられない人の部屋にいって掃除や洗濯してあげる仕事なんだけどね、結構時給高いんだよ」

「へぇ~、そう……」

「そうだ!再開を祝して今から五味君の部屋掃除してあげる。もちろん無料で。五味君もこの近くに住んでるんでしょ?」

「……うん」

俺は複雑な心境だった。

何なんだこの展開は?

あのトモコが俺の部屋に来るだと?

トモコは一人暮らしの男の部屋に来るという意味を分かっているのだろうか?

トモコはただ単純に純粋な気持ちで俺の部屋を掃除しにこようとしているのか?

それとも一人の女として俺を誘っているのか?

 俺の脳裏にあの光景が再び浮かび上がってきた。

中学の屋上でオナニーをトモコに目撃されたあの日、あの日を境に俺の中で何かが変わってしまったのだ。

あの日が俺の人生の中で一つのターニングポイントとなっていた。

もし、あの時のことがなかったとしたら、俺は今とまったく違う人生を歩んでいたのかもしれない。

特に〝性〟においては明らかにあの時の出来事は俺のその後の人生に影響していたと思う。

トモコにオナニーを見られていなければ心の中に〝レイプ願望〟も生まれず、レイプでないと絶頂できない体にはならなかたかもしれない。

そうなれば俺は〝デザイア〟などにもならずにすんだかもしれないのだ。

俺はその後のトモコの話す会話に適当な相槌をうちながら過去のトラウマと格闘していた。

そうしている間にいつの間にか時間は過ぎ、外はすっかり暗くなっていて再び夜が営業を開始したのだった。

俺とトモコはファミレスを出た後、自然に俺の部屋に向かっていた。

 

 それから数分後、トモコは俺の部屋の中にいた。

俺はベッドの上にちょこんと座り、部屋の片付けをするトモコの様子を見ていた。

トモコはデニムのジーパンを穿いていたが、トモコのスラッと伸びた足にぴったりとフィットしていたパンツ姿はスカートよりもエロティックだった。

「そんなにジッと見ないでよ。恥ずかしいな」

そう言いながらもトモコは無意識のうちに男心をくすぐる術を披露していた。

「普段はね、専用のエプロンを着けて掃除するんだけど、お客さんの中には別料金を払ってマイエプロンを用意しててそれを着て掃除して欲しいって人もいるんだよ。男の人の妄想ってすごいとおもっちゃった」

「五味君はどんな姿が好みかな?」

「……」

黙っている俺を見て、トモコはニッコリと微笑み部屋の照明を落とした。

突然の闇に俺の目は付いていかず、俺の心は明らかに動揺していた。

 すると突然ベッドが軋み、トモコが俺の座っているベッドの横に座ってきたのが分かった。

トモコは俺に密着して座り、身を寄せて、体を俺に預けてきた。

トモコの肌が俺の手に触れ、俺はさらに驚愕した。

俺の隣にいるトモコは服を脱ぎ、全裸の状態になっていたのだ。

目が次第に闇に慣れてきて、トモコのシルエットがゆっくりと浮かび上がってくる。

それにつられるように俺のペニスもみるみるうちに膨らんでいった。

「……おい、何考えてるんだよ」

「シッ、いいから黙って……」

そう言うとトモコは自分の唇を俺の唇に重ね合わせ湿らせたあと、ゆっくりと口の中に舌を挿入させてきた。

トモコはそのまま自分の体重を重ね、ベッドに俺を押し倒し俺の服を淫らに剥ぎ取っていった。

俺は全裸になりトモコの肌の温もりを直に感じ、硬直したペニスに体を乗っ取られたように性の野獣へと変貌していった。

トモコと体を入れ替え、俺が上になると俺は舌でトモコの身体の掃除を始めた。

足の小指から頭の毛穴に至るまで、俺はたっぷりとトモコの身体を味わった。

 しかし、俺は挿入しようとはしなかった。

ペニスは爆発寸前にまでギンギンに高まっていたが、挿入することができなかった。

もし、ペニスを挿入すれば俺にはどんな結果が待っているかが想像できたからだ。

「ねぇ、そろそろ入れて……」

トモコの言葉が逆に俺を我に帰らせた。

俺はトモコから離れ、ベッドから起き上がった。

「どうしたの?しないの?」

「……うん、ごめん。できないんだ」

「……そう。ねぇ、五味君、もしかしたら〝性〟に対するトラウマか何かもってるんじゃない?もし、あたしでよかったら聞かせてよ」

「……」

それはまさに絶好のタイミングだった。

言うなら今しかないと思った。

しかし、俺の心の中には未だにためらいがあった。

心の奥をさらすのが怖かった。

正直に言えば恐らくトモコは引いてしまい俺に失望するだろう。

俺はトモコに嫌われることを恐れていた。

黙ったまま震えていた俺をトモコは抱き寄せた。

「いいのよ。あなたは何も心配することないわ。私は全てを受け入れる。だから安心して全てを聞かせて。あなたの本音を。過去のトラウマを。あなたを見てひと目で分かった。中学の時からあなたは何も変わっていない。これは私の勘なんだけど、五味君中学時代に私に何か言いたかったことがあったんじゃない?だけど、言えなかった。大丈夫、今なら言えるわ」

トモコの暗示に掛かったように俺は今まで誰にも話したことのなかった心のトラウマを話し始めた。

「君は憶えてないかもしれないけど、中学二年の時、屋上で俺は君にオナニーしてるところを見られたんだ。正確にはオナニーし終わったあとのなんだけど、俺はエロ本を見ながら君のことを想像してオナニーしてたんだ。当時、俺は君のことが好きだったからね。だけど、君は俺にとって手の届かない高嶺の花だった。その君にオナニーしているところを見られて俺はショックだった。それ以来、俺は女とセックスしてもイケない体になっちゃったんだ。」

俺はそこで言葉を切った。

その先の國無由自と出会って、本当の性癖である〝レイプ願望〟については話さなかった。

男のレイプに賛同する女はいない。

俺は自分にブレーキをかけた。

「……そうだったんだ」

トモコは今までよりも強く俺を抱きしめキスした。

「……話してくれてうれしい。それに中学の頃私のことを好きでいてくれたことも。大丈夫。あなたは必ずそのトラウマを乗り越えることができるわ。もう一人じゃないんだもん。今日から私も一緒だから安心して」

 俺の眼から涙が溢れていた。

俺とトモコはそれから一つのベッドで朝までずっと裸で抱き合ったまま過ごした。

 このトモコの出現によって俺の人生はまたしても何者かに捻じ曲げられるように狂いだしていくのだった。

そして、俺とマユミの関係は鬼頭、トモコ、〝もう一人のデザイア〟を巻き込み、最終章に突入しようとしていた。

                                     【続く】

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2007年1月 4日 (木)

デザイアと呼ばれた男  VOL 17

 明けましておめでとうございます!D・二プルです。

 今年も一年よろしくお願いいたします

【二プルのおススメ映画】

 「ナイロビの蜂」

 『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレス監督が、冒険小説の巨匠ジョン・ル・カレの原作を映画化。妻の死に世界的な陰謀の存在を嗅ぎ取った主人公の心の旅路を、ナイロビの雄大な自然を背景に映し出す。命を賭けて謎に迫る夫を『イングリッシュ・ペイシェント』のレイフ・ファインズ、不慮の死を遂げる若妻を『コンスタンティン』のレイチェル・ワイズが熱演する。愛の強さと尊さを壮大なスケールで描き出す感動作。

アフリカのナイロビでイギリスの外交官として働くジャスティン(レイフ・ファインズ)は、ある日、弁護士で救援活動家の美しい妻テッサ(レイチェル・ワイズ)を殺されてしまう。失意の中、ジャスティンは、妻が追っていた事件がイギリスの薬品メーカーによる現地の人々を使った人体実験であることを突き止める。

The Constant Gardener 監督;フェルナンド・メイレレス 2005年製作
出演:レイフ・ファインズ、レイチェル・ワイズ、ビル・ナイ、ピート・ポルスウェイト

 それでは引き続き「デザイアと呼ばれた男」をお楽しみ下さい!

          7

 午後8時を過ぎても夜番のミシマとノジリは姿を現さなかった。

俺と小原はやっと客が途切れたカウンターに二人並んで話をしていた。

今日は昼間から異様な混み具合だった。

それもそのはず、今日は「ワールド」の半額キャンペーンの日だったからだ。

地元の住民たちにこの半額キャンペーンは知れ渡っていて、この日をだけにまとめてレンタルする者も少なくなかった。

「今日はちょっとおかしいですね。アカイさんだけじゃなくて、ミシマさんとノジリさんも来ないなんて」

「ミシマさんはさっき仕事で少し遅れるって連絡があったんだ。ノジリ君は連絡ないけどね。たぶん寝過ごしてもうすぐ慌てて電話掛けてくると思うよ」

「こんな日に限って最悪ですね」

「五味君、もう上がっていいよ。今日は本当に助かったよ」

「いや、でも……」

「大丈夫。もうすぐミシマさんが来るし、ノジリ君が来たら俺も上がるから。お疲れ」

「分かりました。お先に失礼します」

「お疲れさん」

 俺はエプロンを脱ぎ、「ワールド」を後にした。

 夜の道を自転車で走りながら、俺はこれからどうするかを考えていた。

特に予定はなかったのでマユミに電話してみようかと思った。

俺はなんとかしてマユミとのギクシャクした状況を打破したいと思っていた。

セックスがうまくいかず、マユミと気まずくなり少し距離を置いていたが、このままでは自然消滅は目に見えていた。

何とかマユミと話をして二人の関係を修復しなくてはならない。

俺は改めて自分の気持ちを整理した。

俺は今でもマユミが好きだ。

この気持ちだけは何よりも大切にしたかった。

 そんな俺の気持ちとはうらはらに、その日「ワールド」の従業員にとって最悪の一日となる余波が俺にも押し寄せようとしていた。

俺の前に〝敵〟が現れたほぼ同時刻に「ワールド」にいる小原、会社帰りのミシマ、ノジリ、ユカ、そしてマユミにも凶悪な黒い闇が襲いかかろうとしていた。

俺はまだこの時知らなかったが、鬼頭が解き放った鬼畜たちが〝同時多発テロ〟を実行していて、アカイもヒラノもアケミも犠牲になっていたのだった。

 突然、夜道を自転車で走る俺の前に人影が飛び出してきた。

俺は慌ててブレーキを掛け、その拍子に転倒して歩道に投げ出された。

俺が体中の痛みを抑え、前方を見つめると、そこには小柄でぼさぼさな髪を汚らしく伸ばしてボロキレを身に着けた乞食のような男が立っていた。

その男は姿勢が極端に悪く、大きく腰を曲げた猫背の姿勢で俺に近づいてきた。

「おい、何なんだお前は……」

「俺はヒデ。お前か、お前が〝デザイア〟なのか?」

「!!!……」

俺は言葉を失った。

なぜ、この男は俺のいや〝デザイア〟の正体を知っているんだ?

まさか、また國無が仕掛けた罠なのか?

しかし、それがすぐに違うということが男の言動を見ていて分かった。

「お前があのビデオ屋から出てくるのを見たんだ。それで先回りして待ってたんだ。お前が〝デザイア〟ってことにして鬼頭の前に連れて行くんだ。殺しちゃいけないんだ。だけどお前が〝デザイア〟じゃないって言ったら嘘がばれるから、お前の喉を潰さなくちゃな。俺、頭良い……」

ヒデはずっと独り言のようにぶつぶつ喋っていた。

その様子から見て俺はヒデが少し頭が弱いことに気づいた。

恐らく彼は知的障害者だろう。

しかし、油断できないことが二つあった。

一つはこいつが〝鬼頭〟の名を口にしたこと。

恐らく鬼頭の仲間で〝デザイア〟を捜しているんだろう。

そしてもう一つはこいつの身体能力だった。

こいつは恐らく嘘をついていない。

いや、正確には嘘をつけないんだと思うが、ヒデの言葉が本当だとするとこれは恐るべきことだった。

ヒデは俺が「ワールド」を出るのを目撃してから、自転車に乗っている俺を追い越し先回りしてきたのだ。

それはずば抜けた身体能力を持ち合わせていなければ不可能だろう。

それに走ってくる自転車の前に飛び出してくる度胸。

恐らく本能的に何も考えずに行動しているだけだと思うが、それでもヒデの未知数の身体能力に俺は慎重に身構えた。

 辺りには俺たち以外の人の気配は無かった。

もし、ここに人が居たとしてもヒデは迷わず仕掛けてくるだろう。

ここでバトルになれば他人を巻き込む恐れがある。

そうなればますますコトが大きくなり、警察にマークされたり、正体がばれやすくなる。

俺は國無に叩き込まれた犯罪のいろはを思い出していた。

「本当の悪はその素振りさえも相手に気づかせないものだ。目立つ行動は最小限に抑えろ。無駄に敵を増やすな。逃げられるようなら戦いを避けろ」

 目の前の日では俺の眼を見ながらジリジリと近づいてきていた。

「おい、あんた何か勘違いしてるみたいだけど、俺はその〝デザイア〟じゃないよ。証拠がないだろ。俺なんか連れて行って鬼頭が何て言うかな。俺は鬼頭の友達だぞ」

「……何?お前、鬼頭の友達なのか?」

「ああ、そうだ。最近知り合ったばかりだけどな」

「……そうなのか。俺、勘違いしてたのかな」

俺の嘘を信じ込み、ヒデは俺から視線をそらせ考え始めた。

その一瞬の隙をつき、俺は倒れている自転車を持ち上げ、サドルにまたがると猛ダッシュでその場から逃走した。

それを見た瞬間、ヒデは猛スピードで俺を追いかけてきた。

それは動物が本能的に逃げる相手を追いかけるような感じだった。

 俺がペダルをこぎながら後ろを振り返ると、ヒデは獣のような信じられないスピードで俺の自転車を追いかけていた。

これは追いつかれるのも時間の問題だ。

俺は道を変え、世田谷公園に向かった。

あそこなら土地勘もあるし、うまくいけばヒデを撒くことができるかもしれない。

それに夜の公園ならバトルになっても他人を巻き込む可能性が低くなる。

そんな事を考えながら、俺は世田谷公園をバトルの場所に選んだ。

 しかし、それが大きな誤算だったことに俺はまだ気づいていなかった。

世田谷公園こそ、知的障害者ヒデが最大限にその身体能力を発揮できる場所だということを俺は知る由もなかった。

          8

 午後7時、携帯のアラームの音でノジリは眼を覚ました。

ゆっくりとベッドの上で身体を起こし、携帯のアラームを解除した。

ペットボトルの中に入った飲み掛けのコーラを喉に流し込んだ。

コーラはすでに炭酸が抜けていて温くてまずかった。

なんだか、身体がだるい。

こんな日はバイトに行きたくないと思う。

このまま休んでしまおうかとも考えた。

ノジリはもう一度携帯の液晶画面を覗いた。

今日はミシマと一緒のシフトの日だった。

ミシマとのシフトの日はなんとしても行かなければ駄目だ。

 ノジリは昔、ヤクザに追い込みを掛けられていた時、ミシマに助けられ、それ以来慕っていたのだった。

洗面所で顔を洗い、Tシャツを着替えて「ワールド」へ行く支度をしていた時、携帯が鳴った。

液晶画面を見ると知らない番号からだった。

少し考えてからノジリは携帯を取った。

「もしもし……」

「久しぶりだなノジリ。小向だ。今、お前のアパートの前まで来てるんだ。ちょっと面見せろや」

「……はい」

小向はノジリが以前出入りしていたヤクザの事務所の先輩だった。

ミシマに助けられて以来ノジリはヤクザとはきっぱり縁を切っていた。

それ以来小向とも会っていなかった。

ノジリは昔の関係を断ち切る為に携帯番号も新しいものに変えていた。

それでも小向が自分の携帯に電話を掛けてきたことに戸惑いを感じた。

 ノジリはしかたなくアパートの前に出て行った。

相手は本物のヤクザだ。

ここで無視したりバックレたりしたら周りの人間にも迷惑をかけてしまうかもしれない。

電話の通りアパートの前にはスーツを身に着けた小向が立っていた。

小向は以前よりチンピラ色が抜け、その代わりに威厳が増しているように思えた。

 その小向の横に見知らぬ男が立っていた。

男は野球帽を斜めに被り、黒のタンクトップに白のシャツをだらしなく着崩して、ダボダボの迷彩色のパンツを腰履きしていた。

ノジリは初めその男が小向の手下だろうと思った。

しかし、それは違うということがすぐに分かった。

 ヤクザの小向が野球帽を被ったBボーイ風のこの男にヘコヘコと腰を低くし、ご機嫌伺いをしているのが目に見えて分かったのだ。

「おお、ノジリ久しぶりだな。今日はこのイブさんの用でお前に聞きたいことがあって来たんだ。お前、うちを辞めてからレンタルビデオ屋で働いてるんだってな。それで……」

小向の話を途中でさえぎるようにイブはノジリの目の前にしわくちゃに丸まっていた紙くずを広げて言った。

「〝デザイア〟はどこにいる。正直に答えろ」

イブが目の前に突き出したシワシワのチラシにはサングラスにニット帽を被った男のモンタージュが載っていた。

「デザイア?俺は知りませんけど……」

ノジリがそういい終えた直後、イブの拳がノジリの顔面を捉えた。

久しぶりに突然殴られ、ノジリはキレた。

「いきなり何すんだこのヤロー」

イブに殴りかかろうとするノジリを小向が体を張って止めに入った。

「ノジリ、やめとけ。この人はな……」

小向が言い終わる間もなく、イブは小向を振り払い、再びノジリの顔面を殴りつけた。

ノジリの唇と鼻から血が溢れ出した。

「時間がないんだ。本当に知らないんならそう言え」

「だから知らないって……」

その瞬間、イブはパンツのポケットからサイレンサー付きの拳銃を取り出すと躊躇なく引き金を引いた。

それはあっという間の出来事だった。

イブが拳銃を突きつけたかと思うと次の瞬間シュッという音を聞いたのを最後にワケがわからなくなった。

喉元に違和感を感じて手で触ってみるとどす黒い血でべっとりとしていた。

この大量の血が自分のものだと思った瞬間、ノジリはがっくりと膝から崩れ落ちるように地面に倒れこんだ。

 イブは顔色一つ変えずに上からノジリを見下ろしていた。

小向が慌ててノジリに駆け寄って抱きかかえた。

小向は必死に何かをしゃべっていたが、ノジリの耳には届いていなかった。

「後始末しておけ」

そう言い残してイブはその場を立ち去ろうとしていた。

辺りには人影はなかった。

小向は複雑な心境だった。

イブは小向が所属する組の引相手の売人だった。

若頭からイブを紹介され、ノジリに合わせるように言われた。

イブは人を捜しているという。

商売柄もしかしたらノジリを多少痛めつけるかもしれないと思っていたが、まさかたったあれだけのことで殺すとは思っていなかった。

以前ノジリが組に出入りしていた頃、小向はノジリを深夜の海に連れ出したことがあった。

小向が付き合っている女との問題をノジリは親身になって聞いてくれた。

その後、二人で深夜の海に向かって拳銃を撃ちまくった。

正直、小向は今日ノジリに会えることを楽しみにしていた。

仕事を終えたら久しぶりに酒でも飲みたいと思っていた。

そのノジリが自分の目の前で死んでいる。

会ってから間もない男に殺された挙句、男は自分にノジリの後始末をしろと言っている。

小向の心は次第に煮えくり返っていた。

後ろを振り返るとイブはすでに50メートルぐらい先を歩いている。

小向は自分の懐にベレッタが眠っているのを知っている。

辺りには誰もいない。

殺るなら今しかない。

小向は手に汗をかきながら懐のベレッタに手を掛けた。

思い切って懐からベレッタを取り出し振り向いた瞬間、イブが目の前に立っていた。

「何をしているんだ?」

「……いや、その本当に死んでるかと思って。一応とどめをさしておこうかと……」

「その必要はない。こいつはもう死んでる。それより前から人が来た。とりあえず死体をこいつの部屋の中に運べ。肩に腕を回し、気分が悪い相手を介抱しているようにして運ぶんだ」

「……はい、わかりました」

小向はイブに従うしかなかった。

たった今人を殺したばかりとは思えないほどイブは冷静だった。

この男を殺すのは無理だ。

イブの機会のように冷たい眼が、小向の殺気を消し去った。

 ノジリの死体を担ぎ、小向はノジリの部屋に入っていった。

その後からイブが背後霊のように音も無く着いてくる。

イブはノジリの死体をバスルームに運ぶように指示した。

小向はノジリの死体をバスタブの中に突っ込んだ。

その間にイブはノジリの部屋を物色し、キッチンから包丁やハサミを持ち出してきた。

イブはバスタブに転がっているノジリの死体を包丁で切断し始めた。

イブは手際よくノジリの死体をバラバラにしていった。

その様子を見ていて小向は吐き気がしてきた。

ヤクザの小向でもこれまで人を切断したことはなかったのだ。

その作業をイブは顔色一つ変えずに難なくこなしている。

小向は改めてイブの恐ろしさを体感した。

こんな男を殺すことはできないと思った。

そんなことを考えている間にもノジリの死体はおびただしい異臭を放ちながら、5つに切断されていた。

「すいません、俺、気分が悪いんで先に上がらせてもらいます」

小向は一刻も早くこの場から抜け出したかった。

目の前の男とはあまりにも住む世界が違いすぎる。

こいつらは異常だ。

次の瞬間、イブはサイレンサー付きの拳銃で小向の額を打ち抜いていた。

小向はばったりと玄関先の廊下に血を流して倒れこんだ。

イブは額の汗を腕で拭いながら、小向の死体に視線を送り、再び作業を続けた。

                                                【続く】

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2006年11月24日 (金)

デザイアと呼ばれた男  VOL 13

  こんにちは。D・二プルです。

 【二プルのおススメ映画】

  「クイルズ」

  18世紀末のフランス。猥褻文書の罪でナポレオン体制下の警察に逮捕されたサド侯爵(ジェフリー・ラッシュ)は、シャラントンの精神病院に送られる。金の力で特別待遇を受ける彼は、広い部屋で執筆の自由を与えられていた。これは理事長を務める若き理想家ド・クルミエ神父(ホアキン・フェニックス)が、サドの治療になると信じて与えた特権であった。だが好奇心旺盛な小間使いマドレーヌ(ケイト・ウィンスレット)を通して、彼の文章は世に渡り闇出版されており、その事実を知ったクルミエは、ただちに筆記具を没収。するとサドの猛烈な反逆が始まり、あらゆる手段を使って小説を書こうとする。しかし、新しく院長に任命されたコラール博士(マイケル・ケイン)はサドに残酷な拷問を加え、厳しく弾圧していく。ついに裸で監禁されたサド。そんな彼の耳に、ドア越しに囁くマドレーヌの、あなたの物語を聞きたいという声が聞こえた。患者たちを通して、サドの語る物語を密かに聞き書きしていくマドレーヌ。だが、その物語に発情した患者たちが暴れ出し、火事が発生、そして患者の1人にマドレーヌが殺されてしまう。やがてサドは獄死。その後、コラールは金がもうかるからとサドの本を出版し、クルミエ神父は患者となって邪悪な真実の物語を書きはじめるのだった。

 

スキャンダラスなフランスの文学者、マルキ・ド・サドの晩年を描く作品。監督は「ライジング・サン」のフィリップ・カウフマン。脚本はダグ・ライト。撮影は「キャラクター 孤独な人の肖像」のロジェール・ストッファーズ。音楽は「リトル・ダンサー」のスティーヴン・ウォーベック。美術は「恋におちたシェイクスピア」のマーティン・チャイルズ。出演は「TATARI」のジェフリー・ラッシュ、「グッバイ・モロッコ」のケイト・ウィンスレット、「グラディエーター」のホアキン・フェニックス、「追撃者」のマイケル・ケインほか。2000年ナショナル・ボード・オブ・レビュー最優秀作品賞、最優秀助演男優賞ほか多数受賞。

 

 では、「デザイアと呼ばれた男」を引き続きお楽しみ下さい。

 

第六章  狂気の異常性愛者たち

          1

 マユミと付き合い始めてから一週間が経っていた。

俺とマユミは休みを合わせ、その日もデートしていた。

 待ち合わせ場所にやってきたマユミは、胸元が大きく開いた黒のシャツの上から白のジャケットをはおい、ジーパンにパンプスを履いたシンプルな姿で現れた。

チラチラと見え隠れするヘソがとても魅力的だった。

 俺とマユミはまず映画を見た後、クラブで踊り数杯のビールを飲んだ後、静かなバーでテキーラを飲みながら語り明かした後、ラーメン屋で腹ごしらえをしてホテルに向かった。

ここまでは完璧なデートだった。

しかし、問題はここからだった。

 ホテルに着くとマユミは勢いよく俺に抱きついてきた。

酒に酔っているせいもあってマユミは獣のように濃厚なキスをし、自分の舌を俺の下に激しく絡めてきた。

マユミはそのまま俺をベッドに押し倒し、キスしたまま服を脱がし始めた。

俺もマユミの服を脱がし始める。

二人はあっという間に全裸になり、絡みつきながら身体の至る所を嘗めたり揉んだりしながら存分にお互いの身体を味わった。

俺のペニスも充分に膨張していた。

マユミは大きく股を広げ、俺を受け入れる体勢を作り出した。

俺は前回の失敗を振り払うようにマユミの中にペニスを挿入した。

やはり好きな女とするセックスは一味違う。

 俺はマユミと付き合いだしてからある種の満足感を感じていた。

今まで充たされていなかった何かがやっと見つかったようなそんな達成感があった。

ここまでは俺がマユミと付き合い始める前から想像していた範囲内のことだった。

 しかし、付き合い始めて改めて浮上した問題もあった。

それはマユミとの〝性の不一致〟だった。

 気持ち的には俺はマユミとセックスしたいとずっと思っていた。

しかし、いざ実行してみるとマユミとのセックスにそんなに燃えていない自分がいるのだ。

激しく絡み合っていてもどこかに醒めた自分がいた。

俺はそんな自分を冷静に観察していた。

その心と体とのギャップが俺を悩ませた。

それはマユミと付き合い始めるまでは分からなかった悩みだった。

 そんな俺の気持ちにマユミも内心気づいているのか、どこか不安げな表情を時々浮かべるようになった。

 俺とマユミのセックスはいつもうまくいかず、俺はこれまで一度も絶頂したことがなかった。

そして、それはマユミも同じだった。

 その日も俺は激しく腰を動かし、ピストン運動を繰り返した。

マユミはそれに合わせ身体をくねらせ、高々と喘ぎ声を上げたがどこか演技っぽく、俺はみるみるうちに醒めていった。

 体中には冷たい汗が体にまとわり付いていた。

俺はすっかり萎えたペニスを抜き、マユミから離れた。

「……今日も駄目なの?」

「……ごめん。何が原因なのか俺にも分からないんだ」

「お酒のせいじゃないよね……」

「たぶん違うと思う」

俺はベッドに腰掛けたままタバコに火を点けた。

マユミはバスタオルを巻き、そのままバスルームに消えていった。

俺はタバコの煙を吐き出しながら、これからのマユミとの関係を考えていた。

 一方、鬼頭は崩壊した事務所にいた。

頭には包帯を巻き、顔にもいくつかのすり傷がみられる。

事務所には鬼頭以外の人影は無かった。

部下たちはみんな逃げてしまった。

それは〝デザイア〟を恐れていただけではなく、〝デザイア〟にこっぴどくやられた鬼頭にも恐怖を感じたからだった。

 突然の襲撃を受け、女を奪われ、〝デザイア〟に逃げられた鬼頭はその怒りを部下たちに当り散らした。

理不尽に殴られ、部下たちはとうとう愛想を付かせて鬼頭の元から離れていった。

そして、鬼頭は一人になった。

鬼頭は眉間にシワを寄せながら机の上に足を投げ出してタバコを吹かしていた。

鬼頭の頭の中には〝デザイア〟のことでいっぱいになっていた。

鬼頭は〝デザイア〟を殺したくてうずうずしていた。

しかし、〝デザイア〟の正体も居場所が分からない。

相手は素人じゃない。

間違いなく自分と同じ犯罪を犯すことを恐れていない悪の匂いを感じていた。

 鬼頭はこのイライラした気持ちを晴らす為に、外に出て女を犯すか男をボコボコにしたいと思っていた。

しかし、鬼頭は自分の欲望を押さえつけた。

ここで下手に動いて警察に捕まったら元も子もない。

小さな欲望を我慢し、より大きな欲望を成し遂げる為に考えをめぐらせていた。

 〝デザイア〟は長期延滞者に取立てに来た部下たちを襲っていた。

そこに奴の動機が隠されているはずだ。

何かしらの理由で〝デザイア〟は「ニガー」を的に掛けている。

しかし、奴の正体は極悪非道なレイパーだと鬼頭は確信していた。

それは〝デザイア〟が自分と同じ匂いを放っていたからだ。

それは一目見てすぐに分かった。

身体から湧き上がるあの独特のオーラ。

そして、犯罪者特有の悲しい眼。

ある意味、鬼頭は〝デザイア〟に共感を持っていた。

だからこそ絶対に許せなかった。

 その時、突然鬼頭の携帯が鳴った。

液晶画面を見ると非通知と出ている。

鬼頭は携帯を取った。

「お前が捜してる〝デザイア〟の情報を教えてやろうか?」

それは聞き覚えのある声だった。

「お前は和美が襲われたと垂れ込んできた奴だな。誰だ貴様?」

「そんなことはどうでもいい。とにかくお前に情報を与えてやる。『ワールド』の従業員の中に〝デザイア〟の協力者がいるぜ」

「協力者だと?もったいぶらずに奴の正体を知ってるならダイレクトに教えろよ。本当はお前が〝デザイア〟じゃないのか?」

「俺の言葉を信じないならそれでもいい。だが奴はジワジワとお前を追い詰めていくぜ。せいぜい寝首をかかれないように気をつけな」

そう言って電話は一方的に切れた。

 鬼頭は和美のことを考えていた。

鬼頭が生涯で唯一愛した女だった。

和美と出会うまで鬼頭にとって女は性の捌け口でしかなかった。

使い捨ての道具だった。

そんな鬼頭を変えたのが和美だった。

和美の愛が鬼頭の闇に一筋の光を生み出した。

 その和美が暴行を受け、傷つけられたのだ。

鬼頭の怒りは頂点に達していた。

今回のことがきっかけで鬼頭は今まで自分が犯してきた女たちへの罪の意識を感じていた。

初めて傷つけられた者の痛みを知った。

それを踏まえた上で鬼頭は〝デザイア〟を殺したいと思った。

 鬼頭は新しくタバコに火を点け思いっきり肺に吸い込んでから吐き出すと、突然立ち上がり、事務所を後にした。

          2

 三日後の深夜、世田谷公園の中にある丘に続く石段を鬼頭は上っていた。

その日は風が強く吹き荒れていて、何か不吉なことが起こる前兆のようなそんな感じだった。

木々が風に揺られ不気味なきしみ音を出す中で、鬼頭が丘の頂上にたどり着くとそこには九人の男達が一列に並んでいた。

 鬼頭は男たちの正面に立つと低い声で挨拶を交わした。

「久しぶりだな、兄弟たちよ。全員揃うのは何年ぶりだ」

九人の男達は鬼頭がギャングチーム「ニガー」を作る前の土台となった初期の仲間たちだった。

主に活動内容は暴力とレイプだった。

それぞれが好き放題に暴力に明け暮れ、女を犯しまくった。

皆それぞれが我が強く、一応鬼頭の圧倒的な強さで統率されていたものの、基本的には各々が好き勝手に行動していた。

その為に当時、警察に捕まる者や、ヤクザに追い込みを掛けられ、地方に逃げた者などが続出して決してまとまることがなく、自然に分裂してしまった。

 しかし、分裂するまでに彼らが作った伝説は数知れず、世田谷公園で噂されている〝10人のホームレス〟の噂も元々彼らが作った伝説の一つだった。

彼らは自分たちがやった悪事の数々をホームレスのせいにして警察の手から逃れていたのだ。

その為に公園内に架空の〝10人のホームレス〟がいるという噂を流し、公園に訪れた者たちを襲って楽しんでいたのだった。

夜の公園は彼らにとってホームグラウンドのようなものだった。

 その九人が鬼頭に呼ばれ一同に集まっていた。

鬼頭は一人ひとりに連絡を取り、面子を捨てて頼み込み、九人を集めたのだった。

目的はもちろん、〝デザイア〟を本気で捜し出して殺す為だった。

「今日集まってもらったのは以前話した通り、一人の男を捜し出し殺す為だ。そいつは素人じゃない。恐らく昔の俺たちと同じように暴力と快楽の為には手段を選ばないプロのレイパーだ。こいつが今回の的だ」

鬼頭は以前制作した〝デザイア〟のモンタージュを九人に配った。

そこには謎のたれ込みがあった〝デザイア〟の協力者が「ワールド」の従業員の中にいるという情報も付け加えられていた。

「やり方は昔の通り好きにやってくれ。ただし、〝デザイア〟本人は生きたまま俺の前に連れてきてくれ。それ以外の条件は無い。目的の為には手段を選ぶな。どれだけ他人を犠牲にしてもかまわない」

 九人はそれぞれチラシを見つめた後、丸めて捨てる者、ライターで火を点け燃やす者、几帳面にポケットに折りたたんでしまう者、その場で破り捨てるなど、自由に振舞いながら鬼頭の話を聞いていた。

「久しぶりにおもしろいゲームじゃないか」

「ちょうど、退屈してたんだ」

「誰が一番初めにこいつを見つけられるか競争な」

「でも、殺しちゃいけないんだよな」

「犯すのはいいんだろ?」

「試してみたいプレイがあるんだ」

「……面倒くさいな」

「こいつに女いるのかな」

「……」

九人はそれぞれ独り言のようにつぶやいた後、夢遊病患者のように闇の中に消えていった。

丘の上には鬼頭一人が残っていた。

鬼頭は九人の狂ったような独り言を聞いて久しぶりに嬉しくなった。

誰一人、昔と変わっていなかった。

鬼頭自身も「ニガー」の中で経済最優先で動いていたものの、どこか物足りなさを感じていた。

取り立て業者「ニガー」のメンバーもワルぶってはいたが、鬼頭から見ればまるで大人しく従順な常識に縛られた一般的の手下にすぎなかった。

今、必要なのは自分の言うことに従順に従う駒ではなく、各自で考え本能のままに行動する獣のようなモンスターだった。

 鬼頭はある意味〝デザイア〟に一目置き認めていた。

あの常識離れした行動力、欲望に正直な心意気、どれも自分と同じ反社会的な〝はぐれ〟特有の匂いをかもし出していた。

 鬼頭は丘の上のシイの木を思いっきり蹴り上げた。

シイの木は大きく揺れ、葉を散らせた。

 鬼頭は心の中で戦闘開始の狼煙を高々と掲げたのだった。

                                                 【続く】

 

 

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2006年5月31日 (水)

麻薬のような女  VOL 15

 こんにちは。D・二プルです。

 皆さん、一度きりの人生を無駄に使っていないでしょうか。

私は短い人生を有意義に使う為に〝道楽者〟になることを心に誓っています。

自然に身を任せ、欲望に正直に、あらゆるものを快楽の為に犠牲にしようと思います。

 私は皆さんにもそんな生き方をして欲しいと思いつつも無理強いはしません。

ただ、私の作品を読んでいただきたい。

そうすれば自ずと私の言いたかったことが見えてくると思います。

では、「麻薬のような女」の続きをどうぞ。

俺はアイに言っていない事がもう一つあった。

それは〝香澄の記憶〟の事だ。

あの大地震で生死をさ迷って以来俺の頭の中に流れ込んできたもう一つの記憶。

初めはおぼろげだった香澄の記憶も、次第にパズルのピースのように一つずつハマっていくのが分かった。

しかし、まだ完全に香澄の記憶が解明したわけではなかった。

香澄には生前に遣り残した事があった。

その目的を達成できずに悔やんで死んだ。

それから後悔している事もあった。

それを成し遂げる為に俺の体の中に入ってきたのだ。

俺は香澄の気持ちを少しずつ理解しようとしていた。

他人の記憶が自分の頭の中にあるというのは不思議な感じだった。

俺が知らない知識を香澄を通じて知る事が出来た。

二人分の情報を得る事が出来た俺は、たくさんのすばらしい発見をする事ができた。

その中でも一番大きかった事は女の気持ちを理解できたという事だった。

今までの俺がいくら考えても知りようがなかった女の気持ちを俺は知る事ができた。

その事がうれしくて仕方なかった俺は、アイやモナ、または町の女達と話しその成果を試してみた。

町の女達は「話しが合う」とか「よく分かってる」とか「女の扱いがうまい」などと言う程度だったが、アイやモナは俺の変貌ぶりに驚いていた。

とくにアイは、初め俺がゲイになったんじゃないかと心配するほどだった。

しかし、俺がゲイじゃないと分かるとアイはホッとしたように微笑み、

「これならあの娘ともうまくいく」

と言ってくれた。

俺はアイの言葉がとてもうれしかったが、肝心のイラにこの事が伝えられないのが歯痒かった。

相変わらずイラは赤ん坊のように無邪気に毎日を過ごしていた。

近頃はやっと俺のことを怖がらなくなったが、赤ん坊が親の臭いを覚えたような感じで恋人という雰囲気にはまったくならなかった。

俺はこのままイラと暮らす事ができるか不安だった。

もう、以前のようにクスリに逃げるような事はしないが、イラとの未来がまるで想像できなかった。

今の俺とイラの関係は親子か歳の離れた兄妹のようだ。

このままイラを俺好みの女に育てようか?

しかし、俺は自信がなかった。

「黄金町」に来て以来色々な経験をしてきたとはいえ半年前に童貞を捨てたばかりの半人前の男がイラを育てることができるのだろうか?

いくら〝香澄の記憶〟を持っていたとしても…。

最近香澄の事を考えていると、意識を失う事がある。

正確に言うと意識を失っているわけではなかった。

俺の意識が薄れまるで休んでいるような感覚になる。

そんな時、香澄の記憶が頭の中を支配している。

香澄の人格が俺の体を動かしているのが俺にも伝わってくる。

しかし、そんな時、イラは香澄の記憶に支配された俺に従順でよく懐いていた。

明らかに俺の時とは態度が違うのだ。

まるで甘えるように体を摺り寄せ、安心して眠っている。

俺は香澄がうらやましいと思った。

俺の人格の時もこんな風に接してくれたらどんなに気分がいいか。

俺は香澄に嫉妬していた。

香澄の人格が俺の体を支配する時間は次第に長くなっていった。

俺はまるで二重人格になったようだった。

アイは山田との仲を次第に深めていった。

山田は毎日のように「黄金町」に通うようになっていた。

2日に一回はアイの部屋に泊まり、そこから会社に行っていた。

アイは山田とSEXするのに金を取らなくなっていた。

その代わり山田はアイのマンションの家賃と携帯代、モナの携帯代も払っていた。

アイは山田の為に食事を用意し、夜は精一杯尽くした。

山田はアイに愛の言葉を捧げ、花束やプレゼントを贈った。

アイは娼婦の仕事を日に日に減らしていった。

娼婦を辞め、スナックでバイトするようになった。

アイは山田との結婚をはっきり意識していた。

しかし、アイは恐れていた。

春道の時のように結婚の話をした途端山田が逃げてしまったらどうしよう。

アイは自分が俺に結婚の話をした事を思い出したのだった。

結婚が近づくと男は女から離れて行く。

アイは痛いほど男の本質を理解していた。

いくら真面目な男でも、いくら「愛している」と口では言っても男は結婚を嫌う。

そんな男ばかりじゃないと自分に言い聞かせても、過去の体験がアイを臆病にさせた。

デキちゃった婚以外で結婚しようという男は、天然記念物ほど貴重だという事をアイは知っていた。

しかもアイは過去に手術で子宮を摘出している為、子供はできない体になっていた。

アイはその事で悩み、落ち込んでいた。

そんなアイの様子が気になった山田はやさしくアイを励まそうとするが、それがかえってアイの逆鱗に触れた。

数分後、二人は怒鳴りあいの喧嘩を始めた。

アイの剣幕は凄まじく、アイは山田に携帯や酒瓶を投げつけ大暴れした。

山田は手が付けられず部屋から逃げ出した。

一人になった部屋でアイは酒を飲みながら後悔していた。

何でこうなってしまうんだろう。

何でもっと素直になれないんだろう。

アイは布団に倒れこみ枕を濡らした。

そんな時、壁に投げつけて液晶画面にひびが入ったアイの携帯が鳴った。

電話は山田からだった。

アイはしばらく画面を見詰めたまま出ようとしなかった。

携帯はいつまでも鳴り響いていた。

しかたなくアイは携帯を取った。

「…もしもし?」

「もしもしペン?さっきはごめん…」

「…ううん。大丈夫、気にしてないね」

「…あのさ、大事な話があるんだ」

「大事な話?」

「…俺達結婚しないか?」

「……」

「俺、お前の事本気で愛してるし、絶対に幸せにするから…だから俺と結婚しよう」

「…電話で何言ってるね」

「…ごめん。直接言えなくて。今、そっち戻るから…」

「…今、どこ?」

「橋の所だよ。今から帰るから…」

「…いい、私がそっち行くね…。外に飲みに行くね…」

「ああ、それはいいけど…」

「ちょっと、準備して行くから少し待ってて…」

「ああ、分かった」

「……コープクンクラップ(ありがとう)」

携帯を切ったアイは涙を流していた。

アイは嬉しさを隠し切れなかった。

自分からどう切り出そうかと考えていた結婚話をどうしても話せずにいた矢先に、山田の方からプロポーズしてくれた。

アイはゆっくりと立ち上がりバスルームの鏡の前に立った。

アイの眼の周りは真っ赤に腫れていた。

蛇口をひねり流れ出る水でアイは顔を洗った。

水の冷たさがアイの心を落ち着けてくれた。

落ち着きを取り戻したアイは軽く化粧をして部屋を出て行った。

俺はイラと同じ布団で寝ていた。

イラは健やかな寝顔でぐっすりと眠っている。

そんなイラの寝顔を眺めながら、俺はこれからの事を考えていた。

これからずっとこの赤ん坊のようなイラとこの町で暮らすのか?

イラの将来の事を考えるならこの町を出て普通の暮らしをした方がいいんじゃないか?

何もイラが娼婦である必要は無い。

体を売らないで生活するのが普通だ。

普通?

普通って何だ?

普通の暮らしが本当に幸せだというのか?

俺はそんな普通の生活が嫌だったはずだ。

ダラダラと人生を無駄に過ごし、腐っていくだけの生活。

しかし、この町で生活するにしても何かやらなくては駄目だ。

俺はいったい何をして生きていこうか?

そんな事を考えているうちに突然睡魔が襲ってきた。

俺は夢を見た。

夢の中でまた香澄が現れた。

「なあ、俺はこれからどうしたらいいのかな?」

「焦っては駄目。時はすぐにやってくるわ。時間を有意義に使うの。あなたのしたい事をしなさい。心の健康は何にも増して強い武器になるわ。後は体を鍛えなさい。イザッって時に頼れるのは自分だけよ」

「そろそろ教えてよ。一体何が来るっていうの?あなたの目的は何なの?」

「そのうちすべて解かるわ。その時が来ればね」

そう言って香澄は俺との通信を切った。

俺は目を覚まし起き上がった。

ふとイラを見るとイラは相変わらずぐっすりと眠っていた。

俺はびっしょり汗をかいていた。

俺は洗面所で顔を洗い鏡の中にある自分の顔を見詰めた。

とにかくもうすぐ何かが起きる。

その時、慌てないようにとにかく心の準備をしておかなければならない。

俺はコップに水を注ぎ一気に飲み乾し、布団に戻った。

イラの寝顔を見て俺は新たに決意を固めた。

「何が起きようとイラは俺が守る。それが今俺が一番したいことだ」

翌日から俺は徹底的に体を鍛え始めた。

ランニング、筋トレ…基本的な体力作りを徹底してやった。

そしてイラと過ごした毎日の記録をノートに記録していった。

それから香澄との会話も覚えてる限りすべて書き留めた。

そのうち書いていると不思議と落ち着いていく自分に気づいた。

以前は日記もろくに書いたことのなかった俺が、今は毎日のようにノートに文字を刻んでいる。

これも香澄の影響なのか?

とにかく〝書く〟事が心地良かった。

そんな事をしているうちにあっという間に一ヶ月が経過した。

そしてついにそれはやってきた。

                                                  【続く】

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2006年5月 7日 (日)

麻薬のような女  VOL 4

 こんにちは。D・二プルです。

 今年のGウィークもあと少しで終わってしまいますね。

皆さんどうお過ごしですか?

 私はGウィークは関係ありません。

常に作品のことを考えながら自由に放蕩生活を送っています。

 放蕩生活と言えばこの前観たジョニー・デップの「リバティーン」は最高でした。

ロチェスター伯爵はサド、カザノヴァ、に続き、私の心に新たな影響を与えた素晴らしい自由人でした。

私も彼らのような自由奔放な人生を送りたいと常に思っています。

 さて、「麻薬のような女」はいかがでしょうか?

少しは興味を持って読んでくださる方がいれば嬉しいです。

 では続きをお楽しみ下さい。

「香蘭」でのバイトにも慣れてきた頃、俺はイラと再会した。

イラは「香蘭」にラーメンを食べにきた。

「香蘭」で働いている俺を見てもイラは何の反応も示さず、一番奥のカウンターに座った。

イラは俺の事をまるで覚えていないようだった。

イラにとって俺は客の一人にすぎなかったのか。

俺はイラに水を出し注文を聞くついでに探りを入れてみた。

「ご注文はお決まりですか?」

「ラーメンとギョウザ」

「ラーメンとギョウザですね…あ、俺の事覚えてます?」

「…え、どこかで会いました?」

「あの、前にお世話に…」

「…ああ、そう」

イラはまるで俺を覚えていなかった。

俺にまったく興味が無い事はすぐに分かった。

正直イラとのSEXは良くなかった。

それでも俺はイラが気になった。

どうしてだろう?

SEXだけならアイとのSEXの方が比べ物にならないほど良かった。

それに俺はアイの事が好きだ。

それは偽りの無い気持ちだった。

しかし、イラに対する想いはまた違うものだった。

「ラーメンとギョウザお待たせしました。熱いんで気をつけて下さいね」

「…どうも」

イラはおれの事をただのラーメン屋の店員としか見ていなかった。

ラーメン屋の店員が自分の店に抜きにやってきた客①ぐらいにしか感じていないだろう。

それでも俺はイラが好きだと確信した。

ラーメンを口いっぱいに頬張っているイラをずっと見ていても飽きなかった。

食器を洗いながら俺はイラを見詰めこの「黄金町」にやってきた目的を思い出していた。

きっかけは北川に彼女ができた事だった。

あいつに負けたくないと思う気持ちと早く童貞を卒業したいという負い目から俺は「黄金町」にやってきた。

しかし、同時に俺は彼女を作るという目標を心に刻んでいた。

そしてイラと出逢った。

俺は目標をはっきりと決めた。

イラの心を掴み自分の女にする。

俺は新たな目標を胸に秘め、皿を洗い続けた。

ラーメンを食べ終ったイラは金を置いて無言で店を出て行った。

「ありがとうございました」

俺は自分の心の奥で宣戦布告の雄叫びを上げた。

しかし、これが俺にとってどれだけ困難な道のりになるという事に今の俺は気づいていなかった。

バイトが終わると俺はアイのマンションに帰る前に「黄金町」を一周りしてから帰るのが日課になっていた。

この町に来てから一週間が過ぎていた。

俺はとくに店に上がるわけでもなくただこの町をぶらつくのが好きだった。

川沿いの道から路地に入り、一番賑やかなメインストリートを通り抜け、迷路のように入り組んでいる路地を潜り抜け、新聞屋の前を通ってまた川沿いの道に戻ってくる。

小さな町だが女達を見ながら歩いているとすぐに時間が経ちあっという間に一時間ほど経ってしまう。

それにしてもこの町の女たちは本当に元気だ。

他の街で遊んでいるような女たちやバリバリに働いているキャリアウーマンなんかよりもパワーを感じる。

のんびりしたような雰囲気の中に生きる為の切実さが伝わってくる。

この町の女達は今の日本人の女が失ってしまった何かを持っているように思えた。

俺はこの町の女達が大好きだった。

しかし、そんな女達が自らの身体を売って生活をしているのが現実だった。

この町は売春の町だ。

ここで働く女達は様々な背景を背負ってここで働いている。

国の家族の為に働く者、恋人の為に働く者、家族に売られ仕方なく働く者、全てに絶望してここに辿り着いた者、そんな女達の直向な気持ちがこの町を支えているのも事実だった。

だからこそここで生きている女達は輝いているのだ。

俺もそんな女達に心を救われた弱い男の一人だったが、今は逆にここの女達を守りたいという感情が芽生えている。

しかし、本当はここで生きる女達が売春などしなくてもいいような世界が望ましいと俺は思った。

この日はアイが遅くまで店で働く日だった。

アイから部屋の合鍵は渡されていたが一人で部屋で待っているのも面白くないので俺は川沿いに店を出している屋台に入った。

前からここの屋台には興味があったのだが来るチャンスがなかった。

ここの屋台は三軒連なった屋台を奥さんと女の子が細々とやっていた。

俺はおでんの大根と竹輪をつまみにビールを飲んでいた。

奥さんと女の子は血の繋がりは無かったが、本当の家族のように信頼しあっていた。

二人は屋台の傍ら客も取り身体も売ると言う。

俺は二人のたくましさを感じながらビールを飲んでいた。

しばらくすると俺の隣の席に男が座ってきた。

サラリーマン風のその男はいかにも〝「黄金町」に女を買いに来た客〟といった感じだった。

男はヤキソバとビールを注文し女の子と話を始めた。

しばらくは黙って男の話を聞いていた俺だったが、一時間もしない内にすっかりその男と打ち解けて盛り上がっていた。

男の名は山田―見るからに平凡な男だった。

山田は俺がこの町で娼婦と暮らしていると知ると話に食いついてきて「黄金町」の話をいろいろと聞いてきた。

山田は今日が「黄金町」デビューらしく、相手を探している途中だと言うのだ。

俺は自分が初めてこの町に来た時の話を聞かせた。

山田は真剣に俺の話を聞いていた。

酒の力もあってすっかり山田と意気投合した俺は、山田と一緒に「黄金町」を周る事にした。

屋台の奥さんと女の子に別れを告げ、俺と山田は夜のネオンを求めて歩き始めた。

ピンク色のネオンに身を包んだ女達は、誘惑の視線を俺達に浴びせてくる。山田は女達を物色していたがなかなか決まらなかった。

ふと俺の頭の中にアイの姿が浮かんだ。

一瞬山田にアイを紹介しようかという考えが浮かんだがすぐに消えた。

俺は山田の眼の奥に潜む何かを直感的に感じ取っていた。

俺と山田はすでに町を二周していた。

次第に俺は面倒くさくなりイライラしてきた。

その時突然俺の携帯が鳴った。

液晶画面を見るとアイからだった。

山田は娼婦と話をして盛り上がっていた。

俺は携帯を取った。

「もしもし」

「もしもし、アイです。今日あんまりお客さん来ないだからお店閉めるね。これからアイが知ってる店に飲みに行きましょう」

「OK!今から行きます」

俺は携帯を切り山田を見た。

山田はさっきとは違う娼婦と話していた。

「あ、ごめん。今友達から連絡入ってさ、俺今日は帰ります」

「分かりました。俺はもうちょっとブラブラして行きます。今日はありがとうございました」

「じゃ、また」

俺は山田に別れを告げアイとの待ち合わせ場所に向かった。

アイと待ち合わせした橋の上に走って行くとアイはすでに来ていた。

アイの隣にはもう一人女の子が立っていた。

イラと同じぐらいの歳の女だった。

「春道、遅いよ」

「ごめん、ごめん。あれ、そっちの女の子は?」

「さすがに目の付け所が早いね。この娘、私の妹ね」

「…妹?」

「本当の妹じゃないよ。でも、同じタイ人ですごくいい子ね。私本当の妹みたいにこの子可愛がってるね」

「俺、春日春道です。君、名前は?」

「……」

「この子まだ日本語分からないね。この子モナ。モナリザから取ったね。春道、モナリザ知ってますか?」

「…うん、知ってるよ。モナちゃんよろしくね」

俺はモナに握手を求めた。

モナは黙ったままニッコリと微笑み俺の手を握った。

「さぁ、今日は思いっきり呑むよ」

「どこで飲むの?前飲んだ居酒屋?」

「今日はアイの知ってるいい店で飲むよ」

そういうとアイは俺とモナを引き連れて大通りに出た。

タイミングよくやってきたタクシーに乗り込んだ俺たちは「黄金町」を出発した。

                                                  【続く】

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