2007年4月18日 (水)

デザイアと呼ばれた男     VOL 23

こんにちは。D・二プルです。

ご無沙汰してます。今日は私の誕生日なので久しぶりにここにやってきました。

「デザイアと呼ばれた男」の続きをどうぞ!!!

 けたたましいサイレンが鳴り響き、5台のパトカーと少し間をおいて1台の救急車が「ワールド」の前に集結した。

パトカーの中から十数人の警察官と救急車から二人の救急隊員が騒々しく「ワールド」の階段を駆け上がって行った。

それまで静かだった周囲が急に騒がしくなり、いつのまにか野次馬の群れも集まっていた。

 俺は道を挟んだ「ワールド」の向かいの自動販売機の前で手首の拘束具を外し、優々とタバコを吹かし、そのにぎやかな夜の騒動を見物していた。

 いつもの〝デザイア〟の全身黒の衣装は天井裏を這いずり回ったせいでホコリまみれに汚れてしまったので天井裏に置いてきた。

それにあの格好で近くをうろうろしていたらたちまち鬼頭たちに見つかって囲まれてしまうだろう。

今の俺はヤンキースのキャップをななめにかぶり、ナイキの黒のTシャツにダボダボのジーパン姿で、サングラスとシルバーアクセをジャラジャラ着けたB系ファッションに身を包んでいた。

 國無が郵便受けに入れておいてくれた新アイテム〝デザイア七変化セット〟がさっそく役に立った。

これは七枚のビニール袋の中に小さくたたまれた服がそれぞれ入っていて、まったく違った服装、メガネ、帽子、カツラ、アクセサリーなどの小物からその格好に合わせた武器までコンパクトに収納されていた。

このアイテムのおかげで俺はどこにいても別人になることができた。

 俺はタバコを吹かしながら体を休めていたが、頭の中はごちゃごちゃにパニクっていた。

ユカの死、重傷を負った小原、そして、初めての殺人……今日は何て一日だ。

それに國無が言っていた、さらわれたマユミの行方が気になっていた。

俺は携帯を取り出し、國無に電話した。

しかし、電話は繋がらなかった。

恐らく、國無もこっちに移動中なのかもしれない。

とにかく今はマユミを見つけ出し、無事に助け出さなければならなかった。

俺は変装しているが、奴らの顔は写真でワレている。

一人一人見つけ出し、マユミの居所を吐かせるか。

 目の前の「ワールド」は既に警察の手によって封鎖されていた。

鬼頭たちもうかつには近づかないだろう。

それでも奴らが必死に〝デザイア〟を捜していることは間違いない。

 その時、俺は少し離れた246沿いの角に立っている一人のサラリーマン風の男に気が付いた。

サラリーマン風の男は携帯で誰かと話しをしている。

俺は國無の資料の中の写真とサラリーマン風も男を見比べてみた。

間違いない。

奴は鬼頭の仲間のエナリ カズオだ。

 エナリは電話で話しながら慌てて246沿いを走って行った。

俺は辺りを警戒しながらエナリの後をつけた。

周りに他の仲間の姿は見えない。

だが、油断はできない。

奴らは必ず近くにいるはずだ。

 エナリは携帯を耳に当てたまま早足で246沿いを直進している。

俺はエナリの20メートル後ろにぴったりと張り付き、尾行を続けた。

それにしてもエナリは誰と話しているんだろうか?

鬼頭から何か指示されているのかもしれない。

 尾行を続けているとエナリは246沿いからわき道に曲がり、世田谷公園を通り抜け、廃屋団地の方向に向かっていた。

エナリは一体どこへ行こうとしているんだ?

エナリは俺の尾行に気づかずにそのまま廃屋団地の中に入って行った。

どうなってるんだ?

俺は急いで廃屋団地の敷地内に入り、建物の角を曲がって姿を消したエナリの後を追った。

角を曲がり、俺はギョッとなった。

俺の目の前にエナリがこちらを向いて立ち止まっていたのだ。

「お前がデザイアか?モンタージュとだいぶ違うな。さっきの電話で言ってた通りだ。誰だか知らないが助かったぜ。お前の首は俺がもらった」

「……」

どういうことだ?

エナリは俺を待ち構えていた。

俺が尾行していることを知っていたというのか?

それにエナリが電話で話していたのは一体誰なんだ?

「……おい、何でここを選んだんだ?鬼頭の指示か?」

「いいや、鬼頭じゃない。誰だか知らないが匿名で俺の電話に掛かってきたんだ。〝デザイア〟の居所を知ってるってな。そいつがここに来るように言ったんだ。そいつが突然〝デザイア〟はお前の後ろにいるって言って電話を切った時はいたずらかとも思ったが信じてよかったぜ。お前、俺たち以外にも敵がいるみたいだな」

「……」

エナリはジッと突っ立ったまま俺に近づいてこなかった。

警戒しているのか、それとも何か他に狙いがあるのか?

「おい、女をどうした?」

「女?ビデオ屋で自殺した女か?あの女を犯ったのはジャックだぜ。あとシローも何かしてたな。俺は女には手を出してないぜ」

エナリが言っているのはユカの事だとすぐに分かった。

ユカはレイプされ自殺したのか。

俺は再び心の中でやるせなさが膨張を始めた。

「俺が殺ったのはロン毛の色黒の男だ。初めはあのおっさんが〝デザイア〟だと思ったんだが、とんだ見掛け倒しだったな」

何だと……エナリが言っているのはミシマさんのことか?

こいつ、ミシマさんを襲ったっていうのか?

「……おい、そのロン毛の男はどうした?」

「もちろん、殺してきたぞ。あまりにもがっかりしてな。さっきまであいつの返り血がべったり付いてたんだが、雨でだいぶ落ちたようだな。あいつの死体は当分出てこないぜ」

「……」

 辺りはとても静かだった。

近所の住民は夜はこの辺りには近づかない。

世田谷公園同様、痴漢や変質者が出没するのもこの辺りが多かったからだ。

「ワールド」の前に居た時、俺はどうやってこいつらを倒していこうか考えていた。

あの辺りは夜でも人通りが多いし、路地裏にでも連れ込むしかないと思っていた。

それに俺自身の手で警察を呼んでしまったことで、「ワールド」周辺で鬼頭たちと激突するのは得策ではなくなってしまった。

しかし、ここなら思いっきりやれる。

「そうか、これでおあいこだな。俺もさっきお前たちの仲間の一人を殺してきたばかりなんだ」

「!!!」

エナリが俺の言葉に反応した次の瞬間、俺はエナリに向かって突進していた。

俺は指全部にはめたシルバーのゴツイ指輪付きの拳を握り締め、エナリの顔面を殴りつけた。

拳はエナリの右頬に命中し、ミシリという音を立てて、エナリの歯を数本砕き散った。

口から血を流し、ふらついているエナリに俺はボディーブローを叩き込み、下がった顎に膝蹴りを喰らわせ、さらに股間を思いっきり蹴り上げた。

それでもエナリが倒れなかった事に俺は驚きを隠せなかった。

正直、俺は殺す気でエナリを攻撃した。

それでもエナリはダウンすらしなかった。

 俺はいつか國無が言っていたことを思い出した。

「人間、殺す気で他人を殴ったとしても潜在能力の70%ぐらいしか出すことができない。それは自己防衛本能が働き、自分の肉体を傷つけない為だ。相手を本気で殺したい時は格闘技をしていては駄目だ。もっと違った目線で急所を確実に攻める。本来急所とはどんな男でも鍛えようのない場所なんだ。まあ、主に体の中心だな。眉間、鼻、顎、喉、みぞおち、股間、ここを確実に攻めるのが望ましい」

俺が考え事をしていた一瞬の隙をエナリは見逃さなかった。

エナリは攻撃を受けた直後とは思えないようなスピードで一瞬で俺の背後に回りこみ、チョークスリーパーをかけ首を絞め始めた。

「……」

「いきなりいい攻撃だったぞ。さすが〝デザイア〟だ。さっきのロン毛よりもいい攻めをしてくれる。だが、これが限界か?ロン毛は俺の一回の返しで沈んじまったぞ。お前もこのまま俺に絞め殺されちまえばあいつと同じレベル……」

その瞬間、俺は俺の首を絞めているエナリの右腕の小指の骨を折った。

一瞬、エナリの腕の力が緩まった隙に俺はチョークスリーパーから脱出した。

そして、俺はエナリの左足の膝の下に強烈な前蹴りを喰らわせ、足の骨を折った。

エナリはバランスを崩し、地面に膝を着いた。

俺はエナリの背後に回り、着けていたシルバーのネックレスを吹き契り、エナリの首に巻きつけた。

エナリは悶えながら股間を大きく膨らませていたが、俺がネックレスで絞める力をさらに強めるとエナリはそのまま絶頂し、股間の周りが湿り始めた。

そして、エナリは口から泡を吹き、息絶えた。

俺は今日二人目の殺人を行った。

いくら感情的になっていても、人を殺す瞬間は手に嫌な感じが伝わってくるものだ。

イブを射殺した時はそれが銃だった為にそれほど実感はなかったが、今回はネックレスで絞め殺した時の感触がもろに腕から伝わってきた。

やはり人を殺すのは嫌なものだ。

その時、俺は背後に人の気配を感じ振り返った。

「おい、あそこに倒れてんのエナリじゃないか?」

「本当だ……ってことはあいつが〝デザイア〟か?電話で言ってた通りだっだね兄ちゃん」

そこには見るからに双子だと分かるほどそっくりの二人の男が立っていた。

こいつらも写真にあった鬼頭の仲間だ。

どうなってるんだ?

次々と集まってきやがる。

一体鬼頭の仲間に俺の居所をリークしているのは誰なんだ?

          6

 廃屋団地の一室では國無がワインを飲みながらメイン画面を見つめていた。

メイン画面には下の裏庭に佇んでいる〝デザイア〟と〝獣姦兄弟〟タツオとタツヒコが睨み合っていた。

三人の欲望が今にも激しくぶつかろうとしていた。

 國無はふとメインモニターからサブモニターに視線を逸らせた。

一つのサブモニターの中では「ワールド」周辺をうろうろしている鬼頭の姿があった。

 國無は画面を見つめたままダンボールいっぱいに詰まった携帯電話の中から一台を取り出すと電話を掛け始めた。

サブモニターに映っている鬼頭が自分の携帯を取りだし、電話に出た。

「おい、まだそんな所を捜してるのか?〝デザイア〟はもうとっくに別の場所に移動してるぜ」

「……また、お前か。一体、お前の狙いは何なんだ?まあ、いい。奴は今どこにいるんだ?」

「〝デザイア〟は今、お前の仲間を一人殺して、次の獲物を狙ってるぜ」

「……俺の仲間を殺しただと?ふざけたこと言ってるんじゃねえぞ?」

「だから、お前らはバカだっていうんだ。自分達が特別だとでも思っているのか?お前らだって一人の人間だ。そして、お前らが捜している〝デザイア〟はお前ら以上に凶悪な犯罪者なんだぜ。その証拠を見せようか?お前が今いる場所からすぐ246に出て2つ目の路地を右に曲がって、またすぐ3つ目の路地を左に曲がってみな。お前の仲間の一人が殺られてるぜ」

そう言って國無は携帯を切るとダンボールの中には戻さず、自分の手が届くテーブルの隅に置いた。

 鬼頭は謎の電話の男の言う通りに、246に出て、2つ目の路地を右の曲がり、3つ目の路地を左に曲がってみた。

すると路地の奥に転がっていたのは、すっかりと変わり果てたイブの姿だった。

イブは頭を撃ちぬかれ抜け殻のように小さくなっていた。

イブの死体を見て立ち尽くしている鬼頭の元に再び國無からの電話が入った。

「どうだ?これで分かっただろ?狙われてるのはお前たちの方なんだよ」

「……」

「何だ、黙んまりか?そんなお前に逆転のサヨナラのチャンスをやろうか?今から言う場所に行ってみな。お前を救ってくれる勝利の女神が待ってるぜ。いいか、場所は……」

「待てよ。お前の目的は一体何なんだよ。俺たちを追い詰めようとしてるんじゃないのか?なぜ、俺に味方するようなことを言う?」

「……俺の目的はそんなに単純じゃないのさ。別にお前らを潰すことが目的でもないし、俺はデザイアの味方でもないんだぜ。俺の言葉を信じないのは勝手だが、お前が〝デザイア〟に勝つにはもう手段は選んでいられないんじゃないのか?」

そう言うと國無は静かに電話を切った。

 切れた電話を耳に当てたまま、鬼頭はその場を動かなかった。

鬼頭はもう一度目の前のイブの死体に視線を合わせた。

 鬼頭は殺し合いにおいてイブに絶対の信用を持っていた。

癖あるメンバーの中でもイブは屈折した性癖を持たず、人を殺すことに対して何のためらいも持たない男だった。

そのイブが、数分前までは生きていたイブが、今は変わり果てた死体として薄暗い路地裏にゴミのように転がっている。

鬼頭は妙な胸騒ぎがした。

「ワールド」の従業員にとって今日が最悪の一日であったように、俺たちにとっても今日が最悪の一日になるような気がした。

鬼頭は謎の犯罪者〝デザイア〟に恐怖を感じていた。

もしかしたら敵は想像以上に巨大なものなのかもしれない。

鬼頭は得体の知れない〝何か〟を〝デザイア〟に感じていた。

電話の男が言うように、もうなりふりかまっていられない所までいつの間にか追い詰められているのではないか。

電話の男の言うことを信じるわけではない。

だが、勝利の女神を手にしておいても損はないはずだ。

例えそれが、疫病神だとしても、その時はその時だ。

鬼頭は決意したように國無が指定した場所に向かって歩き出した。

 サブモニターで鬼頭の様子を見ていた國無は思わずほくそ笑んだ。

言葉巧みに人を駒のように動かすのは実に快感だ。

國無はノートパソコン上の自分が書いたシナリオに眼を向けた。

いまだに誰一人として気づいていないが、全て自分の作り上げたシナリオの通りに動いている。

この物語の登場人物たちは皆、自分の欲望に忠実に動いていると思い込んでいる。

その先に待ち受けているのが〝絶望〟だということも知らずに……。

國無は金魚が泳ぐ水槽の中に鬼頭と話した携帯を投げ入れた。

水槽の中にはすでに8つの携帯が沈んでいた。

國無は再びメイン画面の〝デザイア〟に目を向けた。

廃屋団地の裏庭ではB系ファッションの〝デザイア〟が地べたで泥だらけになりながらのた打ち回りもがき苦しんでいた。

その様子をタツオとタツヒコがニタニタしながら見下ろしていた。

國無が鬼頭と電話でやり取りをしていた数分間に事態は展開していた。

睨み合う硬直状態の中、初めに動いたのはタツヒコだった。

タツヒコは〝デザイア〟に向かって直進していき大振りのパンチを繰り出した。

しかし、〝デザイア〟は難なくタツヒコのパンチをかわし、逆に強烈なボディーブローを叩き込んだ。

タツヒコは目に涙を浮かべ、口から胃液を垂らしながら地面に倒れこんだ。

しかし次の瞬間、タツヒコは倒れざまに〝デザイア〟の足首を掴んだ。

そして、息をも切らさぬ間にタツオが〝デザイア〟の後ろに回り込み、羽交い絞めにした。

そして、タツオは〝デザイア〟の口の中にあるものを放り込んだ。

二人は息をぴったりと合わせ、タツオは首を、タツヒコは足首を掴んだまま思いっきり引っ張り、〝デザイア〟を地面に叩きつけた。

その拍子に〝デザイア〟は口の中に入ったモノを飲み込んでしまった。

そして数秒後、〝デザイア〟は発狂するように苦しみ始めた。

 タツオとタツヒコが〝デザイア〟に飲ませたのはネットで密輸したある違法の害虫だった。

その蟲は古代中国で拷問に使われていたもので、その蟲に刺されると幻覚を見たり、過去のおぞましい記憶を思い出したりして、精神に害をもたらす有害指定昆虫だった。

その蟲を二人は〝デザイア〟に飲ませたのだ。

これはまだ誰にも試したことのない試みだった。

刺されただけでも恐ろしい効果が現れる害虫を体内に入れたのだ。ただで済むはずがない。

その証拠に目の前の〝デザイア〟は発狂しながら地面を這いずり回っている。

タツオは〝デザイア〟のサングラスを外し、その素顔を拝みたいと思っていた。

しかし、それでもまだタツオは〝デザイア〟を警戒していた。

この男は土壇場で何かをやらかすような胸騒ぎがタツオを動かさなかった。

 

 遠のく意識の中で、俺は夢を見ていた。

目の前には懐かしい光景が広がっていた。

そこは昔俺が通っていた中学の屋上だった。

その日はぽかぽかといい天気だった。

吹奏楽部の練習する演奏が音楽室から微かに聞こえていた。

屋上には俺以外誰の姿も無かった。

俺は誰もいない屋上の片隅でエロ本を傍らにマスをかいていた。

エロ本には人気の女優が足を大胆に広げ、陰毛をたっぷり茂らせたヴァギナを公開していた。

俺はその女優の体を見ながら大好きなクラスメート トモコを頭の中で思い描いていた。

トモコは当時俺が片想いしていた女だった。

成績優秀でスポーツ万能で、誰からも好かれ、サッカー部の部長と付き合っていた。

トモコは俺には高嶺の花で憧れの存在だった。

今の俺にできることはせいぜいトモコの妄想に明け暮れオナニーすることぐらいだった。

俺はペニスを激しくシゴキ、エロ本の上にたっぷりと真っ白な精子を放出した。

俺はペニスを出したままその場に大の字に仰向けに寝転んだ。

俺が射精後のひと時を堪能していた時、微かな物音と人の気配に俺は気づき、思わず起き上がり振り返った。

 次の瞬間、俺は凍りついた。

目の前にトモコが信じられないというような表情で立ち尽くしていたのだった。

俺が思わず立ち上がろうとした時、トモコは顔を真っ赤にして屋上から立ち去ってしまった。

一人屋上に取り残された俺は空しさと恥ずかしさに苛まれていた。

 その後、俺は何度かトモコの誤解を解こうと試みたが、勇気が出せず一度も話さないまま卒業してしまった。

トモコとはそれっきり会っていなかった。

 それは俺の心の中でトラウマとなって今まで眠っていたおぞましい記憶だった。

次の瞬間、俺は見知らぬ女を激しくレイプしていた。

俺が女をレイプしている下には数え切れないほどの女たちが裸体で寝そべっていた。

その女たちは全員俺が犯した女たちで、俺は無制限で女を犯し続けていた。

俺の体は汗や精子が混ざり合った体液でベットリとし、異臭を放っていた。

俺のペニスは擦り切れ、真っ赤に染まっていた。

それでも俺は女を犯すことを止めなかった。

いや、止めることができなかった。

一人の女が終わると、また別の女が現れ、俺は犯し続けた。

ついに俺のペニスは破裂するように粉々に砕け散ってしまった。

俺は自分の血とペニスの肉片をかぶりながら、それでも腰を動かし続けていた。

すでにそれは快楽を通り越し、苦痛へと変わっていた。

発情したウサギのオスは自分のペニスが擦り切れても交尾を続けるという話をどこかで聞いたことがある。

今の俺はまさにオスウサギ同然の鬼畜だった。

俺の脳裏に現れるのは中学二年の夏にオナニーを見られたトモコのことだった。

あの時のトラウマが今でも俺を支配していた。

俺はその忌まわしい過去を心の中に封印し、忘れようとしていた。

あれがきっかけで俺は女とまともにセックスができなくなってしまったのだ。

しかし、俺は再びその記憶を思い出し死にたくなった。

俺の未来には真っ暗な闇しかなかった。

その時、闇の中を一筋の光が照らした。

そして俺の前にマユミが現れた。

マユミは何も言わずにただ微笑んでいた。

俺がマユミに手を伸ばすと、マユミは俺の握り、やさしく微笑みかけた。

「いいの、あなたはそのままでいいのよ」

その瞬間、俺は救われたような気がした。

マユミの一言で俺は死ぬのを止めた。

そして、闇の中を照らす一筋の光に導かれるままに俺は歩み続けた。

 あんなに苦しんでいた〝デザイア〟がついに動かなくなった。

あまりの苦痛のあまり息絶えたのか?

タツオとタツヒコはゆっくりと〝デザイア〟に近づいた。

ついに〝デザイア〟を倒した。

これで仲間たちに威張り散らすことができる。

鬼頭にも一目おかれるだろう。

タツオはこの場で〝デザイア〟のサングラスを外そうと思った。

タツオがサングラスに触れようとした時、突然、〝デザイア〟が立ち上がり、瞬時に二人を殴り倒した。

〝デザイア〟は口をモゴモゴさせ、何かを吐き出した。

土の上に吐き出されたそれはタツオが飲ませたおぞましい害虫の死骸だった。

〝デザイアは〟変な呼吸を繰り返したまま倒れた二人に襲い掛かってきた。

〝デザイア〟は急所だけを狙い、確実に二人を殺そうとしていた。

その攻撃はまさに野生の獣のようで、タツオとタツヒコは二人がかりでも手も足もでなかた。

散々、二人を殴り、蹴り、暴れまわった挙句、〝デザイア〟はギンギンに膨れ上がったペニスを抜き、タツオのアヌスに突っ込み、犯し始めた。

 タツオは必死に抵抗したが、〝デザイア〟は止まらなかった。

タツヒコはその様子を見て動くことができなかった。

今まで様々な悪事を働いてきた二人だったが、男に犯されたことはなかった。

しかも目の前にいる男はまるで鬼のようで、とても人間とは思えなかった。

ついにタツオは泡を吹き、白目をむいて意識を失った。

そして、ペニスをタツオのアヌスから抜くと、まだ体液に塗れている勃起したままの生のペニスをタツヒコのアヌスにぶち込んだ。

生まれて初めてタツヒコは一人の人間に恐怖を感じた。

〝デザイア〟は激しく腰を動かし、アヌスの奥を突きまくっている。

タツヒコは犯される女の気持ちを実感した。

それは悔しさと、怒りと、切なさと、悲しさがぐちゃぐちゃに入り混じったような感覚だった。

そして、全てがどうでもよくなった。

だんだんと意識が遠くなっていく。

やがて、〝デザイア〟は絶頂し、タツヒコのアヌスの中にザーメンをぶちまけた。

その瞬間、タツヒコも口から泡を吹き意識を失った。

                                                     【続く】

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2007年2月14日 (水)

デザイアと呼ばれた男  VOL 21

 こんにちは。D・二プルです。

 今日はバレンタインデー、二プルの特性有害チョコを召し上がれ!

   【二プルのおススメ映画】

 「ショコラ」

 

 フランスの小さな村。レノ伯爵(アルフレッド・モリーナ)の猛威で因習に凝り固まったこの村に、ある日、不思議な女ヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)と娘アヌーク(ヴィクトワール・ティヴィソル)が越してきてチョコレート店を開く。次々と村の掟を吹き飛ばす二人の美しい新参者に、訝しげな視線を注ぐ人々。しかし、チョコレートのおいしさに魅了された村人たちは、心を開き、それまで秘めていた情熱を目覚めさせていく。そして、夫の暴力を恐れ店に逃げ込んだジョゼフィーヌ(レナ・オリン)がヴィアンヌ母娘の生活に加わってまもなく、河辺にジプシーの一団が停泊する。ヴィアンヌは、そのリーダーであるルー(ジョニー・デップ)という美しい男性に心を奪われ、彼を店に招き入れる。だがよそ者であるジプシーたちを快く思わない村人たちの、ヴィアンヌに対する風当たりは強くなった。やがて老女アルマンド(ジュディ・デンチ)の誕生日パーティー中、ルーの船は放火され、ジプシーの一行は村を出ていく。そして疲れて眠ったまま息を引き取ったアルマンドの葬式が続く中、ヴィアンヌは荷造りをして、次の土地に移るべく、嫌がる娘を引っ張って出ていこうとするのだった。

 不思議なチョコレートを売る母娘が因習に閉ざされた村を幸せに導くファンタジック・ロマン。監督は「サイダーハウス・ルール」のラッセ・ハルストレム。脚本は「ダイナソー」のロバート・ネルスン・ジェイコブズ。原作はジョアン・ハリス。撮影は「102」のロジャー・プラット。音楽は「バガー・ヴァンスの伝説」のレイチェル・ポートマン。出演は「サン・ピエールの生命」のジュリエット・ビノシュ、「スリーピー・ホロウ」のジョニー・デップ、「ムッソリーニとお茶を」のジュディ・デンチ、「ナインス・ゲート」のレナ・オリン、「マグノリア」のアルフレッド・モリーナ、「ミリオンダラー・ホテル」のピーター・ストーメア、「レッド プラネット」のキャリー=アン・モス、「タメージ」のレスリー・キャロン、「理想の結婚」のジョン・ウッド、「ホテル・スプレンディッド」のヒュー・オコナー、「年下のひと」のヴィクトワール・ティヴィソルほか。2000年サン・ディエゴ映画批評家協会最優秀脚色賞受賞。

 それでは引き続き「デザイアと呼ばれた男」をお楽しみ下さい。

第七章  獣たちの宴

          1

「ワールド」は異様な空気に包まれていた。

まだ23時前だというのに扉には鍵が掛かり、「CLOSE」のプレートがぶら下がっていた。

 さらに店内は異常な状態だった。

通常所狭しと並べられているDVDとビデオの棚が左右両端に押しやられ、カウンターの前には大きなスペースが空けられていた。

その中央には手足に手錠を掛けられ口から血を流した小原がうつ伏せに倒れていた。

小原の周りを囲むようにシロー、タツオ、タツヒコ、ジャック、イブ、エナリがカウンターの上や地べたに座って鬼頭の到着を待っていた。

「誰か〝デザイア〟にたどり着いた奴はいたのか?」

「まだ誰も決定的な情報は掴めてないようだな」

「どうせ、途中で飽きて自分の趣味に突っ走ってたんじゃないのか?」

「鬼頭はまだかよ。人を呼び出しといて待たせるなんて相変わらず勝手な奴だ」

「退屈しのぎにそこで縛られてる坊ちゃん刈りを拷問しようか?〝デザイア〟の情報を知ってるかもしれないぜ」

その一言で小原の表情は凍りついた。

「それならコイツの歯を一本ずつ抜いていこうか?きっとしゃべるぜ」

「待てよ。どうせなら、ここにかわいい小動物がいるぜ。こいつと遊ばせよう」

「蟲どもを飲ませるのもオツだぜ」

「誰かコイツをレイプしてみろ。なんなら俺がやってもいいけどな」

「さっさと消しちまえばいいんだ」

「待て、そいつがどれだけ痛みを与えられるか開放してみるってのはどうだ?」

それぞれが勝手に自分の趣味を口走っていたが、小原からすればとても生きた心地がしなかった。

 その時、ドアをノックする音がした。

「お、鬼頭が来たか」

エナリがドアを開けると大きなダンボールを抱えたマルイケが立っていた。

マルイケはダンボールを抱えたまま中に入ってきた。

その後ろからユカが恐る恐る入ってきた。

ユカは縛られ、傷ついている小原を見てその異常な状態に驚いた。

まさか小原にも自分と同じような非常事態が起こっているとは思いもよらなかったのだ。

「おお、女だ」

ジャックがユカに近づき触れようとした。

「待て、まだその女に手を出すな。そいつは〝デザイア〟の情報を知ってるようだ。こいつが言うには〝デザイア〟は女だそうだ」

「女?本当かよ」

「女なら楽しみが増えるってもんだな」

「まあ、それが本当だったらな。もし、嘘だったら殺せばいい。息子の目の前でな」

そう言ってマルイケはダンボールを開け、中から巨大な熊のぬいぐるみを取り出し、ジッパーを開き中から眠っているスグルを取り出した。

「こいつ、また子供までさらってきやがった。本当に好きだなお前も」

「うるせえ、女はくれてやる。ただし、こいつは俺の獲物だ」

そう言ってマルイケは眠っているスグルの頬をヨダレが滴る舌で嘗めた。

「ちょっと、スグルに手を出さないで」

ユカがスグルに近づこうとするのをジャックが止めた。

「お母さん、息子さんより自分の心配をしたほうがいいんじゃないかな。こいつは子供にしか興味がないからあんたに手を出さなかったけど、ここにいる奴らは女とみれば目の色変えて飛びつくような変態ばかりだ。これからどうなるか想像できるか?」

ジャックはユカの肩を抱きすくめながら、髪を指で掬い上げながら匂いを嗅いだ。

「ちょっと触らないで」

「気が強い女は大好きだぜ」

「私に手を出したら〝デザイア〟の情報は教えないわよ」

「なーに、それでも構わないさ。そのうち話したくても話せなくなるんだからな」

「……」

ジャックたちの異常な態度にユカは言葉を失いどうすることもできなかった。

 その時、ノックがして、鬼頭が店内に入ってきた。

「お前ら、鍵を掛けとけって言っておいただろうが。ん、何だその女と子供は?」

鬼頭はユカとスグルに視線を向けた。

「鬼頭、この女が言うのは〝デザイア〟は女らしいぜ」

「何?ふざけるんじゃねえ。奴は間違いなく男だ。奴は俺の女を犯してるんだ。それに俺は実際に〝デザイア〟をこの目で見てる。あれは間違いなく俺たちと同じ男だ」

「……このアマ、やっぱり嘘だったのか。てめえ、どうなるか分かってるんだろうな」

マルイケはスグルの髪を掴み、スグルを宙に持ち上げた。

「止めて、息子には手を出さないで」

次の瞬間、ジャックがユカの服を一気に毟り取り、その場に押し倒した。

その様子を見ていた小原は身動きが取れない状態でもがいていた。

そんな小原の顔面をイブが蹴り上げた。

小原の額はぱっくりと割れ、おびただしい流血が辺りを染めた。

小原は棚に背中をぶつけ、ぴくぴくと痙攣したまま動かなくなった。

 その間にジャックはユカの両腕を右手で押さえ、左手を嘗め、ヴァギナを濡らすとそのまま自分のペニスを挿入した。

ユカは泣き叫びながら抵抗したが、かえってジャックを欲情させた。

「もっと抵抗しろよ。それがレイプの醍醐味なんだからな」

その様子を他の者たちは薄ら笑いを浮かべながら見ていた。

「おい、犯り終わったら殺すなよ。次は俺と兄ちゃんにまわせよ」

タツヒコがそう言っている間に、シローが犯されているユカの歯をペンチで抜いていた。

「うひょー、たまんないぜ」

「おい、お前ら、後始末はしっかりしとけよ。それに肝心の〝デザイア〟の情報がまったく掴めてないじゃないか」

鬼頭は少しキレぎみで言った。

シローはユカの二本目の歯を抜いた。

ジャックは激しくピストン運動を続けている。

タツオとタツヒコが倒れている小原に近づいて何かをしようとしていた。

鬼頭が小原に近づいていく。

「おい、コイツは死んだのか?」

「いや、まだわずかに生きてるよ」

イブがあっさりと言った。

マルイケがスグルを裸にして下半身を弄っていた。

その地獄のような光景を見てユカはもう助からないと覚悟を決めた。

シローに歯を抜かれながら突然、ユカは狂ったように大声で笑い出した。

その意外なユカの笑いに一瞬、全員の視線が集まった。

「確かに私は嘘をついてたわ。私はずっとあの女を憎んでいただけなの。あの女に嫉妬していただけなの。いつかあの女をめちゃくちゃにしてやりたいと思ってた。あんた達が捜してる〝デザイア〟なんて本当は全然知らないけど、あの女に聞くといいわ。あの女はその〝デザイア〟に恋していた。それは間違いない。あの子をたどれば必ず〝デザイア〟にたどり着くはずだわ……」

 鬼頭は思わず、ユカに駆け寄った。

「誰だ?その女ってのは。名前を言え」

「……安久津マユミ。あの女、ひどい目にあえばいいのよ。あいつが好きな男のせいで私やスグルがこんな目にあってるんだもの。どうせなら死ぬ以上に悲惨な想いをすればいいのよ。あ~あ、どうせなら私の手でめちゃくちゃにしてやりたかった……」

「……ジャック、どけ!その女にまだ聞きたいことがある」

鬼頭がそう叫んだ次の瞬間、ユカは自分の舌を噛み切って自殺した。

ユカは噛み切った舌を喉の詰まらせ、窒息死して死んだ。

ジャックはユカから離れ、服を着始めた。

「あ~あ、死んじまった。これじゃもう、おもしろくない」

「ヒデがいれば喜んで犯しただろうがな。そう言えばヒデが来てないな」

「そう言えばジョーの奴も来てないぜ」

「……やはりあの女、〝デザイア〟と繋がってたか。はやりあの女は第一に押さえておくべきだった。おい、誰かこの中で安久津マユミと接触した者はいるか?正直に答えろ。まさかまだ殺していないだろうな」

鬼頭がそう叫んだ時、突然、店内の照明が落ちた。

「……何だ?どうなってんだ。停電か?」

皆が動揺する中、鬼頭はハッとなった。

「……全員すぐに表に出るんだ。これは奴の罠だ。恐らく室内を暗くしてガスを流すつもりだ。表に出ても油断するな奴は必ず近くに潜んでるぞ」

鬼頭の言葉を聞いてイブを先頭に全員が急いで外に飛び出した。

「俺が〝デザイア〟を殺す」

全員が心の中でそう叫んでいた。

          2

 國無がアジトとして使っている廃屋団地の前に一台のワンボックスカーが停まっていた。

ワンボックスカーの窓ガラスにはスモークが張られ、外から中の様子を見ることはできなかった。

とはいえ、夜の10時を回ればこの辺は人通りもなくなる為、中を覗かれる心配はまずなかった。

 ワンボックスカーの後部座席には意識を失ったマユミが横になっていた。

もちろんマユミは息をして生きている。

 國無がなぜマユミを助けたのか?

國無はなぜマユミの場所を把握していたのか?

國無の行動はその時の気分次第で衝動的なもののようにも思えた。

しかし、それは緻密に計算され、全て初めからシナリオに書かれていた行動だった。

 マユミをワンボックスカーに残し、國無はアジトの廃屋団地の中の一室にいた。

しかし、そこはいつも凛一郎と密談する部屋ではなく、その隣に位置する國無以外誰も入れない秘密の部屋の一つだった。

 國無はこの団地内にそれぞれの役割に担う部屋をいくつも確保していた。

凛一郎が知る部屋はその中でも一つだけだった。

 國無は大きなソファーに座り、ワインを飲みながら優雅に目の前の画面を見つめていた。

画面といっても國無の目の前にあるそのモニターの数は全部で30あった。

一番大きなプラズマテレビを使ったメインモニターを筆頭に、壁一面にモニターが並べられていた。

 そこに映し出されていた映像は映画でも今日のニュースでもスポーツ中継でもなく、今、現在の「ワールド」周辺の映像が流れていた。

そこには鬼頭も、鬼頭の仲間たちも、〝デザイア〟に変身した凛一郎の姿も映っていた。

とても信じられないことだったが、國無は自ら用意し取り付けた隠しカメラで「ワールド」周辺で起きている出来事の一部始終をこの部屋で観賞することを可能にしてしまったのだ。

もちろん、音声も傍受可能だった。

 國無はテーブルの上に置いてあるノートパソコンを開き、自分の書いた「バク計画 五味凛一郎のデザイア」というホルダーを開いた。

そこには今まで凛一郎が体験してきた出来事がそのままシナリオの形になって書き上げられていた。

問題なのはこのシナリオが現実に起きた出来事の後に書かれたものではなく、凛一郎が体験する前に書かれていたということだった。

 凛一郎の行動は全て國無が作り上げたシナリオ上に書かれたことだったのだ。

もちろん、そのシナリオの中には人の死も描かれていて、シナリオに書かれている通りに人が死んでいた。

これは恐ろしいことだった。

誰も知らないところで恐ろしい出来事が現実に起こっていた。

 しかし、國無にとってこれは初めてのことではなく、もうすでに何度も経験していることだった。

國無は何度もこの恐ろしい実験を繰り返し行ってきた。

 ノートパソコンの画面には「ワールド」周辺での〝デザイア〟と鬼頭の仲間たちとの死闘が描かれていた。

画面を見つめながら國無は独り言を呟いた。

「いよいよ、ここまで来たか。さあ、楽しませてもらうぜ。凛一郎にとってここは大きな山場だ。ここで鬼頭の仲間たちとぶつかることで凛一郎に欠けている要素を吸収することができれば奴は生き残れる。もし、それができなければ凛一郎は死ぬ。これは大きな賭けだが、ここで死ぬようなら所詮そこまでの男だったということだ。この先、俺の作り上げたシナリオを進むことはできない。しかし、もしもここで生き残れることができれば、凛一郎は本物の犯罪者へと成長する。それにはどうしても超えなければならない一線がある。ヒデとの戦いでそれが開花するかとも思ったが、奴はギリギリのところで留まり一線を越えなかった。だが、ここでそれを見出せなければこの先の修羅場を生き残ることはできない……」

 國無は再び30の画面を見つめ、リモコンで凛一郎が映っている画面に切り替えた。

完全装備で〝デザイア〟に変身した凛一郎は闇に潜み、鬼頭たちの動向を窺っていた。

鬼頭たちは一斉に「ワールド」から飛び出してきたが一箇所には固まらずバラバラに散り、〝デザイア〟を捜していた。

鬼頭の仲間たちにとって基本的にチームプレイという考えは頭になかった。

それぞれが自分のスタイルに自信を持っていて、集団行動を嫌い、欲望と本能のままに行動する獣たちだった。

標的である〝デザイア〟が近くにいると知り、未知の敵に対する好奇心を燃やし、それぞれが自分の手で最高の獲物を陵辱したいと思っていた。

だから、他の者と協力しようと考えるものは一人もいなかった。

それは鬼頭も人一倍理解していた。

がからこそ自分自身が一番に〝デザイア〟を見つけなければならないと思っていた。

 しかし、物陰から見つめる凛一郎の視界に先にはイブの姿があった。

凛一郎は第一のターゲットをイブに決めたようだった。

 「初めはイブか。ちょうどいい。あいつは凛一郎に一番欠けている冷酷さを一番持っている」

そう呟くと國無はノートパソコンの別のフォルダーを開いた。

そこには鬼頭の仲間たちの細かい情報が鮮明に書き込まれていた。

その中で國無自身が殺害したジョーと凛一郎に重傷を負わされ警察に逮捕されたヒデの二人のデータは黒く色を分けられ分別されていた。

 「イブ タカアキ 21歳……幼い頃から両親に虐待され続けて育つ。9歳の時、親を撲殺して自宅を放火。その後世間から姿をくらませる。表向きには行方不明のまま処理されているが、その後、イブは生き残る為に犯罪を繰り返す。しかし、前科は一度もなし。殺害人数は調べがついているだけでも128人。恐らくはそれ以上。イブの場合は特殊な性癖は無く、ただ自分に邪魔な存在の人間はためらいも無く殺す。しかも殺す時に何の感情ももたず、ただ虫を殺すのと同じ感覚で人を殺す。メンバーの中でも一番〝デザイア〟に関心を持っていない。ただ、暇つぶしに珍しい害虫を殺してみようかぐらいの想い……」

 國無はファイルを消し、元のシナリオの画面に戻した。

「ワールド周辺バトルロワイヤル」一回戦は〝レイパー デザイア〟対〝無感傷殺人鬼 イブ〟だ。

                                                     【続く】

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2006年12月 8日 (金)

デザイアと呼ばれた男  VOL 15

 こんにちは。D・二プルです。

 【二プルのおススメ映画】

   「歓楽通り」

 

 1945年、パリ。歓楽通りの娼館オリエンタル・パレスに生まれ育ったプチ・ルイ(パトリック・ティムシット)は、新入り娼婦のマリオン(レティシア・カスタ)に一目惚れし、一生かけて彼女の世話をすることを誓った。マリオンが幸福になることだけを願うプチ=ルイは、政府による娼館廃止のニュースが流れていた頃、彼女をラジオ局主催の歌手オーディションに連れ出す。それに合格したマリオンは、偶然ディミトリ(ヴァンサン・エルバズ)と出会う。彼を運命の男だと信じたマリオンだったが、実はディミトリは闇商売に手を染め命を狙われている身だった。それでもプチ・ルイは彼女の恋をサポートし、3人で逃亡生活を送るハメになる。ルーマニア人の追っ手たちと格闘しつつ、やがてマリオンは歌手として初舞台に立つ。それが認められ、レコードを出すことになった彼女。幸福の中、3人は小川のほとりでピクニックをしていた。ところがそこに追っ手が現われ、ディミトリ、そしてマリオンは射殺されてしまうのだった。

 監督は「フェリックスとローラ」のパトリス・ルコント。脚本は「橋の上の娘」のセルジュ・フリードマン。撮影は「アンブレイカブル」のエドゥアルド・セラ。美術は「フェリックスとローラ」のイヴァン・モシオン。衣裳は「トスカ」のクリスチャン・ガスク。出演は「女優マルキーズ」のパトリック・ティムシット、「ジターノ」のレティシア・カスタ、「パリの確率」のヴァンサン・エルバズほか。

  良い映画は人生を豊かにする!

 それでは引き続き「デザイアと呼ばれた男」をお楽しみ下さい。

          5

 アカイが行方不明になり、俺が「ワールド」で臨時に働いている頃、ヒラノは女を連れて渋谷の町をブラブラしていた。

彼女の名前はミスズ。

ヒラノの本命の女だった。

 ヒラノには体を許してくれる女友達が常に5,6人はいた。

その他にも一夜だけの関係を持った女は数知れずいた。

 中学2年で初体験を済ませてからヒラノは女に不自由したことがなかった。

常に彼女と呼べる女がいて、それが切れることはなかった。

ヒラノが何もしなくても女の方から寄ってくるのだった。

その為かヒラノはよく女を冷たくあしらった。

やろうと思えばいつでもやれるヒラノは気分次第で女を邪険し、冷たく突き放すことも珍しくなかった。

それでもヒラノに群がる女は害虫のように後を絶たなかった。

 しかし、そんな女たちの中でもミスズは特別な存在だった。

ヒラノがミスズと出会ったのはとあるバーで、その時ヒラノは別の女と一緒に飲んでいた。

ヒラノはベタベタと絡み付いてくる女に嫌気がさしていた。

女は必要以上にヒラノの体に触れ、ホテルに誘ってくる。

初めは軽くあしらっていたヒラノだったが、遂に我慢できなくなり、ブチキレて女を激しい口調で怒鳴りつけた。

女は泣き出したがヒラノはその横で知らん顔をしてウイスキーを飲んでいた。

そんなヒラノの前にそれまでカウンターの隅で一人で飲んでいたミスズが近づいてきた。

初め、ヒラノはミスズがいつものように自分に言い寄ってきた女だと思った。

ミスズはパッと見、外見は無しではなかったし、この場に嫌気をさしていたヒラノはミスズと店を出てもいいと思った。

しかし、ヒラノの予想とはうらはらにミスズは突然ヒラノが飲んでいたウイスキーのグラスを持ってヒラノの頭から降り注いだ。

突然の予想外の出来事にヒラノも店にいた全ての者たちの視線が一斉にミスズに集まった。

「カッコ悪い男。自分が何様だと思ってるの?今まで女に不自由してこなかったのかもしれないけど、あんたは最低のクズ野郎よ」

そう言うとミスズはヒラノを残し、泣いている女を連れ店の外に出て行った。

 ヒラノは慌てて二人を追いかけた。

ヒラノは連れていた女に謝り、ミスズにも「ごめん、君のおかげで目が覚めたよ」と言い連れの女をタクシーで送って行った。

 それからヒラノは度々ミスズと出会ったバーを訪れ、ミスズを捜すようになった。

そして、一ヵ月後にようやく再開し、改めて自分から声を掛けた。

ミスズもあの時は言い過ぎてごめんねと謝り、二人は飲みなおしたのだった。

 ミスズはこれまでヒラノが出会ってきた女たちとはどこか違っていた。

しつこく付きまとったり、必要以上に体を密着されることなく、普通に会話が楽しめる相手だった。

それどころかヒラノの方から積極的にミスズに話しかけた。

こんなことは今までヒラノにはしたことの無い経験だった。

今までは何もしなくても女の方から勝手に近づいてくるものだと思っていた。

しかし、気が付くと今はヒラノが必死になってミスズに話しかけていた。

これまで自分から積極的に女に話しかけたことのないヒラノの会話はぎこちなくなり、それがかえってミスズには受けたのだった。

しかし、ミスズはいくら口説いてもその日のうちに寝るような女ではなかった。

再会したその日は携帯番号とメルアドを交換しただけで、それからヒラノはミスズとメールでやりとりしたり、電話で話したりするようになった。

この頃になると、ヒラノは自分がミスズに恋していることに気づいていた。

ミスズとの出会いによって、ヒラノの女に対する価値観は変わった。

 そして、今日、ヒラノはミスズを誘い出し、決めようと思っていた。

行きつけのクラブで少し踊ったあと、予約したお洒落な無国籍料理の店で食事をしながら酒を飲み、そこで告白しようと思っていた。

クラブではいい感じで汗を流し、ミスズもとても楽しそうだった。

ここまでは予定通りうまくいっていた。

しかし、ヒラノとミスズが無国籍料理の店に向かう途中で異変が起こった。

 ヒラノとミスズは二人組みの警察官に呼び止められた。

警察官の話では近くの風俗店で傷害事件が発生し、あるカップルが逃走しているという。

警官たちは少し話しを聞きたいから近くの交番まで来て欲しいと言って二人を車に乗せた。

その時の車はパトカーではなく黒塗りのセダンだったが、突然の予想外の出来事に二人は気にも留めず警官の言うままに車に乗り込んだ。

 ヒラノとミスズはとあるマンションの一室に連れて行かれた。

てっきり近くの交番に行くと思っていたヒラノが警官たちに問いただすと二人は、今交番がいっぱいだから、証人を隠す隠れ家で取り調べをすると言う。

 ワンルームの部屋の中に入り、二人は驚愕した。

そこには草木が生い茂るジャングルが広がっていた。

そして、いたるところに大小様々な動物が所狭しとうごめいていた。

犬、猫、鳥、イグアナ、猿、子豚、ウサギ……。

呆然とその場に立ち尽くしているヒラノとミスズを二人の偽警官は慣れた手つきで縛り上げた。

 二人の偽警官、タツオとタツヒコはペットショップを経営する兄弟だった。

二人の本当の目的はヒラノから〝デザイア〟の情報を聞き出すことだったが、タツオとタツヒコは変わった性癖があった。

 タツオはヒラノをテーブルの足に固定して動けなくすると、同時にタツヒコが手足を縛られたミスズをベッドに押し倒した。

「やめろー」

ヒラノはタツヒコがミスズをレイプすると思い絶叫した。

しかし、タツヒコはミスズの身体には指一本触れずにあらかじめ用意していたペットボトルに入った液体をミスズの頭の上から降り注いだ。

「きゃ、何これ……バター?」

次の瞬間、それまで辺りをちょろちょろと動き回っていた動物たちが一斉にミスズの周りに集まってきた。

動物たちはミスズの身体に付いた液体を嘗めたり、服ごと食べようとしたりしている。

「……ちょっと、やだ、やめてよ」

ミスズはベッドから起き上がろうとしたが、タツヒコがそれを制止した。

「動くな。お前はこいつらの餌だ。彼氏がしゃべるまで続けるからな」

そう言ってタツヒコはミスズの身体にニシキヘビを絡ませた。

「やめろ!ミスズに何しやがった?」

「お前が正直に話さない限り、この悪夢は終わらないぜ。〝デザイア〟はどこにいる?」

「は?デザイア?何だそれは。意味がわからないぞ」

ヒラノの答えを聞いてタツオはニヤリと笑い、ヒラノの口の中に子ねずみを押し込み、ガムテープで口を塞いだ。

ヒラノは苦しそうに悶絶している。

 その間、タツヒコはミスズの服を引き裂き、再びペットボトルの液体を露になったミスズの裸体に降り注いだ。

このペットボトルの中身はペットフードとドラッグとバイアグラを混ぜ合わせたものだった。

この液体を嘗めた動物たちは次第にハイになり、興奮し、ペニスを膨張させた。

その間にも動物たちはミスズの股間や胸をペロペロといやらしい音をたてながら嘗め回していた。

タツオとタツヒコはその様子をビデオカメラで撮影しながら股間自らのペニスをしごいていた。

いつの間にか、興奮しペニスを膨張させたセントバーナードがミスズのアナルから挿入し腰を激しく動かしていた。

同時にタツオとタツヒコの腕の動きも激しくなっていった。

「〝デザイア〟はどこにいる?」

もはやヒラノの耳にその言葉は届いていなかった。

ヒラノの口の中の子ねずみは喉の奥で体を詰まらせ、それでも外へ出ようと必死にもがき、余計にヒラノを苦しめた。

 それから数分後、動物たちの精液に塗れたミスズは廃人のような姿でベッドの上で横たわっていた。

テーブルに固定されていたヒラノはいつの間にか窒息死していた。

喉の奥に詰まっていた子ねずみはヒラノの喉を食いちぎり、外に飛び出していた。

 ミスズに精液をたっぷりと振りかけたタツオとタツヒコは横たわっているミスズの口の中に子ねずみを放り込み、テープで口を塞いだ。

「なあ、にいちゃん。結局〝デザイア〟の情報引き出せなかったね」

「ああ、まぁいいさ。充分楽しめた。それに他の奴らだってまだ〝デザイア〟にたどり着いてないだろう。勝負はこれからだ」

数分後、ヒラノ同様にミスズの喉から子ねずみが這い出してきた。

やがて動物たちは底に横たわるヒラノとミスズの死体を食べ始めた。

                                              【続く】

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2006年11月18日 (土)

デザイアと呼ばれた男  VOL 12

          7

 マユミはがむしゃらに闇の中を走っていた。

憧れていた〝デザイア〟に冷たくされたのがどうにもやりきれなかった。

ある意味マユミは〝駆け引き〟に出た。

夜の公園で女が走り去れば男は追ってくるだろうと。

そう思ってマユミはここまで走ってきた。

坂道を下りきった辺りでマユミは足を止め、後ろを振り返った。

しかし、そこに〝デザイア〟の姿はなかった。

闇だけがそこに広がっていた。

辺りに人の気配はなかった。

生い茂る巨大な木々が風に煽られ、不気味な音をかもしだしていた。

時々、鳥の鳴き声が聞こえた。

マユミは急に心細くなった。

もう一度振り返ってみたが、やはり〝デザイア〟は追ってきていなかった。

仕方なくマユミはトボトボと歩き始めた。

今来た道を戻ろうとも考えたが前に進んだ方が確実に早く公園から出られるように思ったのだ。

 マユミは歩きながらこの公園に住むという〝10人のホームレス〟の噂を思い出していた。

以前、近所に住む女友達から聞いた話だったが、ここには10人のホームレスが住みついているという。

本当はもっと多くのホームレスが住んでいるはずだったが、特にその〝10人〟が危険だと噂されていた。

危ない噂はいくつもあり、以前の殺人事件もその一つだった。

猟奇的な噂もいくつもあり、公園で猫を焼いて食べたとか、たまたま通りかかった通行人の男の身ぐるみを剥ぎ、犯したという話もあった。

 数年前、夜の公園のプールに忍び込み、誰もいないプールでいちゃついていたカップルはいつの間にかプールの中で〝10人のホームレス〟に取り囲まれ二人とも犯されたという。

そして、事件の後も未だにその犯人は捕まっていないという。

 マユミの前方には公園内を走る子供用のミニSLの線路が見えていた。

ここを超えれば出口はもうすぐだった。

しかし、そこが一番危険な場所でもあった。

線路に囲まれた広場の中がもっともホームレスたちが多く住み着いている場所だった。

線路を挟んだ階段のトンネルの下にも数人の寝床が作られていた。

マユミは急に小走りになった。

今にもホームレスが自分の前に現れそうに思えてきたのだ。

そんな時、前方で人影が動いたような気がした。

目を凝らして見ると薄汚いホームレスがマユミの前で蠢いているのだ。

そのホームレスはもうすぐ夏だというのに冬ようのロングコートを身に纏い、よく見ると下は何も穿いていないようだった。

もしかしたら露出狂の変質者かもしれない。

マユミの足はガクガク震えだし、動くことができなかった。

ホームレスは徐々にマユミに近づいてきている。

その時、マユミは突然後ろから肩を叩かれた。

「キャー」

マユミは思わず大声で叫び声を上げた。

がむしゃらに腕を振り回し、ありったけの力を込めて相手を殴った。

「……待って、安久津さん俺です。五味です」

マユミはようやく涙が溢れ出した目を大きく見開いた。

目の前にはよく知った五味凛一郎が立っていた。

「……五味君!」

マユミは俺に飛びつくように抱きついてきた。

凛一郎に戻った俺は力いっぱいマユミを抱きしめた。

俺はマユミを抱きしめたまま夜の公園を後にした。

途中ですれ違ったホームレスは特に何もしてこなかった。

公園を出てもマユミは俺にベッタリとくっついたまま離れようとしなかった。

 公園を出た俺はマユミを家まで送っていった。

家に着くまでマユミは一言も話さなかった。

その間俺はしっかりとマユミの肩を抱きしめて歩き続けた。

マユミもそれを拒まなかった。

マユミは俺の腕の中にがっしりと包み込まれ、身を任せていた。

夜道を歩く俺とマユミはその時完全に男と女の関係だった。

 マユミの住むマンションの前に着いた所で、俺はマユミの肩から手を離した。

「もう、大丈夫ですよね」

「うん、ありがと。ねえ、まだ少し時間ある?よかったらビール飲んでかない?送ってもらったお礼におごるよ」

「……ありがとうございます」

マユミの口から出た言葉に俺は驚いていた。

マユミは何の警戒もなしに俺を部屋に誘っているのか?

やはり俺を男として見ていないのか?

しかし、俺を誘ったマユミの声はバイト中に聞くそれとは明らかに違っていた。

今のマユミの声からは色気が感じられた。

マユミは元々、女としては声は低い方だが、今日は特に低くフェロモンをおびているように感じた。

 フェロモンの源は男性ホルモンだ。

だから声が低い女はフェロモンを出していて色気がある。

國無が俺にレクチャーしてくれたことだった。

 俺はマユミに着いてマンションの階段を上っていった。

「どうぞ、散らかってるけど入って」

「お邪魔します」

マユミの部屋は言葉の通り散らかっていた。

一応、鏡台に化粧品などの女っぽい部分もあったが、それはほんの気休め程度で、どちらかというと男の部屋に彼女の化粧品が置いてあるといった感じだった。

壁には「クライム」をはじめ様々なロックミュージシャンのポスターが荒々しく貼られていた。

ベッドの上には脱ぎっぱなしの服に、テーブルの上には食べ終えたコンビニ弁当の空箱と飲みかけのペットボトルが無造作に置かれていた。

まさに普段のマユミの見たままの部屋だった。

しかし、逆を言えばそれだけマユミが普段から自分を偽らずに生きている証拠だと思った。

この男のような部屋を見て改めてマユミの純粋さを感じた。

俺が案内された部屋の隣にもう一つの部屋があったが扉がしめられていた。

 その場に突っ立ったまま辺りを見回している俺にマユミは缶ビールを手渡した。

「恥ずかしいからあんまり見ないで」

その言葉はまさに女のそれだった。

俺の頭の中で鬼頭の言葉が甦ってきた。

「こいつは男勝りだが、中身は女だ」

俺はますますマユミが愛おしくなった。

 俺は缶ビールの栓を開け、マユミと乾杯した。

「適当に座って飲んでて。今、何か摘み用意するから」

「……はい」

マユミは冷蔵庫を開け、小さなキッチンの周りで忙しそうに奮闘している。

俺はフローリングの床に腰を下ろし、ビールを飲みながら部屋の中を見回していた。

そこで俺は意外なものを見つけた。

それは「時計じかけのオレンジ」のビデオだった。

 「時計じかけのオレンジ」、スタンリーキューブリック監督の中で俺が最高傑作だと思っている映画だった。

主人公の少年アレックスはレイプと暴力とベートーベンを愛する異端児だった。

俺は昔からアレックスに妙に共感を持っていたが、マユミの部屋にこのビデオがあることが以外だった。

俺は「時計じかけのオレンジ」のビデオのパッケージを手に取り見つめていた。

そんな時、マユミが乾き物を持ってやってきた。

「それ元彼が好きだったんだ」

マユミは俺の手から「時計じかけのオレンジ」のビデオを取り上げ、デッキにセットしTVの電源を入れた。

瞬く間にあのけたたましい音楽と衝撃のオープニングが始まった。

「ねえ、五味君は何でさっき公園にいたの?」

「……いや、その、たまたま通りかかっただけですけど……」

マユミの真っすぐすぎる質問に俺はドキッとなった。

マユミは本当に俺が〝デザイア〟だということに気づいていないのか?

実は全てを知っていて俺を部屋に誘ったんじゃないのか?

頭の中で考えをめぐらしていた俺にさらにマユミが言葉を続けた。

「今日、あたしね、色々あってすごく不安だったの。さっき公園にいた時もすごく怖くて。その時、五味君があたしの前に現れてくれた。五味君は何も聞かずにあたしを抱きしめて送ってくれた。その時、胸がキュンとなったの……」

そう言ってマユミは俺の唇にキスした。

それはマユミとの初めてのキスだった。

TVの画面ではアレックスが仲間たちと共に作家夫妻の家を襲撃し、夫人を歌いながらレイプしていた。

俺は流れに身を任せ、マユミをしっかりと抱きしめ、唇を重ね合わせた。

受けと攻めが入れ替わる。

俺はゆっくりとマユミをベッドに誘導し、スマートに押し倒した。

          8

 俺はベッドの上に両手を付き、自分の体を支えながらマユミを見つめ、もう一度キスした。

マユミは目を閉じて俺のキスをそのまま受け入れた。

ベッドの上に横たわったマユミの姿は想像以上に色気を漂わせていた。

 俺は唇を下に移動させ愛撫しながらマユミの服をゆっくりと脱がしていった。

気持ちは高まっていたが、緊張はしていなかった。

それは國無の狂気の訓練で数々の女たちを犯してきた成果が出ているのか、俺は焦らずに確実にマユミを生まれたままの姿に変えていった。

マユミはまるで抵抗せずに、体を俺に預けていた。

マユミの裸はとても美しかった。

俺はこの日をどれだけ夢見ていただろうか?

この日の為に俺は悪魔に魂を売ったのだ。

俺はマユミの豊満な胸を揉みほぐし、唇で吸った。

マユミの甘い旨味が口の中から全身に伝わる。

俺はゆっくりと時間をかけマユミとのセックスを楽しむつもりでいた。

しかし、俺の中で何かが違っていた。

俺のペニスはマユミの裸に反応して勃起してはいるものの、何かが違っていた。

 俺はそんな自分の気持ちを誤魔化すように、より激しくマユミの体を弄り回した。

マユミは俺に合わせるように身体をくねらせ女になっている。

 そして、いよいよ俺がマユミに挿入しようとした時、異変が起こった。

今まで膨張していたペニスの張りが明らかに衰えてきているのが分かった。

それでも俺は強引に挿入しようとした。

マユミのヴァギナの中にペニスを入れ、腰を動かした。

しかし、まるで手ごたえがなかった。

マユミも異変に気づいたらしく、無言のまま俺を見つめていた。

 次第に俺の中で焦りが生まれ始めた。

俺はさらに激しく腰を動かした。

しかし、挿入したはずのペニスは簡単に外れてしまい、俺のペニスは見る影も無く縮小していた。

「どうしたの?大丈夫」

マユミが哀れむように声をかけた。

「あれ、どうしたんだろ。ビール飲んだからかな?」

「……いいよ。男ってそういう時あるんだってね。気にしなくていいよ」

「ごめんね……」

 俺はマユミから離れ、ベッドの上に腰を掛けていた。

すでにマユミも身体を起こしていた。

「ねえ、飲みなおさない」

「……うん」

マユミはキャミソールを着て、冷蔵庫から新しいビールを取り出して俺に渡した。

俺はビールの栓を開け、一気に喉に流し込んだ。

冷たいビールがさらに俺を冷静にさせた。

俺は自分の中で分かっていた。

今日、駄目だったのは酒のせいじゃない。

俺は隣に座ってビールを飲んでいるマユミに視線を向けた。

キャミソール姿のマユミは充分に色気に満ちている。

俺は心の底からマユミを愛している。

それなのにどうして……

「ねえ、俺の気持ちに気づいてた?」

「……え?」

俺は無造作にマユミに問いかけた。

「俺、ずっと前から安久津さんが好きだったんだよ」

「……ありがと。うれしいな。でも、今日まで全然気づかなかった。五味君はアケミが好きなのかと思ってた」

「そんな、俺が好きなのはマユ……安久津さんだけだよ」

「マユミって呼んでいいよ。でも、うれしい。あたしも今日、五味君のことが好きだって思った」

「また、二人で会ってくれる?」

「いいよ。それに明日も『ワールド』で会うじゃん」

「……そうじゃなくてさ、俺と付き合って欲しいんだ?」

「……本当にあたしでいいの?たぶん付き合いだしたら嫌な面も出てくるよ」

俺はマユミの唇にキスした。

「愛してる」

俺はマユミを力強く抱きしめた。

俺とマユミは手を握り合い、ベッドに寝そべって一晩中語り明かした。

それはとても楽しい一時だった。

 しかし、それとは別に俺は心の中であるシコリを抱えていた。

まさかこんなことが起きるとは思っていなかった。

確かに俺は今までレイプ以外でイッたことはなかった。

しかし、マユミだけは別だと思っていた。

しかし、今日、マユミと寝てみて分かった。

今のままでは俺はマユミとセックスしても絶頂することはできない。

それは深刻な問題だった。

俺の脳裏に國無の言葉が甦ってきた。

「お前は普通のセックスでは絶頂することはできない。例えマユミとヤッても恐らく結果は同じだろう。なぜならばお前はレイプでしか絶頂できないからだ」

國無の言葉が現実のものとなり、俺は絶望に打ちのめされた。

 俺はマユミを手に入れたうれしさとは反面、新たに浮上した大きな問題に悩まされていた。

                                                 【続く】

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2006年10月30日 (月)

デザイアと呼ばれた男  VOL 11

          5

 鬼頭が店にやってきてから明らかにマユミの雰囲気が変わった。

俺が話しかければそれには答えたが、常に上の空といった感じだった。

マユミは必要最低限以外の言葉を話さず、黙々と仕事に打ち込み、時間を費やしている感じだった。

鬼頭が去った後、マユミは決してその話題に触れようとしなかったが、常に頭の中で過去の忌まわしい記憶がリピートしているようだった。

それはそうだ。

自分の恋人を殺し、自分を犯した者たちが目の前に現れたのだ。

 俺は國無から話を聞いて、過去に何があったのか知っている。

しかし、マユミは俺がそれを知っているとは思っていないだろう。

俺は二人の間にあるその溝を歯がゆく思った。

心の底では今すぐマユミを抱きしめ、心の痛みを少しでも和らげてやりたかった。

しかし、それはできない。

それが今ある現実の世界だった。

 夜になり、マユミは俺より一時間早く上がった。

帰り際までマユミは作り笑いをつくろっていたが、心はどんよりと沈んだままだった。

マユミの心の痛みが俺にも伝わってきた。

マユミに惚れている俺はすっかり同情し、マユミの決意を秘めた気持ちの変化にまつたく気づいていなかった。

 「ワールド」からの帰り道、俺が自転車で家に向かって走っていると、國無から電話が掛かってきた。

俺は自転車を停め、携帯を取った。

「凛、今どこだ」

「今、家に向かってるところだけど……」

「すぐに帰って来い。緊急事態だ。今お前の家の前にいる」

そう言って國無は一歩的に電話を切った。

仕方なく俺は自転車にまたがり、大急ぎで家に帰った。

 家の前に着くと、國無が車を停めて待っていた。

今日は黒のハイエースに乗っていた。

俺が運転席が側の窓際に自転車を付けると、國無が窓を開けて言った。

「早く乗れ。マユミが危ない」

「!!!」

俺は自転車を自転車置き場に停め、ハイエースに乗り込んだ。

國無はすぐに車を出した。

 気がつくと俺の足元に小さなトランクが置いてあった。

「早く用意しろ。〝デザイア〟になるんだ」

國無は前を見つめたまま言った。

トランクの中には〝デザイア〟になる為の一連の変装グッズと武器が詰め込まれていた。

「なあ、緊急事態ってどういうことだよ」

俺は着替えながら國無に問い詰めた。

「昼間『ワールド』に『ニガー』連中がきただろ?その中にオールバックの大男がいただろ。あいつは鬼頭といって『ニガー』の頭で、過去にマユミの恋人を殺し、マユミ自信を犯した張本人だ」

「何だって……」

「鬼頭との再会でマユミの中で眠っていた復讐心に火が点いた。マユミは今日中に何らかの行動をしようとしている。その証拠にマユミは今、長期延滞者のリストを持って単車で『ニガー』の連中の後を付けている」

「何をする気なんだ?」

「恐らく、目的は二つある。一つは鬼頭に復讐すること。だが、具体的に何をしようとしてるのかまでは分からない。それともう一つは〝デザイア〟に会うことだ」

「……俺に?」

「お前じゃない〝デザイア〟にだ。マユミはお前の正体気づいてないだろ」

「同じことだろ。〝デザイア〟は俺じゃないか」

「恐らくマユミは〝デザイア〟に自分の胸のうちを聞いてもらいたいと思っているはずだ。今、自分の気持ちを受け止めてくれるのは〝デザイア〟だけだと思っているからな。今日、『ニガー』の連中が持ってきたチラシを見て決意したんだろう」

「何であんたそんなことまで知ってるんだ?」

「そんなことはどうでもいい。へたをすればマユミは鬼頭に殺されるぞ。あいつは人を殺すことなど何とも思っていないからな。恐らくまたレイプしてから殺すだろうな。あいつは今お前のことでイラついているからな」

「俺のことってどういう意味だよ?」

「お前がこの前犯した小林和美は鬼頭の女だ。鬼頭はその犯人を捜している。そして、それが『ニガー』を的にかけている〝デザイア〟の犯行であることもうすうす感づいている。普段鬼頭は長期延滞者への取立てを全て部下に任せている。鬼頭が現場に出る時は何か特別な理由がある時だけだからな」

「……俺があいつの女を犯したって?あんたいつから知ってた?まさか、その為に『ワールド』の会員の中から女を選ばせていたのか」

「いいかよく聞け。逆にこれはチャンスでもある。ここでうまく立ち回ればシナリオ通りにマユミをお前の女にすることができるかもしれないぞ」

「何がシナリオ通りだ。あんた人の気持ちを何だと思ってるんだ。好き勝手弄びやがって」

「……おい、忘れたのか?安久津の死を。お前の暴走のおかげでだいぶ計画が遅れているんだ。それにもし、今の段階でマユミを失ったらお前は明日から生きていけるのか?さっきも言ったがこれはチャンスでもある。目的の為には手段を選ぶな。小さなことは切り捨てろ。言っておくが鬼頭は今までの雑魚とはわけが違うぞ。今のお前じゃ正面から挑めば返り討ちにあってすぐにあの世行きだ。そうならない為にも俺の言うことを聞け」

「……わかった」

俺は國無の言葉に飲み込まれ反論することが出来なかった。

俺はニット帽とサングラスを着用し、全身黒の衣装に身を包み、口の中でボイスチェンジャードロップを転がしていた。

トランクの中のスタンガンや催眠スプレーを手に取り、これから起こる殺し合いのビジョンを頭の中で想像する。

いつか國無が言っていた。

「実戦に勝るトレーニングは常に身の危険を想像し、瞬時に体が動くようにイメージしておくことだ。」

俺は狭い車内の中でそれを繰り返していた。

「鬼頭に今までのような単純な攻撃や騙し討ちは通用しないぞ。本来ならまだぶつかるのは早い段階だが、そうも言ってられないしな。今日は新兵器を用意した。後部座席にもう一つトランクがあるだろ。それを開けてみろ」

國無に言われたとおり俺は後部座席からトランクを持ち上げ中を開いた。

「……これは?」

「気をつけろ。そっと扱えよ」

俺は初めて見るそれに目を奪われていた。

「いいか、時間が無いから簡単に説明するぞ。今から……」

「……」

國無は前々から決めていたようにぺらぺらと今から行う無謀な作戦を俺に説明した。

國無の無茶な話は今に始まったことではなかったが、それでも國無の口から出た言葉はそれこそ映画のワンシーンのような話だった。

「……おい、聴いてるのか?お前の働き次第で結果が変わってくるんだぞ。マユミが欲しくないのか?しっかりしろ」

「……ああ、わかってる」

俺は必死に國無が言った言葉を頭の中でイメージし、これから確実に起こるであろう非現実的な場面に自分がついていけるように努力していた。

そんな中、國無が車を停めた。

          6

 目の前には信じられない光景が広がっていた。

國無が車を停めた場所は「ニガー」の事務所前だった。

俺は車の中から目の前の光景を見つめていた。

まさに今、マユミが「ニガー」の連中に腕をつかまれ、事務所に連れて行かれる瞬間だった。

連中の後ろには鬼頭の姿もあった。

鬼頭たちは車から降り、事務所に入ろうとしている。

「よし、行くぞ」

そう言うと國無は一気に車を加速させ、鬼頭たちが降りたばかりのベンツにハイエースを突っ込ませ体当たりさせた。

静まりきった街に轟音が響き渡った。

辺りに人影は無い。

いや、そんなことを気にしている暇もなかった。

鬼頭たちは突然の襲撃に目を丸くして呆然としていた。

まだ、頭が現実についていっていない感じだった。

マユミの腕を掴み連行していた「ニガー」の連中もあっけに取られマユミの腕を離していた。

國無はすぐに車を荒々しくバックさせ、マユミの前に横付けした。

「今だ、やれ!」

國無の声と共に、俺は助手席のドアを明け、マユミの手を取りハイエースの中へ引き込んだ。

俺とマユミの目と目が重なり合った。

マユミは突然現れた〝デザイア〟に呆然となり、されるがままに車の中へやってきた。

マユミを抱きかかえ、俺は助手席のドアを閉めた。

それとほぼ同時に國無は車を猛スピードで発進させた。

狭い室内で俺とマユミは身体を密着させた。

ほのかに甘い香りが俺の心臓の鼓動をさらに加速させた。

 そんな俺を現実に引き戻したのは國無の一言だった。

「来たぞ!」

ハッとなり、横を見ると窓の外には鬼頭と「ニガー」の連中が半分潰れたベンツでハイエースの横にぴったりと横付けしたまま追ってきていた。

俺は鬼頭と目があった。

鬼頭は自らベンツを運転していた。

俺は鬼頭と視線を絡ませた。

鬼頭は鬼の形相で俺を睨みつけている。

その眼はたった今襲撃されたことに対する怒りだけではなく、恋人を奪われたことに対する怒りも含まれていた。

鬼頭は明らかに俺を〝デザイア〟だと認識している。

鬼頭は何の躊躇もなく、ベンツをハイエースにぶつけてきた。

その度に車は轟音と共にものすごい衝撃を受ける。

衝撃で助手席のドアが凹み、窓ガラスに亀裂が入った。

俺はマユミを急いで後部座席に移動させた。

「身を屈めて頭を低くしてろ」

ボイスチェンジャードロップで低くなった声で俺はマユミに言った。

マユミは必死で言われ通りに後部座席で亀のように丸くなっている。

その間にも鬼頭は容赦なく車をぶつけてくる。

ついに助手席の窓ガラスは粉々に砕け散った。

鬼頭は運転しながら大声で叫んでいる。

「テメエら、このまま無事で済むと思うなよ」

鬼頭の目はまるで野獣が獲物を狙うような眼をしていた。

俺は無意識に國無に視線を送った。

「何やってんだ。このままだとやられるぞ。早くやれ」

國無は前を見たまま大声で叫んだ。

俺は足元のトランクを大急ぎで開けた。

そして、そこに詰まっている液体の入った小型のビンを手に取り、蓋の代わりに詰まっている液体の染み込んだ布にライターで火を点けた。

國無が用意した新兵器とは小型の火炎瓶だった。

火の点いた火炎瓶を持って俺は鬼頭が運転するベンツに振り返った。

火炎瓶を見た鬼頭の眼が一瞬にして変わった。

俺が火炎瓶を投げようとした瞬間、鬼頭は車を体当たりさせ、その衝撃で俺は窓の外に火炎瓶を落としてしまった。

火炎瓶は鬼頭のベンツのすぐ横の道路に落ち、炎上した。

それでも鬼頭の車のスピードは一瞬緩んだ。

ようやく、ベンツとの間にわずかな距離ができた。

「まだだ、もう一回ブチかませ!」

國無の声と共に俺はもう一度火炎瓶に火を点け、思いっきり鬼頭の運転するベンツの正面に投げつけた。

火炎瓶は突っ込んでくるベンツの前方で爆発し炎上した。

その衝撃で鬼頭の車はやっと停まった。

バックミラーに慌てて車から脱出する鬼頭たちの姿があった。

國無の運転するハイエースは猛スピードでその場から走り去った。

 辺りは静まり返っていた。

マユミは公園のベンチの上で意識を取り戻した。

気がついた時、マユミは初め自分がどこにいるのか分からなかった。

 「ニガー」の連中に捕まり、非現実的なカーチェイスを体験していた最中にどうやら意識を失ってしまったようだった。

マユミは覚えていなかったが、実際にはどさくさに紛れて國無が催眠ガスで眠らせたのだった。

もちろんそれは最高の演出をする為に計算に入れてのことだった。

 ベンチから体を起こしたマユミの視界に入ってきたのはニット帽と特殊なサングラスで顔を覆われた男の姿だった。

「よお、気がついたか」

「……」

マユミは驚きを隠せなかった。

マユミは数日前から無性にこの男に会いたいと願っていた。

その為に「ニガー」の事務所の周りをウロウロしていたのだ。

「ニガー」の連中に捕まっていた時、突然自分を助けに現れたこの男に正直ドキドキしていた。

自分の手を取り、車に引き入れ抱きかかえてくれた時、胸がキュンとなった。

それはマユミが久しく忘れていた感情だった。

マユミはこの時、はっきりと確信した。

自分は「この男が好きなんだ」と。

呆然と目の前の男を見つめているマユミに〝デザイア〟はアイスココアを手渡した。

「よかったらどうぞ」

〝デザイア〟からもらったココアを飲んだマユミは落ち着きを取り戻した。

「どう、少しは落ち着いた?」

「……うん。ありがとう。ねえ、あなた〝デザイア〟でしょ?何であたしを助けてくれたの?」

「あれはたまたまさ。俺は「ニガー」の連中を潰そうと思ってるんだ。そこにたまたま君がいただけさ」

「あなたは長期延滞者を助けてるんでしょ?何でそんなことしてるの?危険なだけじゃない」

「さっきも言ったろ。俺はあいつらを潰したいだけだ。別に延滞者を助けたいわけじゃない」

〝デザイア〟の口から出た言葉は以外にも冷たいものだった。

「何であなたは『ニガー』を潰そうとしてるの?彼らに怨みでもあるの?」

「君には関係ないことだ。とにかく一つだけ忠告しておくけど、もう二度と『ニガー』に近づいちゃだめだよ。君の気持ちは良く分かる。でも、君が手を汚す必要は無い。その為に俺みたいな男がいるんだからね」

「……」

マユミは黙ったまま俺を見つめていた。

「さ、だいぶ落ち着いたろ。家まで送るよ」

俺は立ち上がったがマユミはベンチに腰を下ろしたまま動こうとしなかった。

「……まだ帰りたくない。もう少しあたしの話を聞いて」

「……」

「あたしね、昔元彼を……」

「君の話に興味は無い。帰らないなら俺はもう行くよ。時間が無いからね。君は何か勘違いしているんじゃないのか?君の目の前にいる男がどんな男か知っているのか?ここに君一人残して帰ることもできるんだぞ。ホームレスや変質者がウヨウヨしているこの夜の公園にね。さあ、通りまで送っていくから帰るんだ」

俺は冷たくマユミを突き放した。

それはもちろん國無にきつく言われていたからだった。

「〝デザイア〟に惹かれているマユミを冷たく突き放し、お前に好意をもつようにする」

國無のこの言葉を聞いていなければ、俺がマユミにこんな態度で接することはなかった。

傷ついたマユミを強く抱きしめ、最後まで話を聞いてやりたかった。

しかし、それでは駄目だと自分でも分かっていた。

もし、今の姿のままでそんな態度をとってしまえば、マユミは今以上に〝デザイア〟に惹かれてしまうだろう。

俺は目的の為に自分の気持ちを押さえ込んだ。

〝デザイア〟の言葉を聞いてマユミは下を向いたままおもむろに立ち上がったかと思うと、突然、夜の公園の中に走り去って行った。

走り去る直前にマユミの目からは涙が溢れ出していたように見えた。

これでいいんだと思う一方で俺はマユミが心配だった。

半分冗談で言った自分の言葉が胸の中で津波のように押し寄せてきた。

「ホームレスや変質者がウヨウヨしている夜の公園」

確かにここには何人ものホームレスが住み着き、変質者も多く出没すると聞く。

過去には殺人事件もあったという。

しかし、実際にマユミが被害に遭うとは思えない。

しかし、妙な胸騒ぎがいつまでたっても納まらなかった。

俺はマユミが走り去った闇の中をいつまでも見つめていた。

                                                 【続く】

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2006年10月20日 (金)

デザイアと呼ばれた男  VOL 10

 こんにちは。D・二プルです。

 この間、しばらくタイへ行ってきました。

 そこで得た体験は私の作家人生にとって大きな財産となりました。

 タイでの体験を踏まえて、私は今最新作の執筆活動に入っています。

 いずれ皆さんにもその作品はお目にかけると思います。

 では、「デザイアと呼ばれた男」の続きをどうぞ。

          3

 バイトが終わった後、俺とマユミは近所の洋風居酒屋にいた。

薄暗い店内と微かに流れるジャズのメロディーがムーディーな空気をかもし出し、大人の空間を演出している。

店内はカップルがほとんどだった。

はたから見れば俺とマユミもその中の一組に見えたかもしれない。

 俺とマユミは向き合って奥の個室に座っていた。

俺はウーロンハイ、マユミは生を注文しとりあえず乾杯した。

少しすると適当に頼んだツマミを店員が持ってきてテーブルに並べ消えていった。

俺とマユミはツマミをつつきながら世間話をしながらジョッキの中のアルコールを喉の奥へ流し込んだ。

二人とも二杯目のジョッキを注文し、店員が消えた時マユミが本題を切り出してきた。

「昼間はごめんね。白坂の前で変なこと言って。でも、驚いた。まさか、あいつと五味君が知り合いだったなんて」

「ええ、あいつとは昔いろいろあったんですけど……安久津さんは白坂と付き合ってたんですか?」

俺は心の中にずっと溜め込んでいた質問を自然にマユミに聞くことができた。

「あたしがあいつと?やめてよ。あんな奴と付き合うわけないじゃん。本当にあいつとはなんでもないの。初めは『ワールド』の客だったんだけど、〝クライム〟のファンだって聞いて話が盛り上がっただけなの。そうしたらあいつが勝手に電話かけてきたり、メールしてきたりしてほんとウザかった」

「そうなんですか。よかった」

「ん?何が」

「……いや、あんな奴と安久津さんが付き合ってなくてよかったと思って。あいつは本当にたち悪い男ですからね」

「心配してくれたんだ。ありがと」

マユミはジョッキの生ビールを喉に流し込み、わずかな沈黙が流れた。

微かに聞こえるジャズと他の客や店員の声が沈黙の間をもたせた。

「ねぇ、前にあたしの元彼の話したの覚えてる?」

「……ええ、事故で亡くなったって」

「実はあれね、本当は事故じゃなかったの。うちの店と契約してる回収業者いるでしょ。あいつらヤクザみたいなもんで、長期延滞者にギリギリの追い込みかけてるの。彼は回収業者に追い詰められて殺されたの」

「……」

俺は初めてその話を知ったように驚いた表情を作っていた。

「それなのに何で『ワールド』で働いてるんだと思うでしょ。実はあたし、あいつらに復讐しようと思ってるの。あたしは彼を殺したあいつらをどうしても許すことができなかった。女一人に何もできないことは分かってる。でも、あいつらだけはどうしても許せなかったの。だから、あたしは『ワールド』で働きながら情報を集めてあいつらに復讐するチャンスをうかがってたの」

マユミの目からは涙が溢れ出していた。

「でもね、最近ちょっといいことがあったの。実はあいつらに追い討ちをかけるように長期延滞者を助けてる人がいるんだって。顔も名前も分からないけど、その人はもう、何人もの回収業者を潰して病院送りにしてるんだって。何か『ワールド』の上の方でも問題になってるらしくて店長がこぼしてたんだ」

マユミは目をキラキラと輝かせ〝デザイア〟の話を俺に聞かせた。

「……でも、どんな奴なんですかね?そんなヤクザと戦うような男って」

「分からないけど、きっと素敵な人だと思うな。一回でいいからあってみたいな」

「安久津さん、昼間言ってた好きな男ってもしかしてその男ですか?」

「そう。ごめんね。昼間は白坂の前で変なこと言って。あの時はあいつの鼻を明かしたくてまるで五味君と付き合ってるみたいに言っちゃたけど、びっくりしたでしょ」

「……いや、そんな」

「あたしね、彼が死んでからずっと人を好きになれなかったの。前に父の話したでしょ。あの件もあてあたしあんまり男を信用できないでいたの。そして、彼が死んでしばらくはずっと一人でいいやって思ってた。でも、その回収業者と戦う男の話を聞いた時、久しぶりに忘れてた感情が甦ってきたような感じがしたの。久しぶりに胸の奥がキュンとしたんだ。ああ、一回その人に会ってみたいな」

俺はマユミの話を複雑な気持ちで聞いていた。

マユミは俺をまるで男と意識していない。

マユミが想いを寄せているのは回収業者と戦う謎の男〝デザイア〟だ。

しかし、〝デザイア〟は俺自身だ。

恋のライバルが自分自身だというのか?

しかし、今マユミに〝デザイア〟の正体を明かすわけにはいかない。

まだ計画の途中だし、それにへたにばらしたら逆に嫌われる恐れもある。

よく考えればここまでは國無の計画通りにコトが進んでいる。

マユミは確かに〝デザイア〟に興味を示している。

ここは下手な行動を起こすより、國無の言う通りに行動したほうがいい。

俺は自分の想いを秘めたままウーロンハイと一緒に喉の奥へ流し込んだ。

「ごめんね。あたしの話ばっかり聞いてもらっちゃて。こんな話まともに聞いてもらえるの五味君だけだからさ。あ、こんどは君の恋話聞かせてよ。前に言ってたじゃん。好きな人がいるって。その後、どうなった?進展した?」

「……いや、俺、奥手でなかなか好きな子の前だと何も言えなくなっちゃうんですよ」

「だめだよ、そんなんじゃ。男はちょっと強引ぐらいの方がいいんだよ。どれ、お姉さんに相談してごらん。きっとその娘とうまくいくようにしてあげるから。あ、ごめんね。ちょっとトイレ行ってくる。帰ってきたらみっちり聞くから」

そう言い残してマユミは席を立った。

マユミの言葉を聞いてうれしい反面、妙な空しさが心の奥を駆け巡っていた。

俺はジョッキに残っていたアルコールを一気に飲み干して、おかわりを注文した。

 その後、俺とマユミは店を変え、朝まで飲み通した。

二件目の居酒屋は朝までやっている沖縄料理屋でゴーやチャンプルと泡盛を大量に摂取した。

そこでの会話はほとんど覚えていない。

たぶんたわいもない話をしていたと思う。

 沖縄料理屋を出たマユミは帰るのが面倒だと出だし、「ワールド」に泊まっていくと言い出した。

以前にもマユミは深酒をして翌日もシフトに入っている場合は「ワールド」に泊まりそのまま働いていたという。

一端家に帰ってしまうと起きられず必ず遅刻するというのだった。

俺とマユミは肩を組んで千鳥足で「ワールド」に向かって歩き出した。

 「ワールド」に着くとマユミは慣れた手つきダンボールを棚から取り出し、休憩室の冷蔵庫の前に敷くと腹をだしたまま大の字で眠ってしまった。

マユミは俺のことをまるで警戒していない。

男として見ていないのだ。

俺はすごく悲しくなった。

一気に孤独感が押し寄せてきた。

イスに腰掛け、タバコをふかしながら露になったマユミのお腹を見つめていた。

今、マユミの目の前にいるのは、連続レンプ魔〝デザイア〟だ。

國無由自の完璧な仕事のおかげで警察沙汰にはなっていないが、何人もの女たちを犯してきた語極悪非道の犯罪者だ。

俺の前でこんなにも無防備な姿を見せることがどれほど怖いことか思い知らせてやろうか。

俺は一瞬、マユミを犯している自分を想像した。

しかし、俺は動くことができなかった。

こんなにも俺を信じ、無防備な姿を見せるマユミがとても愛おしく思えた。

こんなマユミを犯すことなどできなかった。

俺はマユミにダンボールをかけると明かりを消して、ドアに鍵を掛け「ワールド」を後にした。

          4

 朝、眠い目をこすりながら俺は「ワールド」に向かった。

正直、まだ昨日の酒が完全に抜けていない。

睡眠時間も二時間ぐらいしかとれていなかった。

それを無理やり熱いシャワーと濃いコーヒーで誤魔化して、俺は出勤時間の一時間前に「ワールド」に到着した。

 扉の鍵を開け中に入ると、予想通りマユミはまだ寝ていた。

昨日俺がかけて帰ったダンボールをふっ飛ばし、大きく口を開いて寝息を立てながら、へそを丸出しにした状態で、大の字になって眠っていた。

俺はマユミをそのまま寝かしたまま休憩室の垂れ幕を落とし、外から見えないようにした。

エプロンを着け、レジの電源を入れ、レジ金のチェックを始めた。

 開店準備を整えた俺はCDプレイヤーの電源を入れ、音量を下げてからラブサイケデリコの「ラストスマイル」を掛けた。

どこか悲しげなメロディーを聴きながら俺は昨日のマユミとの会話を思い出していた。

マユミは〝デザイア〟に惹かれている。

〝デザイア〟の正体は俺だが、マユミは俺のことを男と意識していない。

俺の中で妙な空しさが広がりすごくやりきれなくなった。

 その時、奥で物音がして、マユミが休憩室からよろよろと顔を出した。

「……おはよー」

「おはようございます」

マユミはまだ寝ぼけている。

酒も抜けきれていないようだった。

「……五味君昨日はごめんね。あたし途中から全然記憶なくて、ここまで連れてきてくれたんでしょ。ごめんね。あたしから誘ったのに迷惑かけました」

「いや、そんな全然いいですよ。俺の方こそ昨日は楽しかったです」

「……五味君っていい人だね」

そう言ってマユミは奥のトイレに入って行った。

マユミが言った〝いい人〟という言葉が俺の胸に突き刺さった。

男にとって好きな女から〝いい人〟と言われるのは最悪のことだった。

それは自分が男として見られていないということの象徴のようなものだった。

胸の奥から熱いものが込み上げてくるようだった。

俺は居ても経ってもいられなくなり、立ち上がった。

休憩室を通り抜け、トイレのドアをノックした。

「安久津さん、俺ちょっとコンビに行ってきます。何かいりますか?」

中から返事はなかった。

俺はもう一度ノックして叫んだが、やはりマユミは返事をしなかった。

ゆっくりと扉を引いてみると鍵は掛かっていなかった。

中を覗いてみるとマユミはショーツを下げ、便器に腰をかけたまま眠っていた。

初めて見たマユミの色白の形のいい尻が俺の心を癒してくれた。

俺は静かに扉を閉め、休憩室から出ると、入り口に鍵を掛け、階段を下りていった。

 俺は「ワールド」の下にあるコンビニでコーヒーとパンを買いすぐに戻った。

鍵を開けて中に入るとカウンターの中でエプロンを着けたマユミが朦朧と立っていた。

「安久津さん、大丈夫ですか?」

「……うん、五味君どこ行ってたの?」

「下のコンビニでコーヒー買ってきました」

俺はマユミにコーヒーのペットボトルを手渡した。

「わぁー、ありがと」

マユミは目をきらきらさせて、コーヒーをがぶがぶと音をたてて喉へ流し込んだ。

「はぁー、生き返った。よし!そろそろオープンだね。店開けよっか」

「はい」

俺は店を開け、音楽をユウセンに切り替えた。

 幸いオープンしてすぐは2,3人の客しかこなかった。

俺とマユミは特別仕事をするわけでもなく、カウンターの中で朦朧と立ちながら、世間話をしていた。

「五味君、朝、『ラストスマイル』かけてくれたじゃん。あれよかった。すごくいい目覚めだった」

「俺もあの曲好きなんですよ」

「あの曲ね、私にとっても思い出の曲なんだ。死んだ元彼が好きだったの。あいつよくこの曲聴いてたな」

「……」

マユミは俺に話しながら元彼のことを思い出しているようだった。

俺は再び寂しさを感じた。

マユミの中で死んだ彼氏はまだ生き続けている。

現実の世界では〝デザイア〟に魅せられている。

マユミの中で俺の存在はただのバイトの仲間というだけのちっぽけな存在に思えてしかたなかった。

 その時、店内に三人の黒服を着た男達が入ってきた。

男達を見たマユミの表情が明らかに変わった。

男達は間違いなく「ニガー」の連中だった。

「いらっしゃいませ」

マユミが明らかにトゲのある声で言った。

「店長はいるか?」

「今日はまだ出社していませんが……」

俺はマユミと「ニガー」の連中のやりとりを黙って横で見ていた。

連中の顔には見覚えがあったが、俺は知らん顔をしてとぼけていた。

「これを店長に渡しておけ」

そう言って「ニガー」の男はカウンターに一枚のチラシのようなものを叩きつけた。

マユミはチラシに目を奪われている。

俺も横目でチラシを見た。

そこにはニット帽にサングラス姿の〝デザイア〟の似顔絵が書かれていた。

「これは?」

「いいから店長に渡せばいいんだ」

「ニガー」の一人がそう言った時、後ろから黒いスーツ姿のサングラスを掛けたオールバックの大男が現れた。

大男の出現に男達は驚き、一礼した。

この大男が「ニガー」の頭 鬼頭だった。

「よう、久しぶりだな。元気か?」

鬼頭はマユミに言った。

「……まあね」

「そう怖い顔で睨むなよ。俺たちはこの男を捜してるだけだ。俺達の行き先に現れるということはここの情報が漏れてる可能性もあるからな」

「誰なの?」

「噂ぐらいは聞いてんだろ。俺たちの邪魔をして長期延滞者を逃がしてる〝デザイア〟ってクソヤローだ。何か分かったら教えてくれよ」

そう言って鬼頭は俺に視線を向けた。

「兄ちゃん、新入りかい?」

「……はい」

「そうか、こいつは男勝りだが、中身は女だ。しっかり守ってやりな」

「……」

「じゃあ、邪魔したな」

そういい残して鬼頭は去って行った。

「ニガー」の連中も鬼頭の後ろから金魚の糞のようについて出て行った。

マユミはまだ〝デザイア〟のチラシを見つめていた。

これが俺と鬼頭のファーストコンタクトだった。

俺たちが再び対峙する時、殺し合いの火蓋が切って落とされるのだった。

                                               【続く】

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2006年10月16日 (月)

デザイアと呼ばれた男  VOL 9

第五章  狂い始めた歯車

          1

 俺が病院を訪れた日から三日後、安久津は病院の屋上から飛び降りた。

夜勤明け間際の早朝に屋上に上がり、下の駐車場のコンクリートへダイブした。

屋上には綺麗に揃えられた安久津の靴だけがポツリと残されていた。

病院の安久津の机の中から「すまない」と一言書かれたメモ書きが見つかったが、他に遺書のようなものはなかった。

 マユミは一週間「ワールド」を休んだ。

マユミが休んだことで俺は安久津の死を知った。

そして、國無からそれが自殺だったと聞かされた。

 俺はショックだった。

まさか俺が原因で安久津は自殺したのか?

もし、そうだとしたら大変なことだ。

俺はマユミを救おうとして行動したのに、逆にマユミから大切なものを奪ってしまった。

しかし、安久津はどうして自殺したんだろうか?

ひき逃げ?

入院患者との情事を目撃されたから?

自分の悪癖をマユミが知っていたから?

少なくとも俺が安久津を追い込んだことに変わりはない。

 國無は俺を廃屋団地に呼び出し、安久津の自殺についてしつこく質問された。

「お前、何か俺に隠していることがあるんじゃないのか?まさか、単独で行動してないだろうな?」

俺は洗いざらい國無に全てを話した。

一人で病院に行ったこと。

そこで見たこと。

そして、安久津にしたことを細かく説明した。

國無は黙って俺の話を聞いていたが、話が終わると冷静に言った。

「しばらくデザイアとして行動することを禁じる。しばらくは普通にバイトでもして頭を冷やせ。それからもう二度と俺の指示無しで勝手に行動するな。今回はこれぐらいで済んだからよかったようなものの、今度勝手な行動をとったらどうなるか責任持てないぞ。マユミをお前の女にする約束も果たせなくなるかもしれないぞ。今回のことでもオレのシナリオはだいぶ狂ってしまったからな」

俺に説教を終えると國無は俺を帰らせた。

 それからしばらくは「ワールド」でのバイトだけの生活が続いた。

レイプも暴力も無しのごく普通の生活。

以前はそれが当たり前だったはずなのに何か物足りないようなモヤモヤ感が心にへばりついているようだった。

 一週間後、マユミは「ワールド」に出てきたが、仕事上必要なこと意外はほとんど話さなかった。

俺も安久津の死については一言も話さなかったが、マユミは俺の話もまるで聞いておらず、上の空だった。

抜け殻のようになったマユミは黙々と仕事をこなしていたが、心の中で泣いているのがはっきりと分かった。

そんなマユミを見ていると、俺まで元気をなくし落ちていった。

バイトから帰ると酒を飲み、罪悪感に悩まされながら荒れた。

部屋中の物を投げ、家具を破壊し、ストレスを発散させた。

それでもストレスは溜まる一方だった。

そんな荒みきった生活は俺を病気にした。

熱にうなされ、体の節々が痛くなり、喉はやられ声も出ず、鼻もつまり、腹も痛くなり、吐き気がし、ひどい頭痛に悩まされた。

もちろん、「ワールド」もしばらくの間休んだ。

それでもずっと寝ていると体が余計に悲鳴を上げるので無理やり起き上がり、TVに蛇崩庵娯の「カトリーナ」を流しながらボーとしていた。

半分死んだような俺は「カトリーナ」を繰り返し見続けた。

問題のラストシーンも何回もみるうちに不思議と快感に思えるようになった。

それにも飽きると俺はパソコンに電源を入れ、音楽を聞きながら何をするわけでもなく、デスクトップの画面をボケッと眺めていた。

画面にはどこかの国の花畑の真ん中を通る曲がりくねった一本道が映っている。

不思議なことにただじっとその画面を見ているだけなのに退屈しなかった。

俺はこの見えない一本道の先から誰かがやってくるように思えてしかたなかった。

すると不思議なことに本当に道の先から人影が現れたのだ。

その人影は次第にこっちに近づいてきた。

やがて、輪郭がはっきりして人影の正体が分かった。

それは〝デザイア〟となった俺自身だった。

〝デザイア〟はものすごい形相でこっちに近づいてくる。

そして、画面から切れたて通り過ぎたと思った次の瞬間、なんと画面の中から〝デザイア〟が現れたのだ。

眼を見開き、呆然としている俺を〝デザイア〟は押し倒し、服を引きちぎると後ろから俺を犯し始めた。

俺は必死に抵抗したが、抵抗すればするほど〝デザイア〟は欲情し、息を乱しながら腰を振り続けた。

俺はもがきながら今まで自分が犯してきた女たちの気持ちを考えていた。

ああ、女たちもこんな気持ちだったのかな?

そう思った直後、〝デザイア〟は絶頂に達し、俺は意識を失った。

          2

 あの悪夢からすでに一週間が経っていた。

病魔に悩まされながら〝デザイア〟の幻に犯された翌日に、俺はすっかり回復した。

これまで俺に取り付いていたウイルスが嘘のようにどこかに行ってしまった。

 あんな禁断症状を見た俺だったが、その後特に変わった様子はなかった。

食欲と性欲もすっかり戻り、「ワールド」にもいつも通りバイトに行った。

 マユミもすっかり元気を取り戻していて、表面的にはいつもの日常生活に戻っていった。

 

 その日も俺はいつものようにマユミと一緒のシフトに入り、すっかり慣れた仕事をこなしていた。

今日は新入荷の商品が入る日で、大量の洋画、邦画、アニメ、AV、洋楽、邦楽が入ってきた。

これらの入ってきた商品をレンタル用に仕上げるのはなかなか面倒な仕事だった。

まずはセルようのケースからレンタル用のケースに入れ替え、それに新作シールを貼ったりビニールでコーティングしたりして加工していく。

その間に客が来ればもちろん接客しなければならない。

確かに面倒な作業ではあるが、一緒にやる相手がマユミであればそれは楽しいおしゃべりタイムへと変わっていくのだった。

俺とマユミはカウンターでの接客業務をしながら、商品作りをもくもくとこなしていった。

「あ、ちょっとそれ見せて」

俺があるCDに新作シールを貼っていると横で作業していたマユミが突然騒ぎだした。

俺が持っていたCDを渡すとマユミは少女のように瞳を輝かせキャッキャと一人で騒ぎながらジャケットの中からCDを取り出し、今まで掛かっていたユウセンを止め、CDプレイヤーにセットした。

突然、ジャズ風の静かなピアノのメロディーが流れ始めたと思うとその曲はガラッと変わり、けたたましい轟音を響かせながらミクスチャーのハードコアに変化した。

マユミはさらにボリュームを上げ、体でリズムを取りながら奥の休憩室から戻ってきた。

「これ今一番好きな曲なんだ」

そう言ってマユミは俺にそのCDのジャケットを手渡してきた。

それは〝クライム〟の新作「ブロークンハートジャンキー」だった。

これが前にマユミが話していた〝クライム〟か。

俺は〝クライム〟の曲を初めて聴いた。

激しい轟音を撒き散らしているのにどこか悲しげな印象が伝わってきた。

それはたぶん〝クライム〟のボーカルの影響だろうと俺は思った。

〝クライム〟の詞は個人的な日常生活の中に潜む恋愛体験や失恋した悲しみを歌っているものだった。

以前、マユミが歌っていたラブサイケデリコの「ラストスマイル」と共通する何かを感じた。

俺は〝クライム〟の曲を聞きながらマユミの音楽センスに改めて惚れ直した。

俺はいつの間にか作業していた手がすっかり止まったまま〝クライム〟のジャケットを見つめたまま涙を流していた。

〝クライム〟の曲は俺の中に眠る何かを呼び起こしたようだった。

 そんな俺をマユミが横でジッと見つめていた。

「どうしたの?大丈夫?」

マユミの言葉で俺は我に帰り、自分が涙を流していたことに気づいた。

俺は慌てて涙を拳で拭き、作り笑いを浮かべた。

「大丈夫です。何かすっかり入っちゃって……。良い曲ですね」

「うん。大好き」

その瞬間、俺とマユミの目が合い、視線が絡み合った。

俺はこの時、いつも以上にマユミとの距離が縮まったような気がした。

しかし、楽しい時間はいつまでも続かなかった。

「あれ、お前五味じゃないか?」

その声で俺は夢の世界から現実世界へ引き戻された。

それは〝クライム〟の「ブロークンハートジャンキー」はちょうど終わった時のことだった。

マユミは休憩室に曲を変えに行っていた。

俺の目の前にはスーツ姿の白坂が立っていた。

「……白坂」

「やっぱり五味か。何だお前ここでバイトしてたのか?」

「……」

俺は黙って白坂を睨んでいた。

「相変わらず嫌な目つきしてるな。今の俺は客だぜ。もっと微笑めよ」

その時奥からマユミが出てきた。

「あれ、白坂くんどうしたの?」

「いや、チケット取れたから持ってきたんだよ」

そう言って白坂は内ポケットから封筒に入ったクライムのチケットをマユミに手渡した。

「わぁー、取れたんだ。ありがと」

白坂は二枚あるチケットのうち一枚を引き抜いた。

「一枚は俺のだぞ。後でまた連絡する」

「……うん、わかった」

俺は二人のやりとりをカウンターの隅で見ていた。

俺の頭の奥で眠っていたあの夜の記憶が甦ってきた。

俺はどうすることもできずに金縛りにあったようにその場に突っ立って二人を見つめていた。

そんな俺の視線に気づいたのか、白坂が余計な口を開いた。

「そうそう、お前知ってた?俺とこいつ元同じ制作会社にいたんだぜ」

「え、五味君が?そうなんだ」

「こいつ俺の部下だったんだけどさ。昔から本当に使えない奴で、よくいじめてやったもんだよ。そうしたらこいつ俺に手出してきやがって、当然クビだよな。まあ、辞めてよかったよ。お前才能無いもんな」

その瞬間、俺はぶちキレた。

頭では分かっていた。

ここでまた白坂を殴れば俺は「ワールド」をクビになる。

そうなればますます白坂の思うつぼだった。

しかし、俺はどうしても我慢できなかった。

俺が拳を握り締めた瞬間、マユミが白坂の頬に平手打ちをぶちかました。

予想外の展開に俺は我に帰った。

「あんた、言いすぎよ。そういうデリカシーの無さが嫌いなの」

マユミはさらに白坂を殴ろうとしている。

俺は必死にマユミを止めた。

「安久津さん、落ち着いて。俺のことはいいですから」

「……何すんだこのアマ。せっかくチケット取ってきてやったのに」

マユミは持っていたチケットをカウンターの上に叩きつけた。

「せっかく取ってもらったけど、やっぱりいらないわ。それにあんたと行く予定なんて全然なかったし」

「なんだと……」

「ちょっと〝クライム〟の話題で盛り上がったぐらいでなれなれしいのよ。それにあたし他に好きな人がいるの。だからあんたと付き合う気はないから。もう連絡しないで」

「……他に好きな男だと。そんなもんいたってしょうがねえだろ。誰がお前みたいな女を相手にするかよ」

白坂の言葉の暴力に俺は再びキレそうになった。

その時、マユミが俺の腕を組んで言った。

「……悪いけど、あたしたち付き合ってるから。だからもう邪魔しないで」

「は?五味と?こいつはいいぜ。お前ら似合ってるよ。とんだバカップルだな」

白坂の言葉は既に俺の耳には届いていなかった。

俺はマユミの予想外の行動に心臓をバクバクさせ、ただ呆然と突っ立っていた。

そんな俺を前に白坂はマユミに叩かれた頬を抑えながらゆっくりと立ち上がった。

「ふざけやがって。絶対に後悔させてやるからな……」

カッコ悪い捨て台詞を吐き捨て、白坂は「ワールド」から出て行った。

「ごめんね。突然あんなこと言って。びっくりしたでしょ」

「いや、それより俺なんかの為にありかとうございました」

マユミは既に俺の腕を離していた。

俺はマユミが組んでいた腕の感触を心の中で味わっていた。

「ねえ、五味君、今日バイトの後って時間ある?ちょっと話したいことがあるんだけど、よかったら一緒に飲みに行かない?」

「……はい」

俺は今聞いたばかりのマユミの言葉が信じられなかった。

白坂の存在が俺とマユミの距離を縮めたようだった。

次々に起こる予想外の展開に俺の心は激しく揺れ動いていた。

                                 【続く】

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2006年9月17日 (日)

デザイアと呼ばれた男  VOL 8

 こんにちは。D・二プルです。

 何でもいいので感想下さい。

          5

 深夜、俺は一人〝デザイア〟となり三宿病院に来ていた。

俺は駐車場から敷地内へ侵入し、非常階段を使って院内に入った。

非常口には鍵が掛かっていたが、俺は國無からもらった道具を使い、鍵を壊さずに開けた。

「ニガー」との戦いの合間に俺は國無からピッキングの技術を習っていた。

俺は鍵を鍵穴に差し込むタイプのものであればどんな鍵でも開けられるようになっていた。

 俺は誰もいない廊下をスタスタ進んでいった。

院内の見取り図は全て頭に叩き込んであった。

後は見回りの警備員や当直の看護士に気をつければいいだけだ。

以外にも俺は冷静だった。

これまでの経験が俺に自信をつけさせていた。

しかし、今日は油断できない。

今日はいつもと違い、國無のサポートは一切無い。

俺は國無にも黙って単独で今日ここに来ていた。

 「ワールド」でマユミから父 安久津の話を聞いた俺は居ても経ってもいられなくなった。

俺がマユミを救う。

今の俺の頭の中にはそれしかなかった。

勝算はあった。

安久津はあの日、俺を轢いたことを隠している。

それをネタに脅し、悪癖を直させる。

全ては國無が言っていた情報が頼りだった。

もし、この情報が嘘ならどうにもならない。

しかし、俺は國無の情報にある程度の信用を寄せていた。

國無は嘘の情報を使うほど安っぽくないように思えた。

あいつはもっと巨大な悪の根をもっているような気がした。

 俺は体を縮め、ナースステーションのカウンターの下を早足ですり抜けた。

ここをクリアしてしまえば後は病室が広がっているだけだ。

俺は暗視ゴーグルを付け、安久津を捜した。

安久津が今日、夜勤なのは分かっていた。

当直室を覗いてみたが安久津の姿はなかった。

仮眠室にもトイレにもシャワー室にもいなかった。

まさか、手術でもしてるんじゃないだろうな。

途方にくれて俺が廊下をあるいている時、妙な音が俺の耳に入ってきた。

それは聞き覚えのある音だった。

俺は耳を澄まし、音の出所を探った。

音はある個室の中から出ていた。

俺は静かにその個室のドアを開けた。

ドアを開けるとはっきりと音の正体が分かった。

それはベッドのきしむ音だった。

よく聞くときしみ音に混じって女のあえぎ声まで聞こえ始めた。

間違えなく誰かがヤッているのだ。

俺は身を屈め、音を殺しながら、ゆっくりとベッドに近づいていき、そっとカーテンの隙間から中を覗いた。

男は女に覆いかぶさっていて、俺からは後ろ姿しか見えなかった。

男は俺に気づかず激しく腰を動かしている。

女は目をつぶり、なるべく声がもれないように手で口を塞いでいる。

しかし、荒々しい男の攻めに耐え切れず口から音が漏れてしまっている。

その時、女が目を開き、俺と目が合ってしまった。

女は慌てて男に俺の存在を知らせようとしている。

異変に気づき、男が振り向いた。

その瞬間、俺は男の腹にパンチを叩き込んでいた。

俺は男の顔を見て唖然となった。

その男は安久津だったのだ。

安久津は俺に腹を殴られ、苦しそうに床に膝を付きもがいている。

俺はとっさに安久津の首筋に当身を喰らわせ気絶させた。

そして、女の口にクロロホルムが染み込んだハンカチを当て、眠らせた。

俺は床で失神している安久津を引きずり、病室を出た。

 俺は安久津を男子トイレに連れ込んだ。

安久津を引きずったまま個室に入って鍵を掛けた。

安久津を便器座らせ、ビニールテープで口を塞いだ。

そして、手錠を手足に掛け自由を奪った。

安久津はまだ意識を失っている。

俺は安久津の頬を叩き、意識を呼び戻した。

意識を取り戻した安久津は俺を見てギョッとなった。

しかし、手足の自由が奪われていることが分かるとあがくのをやめ大人しくなった。

「いいか、今から俺の質問に答えろ。YESなら一回、NOなら二回瞬きをしろ。分かったな」

安久津は不自然なほど大きく瞬きをした。

「俺が誰だか分かるか?」

安久津は瞬きを二回した。

「お前は数ヶ月前、ある男を車で撥ねたな。覚えてるか?」

安久津の表情が明らかに変わったのが分かった。

「どうなんだ。ひき逃げしたことを認めるのか?」

安久津は観念したように瞬きを一回した。

「よし、次の質問だ。お前は自分の娘がお前が裏でしていることを知っていることを知ってるのか?」

安久津は顔色を変え、瞬きを二回した。

俺はマユミの写真を取り出し、安久津の目の前に差し出した。

「いいか、もし、お前がこれ以上、悪癖を続けるようなら、娘の身に何が起きても責任は持てないぞ。それにお前がひき逃げをした証拠もそろってる。あれを世間に流せばお前の社会的地位も終わりだろうな」

安久津は目を見開いたまま瞬きしなかった。

「いいか、今日限りで女に手を出すことを辞めるんだ。でなければ……わかってるな」

安久津は瞬きを大きく一回した。

「それから、今日のことももちろん他言無用だ。いいな」

安久津が瞬きを一回した瞬間、俺は催眠スプレーンを吹きかけた。

 安久津が眠ったことを確認し、俺は手足に手錠とビニールテープを剥がし、その場を後にした。

 俺は予想以上にコトがうまくいったと思っていた。

しかし、それは大きな間違いだった。

 その時、俺は國無由自の力の大きさを感じた。

今までしてきた数々のことは、國無がいたからこそうまくいっていたのだ。

初めて単独で行動し、俺は自分の愚かさを知った。

まさか、こんな結果になるなんて……。

 安久津が病院の屋上から飛び降り自殺をしたのは、それから三日後のことだった。

                                                 【続く】

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2006年8月19日 (土)

デザイアと呼ばれた男  VOL 6

           3

 確実に俺の日常生活は変わりつつあった。

昼間は國無とアウトローな修行をし、夜は「ワールド」にバイトに行く。

「ワールド」のバイトは週5、6のペースでほとんど毎日入っていた。

マユミもまたほとんど毎日「ワールド」に入っていて、数分の引継ぎの時間だけだが、毎日顔を合わせた。

その数分の時間が俺にとってはとても大切な時間だった。

その日の挨拶を交わし、簡単な世間話をしたり、仕事の引継ぎの延長で映画や音楽の話をしたりした。

それだけでもただの客だった頃から比べれば確実に進歩しているように思えた。

 マユミが帰った後は、小原や他のバイト仲間との会話の中でマユミの話しをすることも珍しくなかった。

「ワールド」のメンバーは小原を入れて全員で9人で、その中で女はマユミを入れ3人だったが、トラブルメーカーのマユミの話題はしばしば登場した。

ここで「ワールド」のメンバーを簡単に紹介しておこう。

まず、店長で三十路前の小原はメンバーの中で一番背が低く、いまどき珍しい坊ちゃん刈りのなで肩で、ディズニーアニメのキャラクターのような男だった。

その小原よりキャリアが長く「ワールド」最年長の通称〝ボス〟と呼ばれているのがミシマだった。

ミシマは35歳で肌の色が黒く、髪も長く、大抵後ろで留めていた。

そして、昼間には別の仕事をしているらしかったがその仕事は謎で小原でさえ知らなかった。

 そのミシマの部下的存在のノジリは昔かなりやんちゃをしていたらしく、十代の頃は暴走族で暴れ周り、その後はヤクザの事務所に出入りするチンピラという異色の経歴の持ち主だった。

そして、ある理由からヤクザに追い込まれていたところをミシマに助けられ「ワールド」に入ったという。

 ノジリの後輩的立場のアカイとヒラノはそれぞれマニアックな奴らだった。

アカイは映画、音楽マニアで「ワールド」にある全ての商品の棚の位置を記憶していた。

だから商品の検索をする時はパソコンで調べるよりもアカイに聞いた方が早かった。

 ヒラノはAVオタクで店内の全てのAVを見たと豪語する変態で、下ネタを話し出すと永遠に話し出した。

そのくせ女友達が多くよく店にもヒラノの友達という女が遊びに来たがみんなかわいい娘ばかりだった。

 メンバーの中で最年少のアケミは19歳のギャルだった。

アケミは昼は「ワールド」、夜はキャバクラでバイトしていた。

いつも露出の高い過激な服装で入店し、アケミ目当てで来る男性客も少なくなかった。

昔、カウンター越しでしつこくナンパされ、一緒に入っていたマユミがブチキレ、あわや大喧嘩になりかけたというエピソードも聞いた。

 そして、マユミと正反対の性格のユカは24歳の若さでバツイチ子持ちのシングルマザーだった。

ユカは清楚でやさしかったが、仕事上マユミとよく対立していた。

キャリアはマユミの方が上だったが、大雑把なマユミに対し、几帳面な性格のユカはしばしば口を挟むことが多かった。

二人は共に仕事も出来たが、お互いを意識しあい、ライバル的な関係が続いていた。

 この個性的なメンバーの中で俺は毎日を過ごすようになり、新鮮で楽しい日々が続いた。

マユミには特別な感情を持っていたが、他のメンバーともわけ隔てなく話し、初めのうちは皆仲が良さそうに見えた。

しかしそれはうわべの関係で、その裏にはドロドロした人間関係が隠されていた。

やがて俺はそのドロドロの中に足を踏み入れていくこととなる。

 そして、このメンバーの中の一人が、マユミに対するある異常な感情を露にし、俺をも巻き込んだ大事件へと発展する事となるのだった。

          4

 その日もいつものように昼の修行を終え、俺は一息ついていた。

今日は潰れた病院に出前のラーメン屋の男を呼び出し、アッという間にぶちのめした。

最近は相手に喧嘩を売るのにも慣れ、ほとんど怪我無しで相手を倒すことができた。

これまで男34人と戦い、女28人を犯してきた。

初めの頃にあった不安や罪悪感はまったく無くなり、かなり自信を付いてきた。

地面の上でのびているラーメン屋の男を見下ろしながら汗を拭いている俺に、それまで遠くから黙って見ていた國無が近づいてきて口を開いた。

「よし、だいぶ動けるようになってきたな。順調な仕上がりだ。今日から第二段階に入る」

「第二段階?何するんだ?今日も夜からバイトだぞ」

「いいんだよ。第二段階は『ワールド』で準備するんだからな」

「準備って?」

「話は後だ。とりあえずアジトに戻ってからだ」

國無は床で伸びているラーメン屋の男を担ぎ上げ、表に停めてあったバンの後部座席に放り込みながら言った。

「お前は先にアジトに戻ってろ。オレはいつものようにこいつを始末してから戻る」

國無はバンに乗り走り出した。

そう言えば、今まで男女問わず、俺がヤリ終えた相手を國無は必ずどこかに運んでいた。

國無は用済みになったあいつらを一体どうするんだろうか?

「始末する」と言っているが、まさか全員殺しているんじゃないだろうか?

これまで國無と付き合ってきたが、いまだにアイツの正体も目的もはっきりしていなかった。

俺は心のどこかで國無由自の得体の知れない恐怖に怯えていた。

俺は自転車にまたがり、廃屋団地へ戻った。

 俺はいつものように自宅に自転車を置き、歩いて廃屋団地に向かった。

人目を気にしながらゲートを潜り、二階の踊り場からハシゴで中に入る。

初めに来た時は不気味だったこの団地もだいぶ慣れてきた。

階段を上る足音が静かに響きわたる。

俺は國無から渡されていた合鍵で中に入った。

國無はまだ来ていないようだった。

部屋の中は静まり返っている。

俺はいつものソファーに横になり、まったりとくつろいでいた。

そういえば、いつも疑問に思っていたんだが、この団地の他の部屋の中は一体どうなっているんだろうか?

いつも使っている最上階の〝アジト〟は外からは想像できないほど綺麗に整理されている。

しかし、他の部屋に入ったことは一度もなかった。

 一度、國無に他の部屋は使われてないのか聞いてみたことがあった。

その時國無は「他は使ってないし、入ることもできない」と言っていたが、俺は半信半疑だった。

あの國無が他の部屋をそのまま遊ばせておくだろうか?

 確かに國無は無断でこの団地を使っている。

それは明らかに違法行為でいつ、警察や行政の手入れがあってもおかしくない状態だ。

それを考えれば部屋は最小限に絞った方がいい。

しかし、國無という男は警察や行政などまったく恐れていないような気がする。

仮に手入れがあったとしても國無は恐らくまったく動揺せずにいつも通りクールに対応するだろう。

だとすれば、他の部屋も自分の目的の為に使っていて当たり前のような感じもする。

もしかすると、他の部屋に國無由自の知られざる秘密が隠されているのかもしてない。

だとすれば何とか他の部屋を見てみたいと思った。

しかし、そこには見てはいけない何かが隠されているような気もした。

下手な好奇心で覗いてしまえば、せっかく手に入れたモノが音をたてて崩れてしまいそうな気がした。

 その時、ドアが開く音がした。

國無が帰ってきたのだ。

俺は慌てて体を起こした。

「待たせたな」

「いや、いいよ。それより早く第二段階の話を聞かせてくれよ」

「ああ、今話してやるよ」

國無はキッチンでコーヒーを入れ、一つを俺の前に置くと反対側のソファーに腰掛けた。

「どうだ、バイトはだいぶ慣れてきたか?」

「ああ、あんたに教えてもらったビデオ屋のイロハのおかげで順調に進んでるよ」

「レジ操作も覚えたか?」

「ああ、大体はね。そんなことより第二段階の話を……」

「第二段階はそのレジ操作が重要になってくるんだよ」

「え?……」

「第二段階は『ワールド』の会員登録されている者たちをターゲットにする。今まではこっちが指定した場所に呼び出して犯行に及んでいたが、今度はターゲットの住所と『ワールド』との間の道で犯行に及ぶ。場合によっては車でさらったり、ターゲットの自宅で犯行に及ぶこともある」

「おいおい、大丈夫かよ?ますます危なくなってきてるじゃないか」

「言うまでもないが第二段階はさらに危険が増す。今度は素顔を隠し、声も変える。それに女を犯す場合は相手に手袋をつける。爪の間にお前の皮膚が入らないようにする為だ。それから、ザーメンも現場に残すな。必ずゴムを付け、使用済みのゴムは必ず持ち帰れ」

「……」

そう言うと國無はテーブルの上に小さなトランクを置き、中を開けて見せた。

その中には様々な道具が入っていた。

左目にシェードのかかったゴーグル、黒のニット帽、声を低くするキャンディー、相手にはめる手袋、手錠、ナイフ、ロープ、アイマスク、猿轡、防犯用スプレー、コンドーム……。

それを見た瞬間、俺は再び恐怖を感じた。

ここまで完璧にそろっていると、完全に犯罪者の仲間入りだ。

しかし、それを口に出して言っても始まらない。

俺は一瞬頭の中で考え、言葉を選んで口に出した。

「……でもさ、こんな事してて本当にマユミを俺の女にできるのか?もうすぐバイトを始めて一ヶ月になるけど、未だにマユミとの距離は縮まってないぜ」

「その事なら心配するな。この第二段階でお前とマユミとの距離はだいぶ縮まるはずだ。まあ、それもお前のがんばり次第だけどな」

「……具体的にどう縮まるんだよ」

「相変わらずせっかちな奴だな。まず、来週からお前は朝番のシフトにも入れるようになる。それでマユミと同じ時間帯のシフトに入れるというわけだ。そこでの会話でお前がどれぐらいマユミと親密になれるかが問題だが、それは大した問題じゃない。本当に大切なのはお前が会員登録されている者を襲う事に意味があるんだよ。その中にマユミの真の悩みが隠されているんだからな。それをお前が影ながら解決してやるわけだ」

「……マユミの悩みって何なんだよ」

「それはまだ教えるわけにはいかない。今お前に教えると、はずみで口走る恐れがある。今、マユミに変な疑いをかけられるのは望ましくない。今はまだ知らない方がいい」

「……」

「それから、これだけは肝に銘じておけ。変装して犯行を繰り返すお前は〝五味凛一郎〟じゃない。お前はこれから〝デザイア〟と名乗り、その名で世間を震撼させるんだ」

「デザイア?……」

俺は何も言い返すことが出来なかった。

國無の計画は全て完璧だった。

まさにシナリオ通りといった感じだった。

やがて、俺は伝説のレイパー〝デザイア〟として裏の世界でその名を轟かせることとなる。

しかし、このシナリオの最後には果たしてハッピーエンドが書かれているんだろうか?

俺の中で妙な胸騒ぎが静かに膨れ上がっていた。

                                                  【続く】

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2006年8月11日 (金)

デザイアと呼ばれた男  VOL 5

第三章  悪魔の修行

          1

 俺と國無は自転車で二子玉川園にやってきた。

多摩川の河川敷で自転車を降り、駅の高架下に自転車を停めた。

「何でこんなところまで自転車で来たんだよ。電車かタクシーの方が速いし楽だったのに」

「大した距離じゃなかっただろ。もう、訓練は始まってるんだ。自転車は足腰を鍛えるいい訓練になる。お前はこれから毎日これを行うんだ」

「こんな所まで連れてきて何をする気だよ」

「修行第一弾はお前の肉体と度胸を鍛える」

そう言って國無は自転車のカゴに入れてきたタウンページを俺の前に置いた。

「これからピザ屋に電話する」

「何だ、訓練の前の腹ごしらえか?」

「そうじゃない。出前を持ってきた奴が女だったらその場で犯す。もし、男ならぶちのめす。分かったな」

「何だって?こんな場所で昼間からそんなことやったらすぐ警察が来る。やめよう」

「始める前からガタガタ言ってんじゃない。周りのことは心配するな。俺が見張っててやる。それにこの場所を選んだのにはワケがある。ここは東京都と神奈川県の県境だ。警察の管轄がちょうど分かれてる。通報されても到着まで時間が稼げるんだ。それに今日は月曜だ。週末は、バーベキューや遊びに来た家族連れなどで盛んになるが、平日はほとんど人は来ない。近くにいるのはホームレスか会社や学校をサボってる奴らだけだ。そんな心に後ろめたさを持っている人間がオレたちに近づいてくるはずがない。もし、近づいてきたとしても俺が守ってやる。だからお前は訓練に集中するんだ」

「……でも、いきなり喧嘩かレイプなんて。そんな事うまくできる自信ないよ」

「初めからうまくできる奴なんていない。ようは経験を積むことだ。さっきも言ったようにこれはお前の度胸を上げる特訓でもある。とにかく、お前は一日一回レイプか喧嘩を経験する。それを毎日繰り返すうちにお前の腕は上がってくる。そして度胸もつく。さあ、始めるぞ。時間がもったいない」

そう言って國無は携帯で電話をかけ始めた。

「はい、ピザホットです」

「あ、注文したいんですけど……」

俺はドキドキしながら國無が電話をしているのを見ていた。

「さあ、電話したぞ。30分以内にピザ屋がくる。覚悟はできたか?」

「だけどさ、相手が男だった場合喧嘩売るんだろ?何て言えばいい?もし、相手が乗ってこなかったらどうする?」

「そんな事はどうにでもなることだ。必ず向こうから殴りかかってくる。お前はそれを返り討ちにすればいいんだよ。とにかく死ぬ気で全力でやれ。相手を殺すつもりでな。相手を白坂だと思えばいいんだ。お前が好きなマユミを毎晩のように弄んでいるあの男だ。お前は白坂とマユミを賭けた闘いをしている。もし、負けたらマユミは永遠にお前のところには来ないと思え」

「……わかった」

ピザ屋がやって来るまでの時間が異様に長く感じた。

やって来るのは男か女か?

喧嘩か、レイプか?

これから俺は確実にそのどちらかを実行するのか?

俺にできるのか?

俺は河川敷に横になっている國無を横目で見た。

本当に國無の言うことを聞いていて大丈夫なんだろうか?

俺は一体どこへ向かっているのか?

 そんなことを考えている間についにピザ屋がやってきた。

ピザ屋は河川敷に原チャリを止め、ヒョコヒョコとピザの入った箱を持って歩いてきた。

ピザ屋は男だった。

メガネをかけ、中肉中背でどこにでもいるような大学生風の男だった。

 ピザ屋の男は河川敷に寝転ぶ國無を見つけ、近づいていった。

男は國無に話しかけ何やら話をしている。

ピザ屋の男は國無にピザの箱を渡して、こっちに歩いてきた。

國無はピザを口に頬張りながらニヤニヤしてこっちを眺めている。

早足で歩いてきたピザ屋は俺の前にやってきた。

「ありがとうございます。3840円になります」

「……え?俺、金持ってないけど」

突然のピザ屋の言葉に俺は台詞を噛んでしまった。

「ア?」

ピザ屋の表情が一変する。

「おい、あそこのじいさんはお前の連れだろ?あいつがお前が払うって言ったんだぞ。ごたごた言ってないでさっさと払え」

「……とにかく何度言われても俺は金を持ってないんだピザ代はあいつからもらってくれ」

俺は國無に視線を送った。

次の瞬間、俺は唖然となった。

さっきまで河川敷でピザを食べていた國無の姿がいつの間にか消えているのだ。

「あいつ、ハメやがった」

「……わけわかんねえこと言ってないでさっさと払え」

「だから俺は……」

そこまで言いかけた時、ピザ屋の右拳が俺の顔面に命中した。

俺は初め何が起きたのか分からなかったが、後から痛みがじわじわと伝わってきて、自分が殴られたということに気づいた。

「目が覚めたか?これ以上俺を怒らせるなよ」

ピザ屋はさっきまでのどこにでもいそうな大学生風の仮面を完全に脱ぎ捨て、普段生活していてはめったにかかわることのない者が持つ、独特なオーラを発していた。

「……だから、金は持ってないって言ってるだろ」

俺の言葉を聞いたピザ屋は眉間にしわを寄せ、雨のように攻撃してきた。

俺は地面に這い蹲り、完全な無抵抗な状態だった。

それでもピザ屋は攻撃をやめず、横たわる俺の腹に何度も蹴りを入れ、顔面を踏み潰した。

みるみるうちに辺りは俺の血で染まっていった。

ピザ屋は地面に横たわる俺の胸倉を掴み無理やり立たせると、片手で俺を抑えた状態で殴り始めた。

次第に痛みが感じなくなっていった。

だんだん意識が薄れていく。

「お前、これで済むと思うなよ。金を持っていかなきゃ俺がどやされるんだ。これから消費者金融で金作らせてでも払わせるからな」

「……」

ピザ屋の言葉はすでに俺の頭の中に届いていなかった。

そもそも俺は何でこんな事をやってるんだろうか?

國無由自にここに連れてこられて修行だといっていきなりこんなことをやらされている。

何のためにこんなに痛い想いをしなければならないんだ?

マユミを自分の女にする為?

こんなことをしていてマユミが手に入るのか?

俺は本当に自分の為にこんな想いをしているのか?

「……本当にゴミ以下だなテメーは」

その言葉が妙に耳にこびりついた。

 子供の頃、よく「ゴミ、ゴミ」と言われていじめられていた。

昔から〝五味〟という苗字が死ぬほど嫌いだった。

ゴミ呼ばわりする奴らに負けないように生きていこうと子供の頃誓った。

 しかし、それからしばらくその誓いを忘れていた。

そう、最近思い出したのは映画の制作会社にいた時だ。

上司である白坂に「お前は本当に使えないゴミ以下だな」と言われて思い出した。

その結果、俺はキレ、白坂を現場で殴り、会社を辞めた。

事実上クビになったのだ。

 その瞬間、俺の脳裏に再びあの夜の映像が甦ってきた。

白坂と楽しそうに歩くマユミの姿だ。

その時、俺は目を大きく見開いた。

目の前にいるピザ屋が白坂に見えたのだ。

白坂はボロボロの俺の身体を引きずって河川敷を歩いていた。

「さっさと来いよ。この生ゴミ!」

その瞬間、俺の中で何かが弾けた。

俺は白坂の手を振り払い、顔面におもいっきり拳を叩き込んだ。

突然、意表をつかれた白坂は地面に腰を付き、何が起きたのか分かっていないようだった。

それでも俺は止まらなかった。

俺は膝をついている白坂の頭をサッカーボールのようにおもいっきり蹴り飛ばした。

白坂の歯と血が宙を舞った。

白坂は顔面を抑え、その場でのた打ち回っていた。

俺はその白坂の上にマウントポジションを取り、顔面を押さえる両手の上からデタラメな数の拳を叩き込んだ。

 気が付くと、俺は息を乱し、河川敷の上で寝そべっていた。

しばらくして、横に視線を送ると、血だらけでその場に動かなくなっているピザ屋の男が横たわっていた。

俺は勝ったのか?

そんなことを思いながら俺は意識を失った。

 横たわる俺とピザ屋の前にどこからともなく國無由自が現れた。

「まさか、こいつに勝っちまうとはな。大健闘じゃないか」

この時俺は國無の言葉の意味を理解していなかった。

國無はどこから用意したのか大きなバンの中に俺とピザ屋を担ぎいれ、車を走らせた。

俺と死闘を繰り広げたこのピザ屋は実は國無が仕込んだ偽ピザ屋だった。

彼は元格闘技経験者で、今は現役を離れ、チンピラのような生活を送っていたところを國無に雇われたのだった。

後になって思えば、彼もまた國無の口車に乗って人生を誤った被害者だったのかもしれない。

しかし、彼と会うことは二度となかった。

そして、俺の記憶からも消えていった。

          2

 「じゃあ、明日から来られるかな?」

「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」

 今日、俺は「ワールド」の面接を受け、見事採用された。

明日からマユミと同じ職場で働くことになった。

 國無の修行が始まってからすでに一ヶ月が過ぎていた。

あのピザ屋との死闘を終えてから、俺は毎日のようにあの修行を繰り返していた。

出前に電話し、男が来れば殺し合い、女が来ればレイプする。

驚いたことに初日のピザ屋との殺し合いのような喧嘩を経験してからは、流れるように順調に修行は進んだ。

二日目に来たラーメン屋の男は、初日のピザ屋に比べまるで弱い普通の男だった。

ピザ屋の時と同様に代金のことで口論になった末喧嘩となったが、すぐにぶちのめすことができた。

 そして、三日目にはついに女がやってきた。

性感マッサージの女を國無が用意した空きアパートの一室に呼び出し、レイプした。

頭ではうまくできるか心配していたが、思っていた以上にコトはうまく進んだ。

今まで常識だった考えから逸脱し、俺は本能のまま女に襲い掛かった。

マッサージ女は初めものすごい抵抗をみせたが、それによって俺の欲望はより一層掻き立てられ女を押し倒した。

その後は何度も夢の中でやっていたとおりにことが進んだ。

やはり俺は無意識のうちにこうなることを望んでいたのか?

初めは自分が狂っているんじゃないかと思っていたが、次第に慣れ、俺はいつの間にかこの狂った修行が日常生活の一部となっていった。

そんな中、國無が突然、「ワールド」の面接を受けてくるように言った。

國無が言うには突然欠員が出て今日から募集を掛けているとのことだった。

 俺は國無に言われた通り、面接に出かけ、すぐに合格した。

合格した時は驚いたが、やはりマユミと同じ職場で働けることがうれしかった。

 國無との修行を始めて以来、俺はこれまで経験したことのない修羅場をたくさん踏み、それによって確実に自信を得ていた。

 國無のシナリオは確実に現実のものとなっていった。

そしてそれは、確実に地獄へのカウントダウンとなっていたのだった。

 翌日、俺は「ワールド」にやってきた。

不思議と俺は緊張していなかった。

これも修行の成果なのか?

「ワールド」に入るとそこには当たり前のようにマユミがいた。

「おはようございます。今日から入ることになりました五味です。よろしくお願いします」

「おはようございます。驚いた。今日から新人が入るって店長が言ってたけど、あなただったんだね。安久津です。よろしくね」

マユミとの普通の会話がとても新鮮だった。

これで俺たちは客と店員という関係から同じバイト仲間へと進展したのだ。

「とりあえず奥で着替えてきなよ」

相変わらずマユミはさばさばと言った。

 カーテンの奥へ入るとそこはスタッフの休憩室になっていて店長の小原が待っていた。

「おはようございます。さっそくですけど、これに着替えて店内に出てください」

俺は小原店長が渡したエプロンをつけてカウンターに出た。

これで今日からマユミと一緒に働けるんだ。

俺はわくわくしていた。

 実はこの一ヶ月の間に國無からビデオ屋のカウンター業務のレクチャーを受けていたのだ。

カウンターでの接客、商品の返却、会員登録、棚卸し、ビデオ、DVDCDの知識など、喧嘩とレイプの実践の後はレンタルビデオ屋の店員として最低限の訓練をみっちり勉強した。

國無は潰れたレンタルビデオ屋に俺を連れて行き、実践に近い形で俺に教えてくれた。

そのおかげで俺がある程度自信を持っていた。

これでマユミに良いところを見せられる。

「それじゃあ、まず今日は返却からやってもらいます。この棚に入っているものは全て返却された商品なんで、巻き戻ってるか確認して、裏の棚番シールをもとに棚を探して、タイトルとコード番号を間違えないように確認して返却して下さい。初めはゆっくりでいいんで、タイトルを間違えないようにして下さい」

そう言って小原は俺にビデオを手渡した。

以前から、客として「ワールド」に出入りしていた俺はどこにどのジャンルの映画が置かれているか全て把握していた。

そして、國無の訓練のおかげで俺はみるみるうちに返却を終えていった。

「わぁ、早い。五味君やるじゃん」

後ろを振り返ると私服に着替えたマユミが立っていた。

マユミは濃いグリーンのキャミソーの上から黒のジャケットをはおい、ぴちぴちのジーパン姿だった。

「お先です。がんばってね」

そう言ってマユミは帰って行った。

後で知ったことだが、基本的にマユミは朝番で俺は夜番だった。

朝番と夜番は引き継ぎの時しか合わないのだ。

俺は出鼻を折られたようにやりきれない気分になった。

そういえば、ここに来る前に國無が言っていた。

「とにかく初めはその場に慣れることだ。そして、信用を得る。相手がお前に相談を持ちかけるほどにな。そうなれば必ずチャンスは訪れる。それまで耐えろ」

俺はがむしゃらに返却業務を続けた。

 「店長、終わりました」

「お、早いね。じゃあ、次はこっちのDVD頼むね」

「はい、分かりました」

「いや~、五味君はよく働くねえ。前にいた橋本とは大違いだね。いや~、ひどかったよ。遅刻はするわ。無断欠勤はするわ。おまけに最後は客とケンカしてクビだからね。ほんと、あいつはひどかった」

小原は作業をしながら独り言を続けた。

 この時、俺は小原の話を聞き流していたが、その裏には恐ろしいバックボーンが隠されていた。

この橋本がクビになった傷害事件には國無由自が一枚かんでいたのだ。

というよりも、國無が俺を「ワールド」に入れるために仕組んだ事件だった。

この些細な事件が後に巨大な荒波となって押し寄せることになるとは、この時の俺には知る由もなかった。

                                 【続く】

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2006年7月 5日 (水)

麻薬のような女  最終回

 こんにちは。D・二プルです。

 ここまで読んでくれた皆さんありがとうございました。

 ついに「麻薬のような女」も最終回を迎えます。

 この作品は私の処女作です。

 私が作家を志してまず初めに書き上げなければならない作品でした。

 それだけこの作品には思い入れもあり、特別なものになりました。

 初めて書いた小説ということで至らない部分も多く見られたと思いますが、出来の悪い子ほどかわいいように、私はこの作品を自分の子供のように愛しています。

 そんな作品に最後までお付き合いいただいたことを心より感謝いたします。

 では、麻薬のような女 最終回」をお楽しみ下さい。

33

 「彩、起きなさい。今がその時よ。起きてあなた自身の手で終わらせるの。あなたがこの町で生きてきた理由は今この時の為にあるのよ。あなたの手で終わらせなさい。あなたなら出来るわ。あなたは私の娘なんだから…」

 

山田のナイフは俺の肩に突き刺さった。

俺は山田に突っ込み、イラに覆い被さっていた。

肩は燃えるように熱く徐々に痛みが伝わってきた。

俺は自分の血を見ながら山田の足元に崩れ落ちた。

意識が朦朧としてくる中、山田の声が聞こえてきた。

「…バカめ、自分を盾に女を守ったつもりか?心配するな。すぐにあの世で会わせてやるぜ…」

「あの世にはあんた一人で行きな…」

その瞬間、俺も山田も一瞬何が起きたのか分からなかった。

それまで赤ん坊のように山田にされるがままにしていたイラが、突然山田の顔面を殴りつけたのだった。

完全に不意をつかれた山田はイラのパンチを喰らい、ナイフを落としていた。

イラは山田のナイフを拾い上げると冷たく言い放った。

「あの世でしっかり謝ってきな。母さんやあんたが殺してきた多くの人達に…」

「…止めろ。お前も犯罪者になるんだぞ」

「…聞こえない。あんたの声はあたしには響かない」

イラは迷わずナイフを山田の額に突き刺した。

山田の額から大量の血が噴出し、返り血でイラを真っ赤に染めた。

「あたしは色盲だけどあんたの血の色はわかる。あんたの血の色はどす黒くて腐ってる…」

イラの足元で山田は息絶えた。

一瞬、俺はイラが香澄の姿にダブって見えた。

呆然と倒れている俺にイラは駆け寄ってきた。

「春道、大丈夫?しっかりして…」

「…イラ、記憶が戻ったんだな。良かった…」

「…うん」

イラは俺にやさしくキスした。

それは久しぶりのイラのキスの味だった。

この地獄のような修羅場で俺は、久しぶりに愛する女と抱き合った。

突然、下の階で爆発が起こった。

けたたましい爆音と供にマンションは大きく揺れ、部屋のガラスを割り、大量の炎と煙が襲いかかってきた。

「…春道、これどうなってんの?かなりヤバイじゃん」

「…ああ、早くしないと逃げられなくなるぞ」

入り口はすでに火の中に埋め尽くされていた。

イラは窓から下を見下ろした。

下には野次馬と警察と供に消防隊が消化活動をしていたが、あまりにも火の勢いが強く、ほとんどが焼け石に水だった。

大量の煙が死角になり消防隊は俺達の存在に気づいていなかった。

「春道、どうしよう…あいつらあたし達に気づいてないよ」

「…心配するな。どんな事があってもイラは守るから…」

「…バカ、この状況でよくそんな事が言えるね」

「…こんな時だから言ってんだよ」

「…春道」

俺とイラは見詰めあい全てを覚悟した。

その時、天井の一部が崩れ落ち、瓦礫が俺とイラに降りかかった。

藤巻さんと山田の遺体に瓦礫が降り注ぐのを見て俺とイラは抱き合ったまま意識を失った。

34

気がつくと俺は真っ白な空間の中にいた。

さっきまで死に掛けていたはずの俺の体はどこにも痛みを感じず、ただぼんやりと佇んでいた。

俺は前にクスリでラリッた時にこんな感じの世界にやってきたのを思い出した。

俺はイラを捜した。

しかしそこにはイラはいなかった。

その時、どこからともなく一人の少年が現れた。

よく見ると少年というよりまだ幼い赤ん坊だった。

その子はスッと俺に近づいてきてこう言った。

「始めまして。やっと会えたね。ずっと前から君とは話したかったんだ」

「君は誰?ここはどこ?俺は死んだのか?」

俺はその子に質問した。

「ここは君の頭の中さ。君はまだ死んでない。だけど、もうすぐ君の体は限界に達する。その前に君と話して起きたかったんだ」

「…話って?」

「君はこの町に来て本当によくがんばった。僕はずっと見ていたんだ。だから君の願いを一つだけ叶えてあげたいと思ったんだ。君の望みは何だ?一つだけ願いが叶うとしたら何を望む?」

「…決まってるだろ。イラを、イラを助けてやってくれ。俺の望みはそれだけだ」

「本当にそれが望みかい?たった一つの願いを他人の為につかうのか?本当にそれでいいのか?」

「ああ、それが俺の望みだよ」

「もし、その願いを叶えることで彼女が君から離れて遠くに行ってしまっても同じ事が言えるかい?」

「…ああ、俺の願いは変らないよ」

「分かった。君の望みをかなえてあげよう。僕は君から、この町から多くの愛をもらったからね」

「…待ってくれ。君は一体?」

「ありがとう、母さんの願いを叶えてくれて。母さんもきっと喜んでるよ」

俺の頭の中で〝香澄〟が姿を現した。

香澄はニッコリと微笑み「ありがとう」と言って消えた。

その瞬間、少年はまぶしい光に包まれた。

次の瞬間、少年は「黄金町」の地蔵に姿を変えていた。

そして俺は光の中に包まれていった。

気がつくと俺はイラと抱き合って502号室の窓際に倒れていた。

イラを見ると意識を失ったままだった。

俺は何も考える事ができなかったが、不思議と体が自然に動いた。

山田に刺された肩の傷は血が止まっていた。